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ゆかりの地巡り
投稿日:2022/06/29 最終編集日:2022/06/29
勢いで推しへの愛と妄想が止まらないまましかも前編と後編で語らせて頂いたPandaです。
そんな我が現人推(あらひとおし:現時点で生存中の推し・Panda造語)の稲葉浩志さんは、岡山県出身のスーパースターで我が国が誇るロックヒーロー(Panda調べ、異論認ず)なんですが、岡山県には古くから日本中の子供達とかつての子供達なら知らない人はいないんじゃないかと言ってもいいぐらいのレベルで有名なスーパーヒーローがいて、既にお供の動物と一緒に銅像にもなっています。
一緒にいる動物は犬・猿・雉…もうおわかりですね、その人は幼稚園や保育園のお遊戯会なんかでは、間違いなく上映回数上位ランキングを誇る演目の主人公、鬼ヶ島の鬼退治で有名な、「桃太郎」(ある一定年齢以上の方や時代劇好きの方はここで侍をつけたくなるかもしれませんがその方は違います)。
ちょっとふりかえり 桃太郎
まずは簡単に桃太郎のおさらい。
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが洗濯をしていると川上から大きな桃が流れてきました。おばあさんはその桃を持ち帰り、帰ってきたおじいさんが2人で食べようと桃を割ろうとしたら、桃から玉のような男の子が飛び出しました。2人はその子を桃から生まれたので「桃太郎」と名付け、大切に育てました。成長した桃太郎はある日、人々を襲っては苦しめている鬼を退治すると言い、おばあさんの作ってくれた吉備団子を持ち旅立ちました。途中、犬・猿・雉が吉備団子を交換条件に鬼ヶ島についてきました。桃太郎と犬・猿・雉は鬼ヶ島で鬼を退治し、鬼達が人々から奪った財宝を持帰り、人々に感謝され英雄になりましたとさ。めでたしめでたし。
色々異説はありますが、演目「桃太郎:スタンダードVer.」のあらすじはこんな感じです。「桃」から生まれた桃太郎とお供の「犬・猿・雉」、これはかなり大きなキーワードになってくるんですが、それはまた別の機会に語らせて頂くとして、この桃太郎を県をあげ「マイ地方スーパーヒーロー」と主張している県をあげたら、おそらくぶっちぎりナンバー1は岡山県で、その頼りっぷりは某テレビ番組で「岡山県桃太郎に頼りすぎ問題」としてとりあげられた程です。
その根拠が前回にも登場して頂いた、吉備津彦命(きびつひこのみこと)こと第7代・孝霊天皇の皇子の比古伊佐勢理毘古命(彦五十狭芹彦命:ひこいさせりびこのみこと)が、温羅(うら)と呼ばれる統治者が治める、今は岡山県となっている吉備国(きびのくに)に向かい、鬼ノ城(きのじょう)に住む温羅を倒し、吉備国を平定したとされる伝承です。
その時吉備津彦命の部下として一緒に戦ったのが、犬飼健命(いぬかいたけるのみこと)・楽々森彦命(ささもりひこのみこと)・留玉臣命(とめたまおみのみこと)で、この伝承が室町時代に御伽草子として広く民衆に知れ渡るようになったのが、桃太郎だとも言われます。
ちなみに「桃太郎:スタンダードVer.」では彼らは動物のそれぞれ犬・猿・雉として登場しますが、古事記の文脈的にはおそらく人です、その子孫とされる方々は今も各地におられ、近世の有名どころでは、昭和初期に就任した犬養毅第29代内閣総理大臣が犬飼健命の子孫と伝わるそうです。
岡山県にはその伝承に纏わる場所が数多くあるのですが、今回ご紹介するのはその本陣、吉備津彦命を主祭神としてお祀りする神社二社、吉備津神社と吉備津彦神社です。
まずは吉備津彦神社から。
備前国一之宮 吉備津彦神社
吉備津彦神社は岡山県岡山市北区に御鎮座されており、別称として「朝日の宮」とも呼ばれます。吉備国は大化の改新後、西暦700年代に律令制に基づいて国(今の都道府県のような範囲)を制定した時に三つに分割され、それぞれ備前(びぜん)国・備中(びっちゅう)国・備後(びんご)国となりますが、その備前国の一宮(いちのみや)が吉備津彦神社です。
一宮とは律令国内で一番社格が高いとされた神社で、社格とは神社の格式ですって、まるでどこかの某政治家のような文章になってしまいましたが、つたない知識ではそうとしか書けず…まぁ諸々の基準や諸事情によって決まっていった神社ランキングの一種です。
とにもかくにも一宮と言えば一大勢力を誇る神社には間違いないので、吉備津彦神社は備中国でも古くから、多くの人の崇敬を集めてきた神社だった訳です。
その神社の主祭神が「大吉備津彦命(おおきびつひこのみこと)」、勿論「吉備津彦命」の別名です。神社の社殿によれば創建は古事記の終盤、推古天皇の時代とされています。
そうそう、三つに分かれた吉備国の備前国一宮は岡山県の吉備津神社、備後国一宮は広島県の吉備津神社で、主祭神はどちらも大吉備津彦命です。
すなわちかつての吉備国勢力の一宮主祭神はどの神社も吉備津彦命…その勢力範囲内でナンバー1争奪戦常連神社の主祭神がすべて吉備津彦命…どんだけ吉備国のスーパーヒーローなんだ吉備津彦命!
そんな吉備津彦神社は標高ほぼ175mぐらいの吉備の中山の北東麓に御鎮座されています。吉備の中山は備前国と備中国の境にあり、北西麓に御鎮座されているのは備中国一宮・吉備津彦神社です。
吉備の中山は神が宿る山とされる神奈備山(かむなびやま)で、多くの古墳や古代祭祀遺跡が残っており、その北峰・竜王山の山頂には、吉備津彦神社の元宮磐座が御鎮座され、中央の茶臼山の山頂には、大吉備津彦命の墓と宮内庁も定めた古墳が現存しています。
吉備津彦神社の境内に入るには、狛犬さんが護る正面鳥居から行くと少し長めの参道を歩きます。
狛犬さんの奥が池なのからもわかるように、吉備津彦神社の鳥居は神池と呼ばれる池の中にあり、神池内には他に底筒男命(そこつつのおのみこと)・中筒男命(なかつつのおのみこと)・表筒男命(うわつつのおのみこと)・神功皇后(じんぐうこうごう)をお祀りする靏島神社と、市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)をお祀りする亀島神社が御鎮座されています。
毎年夏至当日にはこの正面鳥居から朝日が差し込み、拝殿奥にある祭文殿の鏡に当たる造りになっており、「朝日の宮」の別称はこの現象に因むそうです。
池の奥の元禄10年(西暦1697年)に姫路藩初代藩主・池田綱政公が寄進した随神門(ずいじんもん)をくぐり、石段を登れば拝殿が現れます。
拝殿前の広い参拝場は風が吹き抜けてとても気持ちがいいのです。
拝殿奥には祭典やご祈祷を斎行する祭文殿・大がかりな祭典時に使用する渡殿・大吉備津彦命をお祀りする本殿が一直線に並んでおり、渡殿と本殿は御垣内奥となっていて、年始め等特別な時のみ解放されるそうです。
御垣内には他に本殿に向かい手前左右に楽々森彦命(ささもりひこのみこと)と楽々与理彦命(ささよりひこのみこと)をお祀りする楽御崎神社(らくおんざきじんじゃ)が、奥左右に夜目山主命(やめやまぬしのみこと)と夜目麿命(やめまろの命)をお祀りする尺御崎神社(しゃくおんざきじんじゃ)が、それぞれ2社ずつ本殿に向かう様に御鎮座されています。この御社の御祭神は、温羅退治の時に付従った吉備津彦命の家臣の方々らしいのですが、あれ?楽々森彦命って桃太郎の猿のモデルになった方では?なぜ犬のモデルの犬飼健命と、雉のモデルの留玉臣命トリオとは別のコンビ、いえカルテットをここで組んでいるのでしょう?
どうもこの楽々森彦命と楽々与理彦命は、吉備津彦命の吉備平定前は、吉備の豪族で温羅の家臣だったらしいのです。同様に夜目山主命と夜目麿命も温羅の家臣で、後に吉備津彦命に降り温羅退治に協力した家臣らしいです。逆に犬飼健命と留玉臣命は都から付き従った家臣のようなんですね。
この説でいくと、桃太郎伝説の犬・猿・雉のうち、犬と雉は後の徳川幕府でいえば譜代大名で、猿は外様大名みたいな立位置、楽々森彦命は一説によれば、吉備津彦命軍の軍師的な存在でもあったらしいので、だからこそ外様でも後の桃太郎に通じる伝説に名を残すことになったのか、敢えての外様の伝説入りなのか、そしてなぜ都から付従った家臣ではなく、その方々が御垣内の摂社に御鎮座されているのか…いろいろ想像してしまいます。
吉備津彦神社に温羅神社
吉備津彦神社の境内には他にも多くのお社があるのですが、特筆すべきはやはり吉備津彦命が倒した、鬼の城に住む温羅をお祀りする温羅神社があることかもしれません。
そう、桃太郎の鬼のモデルも神なのです、我が国では!
温羅は吉備津彦命の軍と戦った鬼であると同時に、吉備の統治者で吉備国に様々な文化をもたらし、「吉備の冠者」の名を吉備津彦命に献上した英雄・「温羅命」でもあり、その温羅命の和やかな面の魂・和魂(にぎみたま)をこの温羅神社ではお祀りしています。
当時の中央国家の命令に従わぬ「まつろわぬ民」は当時日本各地にいて、自分達で国を造り国を治め、自分達独自の文化を継承していました。
もしかしたら、まつろわぬ民を武力で鎮圧し自分達と同化させた中央国家は、その後彼らを「鬼」と呼び蔑み、忌み嫌う存在として伝えると同時に、その中心人物となる英雄を神として祀り鎮めもしたのかもしれません。
そんな英雄と英雄の姿が形を変え、一般大衆にわかりやすく受けやすく伝えられ、やがて「御伽草子」として定着し、昔話として語られ、子供達の心をがっちり掴む事になった我らがヒーロー桃太郎。
吉備津彦神社は、一説ではその桃太郎のモデルとされる吉備津彦命の勇士を伝えると同時に、その奥でまつろわぬ民達の勇者であった温羅命の姿も伝えてくれている気がします。
さて、次回は同じく吉備津彦命を主祭神としてお祀りし、吉備津の釜の鳴釜神事が温羅伝承へと繋がる吉備津神社をご紹介したいと思います。
ではでは最後まで読んでいただいてありがとうございました。
もっと吉備津彦神社
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