オノゴロ島

僕とイザナミは、天つ神あまつかみたちに命じられるまま「天浮橋あめのうきはし」を歩み進んだ。

それから、どのくらい歩いただろうか。

繋つないだイザナミの手が、自分の一部かと錯覚さっかくするくらい長い間歩き続けて、ようやく天浮橋あめのうきはしの際きわ、葦原の中つ国の境界きょうかいに辿たどり着いた。

僕らは無言で立ち止まる。

この先は『無』と言ってもいいくらい何もない。

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眼下がんかには、仄暗ほのぐらい海が水平線の先まで続いている。波がザワザワと音を立てて揺ゆれる様子は、なんとも不気味だ。

イザナミ

うわぁぁ。こんなトコで国造くにづくりなんて……

イザナミ

上もなかなか酷こくなことを命めいじますなぁ?

イザナミがふざけた口調くちょうで首を傾かしげて、僕の顔を覗のぞき込んでくる。

本当。

これからここで、たった2柱ふたはしらで国造りなんて……未だに信じられない。

信じたくもない。

あらためて、『無理ゲー』を押し付けられたことを実感する。

イザナギ

はぁ……こんな場所に、生き物が住めるわけないじゃないか

イザナギ

やっぱり断ればよかった

僕が肩を落とすと、イザナミが励はげますようにポンポン背中を撫なでてくれた。

イザナミ

しょうがないよ。いつか、誰かがやらなくちゃって空気だったし

イザナギ

えぇー? そうだったかな?

イザナミ

もー。イザナギは相変わらず鈍感どんかんだなぁ

イザナギ

うぅ……心当たりがありすぎて、反論はんろんできない

イザナミ

ふふっ! ともあれ……

イザナミ

まずはそれ、差さしてみない?

イザナミが指ゆびさした方向を僕は目で追う。

天沼矛とイザナギ
イザナギ

あ、天沼矛あめのぬぼこ

すっかり忘れてた。

ミナカヌシ様の話によれば、この矛ほこを海で使えば、島ができるのだとか。

イザナギ

そうだな。やれるだけのことはやってみよう!

こうして天浮橋あめのうきはしの上に立って、僕はイザナミと顔を見合わせ、コクリとうなずくと、二人で沼矛ぬぼこを掴んだ。

イザナギ

それじゃあ、いくよっ!

イザナミ

うん!

そして眼下の海へ、その沼矛ぬぼこを差さし下ろす。

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そして、沼矛ぬぼこをぐるぐるかき混ぜると、矛の周りに固体のようなものがまとわりついてきた。

白っぽい何か…………塩の結晶けっしょうみたいだ。

それは徐々じょじょに大きくなって、塩が『こおろこおろ』と神秘的な音を奏かなでる。

イザナギ

これは……

イザナギ

なんだかいけそうな気がするっ!

僕はイザナミとアイコンタクトを取って、ニッと笑い合うと、重たくなった沼矛ぬぼこをグイッと引き上げた。

とろり…

すると、矛の先から『とろり』と塩の結晶けっしょうが垂たれ落ち、ぽとぽと積つみ重なって……

と、あっという間に島ができたではないか!!

イザナミ

すごーい!

イザナギ

本当に島、できた!!

僕らは、思わずハイタッチ。

イザナミが僕に、満面の笑顔を向けてきた。

イザナギ

はい、かわいい!!

イザナミ

ねぇ、イザナギ!

イザナギ

ん?

イザナミ

この子は、自ら固まってできたスゴイ島だから、『オノゴロ島しま』って名前にしない?

イザナギ

お~、いい名前だな!!

これが、オノゴロ島しまだ!

早速、僕らはその島に降り立つ。

イザナギ

ああっ! 地面があるって、なんて素晴らしいことなんだ!!

イザナミ

本当だね! 降りられる場所がなくて、どうしようかと思ったよ

イザナミ

でも……この塩の上で生活するのは、やっぱりつらいなぁ

イザナギ

ああ。それなら、任せて!

イザナギ

サバイバルモードで最初にすべきは、木材と家とベッドの確保

イザナギ

男子の得意分野だっ!

僕は神力しんりきを使うため、両手をパチンと叩いて鳴らし、目の前に掲かかげた。

そして意識の全てを、島の中心の一点へと集中させる。

イザナギ

産土うぶすなの息吹いぶき宿し 神木の御魂みたまよ、虚空こくうを識しる静寂せいじゃくの依より代しろよ

イザナギ

今こそ我の前に姿を現し、天地あめつちを結ぶ柱となれ

イザナギ

天之御柱あめのみはしら!

その言霊ことだまが響いた瞬間。

島の中心から、天地を揺るがすような轟音ごうおんが響き渡った。

大地がひび割れ、神々しい光が噴出ふんしゅつする。

その光は

と、まるで雷いかづちのように勢いよく天高く昇り、一瞬にして一本の巨大な天之御柱あめのみはしらとなった。

イザナミ

わぁー。すごいね、イザナギ!

イザナギ

ふっふっふー! すごいだろ

イザナギ

次は、住む場所が欲しいけど、イザナミもやってみる?

イザナミ

ええっ!? 私にできるかな……

イザナギ

まぁ、最初はちょっと難しいと思うけど??

僕がからかうように煽あおると、イザナミは自信なさそうに、パチンと手をたたいた。

すると、その掌てのひらから放たれた神力が、周囲の空気を震わせ、目に見えない波紋はもんとなって広がっていく。

イザナミ

形を成せ……

イザナミ

八尋殿やひろどの!

イザナミの言霊ことだまと共に、無数の細い光の筋が八尋殿やひろどのを象かたどっていく。

その光は、

と、瞬く間に千木ちぎや鰹木かつおぎといった屋根の飾りから、緻密ちみつな彫刻に至いたるまで、寸分違すんぶんたがわず形を成なしていく。

やがて光が散り散りになると、そこには幅10メートル以上ある、優美ゆうびで繊細せんさいな神殿しんでんがたたずんでいた。

イザナミ

こんな感じで、どうかな?

イザナギ

おっ!?おおおおおお……

イザナギ

なかなかいいんじゃないか…………???

いや、なんだ、この高い建築技術は!?

イザナギ

調子に乗って、柱1本に長々と中二病くさい呪文を唱となえてしまった自分が恥ずかしい……!!

でも……

これって、なかなか幸先さいさきの良いスタートなんじゃないか?

イザナギ

ここが、僕らの新居か……

イザナギ

思ってたより、快適かいてきに過ごせそうだ!

イザナミ

うんっ! 新生活、楽しみだね

イザナギ

だなっ!

こうして僕らは、天之御柱と八尋殿を造った。

すると、イザナミは急にモジモジと顔を赤らめて、上目づかいで僕の顔を覗のぞいてきた。

イザナミ

それじゃあ、今日はもう、疲れたし……

イザナミ

…………そろそろお布団ふとんいこっか?

イザナギ

だなっ!

僕らは顔を見合わせて、にっこり笑い合う。

そして、それぞれに異ことなる期待で胸を膨ふくらませながら、それぞれ別の床とこにつくのだった。

相関図・神様一覧

Author & Historical Supervisor:小野寺優
Illust:駒碧 × AI × Canva
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