日本初の結婚式

イザナギ

はぁ~良く寝た~~

イザナギ

今日から、国造りがんばるぞぉーー!!!

僕が大きく伸びをすると、イザナミが

じと~

っと、こちらをにらみつけてきた。

しかも、視線が合うと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

イザナミ

ええ、そうですね

イザナミ

本当に、清々しいくらい『何も』なくって、とってもいい朝だわ?

なんだか、トゲのある言い方である。

イザナギ

あれ? イザナミ、なんだか不機嫌じゃない?

イザナミ

別に。不機嫌じゃないもん

そう言ってイザナミはまた、ぷいっとそっぽを向く。

イザナギ

まずいぞ

イザナギ

これは放っておくと「後が大変になる」あのパターンだ……

僕はヒントを求めて、あたりを見渡す。

そこには、ただただ広大な海と、ポツンと浮かぶ僕らの島。

……なるほど、これだ!

イザナギ

そっか! イザナミは不安なんだな!

イザナミ

えっ?

イザナギ

大丈夫だよ!

イザナギ

確かに今は何もないけど、これから僕らが国をつくるんだ

イザナギ

島も山も川も、そのうち人間だって生まれてくる

イザナギ

すぐににぎやかになるさ!

そう言ってハイタッチを求めると、イザナミは小さくため息をついて、

と、僕の手をにぎった。

イザナミ

もう……しょうがないなぁ

そう言って微笑んだイザナミが、とてもかわいくて。

心臓がドクッと脈打つ。

僕は慌てて手を引っ込め、話題を変える。

イザナギ

あっ、そういえばさ!

イザナギ

僕、ずっと気になってたんだけど……

イザナミ

ん、なぁに?

どうやら、今ので機嫌は直ったらしい。
女の子って不思議な生き物だ。

イザナギ

僕らって自然に、成り成り生まれてきただろ?

イザナミ

うん

イザナギ

でもなんだか、男神おがみ女神めがみでは形が違うというか……

そこで僕は、イザナミに聞いた。

イザナギ

君の身体は、どうやってったの?

イザナミ

んんんっ!?!?

その質問に、イザナミはボフッと顔を赤らめた。

イザナギ

えっ? 僕、何か、変なこと聞いた?

イザナミ

ううん! 全然!!! 全然、ごく自然な質問!!!

イザナギ

はぁ……

イザナミは、深呼吸をして静かに答えた。

イザナミ

私の身体はね……

イザナミ

成り成りって成ったものの……

イザナミ

成り切らなかったところが一つだけあるの

イザナギ

あれ……なんだか、空気が変わった?

そのうるんだ眼差まなざしに、先ほどまでとは違う種類の緊張を覚える。

イザナギ

そっか……

イザナギ

僕の身体は、成り成りって成ったものの

イザナギ

成り余ったところが一つあるんだ

イザナミ

うん……

イザナギ

それで……さ

僕とイザナミの視線が交わる。

イザナギ

この僕の身体の成り余ったところで

イザナギ

君の身体の成り切らなかったところをふさげば、僕らはひとつになれる

イザナギ

そしたら、新しい命を……国土を生み成せると思うんだけど……

でも……この華奢きゃしゃな身体で国土を産むなんて、イザナミの負担が心配だ。

イザナギ

イザナミは、産むことってどう思う?

そう聞いたあとのわずかな沈黙ちんもくが、やけに長く感じた。

イザナミは静かに口を開き、

と言った。

イザナギ

えっ?

イザナミ

私もそれがいいと思うってこと!

幸せそうに微笑む彼女のひとみに、吸い込まれそうだ。

イザナギ

わ……

イザナミ

ん?

イザナギ

すごく嬉しい

イザナミ

私も!

イザナギ

そっか……
国造りに『いざない』の力が必要って、こういうことだったんだな

イザナギ

僕らが選ばれた理由が、やっと分かったよ

イザナミ

うん……

イザナミ

命の始まりが、大好きな人と繋がることだなんて、素敵だね?

イザナギ

だいすきな……ひと?

イザナギ

へへっ。僕も大好きだよ、イザナミ!

イザナミ

はっ!!

イザナミ

な、なんか……改めて言われると照れますなぁ

イザナギ

それで、早速なんだけど、実は僕……

イザナミ

あ、ちょっと待って!

イザナミ

その前に、私、一つやりたいことがあって……

イザナギ

え?

イザナミ

……を挙げたいの

イザナミが不安そうに僕を見上げた。

イザナギ

ああっ!! かわいすぎる!!!!!

それに、結婚式なんて楽しそうなイベント、大歓迎だ!

イザナギ

いいね! スグやろう!!

イザナギ

そしたら僕とイザナミで、この天之御柱あめのみはしら左右に分かれてぐるっと行き回って、巡り合ったところで結婚しようよ!!

イザナミ

よかった……ありがとう!

僕がそう約束をすると、イザナミは目いっぱいに涙を浮かべて微笑んだ。

イザナギ

ん? なんで泣くんだ??

やっぱり、女の子ってよく分からない。

イザナギ

でも、喜んでくれてるから、いっか!!

僕らは早速、結婚式の準備を進めた。

結婚式準備
イザナミ

はい、これで、完成!

イザナミは僕の髪紐に花をくくり付けると満足げにうなずいた。

イザナギ

おおー! イザナミ、器用だね!!

イザナミ

ふふっ! かわいいでしょう?

イザナミが、その場でくるっと回ってみせる。

イザナギ

んあぁぁっ……!!

かわいすぎだろォォォ!!!!!

イザナギ

あっ、いやっ!! えっと、じ、じゃあ、早速、結婚式しようかっ!!!

イザナミ

うん!

いよいよ、この国で初めての結婚式だ。

まず、僕らは天之御柱あめのみはしらの前に背中を合わせて立った。

静かな部屋で二人きり。微かに着物の擦れる音だけが聞こえる。

めちゃくちゃ緊張する。

イザナギ

それじゃあ……イザナミは右から回って。僕は左から回って巡り合おう?

イザナミ

うん……

そして、約束し終わると、僕は柱を左から、イザナミは右から、ゆっくりと歩き回り始めた。

心臓の音が、バクバクうるさい。

イザナギ

大丈夫。落ち着け僕。ただ柱の周りを歩いて、出会ったところで声をかけるだけだ。簡単簡単……

そう自分に言い聞かせながら、柱の向こう側へと回り込む。

やがて、向こうから歩いてくるイザナミの姿が見えた。

イザナギ

やっぱりかわいい!!!

向かい合ったところで、僕らはぴたりと足を止める。

目が合うと言葉につまり、僕はゴクリとつばを飲み込んだ。

すると先に、鈴の音のようにんだイザナミの声が八尋殿やひろどのに響き渡る。

イザナミ

まぁ! なんて素敵な殿方なんでしょうっ!!

その瞬間

直前まで言おうとしていた、セリフの全てが吹っ飛んだ。

そして、僕は後からただの感想を述べた。

イザナギ

わっ、ワァ…………なな、なんてウツクシいオトメなんだァ……

緊張で思い通りにはいかなかったけど、それでもイザナミは嬉しそうに微笑んでくれた。

これにて、結婚の儀は結びである。

イザナギ

ああっ!! 今、僕は最高に幸せだ……!!!

各自言い終えた後、僕は感動に打ち震えたが、ふと重大なことに気づく。

イザナギ

あ、あれ?

イザナギ

イザナミ、これって、女子が先に言うのは良くないやつだよ

イザナミ

あ、そういえば……カムムスヒ様がそんなこと言ってた気が……

イザナギ

バレたらどやされるな。僕が

イザナミ

あらら。じゃあ……

イザナミ

ナイショだね?

イザナギ

……!!

イザナギ

へへっ……だな!

僕らは顔を見合わせて、フフッと笑った。

イザナギ

あー。すっごく幸せ!!

イザナミ

それじゃあ……

イザナミ

次は……まぐまぐかな?

イザナギ

え、まぐまぐって?

イザナミ

それは、その……ほらっ……あの……

イザナミ

まぐまぐするやつ……

イザナギ

ああっ! まぐわいのことねっ!!!!!

天之御柱あめのみはしらを後にして、僕らは無言のまま八尋殿やひろどのの廊下を並んで歩いた。

夕暮れの美しい庭園を横目に向かう先は……

寝室である。

僕の心臓は、破裂しそうなほどバクバクと激しく鳴っていた。

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい……

イザナギ

今さら、まぐわいのやり方が分からないなんて、言えないよォォォ!!!

だって、僕らのやることなすこと全てが初めてなのだ。

まぐわいと言われても、どうやってあれをこれしたらいいんだか、皆目見当もつかない。

イザナギ

このままベッドインして大丈夫だろうか……

僕が不安な顔を浮かべると、一羽のセキレイが目の前をパタパタっと飛んで、庭の岩に留まった。

僕に……何か伝えようとしている??

ピョコピョコ
イザナギ

……え?

イザナギ

あぁ! なるほど!!!

イザナギ

全て、理解した!!

イザナミ

えっ?

イザナギ

ありがとうございます、セキレイ先生!!!

あれなら僕にもできそうな気がする!!

イザナギ

行こう、イザナミ!

僕が手を引くと、イザナミは戸惑いながらも恥ずかしそうに微笑んだ。

イザナミ

……うん

こうして僕らは寝室に入り、無事に初夜を迎えることができた。

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最高に幸せだった。

またたく星も、優しい波の音も、全て僕らのために輝き、奏でられてるんだって思えるくらい。

だから、考えもしなかったんだ。

……この幸せの先に、あんな不幸が待っているなんて。

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