
僕とイザナミは、天つ神たちに命じられるまま「天浮橋」を歩み進んだ。
それから、どのくらい歩いただろうか。
繋いだイザナミの手が、自分の一部かと錯覚するくらい長い間歩き続けて、ようやく天浮橋の際、葦原の中つ国の境界に辿り着いた。
僕らは無言で立ち止まる。
この先は『無』と言ってもいいくらい何もない。

眼下には、仄暗い海が水平線の先まで続いている。波がザワザワと音を立てて揺れる様子は、なんとも不気味だ。

うわぁぁ。こんなトコで国造りなんて……

上もなかなか酷なことを命じますなぁ?
イザナミがふざけた口調で首を傾げて、僕の顔を覗き込んでくる。
本当。
これからここで、たった2柱で国造りなんて……未だに信じられない。
信じたくもない。
あらためて、『無理ゲー』を押し付けられたことを実感する。

はぁ……こんな場所に、生き物が住めるわけないじゃないか

やっぱり断ればよかった
僕が肩を落とすと、イザナミが励ますようにポンポン背中を撫でてくれた。

しょうがないよ。いつか、誰かがやらなくちゃって空気だったし

えぇー? そうだったかな?

もー。イザナギは相変わらず鈍感だなぁ

うぅ……心当たりがありすぎて、反論できない

ふふっ! ともあれ……

まずはそれ、差してみない?
イザナミが指さした方向を僕は目で追う。


あ、天沼矛
すっかり忘れてた。
ミナカヌシ様の話によれば、この矛を海で使えば、島ができるのだとか。

そうだな。やれるだけのことはやってみよう!
こうして天浮橋の上に立って、僕はイザナミと顔を見合わせ、コクリとうなずくと、二人で沼矛を掴んだ。

それじゃあ、いくよっ!

うん!
そして眼下の海へ、その沼矛を差し下ろす。

そして、沼矛をぐるぐるかき混ぜると、矛の周りに固体のようなものがまとわりついてきた。
白っぽい何か…………塩の結晶みたいだ。
それは徐々に大きくなって、塩が『こおろこおろ』と神秘的な音を奏でる。

これは……

なんだかいけそうな気がするっ!
僕はイザナミとアイコンタクトを取って、ニッと笑い合うと、重たくなった沼矛をグイッと引き上げた。

すると、矛の先から『とろり』と塩の結晶が垂れ落ち、ぽとぽと積み重なって……

と、あっという間に島ができたではないか!!

すごーい!

本当に島、できた!!
僕らは、思わずハイタッチ。
イザナミが僕に、満面の笑顔を向けてきた。

はい、かわいい!!

ねぇ、イザナギ!

ん?

この子は、自ら固まってできたスゴイ島だから、『オノゴロ島』って名前にしない?

お~、いい名前だな!!
これが、オノゴロ島だ!
早速、僕らはその島に降り立つ。

ああっ! 地面があるって、なんて素晴らしいことなんだ!!

本当だね! 降りられる場所がなくて、どうしようかと思ったよ

でも……この塩の上で生活するのは、やっぱりつらいなぁ

ああ。それなら、任せて!

サバイバルモードで最初にすべきは、木材と家とベッドの確保

男子の得意分野だっ!
僕は神力を使うため、両手をパチンと叩いて鳴らし、目の前に掲げた。
そして意識の全てを、島の中心の一点へと集中させる。

産土の息吹宿し 神木の御魂よ、虚空を識る静寂の依り代よ

今こそ我の前に姿を現し、天地を結ぶ柱となれ

天之御柱!
その言霊が響いた瞬間。
島の中心から、天地を揺るがすような轟音が響き渡った。
大地がひび割れ、神々しい光が噴出する。
その光は

と、まるで雷のように勢いよく天高く昇り、一瞬にして一本の巨大な天之御柱となった。

わぁー。すごいね、イザナギ!

ふっふっふー! すごいだろ

次は、住む場所が欲しいけど、イザナミもやってみる?

ええっ!? 私にできるかな……

まぁ、最初はちょっと難しいと思うけど??
僕がからかうように煽ると、イザナミは自信なさそうに、パチンと手をたたいた。
すると、その掌から放たれた神力が、周囲の空気を震わせ、目に見えない波紋となって広がっていく。

形を成せ……

八尋殿!
イザナミの言霊と共に、無数の細い光の筋が八尋殿を象っていく。
その光は、

と、瞬く間に千木や鰹木といった屋根の飾りから、緻密な彫刻に至るまで、寸分違わず形を成していく。
やがて光が散り散りになると、そこには幅10メートル以上ある、優美で繊細な神殿がたたずんでいた。

こんな感じで、どうかな?

おっ!?おおおおおお……

なかなかいいんじゃないか…………???
いや、なんだ、この高い建築技術は!?

調子に乗って、柱1本に長々と中二病くさい呪文を唱えてしまった自分が恥ずかしい……!!
でも……
これって、なかなか幸先の良いスタートなんじゃないか?

ここが、僕らの新居か……

思ってたより、快適に過ごせそうだ!

うんっ! 新生活、楽しみだね

だなっ!
こうして僕らは、天之御柱と八尋殿を造った。
すると、イザナミは急にモジモジと顔を赤らめて、上目づかいで僕の顔を覗いてきた。


それじゃあ、今日はもう、疲れたし……

…………そろそろお布団いこっか?

だなっ!
僕らは顔を見合わせて、にっこり笑い合う。
そして、それぞれに異なる期待で胸を膨らませながら、それぞれ別の床につくのだった。


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