天皇記『仁徳天皇』

仁徳天皇

聖帝

皇位を譲り合っていた弟のウジノワキを病気で亡くし、オオサザキは仁徳天皇にんとくてんのうとして即位した。

どうしても女好き情報にばかり目が行ってしまうが、彼はとてもやり手の天皇だった。

 

・ ・ ・ いや、やり手ってそういう意味じゃなくて。本当にちゃんとできる人だった。

 

例えば、国ならではの大規模事業を初めて行った。土木工事によって河川の反乱を抑えたり、用水路を作って田地開拓を行い、作物の生産性を飛躍的に向上させた。 また、外交面では、百済に遣いを送って地方行政を定めたりと、想像以上に真面目でちゃんとした功績が多く残っている。

実のところ、仁徳にんとくは皇位を譲り合っていた弟のウジノワキが、本当は病気ではなく自殺で死んだんじゃないかと疑っていた。あいつだったらやり兼ねない。裏ではみんな知っていて、自分だけが知らされていないんじゃないかとすら考えた。

 

いずれにしろ弟の期待を裏切るような政治はしたくなかった。

 

そんな仁徳にんとくが即位したばかりのある日、国見儀礼のため高い山へと登った。国見儀礼とは、ざっくりいうと天皇が国の土地を眺めて褒め称えることで豊作に感謝する儀式のことだ。

仁徳にんとくの都は難波(大阪府中央区)の近くに作った。ちょうど桜の季節で登山も心地よい。山の頂上からは大阪の街が一望できた。そこには区画整備された綺麗な都があり、その周りを囲むように民家が建ち並んでいる。自分で指揮を取って作った都に、彼もご満悦だ。仁徳にんとくの宮殿からは煙が立ち登っていた。『帰ったら夕飯やなぁ~』なんて考えていると、あることに気付く。

宮殿以外の民家からはどこからも煙が立ち上っていなかったのだ。

仁徳にんとくはゾッとした。民家のかまどに火が入っていない。『炊くもんが無いんや ・ ・ ・ 』彼は民がそんなに貧しい生活をしているなて、考えもしなかった。いくら、都を綺麗に取り繕ったってこんなんじゃ意味が無い。仁徳にんとくはさっさと国見儀礼を切り上げ皇居に帰ると、すぐさま御布令おふれを出した。

 

『本日より3年間、税の徴収と労役を取り止めることとする。』

 

その日の食事もままならない国民から税なんてもらえないと考えた仁徳にんとくは、自分の生活をギリギリまで切り詰め、質素を心がけた。雨の多い時期になると、あちらこちらで雨漏りが発生したが、労役も取り止めたので誰も修理ができなかった。いや、一応、挑戦はしたのだけれど、たいした効果は無く『やっぱし職人さんってすごいんやなぁ。』なんて感心した。

仕方なく仁徳にんとくは朝廷中の桶をフル活用し雨漏りを凌いだ。そして最終的には雨漏りする場所を完全に把握し、夜でも雨を避けながら部屋を移動する術を身につけた。女の子も「雨の日用」と「晴れの日用」とリストを分け、妾には「最近、胴回りがせてスタイルが良くなった」と誉められ、なんだかんだで極貧生活に慣れて来た頃、3年が経った。

久しぶりに山を登り、町を見渡す。やっぱりこの国は美しい。やがて夕刻になると次々と民家から煙が上がるのが見えた。仁徳にんとくはその情景に『よっしゃ!』と満足し、また税の徴収と、労役を課したが、誰も文句は言わなかった。

このことから、仁徳にんとく聖帝ひじりのみかどと呼ばれるようになった。

仁徳天皇、イワノヒメ

クロヒメとの恋

それからバンバン天皇として仕事をこなしていくのだが ・ ・ ・ 優しくって、仕事ができて、国民に人気があって、かっこ良くて、モテて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんてリア充の極みのような彼でも、人生そんなに全てが上手くいく訳ではなかった。『天性の女好き』の彼には、『天性のヤキモチ焼き』の皇后がいたのだ。

彼女の名前は『イワノヒメ』。あの、執事みたいな大臣、武内の孫娘だ。イワノは、男性のオタク層から絶対的な支持を得そうなショタ系のペチャパイツンツン娘で、仁徳にんとくがちょろっとでも他の女の話しを持ち出そうもんなら、足をバタつかせて駄々をこねるほど嫉妬深かった。

正直、結婚前から不安はあった。

しかし、イワノの実家の葛城は大和にとって重要な要塞拠点にあり、しかも彼女の父は百済外交の責任者だ。今後の大和の発展に葛城の力が重要だと考えた仁徳にんとくは、彼女を皇后に立てることを決意した。

・ ・ ・ こういうと、国のために好きでもない嫌な奴と結婚したみたいだが、ヤキモチさえ無ければイワノはかわいらしい女性で、仁徳にんとくもイワノのことは、ちゃんと愛してた ・ ・ ・ のだが ・ ・ ・ ・ ・ ・ まぁ、そうは言っても彼の女好きが治るわけではない。

ていうか、この時代の男性に「浮気が悪いこと」って感覚がそもそも無い。

たぶん仁徳にんとく自身も、今まで何人の女子と付き合ったかなんてもう覚えていないのだろうが、その中で3人とのエピソードが残っている。

 

1人目は、クロヒメという可愛らしい姫だ。

 

ある日、吉備の国(岡山県)に可愛い子がいると聞き、仁徳にんとくは宮中に呼んだ。彼女は噂通りの可愛らしさで、気に入って妻に迎えたが、そんなことをイワノが許す訳が無い。イワノは仁徳にんとくのいないところで、クロヒメを虐めて虐めて虐め抜いて、さっさと実家に追い返してしまった。

彼女がいないことに気付いた仁徳にんとくは、海の見える崖の上までけ登った。

そしてクロヒメが乗った小舟が連なっているの見ながらオーバーリアクションで膝を付き頭を抱えると「んがあぁぁ~~~」と声を上げて歌を詠った。 ・ ・ ・ いや、叫んだ。

 

小舟がめっちゃ連なっとる ・ ・ ・ どこやっ!?どこにおるんやオレの嫁っ!!悲しすぎるっっっ!!!こんなに愛しく想ぉとる人が帰ってまうなんてっっっっ!!!!うおおおぉぉぉぉぉ!!!!

 

そんな彼の悲痛な叫びを聞いたイワノはさらに怒り、難波に遣いを出して彼女の船を追いかけると、クロヒメを船から引き摺り下ろし、吉備まで歩かせた。超怖えぇ。

クロヒメを失い、ぶっちゃけ仕事どころじゃなくなってしまった仁徳にんとく

 

「オレ、淡路島が見たい。」

 

と突然、訳の分からない言い訳をついて旅に出た。

こうして淡路島まで船を出し、吉備に続く海を見ると、難波を越えて海を眺めると、いろんな島が見えるんやなぁ♪♪なんて、ご機嫌な歌を詠った。 もちろん、彼は淡路島を見に来た訳ではない。一休みするとさらに船を進めクロヒメのいる吉備に向かった。

突然、仁徳にんとくが訪れるとクロヒメはとても驚き喜んだ。そして「今夜はご馳走を作りますっ!!」と言って意気揚々と青菜摘みに出かけた。だが仁徳にんとくにとっては、そんなご馳走どうだっていい。早くイチャこきたいんやけど。

彼はしばらく部屋でそわそわしていたが、居ても立っても居られず

 

「オレ、青菜が摘みたい。」

 

と、バレバレの言い訳をかますと、侍女にクロヒメの居場所を聞き出し、後を追った。そして彼女を見つけ、

・ ・ ・ オレ、こーいうのやったことないんやけど 、畑の青菜摘みも、あんたとやったら楽しいもんなんやな。

と、完全に口説きモードに入った。そして家族もいる中でイチャイチャイチャイチャ2人の世界に浸り夕食を取ると、待ちに待ったメインイベントの夜を楽しんだ。

しかし「淡路島が見たい」なんてわけのわからない言い訳をついて出てきてしまった手前、長居をすることはできない。別れを惜しみながらも仁徳にんとくは翌朝、大和に帰って行った。クロヒメは別れ際、

 

風が吹いて雲が散り散りに離れて行くように、あなたと私が離れ離れになったとしても、私はあなたのことを忘れません。

 

なんて、切ない歌を詠った。そして仁徳にんとくの乗った船を眺めながら、

 

大和の国へいそいそと向かって行くのは誰の夫なんでしょうね。人目を盗んで密かに心を通わせているのは誰の夫なのかしら。

 

と、皇后のイワノにささやかなお返しの歌を詠った。しかし、クロヒメに関するその後の記録は残っていない。

続いて残りの2人もお送りしたいところだけれど、とっても長くなってしまうので、小分けでお届けします。

『系図』応神天皇、ナカツヒメ、ヤカワエヒメ、武内宿禰、ヤカワエヒメ、カミナガヒメ、イワノヒメ、仁徳天皇、クロヒメ、ウジノワキ、ヤタノワキ、メドリ


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