

はぁ~良く寝た~~

今日から、国造りがんばるぞぉーー!!!
僕が大きく伸びをすると、イザナミが

っと、こちらを睨みつけてきた。
しかも、視線が合うと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

ええ、そうですね

本当に、清々しいくらい『何も』なくって、とってもいい朝だわ?
なんだか、トゲのある言い方である。

あれ? イザナミ、なんだか不機嫌じゃない?

別に。不機嫌じゃないもん
そう言ってイザナミはまた、ぷいっとそっぽを向く。

まずいぞ

これは放っておくと「後が大変になる」あのパターンだ……
僕はヒントを求めて、あたりを見渡す。
そこには、ただただ広大な海と、ポツンと浮かぶ僕らの島。
……なるほど、これだ!

そっか! イザナミは不安なんだな!

えっ?

大丈夫だよ!

確かに今は何もないけど、これから僕らが国を造るんだ

島も山も川も、そのうち人間だって生まれてくる

すぐに賑やかになるさ!
そう言ってハイタッチを求めると、イザナミは小さくため息をついて、

と、僕の手を握った。

もう……しょうがないなぁ
そう言って微笑んだイザナミが、とてもかわいくて。
心臓がドクッと脈打つ。
僕は慌てて手を引っ込め、話題を変える。

あっ、そういえばさ!

僕、ずっと気になってたんだけど……

ん、なぁに?
どうやら、今ので機嫌は直ったらしい。
女の子って不思議な生き物だ。

僕らって自然に、成り成り生まれてきただろ?

うん

でもなんだか、男神と女神では形が違うというか……
そこで僕は、イザナミに聞いた。

君の身体は、どうやって成ったの?

んんんっ!?!?
その質問に、イザナミはボフッと顔を赤らめた。

えっ? 僕、何か、変なこと聞いた?

ううん! 全然!!! 全然、ごく自然な質問!!!

はぁ……
イザナミは、深呼吸をして静かに答えた。

私の身体はね……

成り成りって成ったものの……

成り切らなかったところが一つだけあるの

あれ……なんだか、空気が変わった?
その潤んだ眼差しに、先ほどまでとは違う種類の緊張を覚える。

そっか……

僕の身体は、成り成りって成ったものの

成り余ったところが一つあるんだ

うん……

それで……さ
僕とイザナミの視線が交わる。

この僕の身体の成り余ったところで

君の身体の成り切らなかったところを挿し塞げば、僕らはひとつになれる

そしたら、新しい命を……国土を生み成せると思うんだけど……
でも……この華奢な身体で国土を産むなんて、イザナミの負担が心配だ。

イザナミは、産むことってどう思う?
そう聞いたあとのわずかな沈黙が、やけに長く感じた。
イザナミは静かに口を開き、

と言った。

えっ?

私もそれがいいと思うってこと!
幸せそうに微笑む彼女の瞳に、吸い込まれそうだ。

わ……

ん?

すごく嬉しい

私も!

そっか……
国造りに『誘い』の力が必要って、こういうことだったんだな

僕らが選ばれた理由が、やっと分かったよ

うん……

命の始まりが、大好きな人と繋がることだなんて、素敵だね?

だいすきな……ひと?

へへっ。僕も大好きだよ、イザナミ!

はっ!!

な、なんか……改めて言われると照れますなぁ

それで、早速なんだけど、実は僕……

あ、ちょっと待って!

その前に、私、一つやりたいことがあって……

え?


……を挙げたいの
イザナミが不安そうに僕を見上げた。

ああっ!! かわいすぎる!!!!!
それに、結婚式なんて楽しそうなイベント、大歓迎だ!

いいね! スグやろう!!

そしたら僕とイザナミで、この天之御柱を左右に分かれてぐるっと行き回って、巡り合ったところで結婚しようよ!!

よかった……ありがとう!
僕がそう約束をすると、イザナミは目いっぱいに涙を浮かべて微笑んだ。

ん? なんで泣くんだ??
やっぱり、女の子ってよく分からない。

でも、喜んでくれてるから、いっか!!
僕らは早速、結婚式の準備を進めた。


はい、これで、完成!
イザナミは僕の髪紐に花を括り付けると満足げにうなずいた。

おおー! イザナミ、器用だね!!

ふふっ! かわいいでしょう?
イザナミが、その場でくるっと回ってみせる。


んあぁぁっ……!!
かわいすぎだろォォォ!!!!!

あっ、いやっ!! えっと、じ、じゃあ、早速、結婚式しようかっ!!!

うん!
いよいよ、この国で初めての結婚式だ。
まず、僕らは天之御柱の前に背中を合わせて立った。

静かな部屋で二人きり。微かに着物の擦れる音だけが聞こえる。
めちゃくちゃ緊張する。

それじゃあ……イザナミは右から回って。僕は左から回って巡り合おう?

うん……
そして、約束し終わると、僕は柱を左から、イザナミは右から、ゆっくりと歩き回り始めた。

心臓の音が、バクバクうるさい。

大丈夫。落ち着け僕。ただ柱の周りを歩いて、出会ったところで声をかけるだけだ。簡単簡単……
そう自分に言い聞かせながら、柱の向こう側へと回り込む。
やがて、向こうから歩いてくるイザナミの姿が見えた。

やっぱりかわいい!!!
向かい合ったところで、僕らはぴたりと足を止める。

目が合うと言葉につまり、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
すると先に、鈴の音のように澄んだイザナミの声が八尋殿に響き渡る。

まぁ! なんて素敵な殿方なんでしょうっ!!
その瞬間
直前まで言おうとしていた、セリフの全てが吹っ飛んだ。
そして、僕は後からただの感想を述べた。

わっ、ワァ…………なな、なんてウツクシいオトメなんだァ……
緊張で思い通りにはいかなかったけど、それでもイザナミは嬉しそうに微笑んでくれた。
これにて、結婚の儀は結びである。

ああっ!! 今、僕は最高に幸せだ……!!!
各自言い終えた後、僕は感動に打ち震えたが、ふと重大なことに気づく。

あ、あれ?

イザナミ、これって、女子が先に言うのは良くないやつだよ

あ、そういえば……カムムスヒ様がそんなこと言ってた気が……

バレたらどやされるな。僕が

あらら。じゃあ……

ナイショだね?

……!!

へへっ……だな!
僕らは顔を見合わせて、フフッと笑った。

あー。すっごく幸せ!!

それじゃあ……

次は……まぐまぐかな?

え、まぐまぐって?

それは、その……ほらっ……あの……

まぐまぐするやつ……

ああっ! まぐわいのことねっ!!!!!
天之御柱を後にして、僕らは無言のまま八尋殿の廊下を並んで歩いた。
夕暮れの美しい庭園を横目に向かう先は……
寝室である。
僕の心臓は、破裂しそうなほどバクバクと激しく鳴っていた。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい……

今さら、まぐわいのやり方が分からないなんて、言えないよォォォ!!!
だって、僕らのやることなすこと全てが初めてなのだ。
まぐわいと言われても、どうやってあれをこれしたらいいんだか、皆目見当もつかない。

このままベッドインして大丈夫だろうか……
僕が不安な顔を浮かべると、一羽のセキレイが目の前をパタパタっと飛んで、庭の岩に留まった。
僕に……何か伝えようとしている??


……え?

あぁ! なるほど!!!

全て、理解した!!

えっ?

ありがとうございます、セキレイ先生!!!
あれなら僕にもできそうな気がする!!

行こう、イザナミ!
僕が手を引くと、イザナミは戸惑いながらも恥ずかしそうに微笑んだ。

……うん
こうして僕らは寝室に入り、無事に初夜を迎えることができた。

最高に幸せだった。
またたく星も、優しい波の音も、全て僕らのために輝き、奏でられてるんだって思えるくらい。
だから、考えもしなかったんだ。
……この幸せの先に、あんな不幸が待っているなんて。

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