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津島・天之狭手依比売つしま・あめのさでよりひめ
対馬島・対馬洲つしまのしま・つしまのしま

日本の島々を生み出す「国生み」の神話。壱岐島(伊伎)の次に、6番目に誕生したのが「津島(つしま)」、現在の長崎県にある「対馬(つしま)」です。

対馬は、日本と大陸(朝鮮半島)のちょうど中間に位置する国境の島です。

古代の人々にとって、ここは未知なる異世界(外国や海の彼方)と日本とを繋ぐ、最も重要で、少しミステリアスな玄関口でした。

ここでは、対馬がどんな女神様として描かれ、どんな不思議な伝説を残しているのかを分かりやすくお話しします。

古事記や日本書紀での書かれ方

この島の名前も、歴史書によって漢字やニュアンスが少し違います。

文献名 表記 読み方 特徴や意味
古事記 津島/天之狭手依比売 つしま/あめのさでよりひめ 「津(つ)」は「港」のこと。船が必ず立ち寄る大切な港の島であることを表しています。また、神の名前は「網の女神」という意味です。
日本書紀 対馬島 / 対馬洲 つしまのしま
または「つしま」
日本と大陸が「対峙(向かい合っている)」しているという、外交的な視点が強くなっています。
万葉集 対馬 つしま 「在根良(ありねよし)」という枕詞がつき、海から見える対馬の立派な山々が、命懸けで航海する人々の希望の目印だったことがわかります。

女神「天之狭手依比売」の名前の秘密

『古事記』において、津島は「天之狭手依比売(あめのさでよりひめ)」という美しい女神様として誕生します。この長い名前には、対馬の役割がギュッと詰まっています。

天之(あめの): 天上の神聖な

狭手(さで): 魚をすくうための「叉手網(さであみ)」という道具

依(より): 神様の魂や、色々なものが引き寄せられる

比売(ひめ): 女神様

つまり、この女神様は「海の恵みをすくい上げる、神聖な網の女神」という意味なのです!

他にも、複雑な海岸線を持つ対馬の形が網に似ていたからとも言われています。

さらに、この網の名前には、海の恵みをすくい上げるだけでなく、「外国からやってくる新しい文化」を網のようにキャッチして受け入れ、同時に「恐ろしい病気や敵」を網でブロックする、強力なフィルターの役割を果たしていたからだとも考えられています。

水の泡から生まれた島?

『日本書紀』には、対馬は「海水の水沫(みなわ=水の泡)」から生まれたという、とても不思議な記録が残されています。 なぜ固い大地が「水の泡」からできたと考えられたのでしょうか?

そこには、2つの壮大なルーツが混ざり合っています。

① 南の「海の民」のリアルな体験
南の海(東南アジアやポリネシアなど)では、潮の流れや波がぶつかり合うことで、以下のような現象が日常的に起こります。

サンゴ礁の砂州(さす): 砕けた白いサンゴや貝殻が海流で吹き溜まり、海の中からポコッと「新しい小島」が現れる現象。

海底火山と軽石: 海底火山が噴火し、水面に浮かんだ大量の軽石や火山灰の泡が、海流に乗って巨大な陸地のようになる現象。

この「海の泡や砂が流れ着き、固まって新しい陸地になる」というダイナミックな光景を、カヌーで広大な海を渡っていた古代の海の民たちは、自分たちの目で見て体験していたのです。

イザナギとイザナミが海をかき回して作った「オノゴロ島」も、これと同じルーツを持つ神話だと考えられます。

② 大陸の「大地潜水神話(ゼロからの世界創造)」
一方で、モンゴルやシベリアなど北の大陸にも、これとよく似た創世神話が残っています。

それは、「宇宙の始まりは果てしない水(原初の海)だけであり、神様がその深い水底からすくい上げた『一握りの泥』や『浮かぶ泡』が、魔法のようにブワッと膨らんで初めての陸地になった」という、とてつもなくスケールの大きなお話です。

対馬という交差点

海の中心にあり、大陸への玄関口でもあった対馬には、南からやってきた「波が島を創るという記憶」と、北から伝わってきた「水から世界が創られるという神話」の両方が流れ着きました。

そこへさらに、対馬の人々が日常的に目にしていた「激しい荒波がぶつかり合い、白く泡立つ光景」が結びついたのです。

だからこそ、外の世界からやってきた壮大なロマンが受け入れられ、対馬の豊かな風土とリアルな海の姿が自然に美しく混ざり合い、「海水の水沫から生まれた」という神秘的でスケールの大きな神話として、今に語り継がれているのでしょう。

海の彼方からやってくる神々(漂着伝説)

対馬には、神様たちが「うつろ船(空っぽの不思議な船)」に乗って、海の向こうから流れ着いたという伝説がたくさんあります。

スサノオと疫病除け: 荒ぶる神・スサノオノミコトが対馬にやってきた時、温かく迎え入れた人は恐ろしい病気から守ってもらえたという伝説(蘇民将来のお話)があります。

海の神様と龍宮城: 海の神様(海神)や、豊玉姫(とよたまひめ)という美しいお姫様の伝説も豊富です。

対馬は、外から流れてきた神様を「網」ですくい上げ、日本の神様として優しく迎え入れる「孵化(ふか)装置」のような場所でした。

対馬の神様をお祀りする神社と、本土への広がり

対馬の女神様や、海からやってきた神様をお祀りする神社は、神秘的な雰囲気に包まれています。

神社名 場所 お祀りする神様 特徴やご利益
島大国魂神社
(しまおおくにたまじんじゃ)
長崎県対馬市 天狭手依姫命、スサノオ など 女神様とスサノオを一緒に祀る古い神社。海の女神が、対馬の立派な山の神様としても信仰されています。
和多都美神社
(わたづみじんじゃ)
長崎県対馬市 豊玉姫命、山幸彦 海の女神と山の男神が出会った「龍宮伝説」の地です。海の中に立つ鳥居が神秘的で、縁結びや安産のご利益があります。
津島神社
(つしまじんじゃ)
愛知県津島市 スサノオノミコト 「対馬(長崎)から神様がやってきた」という伝説を持つ本土の神社です。疫病除けの神様として知られ、全国の津島神社の総本社です。

和多都美神社の「海に浮かぶ鳥居」
和多都美神社には、海の中に並ぶ5つの鳥居があります。潮が満ちると鳥居が海に浮かんでいるように見え、まさに「人間の世界」と「海の神様の世界(異界)」との境界線を表しているようで、息を呑む美しさです。

長崎から愛知へ!最強の「厄除けネットワーク」
実は、愛知県にある有名な「津島神社」は、長崎県の対馬と深い関係があります。「対馬(長崎)で網にすくい上げられた強力なスサノオのパワー」が、海を渡って愛知県の港町(津島)へ伝わり、「悪い病気をブロックしてくれる最強の厄除けの神様」として大ブレイクしたのです。

女神様が叶えてくれるお願いごと(ご利益)

天之狭手依比売をはじめとする対馬の神様は、その過酷な自然環境と海の恵みから、こんなお願いを聞いてくれます。

大漁と航海の安全: 「網」の女神様ですから、魚をたくさん捕まえ、荒波から船を守ってくれます。

病気をブロック(厄除け): 外国から入ってくる悪い病気(疫病)を、国境の網でしっかり絡め取り、追い払ってくれます。

良縁成就・安産: 海の神様と山の神様が結ばれた龍宮伝説から、運命の出会いや、元気な赤ちゃんを産むパワーを与えてくれます。

おまけ。対馬だけの不思議な魔法

対馬には、日本神話の主流とは少し違う、島独自のミステリアスな文化も残っています。

対馬だけの奇跡!大陸と日本のロマンが重なる「天道信仰」とは?

対馬の深い森の奥には、古くから「オソロシドコロ(恐ろしい所)」と呼ばれ、何千年も立ち入りが禁止されてきた神聖な場所があります。

そこに眠っているのは、対馬の人々が独自の形で守り抜いてきた「天道信仰(てんどうしんこう)」という、とても珍しい信仰です。

名前だけ聞くと仏教のようですが、その中身は「超・原始的な自然崇拝」と「大陸の神話」という古代のロマンがベース。そこへさらに仏教が重なるという、悠久の時をかけた進化の奇跡を感じずにはいられない、激アツな信仰なのです!

天道信仰を読み解く、3つの面白いポイントをご紹介します。

① 大陸ルーツの「太陽の子」伝説
天道信仰とは、こんな不思議な伝説です。

「ある女性の元に、お日様の光が差し込んでお腹に宿り、不思議な力を持つ男の子が生まれました。その子は『天道法師(てんどうほうし)』と呼ばれ、空を飛んだりして人々を救いました。」

こように光によって女性が命を授かる神話は、日本よりも、高句麗やモンゴルなどの「北の大陸の神話」に類似するものが多数残っています。古事記では、アメノヒボコの章に、新羅の若い女性が虹のように光る日によって妊娠する話がでてきますね。

② 神社すらない?超・原始的な「オソロシドコロ」

天道信仰では、その「太陽の子」とお母さんのお墓がある山を「オソロシドコロ」として崇めてきました。

立派な神社の建物を建てるのではなく、「神聖な森や山そのものに、人間は絶対に足を踏み入れてはいけない」というルールを徹底してきました。これは、古代のピュアなアニミズムの形がそのままタイムカプセルのように残ったものです。

③ 山伏たちが名付けた「天道」というパッケージ

では、なぜ「天道」という仏教っぽい名前がついているのでしょうか?

時代が下って平安〜鎌倉時代ごろ、本土から仏教や修験道(山伏)が対馬に入ってきました。彼らは対馬の土着の太陽信仰を見て、「これは俺たちの言う『天道(仏法を守る太陽の神様)』と同じだな!」と解釈し、仏教風のパッケージでコーティングしました。

ここで初めて、「自然崇拝」×「大陸神話」×「仏教」という、奇跡の習合が完成したのです。まさに良いものだけを包み込む、網の女神様の御業神話といえます!

大陸から伝わった歴史ある秘術「亀卜(きぼく)」

当時の日本列島では、鹿の骨を焼いて占う「太占(ふとまに)」が主流でした。

しかし、大陸との玄関口である壱岐や対馬では、古代中国から何千年もかけて受け継がれてきた「亀の甲羅」を使う権威ある占い(亀卜)が行われていました。

国境の最前線で生きる彼らにとって、天候や海の向こうの脅威を読み解くことは死活問題。

だからこそ彼らは、この大陸の高度で歴史ある占い技術を独自の文化として極め、ヤマト政権からも「占いのスペシャリスト」として頼られる存在になりました。

この神秘的な技術は、なんと明治時代まで対馬の人々の手によって大切に受け継がれていたのです。

おわりに

津島(対馬)は、ただ日本と大陸を隔てるだけの「国境の島」ではありませんでした。

なぜなら、未知なる海の彼方から押し寄せるのは、恐ろしい脅威や病だけではなく、新しい文化や豊かな恵みといった「希望」でもあったからです。

激しい波がぶつかり合う最前線にあって、この島が語り継いだのは、敵を傷つける鋭い剣でも、世界を固く閉ざす盾でもありませんでした。

それは、「天之狭手依比売(あめのさでよりひめ)」という、しなやかで大きな「優しい網」だったのです。

荒れ狂う海へとその身を投げ出し、日本のために良いものだけをそっとすくい取り、悪いものは絡め取って祓ってくれる。

津島は、当時の日本で一番脅威にさらされた島でありながら、誰よりも深くこの世界を愛し、身を挺して守り続けてくれた、最高にドラマチックで慈愛に満ちた境界の女神様なのです。

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料をはじめとする古典文献の厳密な記述を参考にしつつ、作家・クリエイターである小野寺 優ラノベ古事記 著者)の視点から、独自の解釈で構成しています。

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