日本神話『黄泉平坂』

イザナミ

黄泉比良坂

変わり果ててしまったイザナミの姿にイザナギは恐怖し、一目散に逃げ出した。

そんなイザナギの反応に激怒したイザナミは、ゾンビのような醜い女従者に

イザナミ

イザナミ

イザナギを殺してっ!!

と命じて追わせてきた。

そこでイザナギは、逃げながらツル草の髪飾りを解いて女従者に投げつけた。

すると、たちまちツル草が伸び、ブドウが成った。女従者たちはブドウに食らいつく。しかしそう時間は稼げず、また追って来た。

それならと、今度は頭に挿していたクシの歯を折って投げつけた。

すると、歯はみるみる大きくなり、巨大なタケノコになって道を塞いだ。女従者たちは、またそれに食らいついた。

イザナギ

イザナギ

どんだけ腹減ってんだよ ・ ・ でも、出口までもう少しだ。これなら逃げ切れる!

そう思った矢先、後ろからイザナミの発狂した声が聞こえた。

イザナミ

イザナミ

お前ら何してるのっ??使えない!使えない!使えない!!

イザナミ

イザナミ

雷神!!イザナギを殺してっ!!軍もみんな加勢してよっっ!!

イザナミは自分の腐った身体から生まれた8体の雷神と、黄泉の国よみのくにの1500人もの大軍を差し向けた。あまりの軍の多さに、イザナギは血の気が引くのを感じた。

イザナギ

イザナギ

ウソだろっ!?こんなにたくさんいたのかよっ??さっきまで誰も返事しなかったくせに!!

イザナギ

イザナギ

クソ、どけっっ ・ ・ ・ ・ あと少しっ ・ ・ ・ ・ ・ !!

イザナギは十拳の剣とつかのつるぎで後ろから追ってくる軍勢を切り払いながら、前へと進んだ。後ろからイザナミの声が聞こえてくる。

イザナミ

イザナミ

イザナギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私の事、愛してるって言ったじゃない。あなたも死ねば私達、ずーっとずーっと一緒にいられるのに。

イザナギ

イザナギ

やめてくれ!死んでたまるか!まだ国づくりは終わっていないんだ!つーか、普通に死にたくないっ!!!

イザナギは全力で走り、やっとの思いで黄泉比良坂よもつひらさかが見えるところまで辿り着いた。あの坂を登れば地上だ。死者は追って来れない。

イザナギ

イザナギ

この距離なら逃げ切れる!!

と、安堵したその時 ・ ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

・ ・ ・ ・ ・ ・ っっうわっ!

足を誰かに引っ張られ、イザナギは大きく転んだ。彼女が差し向けた雷神だ。

イザナギ

イザナギ

痛ってぇ!!離せっ!!!!

イザナギはとっさに目の前の桃の木から実を取り、雷神に投げつけた。

ギャァァ!!!

雷神は奇声を上げてのたうち回った。どうやら桃が苦手なようだ。この隙に、イザナギは雷神の手から逃れ、さらにまた2つの桃を取り他の大軍にも投げつけた。

すると、たちまち大軍も退散してしまった。

イザナギ

イザナギ

っっ助かった ・ ・ ・ ・ ・ ・

もう追っ手はいないよいうだ。イザナギは安堵し、桃の木に話しかけた。

イザナギ

イザナギ

ありがとう、桃の木さん。お礼に『オホカムヅミ』って名前をあげる。これからも人々が困っていたら助けてあげて。

桃の木に通じたかどうかはわからないが、サワサワと揺れる葉に、『いいよ』って返事をもらったような気がした。

しかし安心したのも束の間。すぐ後ろからイザナミの声が迫ってきた。

イザナミ

イザナミ

イザナギっ!足が止まってるわよ!!

イザナギ

イザナギ

うわっっ!!

追手を失ったイザナミが自分で後を追ってきたのだ。

イザナギ

イザナギ

早っ!!くそ ・ ・ ・ 追いつかれる ・ ・ ・ ・ ・

イザナギは黄泉比良坂まで走ると、1000人がかりでないと持てないような巨大な岩を見つけ、思いっきり押し転がした。大岩が黄泉の入り口までゴロゴロと転がって行く。道を塞がれまいと、イザナミはさらにスピードを上げた。

イザナギ

イザナギ

頼む!間に合ってくれ!!

イザナギは祈った。

ゴンッ・・・

鈍い音が響いた。

岩の向こうでイザナミがぶつかったのだろう。岩の隙間からすすり泣く声が聞こえて来る。

イザナミ

イザナミ

ひどい ・ ・ ・ イザナギ ・ ・ ・ 酷いよ。愛しているのに ・ ・ ・ あいしてるのに ・ ・ ・ ・ ・ ・

岩を爪で掻いているのだろうか。ガリガリと気持ち悪い効果音が響く。

イザナギ

イザナギ

・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナミ ・ ・ ・ ごめん。君は死者。僕は生者だ ・ ・ ・ それなのに君を迎えに来て ・ ・ ・ ・ ・変な期待させちゃって ・ ・ ・ ・ ・

イザナミ

イザナミ

・ ・ ・ 一緒にいたいだけなのに ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐすっ ・ ・ ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

僕だって、君を愛してるし一緒にいたいよ。でも、わかるだろ?死者と生者は一緒になれないんだ。

イザナミ

イザナミ

ひどいよ ・ ・ ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

ごめん。許してくれ ・ ・ ・

イザナミ

イザナミ

ひっく ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ っく ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ やだ 。

・ ・ ・ ・ 許さない。

イザナギ

イザナギ

イザナミ ・ ・ ・ ・ ・ ・

イザナミ

イザナミ

許すわけないじゃない ・ ・ ・ ・ ・ ・ 絶対に ・ ・ ・ ・ ・ ・ 絶対に許さない ・ ・ ・ ・ ・ ・ 許さないわよ。許さない ・ ・ ・ ・ 許さない ・ ・ ・ ・ ・ ・ 絶対絶対許さない ・ ・ ・ ・

彼女は岩をガリガリと掻きながら不気味に呟いた。

そして一瞬の沈黙。

イザナミ

イザナミ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ふっ ・ ・ ・ ・ くすくすっ!ふふっふふふっふふふふふっっははははっ!!

今度は狂ったように笑い出した。めちゃめちゃ気味が悪い。

イザナギ

イザナギ

・ ・ ・ 何がおかしいんだよ。

イザナミ

イザナミ

わかったわ!!!わかった!イザナギの大好きな人間がみんなこっちにくればいいんだ。

イザナミ

イザナミ

ね?

イザナミ

イザナミ

そうでしょ?

イザナミ

イザナミ

ふふっ、だから、私、殺してあげる。

イザナミ

イザナミ

あなたの国の人たちを毎日1000人殺してあげるの!!呪ってあげるっ!!!

イザナギ

イザナギ

・ ・ ・ ・ ・ は?

イザナミ

イザナミ

ふふふっふふふふふふふ ・ ・ ・ ・ ・ 毎日毎日毎日毎日毎日みんな殺してあげるの。いっぱいころすの ・ ・ ・ あははっ ・ ・ ・ ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

イザナミ ・ ・ ・ ・ 違うよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何でそうなるんだよ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ そんなの君らしくない ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

だって ・ ・ ・ ・ ・ みんなのこと幸せにしたいって言ってたのに・ ・ ・ ・ ・ ・

イザナギの頭の中で、あの日のイザナミの笑顔が走馬灯のように駆け巡った。

しかし、ココにはもう、そのイザナミはいなかった。

イザナギはようやくイザナミに背を向け、一歩前へと踏み出した。

イザナギ

イザナギ

わかったよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それなら僕は毎日、1500人の赤子を生ませる。君はそこで日々幸せな人間が増えていくのを見ていればいい。

イザナミ

イザナミ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ コロス ・ ・ ・ ・ ・ コロス ・ ・ ・ ・ ・

イザナギ

イザナギ

ごめん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ さよなら、イザナミ。

イザナミ

イザナミ

・ ・ ・ ・ ろす ・ ・ ・ ・ こ ・ ・ ・ ・ ・ ろ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ふふっ ・ ・ ・ ・

イザナギは振り向かずにその場を立ち去った。

こうしてイザナミの呪いによって人間には寿命ができ、1日1000人が死ぬことになった。

そしてイザナギの神力によって、1日1500人が産まれることになった。

『系図』別天つ神:アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カムムスビ、神代七代:イザナギ、イザナミ


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