『誘い』の神

その日、僕とイザナミは神謀かむはかり……

つまり『神々の会議』があると言われて、ミナカヌシ様の大きな神殿に呼び出された。

中に入ると、別天つ神ことあまつかみだけでなく、神世七代かみよななよも勢ぞろいしている。

僕らが神世七代かみよななよの末っ子として、端っこにチョコッと座ると、家主のミナカヌシ様が中心に立って、

と両手を大きく広げた。

ミナカヌシ

はいっ!

ミナカヌシ

ということで、イザナギくんとイザナミちゃんには、地上界・葦原あしはらなかくにで『国』をつくってもらうことになりましたぁ~!!

ミナカヌシ

みんな、拍手はくしゅっ!!

イザナギ

えっ!?

イザナミ

ええっ!?!?

突然の拍手喝采かっさいに、僕らの頭の中は真っ白になった。

しかし、ちゃんと聞かなければ……!

僕らが一体、何をさせられようとしているのか——

イザナギ

待ってください、ミナカヌシ様!

イザナギ

『国を造れ』ってどういうことですか!?

僕は慌てて質問した。

……が、天つ神あまつかみの面々は、僕らの話なんて最初から聞く気がない様子だ。

みんなそろいも揃って、無責任な笑顔を浮かべてくる。

タカミムスヒ

行ってらっしゃい、期待していますよ

カムムスヒ

国造り、頑張ってねぇ~ん♡

ウマシアシカビ

やる後悔より、やらない後悔ってな

アメノトコタチ

うん……きっと、なんとかなる…………

天つ神あまつかみ一同、僕らイザナギとイザナミの2柱に命令し、さらにミナカヌシ様は神々しい微笑みを向けてきた。

ミナカヌシ

このただよえる国をおさめ、つくり、かため、そして

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ミナカヌシ様に、まばゆいほどの後光が差す。しかし、目がくらんで逆に何も見えない。

さすが空気な最高神。

ミナカヌシ様はみことのりすると、宝石で飾られた美しい天沼矛あめのぬぼこを渡し、僕らに全てを 押し付け 委任いにんした。

ミナカヌシ

じゃあ、よろしく〜

ミナカヌシ様が、天然全開の笑顔で手をってくる。

っ!

このまま言いくるめられて、たまるものか!!!

イザナギ

いや、無理ですよ!

イザナギ

『国造り』なんてカッコイイ言葉で誤魔化ごまかして、雑用ざつようを押し付けようとしてるでしょう!!

ミナカヌシ

へ? そ、そんなことは……

イザナギ

だいたい、僕らに何をしろって言うんですか!?

ミナカヌシ

えっ? さっき、言ったじゃない

ミナカヌシ

『このただよえる国をおさめ、つくり、かため、そしてせ』って

イザナギ

だから、それが意味わからんっつってるんです!!!!

ミナカヌシ

えっ、そ、そうかなぁ?

ミナカヌシ

ほら。 つまり……島とか山とか川とか造って、草とか木とか生やして……鳥とかけものもいて?

ミナカヌシ

そのうち人とかも生まれて、神と一緒に幸せに、『わぁ〜』って、楽しく暮らせるような……

ミナカヌシ

それを、いい感じに治めて欲しいの

……なるほど。概要がいようはなんとなく理解した。

しかし、『国造り』の概念がいねんがボヤッとしている上に、ビジョンも壮大そうだいすぎる。

イザナギ

よし、ことわろう

僕が意志を固めると同時に、イザナミも声を上げた。

イザナミ

でっ、でも……私たちはいざないの神』です

イザナミ

先輩たちみたいに、わかりやすい役割もないし……

イザナミ

私たちにそんな壮大な『国』が造れるとは思えません!

イザナギ

そうだそうだ! イザナミの言う通りだ!!

しかし、ミナカヌシ様は「プフッ」と吹き出した。

ミナカヌシ

イザナミ、何を言ってるの? 君たちが『いざないの神』だからお願いしてるのに

イザナミ

えっ?

ミナカヌシ

君たちは私たちにはない、特別な力を持っているでしょう?

ミナカヌシ様は優しく語りかけたが、こちらはなんのことやらさっぱりだ。

イザナミも不思議そうに首をかたむけている。

イザナミ

特別な力……ですか? “いざなう力”が?

ミナカヌシ

そうっ!

ミナカヌシ様がにっこり笑う。イザナミが言いくるめられそうになったので、僕はムッとして割って入った。

イザナギ

僕らが誘う力で得してることなんて、『先輩たちから好かれる』とかその程度です

イザナギ

国なんて造れませんよ……

ミナカヌシ

ふふっ! イザナギくんはよく声をかけてくれるから、私も大好き

イザナギ

うぅー。本当に好きなら、さっきの命令、取り消してくださいよ

ミナカヌシ

それはできないよ

ミナカヌシ

だって、君たちの“いざない”の力は、葦原あしはらの中つ国でこそ、本当の役割を持つのだから

イザナギ

本当の役割? ……何ですか、それ

僕が不満気にまゆをひそめると、ミナカヌシ様は、未来を見透みすかしているかのような神秘的な表情を浮かべた。

ミナカヌシ

その時が来れば……

すると隣のカムムスヒ様が、ねっとりとミナカヌシ様に寄りかかる。

カムムスヒ

んもぉっ♡
男女が誘い合ってすることなんて、1つしかないじゃなぁ〜い♡♡♡

イザナミ

……え? それって、まさか…………

イザナミ

ふぁぁっ……!!!

イザナミが何か気付いたように、顔を真っ赤にして、両手でほほおおう。

イザナギ

え、どういうこと?

僕は訳が分からず、首を傾げたが、イザナミはブンブン首を横に振るだけで、何も答えてくれなかった。

すると、天つ神あまつかみたちが「いいから、いいから」と言いながら、僕らの背中をグイグイ押してくる。

そして、ずるずると部屋の外へ追い出され——

イザナギ

えっ!?

イザナギ

ちょっ、僕ら、まだ何も納得してないんですけど!?!?

さらにそのまま、高天原たかまがはらの広大な土地を、ずんずん引きられ、気づけば僕らは、空にかかる不思議な橋の前に立たされていた。

ここは——天浮橋あめのうきはしだ。

ミナカヌシ

この天浮橋の先が地上界・葦原の中つ国だよ!

イザナギ

そんなことは、知っている

イザナギ

そして、この先に何もないことも、僕らは知っているんだ!!!

僕は橋の手前から、そっと下界を覗き見る。

葦原の中つ国まで降りなくたってわかる。この先にはどこまでも広がる海と、陸にすらなれない油のような曖昧あいまいな『何か』が浮くだけだ。

僕は現実から目を背けるように、高天原を振り返った。僕がイザナミと一緒に生まれ育った、大切な場所。

ピンクがかった薄い水色の幻想的な空と、心地よく揺れる草原。そして草原を散歩するように、ふわふわとなびく雲……

大好きな、いつもの風景だ。

僕は最後のわずかな希望を胸にして、ミナカヌシ様たちに懇願こんがんするような視線を送った。

イザナギ

(チラッ……)

すると、天つ神のみんなから最高に慈愛じあいに満ちた笑顔が返ってきた。

タカミムスヒ

行ってらっしゃい、期待していますよ

カムムスヒ

国造り、頑張ってねぇ~ん♡

ミナカヌシ

このただよえる国をおさめ、つくり、かため、そして

イザナギ

ダメだ!! こいつらモブ村人ばりに、他の言葉を言おうとしない!!!!

僕はガチッと歯を食いしばると、グルッと天浮橋あめのうきはしへ真っ直ぐ向き直った。

そして、右手にミナカヌシ様からさずかった天沼矛あめのぬぼこを握りしめ、左手でギュッとイザナミの手を取る。

イザナギ

行こう、イザナミ!

イザナミ

……うん!

イザナミが僕の手を強く握り返す。

こうして、僕らは高天原たかまがはらを旅立つのだった。

相関図・神様一覧

別天津神・イザナギイザナミ、相関図
Author & Historical Supervisor:小野寺優
Illust:駒碧 × AI × Canva
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