日本神話『アエズの初恋』

アエズ、タマヨリヒメ

アエズの初恋

そして話しは現在へと戻る。

妹のタマヨリヒメは、海と地上を頻繁に行き来しながら、トヨタマヒメにアエズの成長の様子などを伝えていた。そしてホオリにはトヨタマヒメからの歌を届けてくれた。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

ホオリ様、今日も姉様から歌が届いてますよ。

『琥珀は通した紐までキラキラ輝くけれど、真珠みたいなあなたの輝きには敵わないわね。』

ですって。

ホオリ

ホオリ

ありがと ・ ・ ・ じゃあ、今度帰る時は彼女にこう伝えて。

『鴨が羽を休める遠い遠い島で一緒に夜を過ごした君のことが忘れられないよ。きっと僕がこの世に生きてる限り ・ ・ ・

ホオリ

ホオリ

・ ・ ・ずっと ・ ・ ・ ・ 』

この想いを言葉にするだけで切なくなった。そんな2人の様子を見ていたアエズが不思議そうに質問をする。

アエズ

アエズ

・ ・ ・ なんで母上は父上のこと大好きなのにおうちに来てくれないの?

ホオリ

ホオリ

っっ!!

ホオリは思わず息子を抱きしめた。タマヨリヒメが慌ててアエズを𠮟る。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

え ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

ひっ ・ ・ ・ ひどいですアエズさま!!アエズさまはタマヨリじゃ嫌なのですか??

アエズ

アエズ

えっ??えーータマヨリがいぃーーー!!

アエズはセンチな父親を放置し、タマヨリヒメに抱きついた。

超かわいい。

アエズ

アエズ

アエズね、大きくなったら、タマヨリのことお嫁さんにするの!

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

ふふっ、そうですか。それじゃあ、今日はお野菜も残さず食べましょうね。タマヨリは身長の高い男性が好きなのです。好き嫌いをしてたら大きくなれませんよ?

アエズ

アエズ

えぇーー ・ ・ ・ ぅー ・ ・ がんばる。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

今日は、ホオリ様がホデリ様に勝って、この国の王様になられた日なのですっ!!タマヨリが腕によりをかけますねっ!!!

アエズ

アエズ

ほんとぉ??うわぁい!!

ホオリは、いつもタマヨリヒメに救われていた。しかし、まだ乳母がそのまま妾になることも珍しくない時代だったが、ホオリが彼女をそんな目で見ることはなかった。それほどトヨタマヒメのことを大切に思っていたのだ。

こうしてタマヨリヒメを通し、遠距離恋愛を続けた2人だったが再び会える日は来なかった。ホオリは寿命が尽きるまで580年もの間、日向の国を治め、歌の通り彼女のことを忘れることはなかった。

ホオリ

line

一方、息子のアエズは小さい頃から乳母のタマヨリヒメを本気で嫁にする気でいた。

身長が少しでも伸びる度に、彼女の隣でさりげなく身長を比べた。ギリギリ彼女の背を越して求婚した時には、ませガキだと爆笑された。

やがて大人になると、いつの間にか彼女より頭一個分くらい大きくなっていた。

もうこれ以上は伸びないと確信したアエズは、意を決しまた求婚したが、今度も相手にしてもらえなかった。

アエズ

アエズ

なんでだよ!食べ物の好き嫌いも無くしたのにっ!!

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

何をおっしゃっているのですか。アエズ様は元々好き嫌いなんて無いじゃありませんか。

アエズ

アエズ

んなわけあるかっ!!根菜も、ネバネバ系も、骨の多い魚だってみんな大っ嫌いだ!!君が言ったんじゃないか、好き嫌いしない身長のデカイ奴が好きだって。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

えっ?うそ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まさか、あんな子供騙しまだ信じて ・ ・ ・ ・ ・

アエズ

アエズ

俺は本気なんだ!いつまでも子供扱いすんなよ!!

なかなか大人として見てもらえず、アエズはつい声を荒げた。タマヨリヒメはいつの間にか自分より大きくなっていたアエズの迫力に押され一歩後ずさる。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

・ ・ ・ で ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、アエズ様の周りにはもっと、若くて綺麗な姫がたくさんいるじゃないですか!!

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

タマヨリはオバちゃんですっ!!

アエズ

アエズ

こんな綺麗なオバちゃんいるかよっ!!俺らは老けないんだ。年の差なんか関係ないだろ。

タマヨリヒメ

タマヨリヒメ

でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ なんでタマヨリなのですか ・ ・ ・ タマヨリなんか ・ ・ ・ ・ ・ ・

アエズ

アエズ

違う。タマヨリじゃなきゃ嫌なんだ。俺は・・・俺は君がどうやって子供と接するのか誰よりも知ってる。君の子供は絶対に幸せになれる。だから ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・ ・ だから ・ ・ ・ 俺はタマヨリとの子が欲しいんだ ・ ・ ・ ・ ・ ・

アエズは、勢い余って彼女を抱きしめた。

こうして、断る理由が無くなってしまったタマヨリヒメは、腕の中でやっと首を縦に振ってくれた。

長年の片思いが実りアエズは早速、タマヨリヒメを連れてホオリに結婚の報告しに行った。するとホオリはとても喜んでくれた。

ホオリ

ホオリ

てか、産屋っっ!! ・ ・ ・ 産屋作んなきゃ!!!

アエズ

アエズ

落ち着け親父。俺らまだ初夜すら迎えてねーから。

父の必死の訴えもあって、アエズが産屋を覗くことはなかった。2人は4人の子供に恵まれ、幸せに暮らした。

「太陽の神」アマテラスの孫ニニギが「山の神」と結ばれ、天と山の力を持ったホオリとアエズが「海の神」と結ばれたことから、天山海の力、全て兼ね備えた子供達だ。この最強属性を持ったアエズとタマヨリの末っ子が、やがて初代 神武天皇となるカムヤマトイワレビコだ。

こうして、彼の誕生によって神話の章は幕を閉じる。

『系図』アマテラス、ニニギ、オオヤマツミ、サクヤヒメ、ホデリ、ホスセリ、ホオリ、オオワダツミ、豊玉姫、玉依姫、アエズ、イツセ、イナヒ、ミケヌ、イワレビコ


日本の神話「古事記」 おすすめ本

古事記(池澤 夏樹)

古事記(池澤 夏樹)

現代語訳がとにかく丁寧で美しくて読みやすい作品です。上段に現代語訳、下段に解説が書かれています。現代語訳だけであれば、1日でサラッと読めます。

現代語古事記(竹田 恒泰)

現代語古事記(竹田 恒泰)

明治天皇の曾孫にあたる、竹田 恒泰さんの作品です。現代語訳は少し固い印象ですが、解説が面白いのでスラスラ読めてしまいます。日本が好きになります。

まんがで読む 古事記(竹田 恒泰)

まんがで読む 古事記(竹田 恒泰)

文章が苦手な方におすすめ。「現代語古事記」の竹田さんが監修されています。天皇記は無く、日本神話とヤマトタケルだけですが、子供でも簡単に読めます。