天皇記『オケとヲケ』

オケとヲケ

オケとヲケ

ところ変わって、播磨はりまの国。

清寧天皇せいねいてんのうが亡くなってからしばらくして、自粛じしゅくムードも落ち着いてきたある日。

播磨に住んでいる、志自牟シジムという名前の男が新築を建てたので、お祝いの宴会が開かれることになった。

山部連小楯

山部連小楯

志自牟シジムさん、この度はおめでとうございます。

志自牟

志自牟

あぁ、小楯様っ!!わざわざお越しいただき、ありがとうございますっ!!

この宴には大和から播磨はりまの国に出向で来ていた山部連小楯やまべのむらじのおたても出席し、高貴な人から身分の低い人まで、老人から若人まで、多くの人が参加した。

 

立派な新築で飲む美味しい祝酒に気持ちも高まり、おじさま方は大いに盛り上がる。

しかし、宴会場から一段下がった土間で、火焚きの番を任されてしまった未成年の使用人からしてみれば、この場は退屈だったようだ。

使用人(弟)

使用人(弟)

兄ちゃん ・ ・ ・ ・ つまんない ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

使用人(兄)

使用人(兄)

しぃー。黙ってニッコリ笑ってー。これぞ我が日本国の誇る伝統、飲みニケーション。

 

やがてえんもたけなわになり、テンションの上がったおじさまの中の誰かが、「偉い順、年の順に次々と舞を披露しよう」と言い出した。

 

志自牟

志自牟

では、まずは小楯様から。

山部連小楯

山部連小楯

承知しました。

最初は、特別ゲストの小楯オタテが舞うようだ。

小楯は恥ずかしがる様子もなく、上手に舞う。

使用人(兄)

使用人(兄)

おぉー。上手いね。

使用人(弟)

使用人(弟)

だねー。

やたら飲み会の多かった雄略ゆうりゃく天皇の時代に、大和で技を磨いたのだろうか ・ ・ ・ ・ さすがだ。

こうして次々と順に舞っていくが、偉くて年齢の高い人の方が場慣れもしていて、うまい。立場が下の人になるにつれてだんだん下手になり、うまく舞うよりも笑いをとった方が勝ちといった雰囲気になってきた。

 

やがてラストの青年が舞った。しかし、彼はどうも動きが中途半端だし、かと言って笑えるほど下手でもなく ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

微妙な空気が流れる。

 

青年は会場の人たちからの視線に耐えられず、正座で座り込んだ。

 

青年

青年

やっちまったぁぁぁーーー ・ ・ ・

 

大丈夫。あなたは何も悪くない。

 

無茶振りしたおじさまたちが悪いの。

 

青年が視線を逸らすと、土間で火焚ひたきをしている2人の少年と目が合った。

使用人(兄)

使用人(兄)

あーあ。やっちゃったね。

とでも言いたそうな、やたらナメ腐った様子でこちらを見ている。

青年

青年

くっそ ・ ・ ・ ・ 自分たちには回ってこないからって、ムカつくぅぅぅ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

青年

青年

・ ・ ・ ・ いや、待てよ??

青年はパアっと笑顔になり、2人を指差した。

青年

青年

よし!!最後はお前らだっ!!!

オケ

オケ

へっ!?

使用人(弟)

使用人(弟)

えっ??

まさか、蚊帳かやの外の自分たちにも順番が回ってくるとは思わなかった2人は戸惑った。

主の志自牟シジムも、失礼があっては大変だと、慌てて助け舟を出す。

志自牟

志自牟

わっ!すみません。この子らは普段、馬飼いと牛飼いをしておりますので、舞いは教えておらず ・ ・ ・ ・ ・

しかし、特別ゲストの小楯オタテさんはニッコリと笑う。

山部連小楯

山部連小楯

いえいえ、子供ですし、見様見真似で良いじゃないですか。

そして親切心からのヒドイ無茶振りを出してきた。

山部連小楯

山部連小楯

さあさあ、遠慮しないで。舞ってごらんなさい。

 

・ ・ ・ ・ ・ んなこと言われたら、断れない。

 

使用人(弟)

使用人(弟)

えっ、わっ、どうしよ。ねぇ、兄ちゃん!先に踊ってよ。これって年功序列でしょ??

使用人(兄)

使用人(兄)

はぁ??お前が先に踊れって。偉い順だろ??お前のが偉いって。

使用人(弟)

使用人(弟)

いやいや、何言ってんの。

使用人(兄)

使用人(兄)

いやいやいやいや、そちらこそ。

兄弟が遠慮しがちに譲り合っていると、会場の人たちに笑われてしまった。

この小馬鹿にされた空気の中で、弟を立たせるのは気が引ける。

 

使用人(兄)

使用人(兄)

はぁ ・ ・ ・ ・ 仕方ないか。

兄の方が、弟をかばうように立ち上がった。

使用人(兄)

使用人(兄)

こーゆーの、久しぶり。ちゃんと覚えてるかな ・ ・ ・ ・

兄がぽそりと呟く。

 

『うんうん。大丈夫だよ。そんな言い訳しなくても、たいして踊れないのは分かってるからさ。』

 

と、大人たちはどこか見下した様子で微笑む。

使用人(兄)

使用人(兄)

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スッ...

 

しかし、兄が構えるとピリッと空気が引き締まった。

 

『あれ?なんか、プロっぽい??』

 

兄の舞いが始まると、同時に弟が歌い出す。

 

使用人(弟)

使用人(弟)

武人だった父の差す〜太刀の柄には赤いたん〜〜

使用人(弟)

使用人(弟)

綺麗な絵付けがほどこされ〜にも赤い布装り〜〜

 

弟は長く響くいい声出すし、兄の舞も見事だし、どう考えても素人の芸じゃない。

 

使用人(弟)

使用人(弟)

緒の布飾りと揃いの赤旗〜〜

使用人(弟)

使用人(弟)

高く掲げれば誰もが恐れ〜山の奥へとこもってしまう〜〜

使用人(兄)

使用人(兄)

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

兄の舞と、弟の歌と、プロの神楽かぐらでも見ているようだ。

 

『しかも、赤い旗って言ったら、皇軍こうぐんの旗じゃないか。なんでそんなすごい武人の子供が、播磨で火の番なんかしてるんだろう??』

 

使用人(弟)

使用人(弟)

時には尾根おねの竹を刈り〜押しなびかせるよう勇猛ゆうもうに〜〜

使用人(弟)

使用人(弟)

時には八弦やつおの琴のを〜調律ちょうりつするよう繊細に〜〜〜

使用人(弟)

使用人(弟)

あめもとを治めた履中りちゅう天皇〜〜その皇子みこの名は市辺忍歯いちのべのおしは〜〜

 

使用人(兄)

使用人(兄)

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

使用人(弟)

使用人(弟)

こんなにみすぼらしくて、信じられないかも知れないけれど ・ ・ ・ ・

 

弟がそこまで歌うと、兄はふと動きを止めた。

 

使用人(兄)

使用人(兄)

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

そして互いに目を見合わせ、コクリとうなずく。

 

 

使用人(弟)

使用人(弟)

僕らは ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

使用人(弟)

使用人(弟)

その市辺忍歯いちのべのおしはの息子なんです。

 

 

その衝撃の告白に、会場は固まった。

 

えっ?

 

ちょっと待って。

 

一旦、整理をしよう。

 

まず、お父さんが皇軍こうぐんの武人さんって言ってたよね??

 

確か、履中りちゅう天皇の息子の忍歯おしは様は皇子おうじだけど、武人でもあったわけでしょ??

 

ってことは、歌の最初に赤い旗を掲げてた武人は忍歯様だったてことだよね。

 

で、その、忍歯様のことを『父』って言ってたよね??

 

つまり、この子たちのおじいちゃんは履中天皇ってことになる。

 

え?おじいちゃんが天皇??本気で言ってるの???

 

本当に本当なら、大変だ。

 

だって、この前、清寧せいねい天皇が後継者のいないまま亡くなってしまったから、日嗣ひつぎ御子みこがいなくって、代理で女性が仕切っているくらいに大和はとっても困っていて、ずいぶん前に雄略天皇の魔の手から逃れた2人の皇子おうじを、今も必死に探してるんだから ・ ・ ・ ・

 

もしかして・ ・ ・ ・

 

・ ・ ・ いや、もしかしなくても。

 

 

この子たちが、その皇子様おうじさまってこと??

 

ガタンっ!!

 

やっとこの事態に頭が追いついた小楯オタテは、驚いて立ち上がり、土間にいた兄弟の元へ裸足で駆け寄る。

 

しかし、テンパりすぎて床を踏み外し、転び落ちてしまった。

 

 

ドスン!!

 

山部連小楯

山部連小楯

んいぃっ痛っっ!!!

そしていつくばりながら2人を見上げると、目にたくさんの涙を浮かべる。

山部連小楯

山部連小楯

・ ・ ・ ・ ・ ハァァッッッ!!!!

使用人(兄)

使用人(兄)

ちょ、大丈夫ですか??落ち着いて ・ ・ ・ ・

山部連小楯

山部連小楯

ああああ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁぁっっ!!!

全然、会話にならないけれど、とにかく感動していることだけはわかる。

山部連小楯

山部連小楯

しし ・ ・ ・ ・ 志自牟シジムさんっ ・ ・ ・ ・ ・ 人払いを ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

志自牟

志自牟

あ、はっっ!!はいっっっ!!!

小楯オタテの口から、辛うじて出てきた言葉に、志自牟シジムは慌てて会場にいた人達を外に出す。

しかし小楯はその人払いも終わる前に、2人に抱きついてきた。

ガバっ!!

使用人(兄)

使用人(兄)

わっ!

使用人(弟)

使用人(弟)

ふあぁっっ!!!

左右の膝にひとりずつ、チョコンと乗る形になり、小楯オタテは2人の間に顔をうずめて涙を流す。

山部連小楯

山部連小楯

よくぞ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ご無事でっっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

そう。この兄弟こそが、あのオケとヲケだったのだ。

 

小楯オタテは酔っ払ったオッサンのにおいがしたが、自分たちのためにボロボロと泣いてくれたことが嬉しくて、2人はしばらく我慢をした。

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山部連小楯

山部連小楯

はああああ ・ ・ ・ ・ ・ うあぁぁぁぁぁん ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!!!!

オケ

オケ

あーーー。えーとーー。小楯さん?? ・ ・ ・ ・ ちょ、そろそろ苦しいかも。

山部連小楯

山部連小楯

ああっ、すみま ・ ・ ・ はあああ、こんな ・ ・ ・ ・ こんなっっ、ああああ ・ ・ ・ 可哀想に ・ ・ ・ ・ ・

ヲケ

ヲケ

そんなことないよ?志自牟さん優しかったし。

山部連小楯

山部連小楯

はぁぁぁぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それは ・ ・ ・ ・ いや、でも ・ ・ ・ ハァァ ・ ・ ・ ・ !!!

オケ

オケ

落ち着いてぇーー。

山部連小楯

山部連小楯

その ・ ・ ・ ・ ・ すぐに仮宮かりみやを作らせ、早馬を送りますので。何か ・ ・ ・ ・ 服も ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ サイズがご用意できるかわかりませんが ・ ・ ・ ・

ヲケ

ヲケ

仮宮??今から作るの???わざわざ?????

オケ

オケ

そんなお気遣いいただかなくても ・ ・ ・ ・

山部連小楯

山部連小楯

あぁぁぁぁ ・ ・ ・ なんて、いい子たちぃぃぃぃ!!!!!

小楯オタテはすぐに地元の人々を呼び寄せ、即席の仮宮を作らせると、そこに2人を保護して、大和に早馬を送った。

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ヲケ

ヲケ

あぅぅ。仮宮なのに、志自牟さんの新築より豪華じゃない ・ ・ ・ ・??

オケ

オケ

うぅん ・ ・ ・ なんか、申し訳ないな ・ ・ ・ ・ ・ ・

ヲケ

ヲケ

ふふっ、でもこれで家に帰れるんだね。もう一生帰れないかと思った。

オケ

オケ

だなー。今はイイトヨ姉が天皇代理やってるんだってさ。彼氏できたかな??

ヲケ

ヲケ

えぇーー??あの性格じゃ無理じゃない???

オケ

オケ

あはは!オレもそう思う。

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一方、オケヲケの2人が無事に発見されたことを聞いたイイトヨは、発狂はっきょうした。

飯豊王

飯豊王

ふぁぁぁぁぁああ!!!!!!オケヲケ見つかったのっっ!?!?わあっっ!!!!わぁぁぁーーー!!!!よかったぁぁぁーーーー!!!!!! うわあぁぁーーーん!!!!!

飯豊王

飯豊王

清寧ちゃあぁぁぁーーん!!!!オケヲケ見つかったってーー!!!!雲の上から見てくれてるかぁぁーーい!!!!それとも黄泉よみかーー???黄泉だったら下かーーー???

飯豊王

飯豊王

黄泉の人ーー!!聞こえますかーー!!オケヲケが見つかったってよおぉぉぉぉーーーー!!!!!

 

清寧天皇

清寧天皇

うるっっさい ・ ・ ・ ・ ・

清寧天皇

清寧天皇

でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ よかった ・ ・ ・

イイトヨはすぐに、自分の宮まで2人を呼び寄せた。

こうしてオケとヲケは、やっと宮中に戻ることができた。

オケヲケ系図

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