その日、僕とイザナミは神謀り……
つまり『神々の会議』があると言われて、ミナカヌシ様の大きな神殿に呼び出された。

中に入ると、別天つ神だけでなく、神世七代も勢ぞろいしている。

僕らが神世七代の末っ子として、端っこにチョコッと座ると、家主のミナカヌシ様が中心に立って、

と両手を大きく広げた。

はいっ!

ということで、イザナギくんとイザナミちゃんには、地上界・葦原の中つ国で『国』を造ってもらうことになりましたぁ~!!

みんな、拍手っ!!


えっ!?

ええっ!?!?
突然の拍手喝采に、僕らの頭の中は真っ白になった。
しかし、ちゃんと聞かなければ……!
僕らが一体、何をさせられようとしているのか——

待ってください、ミナカヌシ様!

『国を造れ』ってどういうことですか!?
僕は慌てて質問した。
……が、天つ神の面々は、僕らの話なんて最初から聞く気がない様子だ。
みんな揃いも揃って、無責任な笑顔を浮かべてくる。

行ってらっしゃい、期待していますよ

国造り、頑張ってねぇ~ん♡

やる後悔より、やらない後悔ってな

うん……きっと、なんとかなる…………

天つ神一同、僕らイザナギとイザナミの2柱に命令し、さらにミナカヌシ様は神々しい微笑みを向けてきた。

この漂える国を修め、創り、固め、そして成せ






ミナカヌシ様に、まばゆいほどの後光が差す。しかし、目がくらんで逆に何も見えない。
さすが空気な最高神。
ミナカヌシ様は詔すると、宝石で飾られた美しい「天沼矛」を渡し、僕らに全てを 押し付け 委任した。

じゃあ、よろしく〜
ミナカヌシ様が、天然全開の笑顔で手を振ってくる。
ぐっ!
このまま言いくるめられて、たまるものか!!!

いや、無理ですよ!

『国造り』なんてカッコイイ言葉で誤魔化して、雑用を押し付けようとしてるでしょう!!

へ? そ、そんなことは……

だいたい、僕らに何をしろって言うんですか!?

えっ? さっき、言ったじゃない

『この漂える国を修め、創り、固め、そして成せ』って

だから、それが意味わからんっつってるんです!!!!

えっ、そ、そうかなぁ?

ほら。 つまり……島とか山とか川とか造って、草とか木とか生やして……鳥とか獣もいて?

そのうち人とかも生まれて、神と一緒に幸せに、『わぁ〜』って、楽しく暮らせるような……

それを、いい感じに治めて欲しいの!
……なるほど。概要はなんとなく理解した。
しかし、『国造り』の概念がボヤッとしている上に、ビジョンも壮大すぎる。

よし、断ろう
僕が意志を固めると同時に、イザナミも声を上げた。

でっ、でも……私たちは『誘いの神』です

先輩たちみたいに、わかりやすい役割もないし……

私たちにそんな壮大な『国』が造れるとは思えません!

そうだそうだ! イザナミの言う通りだ!!
しかし、ミナカヌシ様は「プフッ」と吹き出した。

イザナミ、何を言ってるの? 君たちが『誘いの神』だからお願いしてるのに

えっ?

君たちは私たちにはない、特別な力を持っているでしょう?
ミナカヌシ様は優しく語りかけたが、こちらはなんのことやらさっぱりだ。
イザナミも不思議そうに首を傾けている。

特別な力……ですか? “誘う力”が?

そうっ!
ミナカヌシ様がにっこり笑う。イザナミが言いくるめられそうになったので、僕はムッとして割って入った。

僕らが誘う力で得してることなんて、『先輩たちから好かれる』とかその程度です

国なんて造れませんよ……

ふふっ! イザナギくんはよく声をかけてくれるから、私も大好き

うぅー。本当に好きなら、さっきの命令、取り消してくださいよ

それはできないよ

だって、君たちの“いざない”の力は、葦原の中つ国でこそ、本当の役割を持つのだから

本当の役割? ……何ですか、それ
僕が不満気にまゆをひそめると、ミナカヌシ様は、未来を見透かしているかのような神秘的な表情を浮かべた。

その時が来れば……
すると隣のカムムスヒ様が、ねっとりとミナカヌシ様に寄りかかる。

んもぉっ♡
男女が誘い合ってすることなんて、1つしかないじゃなぁ〜い♡♡♡

……え? それって、まさか…………

ふぁぁっ……!!!
イザナミが何か気付いたように、顔を真っ赤にして、両手で頬を覆う。

え、どういうこと?
僕は訳が分からず、首を傾げたが、イザナミはブンブン首を横に振るだけで、何も答えてくれなかった。
すると、天つ神たちが「いいから、いいから」と言いながら、僕らの背中をグイグイ押してくる。
そして、ずるずると部屋の外へ追い出され——


えっ!?

ちょっ、僕ら、まだ何も納得してないんですけど!?!?
さらにそのまま、高天原の広大な土地を、ずんずん引き摺られ、気づけば僕らは、空にかかる不思議な橋の前に立たされていた。

ここは——天浮橋だ。

この天浮橋の先が地上界・葦原の中つ国だよ!

そんなことは、知っている

そして、この先に何もないことも、僕らは知っているんだ!!!
僕は橋の手前から、そっと下界を覗き見る。
葦原の中つ国まで降りなくたってわかる。この先にはどこまでも広がる海と、陸にすらなれない油のような曖昧な『何か』が浮くだけだ。
僕は現実から目を背けるように、高天原を振り返った。僕がイザナミと一緒に生まれ育った、大切な場所。
ピンクがかった薄い水色の幻想的な空と、心地よく揺れる草原。そして草原を散歩するように、ふわふわとなびく雲……

大好きな、いつもの風景だ。
僕は最後のわずかな希望を胸にして、ミナカヌシ様たちに懇願するような視線を送った。

(チラッ……)
すると、天つ神のみんなから最高に慈愛に満ちた笑顔が返ってきた。

行ってらっしゃい、期待していますよ

国造り、頑張ってねぇ~ん♡

この漂える国を修め、創り、固め、そして成せ

ダメだ!! こいつらモブ村人ばりに、他の言葉を言おうとしない!!!!
僕はガチッと歯を食いしばると、グルッと天浮橋へ真っ直ぐ向き直った。
そして、右手にミナカヌシ様から授かった天沼矛を握りしめ、左手でギュッとイザナミの手を取る。

行こう、イザナミ!

……うん!
イザナミが僕の手を強く握り返す。
こうして、僕らは高天原を旅立つのだった。


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