ヒルコとアワシマ
結婚したイザナキとイザナミ。しかし、最初に生まれたヒルコと淡島は、どちらも子どもとして認められなかった。そこで二柱が取った行動とは……


む?

今回は、悲しいお話が続くんだよ

えー。新婚、ラブラブなのに……

いくら夫婦が愛し合っていても、どうにもならない問題がこの世にはあるからな

そんな時、どうやって夫婦で悲しみと向き合うのか

短い中にも学びの多いパートだ
雖然久美度迩興而生子、水蛭子。此子者入葦船而流去。次生淡島。是亦不入子之例。於是二柱神議云、今吾所生之子不良。猶宜白天神之御所。即共参上、請天神之命。爾天神之命以、布斗麻迩爾卜相而詔之、因女先言而不良。亦還降改言。故爾反降、更往廻其天之御柱如先。於是伊邪那岐命、先言阿那迩夜志愛袁登売袁、後妹伊邪那美命、言阿那迩夜志愛袁登古袁。如此言竟而御合。
然れどもくみどに興して生める子は、水蛭子

しかし、夫婦の交わりによって生んだ子は、ヒルコであった

この子は葦船に入れて流し去てき

この子は葦の船に乗せて流し捨てた

次に淡島を生みき。こも亦、子の例には入れざりき

次にアワシマを生んだが、これも子どもの数には入れなかった

ここに二柱の神、議りて云いけらく、「今吾が生める子良からず」

そこで二柱の神は相談して言った。「今、私たちが生んだ子は良くない」

「なお天つ神の御所に白すべし」といいて

「やはり、天つ神のもとへ赴いて報告するべきだろう」と

すなわち共に参上りて、天つ神の命を請いき

そうして二柱は共に高天原へ参り上り、天つ神の判断を仰いだ

ここに天つ神の命もちて、太占に卜相いて、詔りたまいしく

すると天つ神は、太占で吉凶を占い、こう告げた

「女先に言えるによりて良からず。また還り降りて改め言え」とのりたまいき

「女性から先に声をかけたのが良くなかったのだ。もう一度地上へ戻り、やり直しなさい」と

故ここに反り降りて、更にその天の御柱を先の如く往き廻りき

そのため二柱は再び地上へ戻り、以前と同じように天の御柱を巡った

ここに伊邪那岐命、先に「あなにやし、えおとめを」と言い

今度はイザナキが先に「ああ、なんと素晴らしい女性でしょう」と言い

後に妹伊邪那美命、「あなにやし、えおとこを」と言いき

後から妻のイザナミが「ああ、なんと素晴らしい男性でしょう」と言った

かく言い竟えて御合して

こう言い終えて、交わった

質問は?

くみどに興してって、どういう意味ですか??

くみどは「組所」だな

組所?

何と何が『組』み合わさった場『所』なのかは、皆目見当もつかないけれど……

何かと何かが、組み合わさったら、子どもができたようだ

ああっ! このへん地雷ばっか!!

ははっ! ま、簡単に言えば、結婚したってことだ

はい、わかりました。色々と

水蛭子はどういう意味ですか?

名前から、ヒルのような見た目の子だったと解釈されることが多いな

胎盤とか、流産した胎児とか……説はいろいろあるが、いずれも名前から想像するしかない

むぅ……葦船は??

植物のアシを編んで作った船だ


えっ? そしたら、生んだ子どもを捨てたってことですよね?

んー。そうねー。ヒルコについてはオレも何とも言えないけど……

日本書紀には三年経っても脚が立たなかったという記述もある

ただ、古事記には、その子がどんな姿だったのか、詳しくは書かれていないから

「ヒルみたいに手足が無く、育てることのできない子だったんだろう」と、想像することしかできない

でも……育てられないからって、子どもを捨てるのはひどいじゃないですか

んー。ただ、ここでのヒルコは、『死産』や『流産』だったって説もある

確かに、「障害のある子」とする説も見るけど、原文だけでは分からない箇所だ

「流産や死産で失った子」だったなら、失った子を葦船に乗せて送り出したのは、親なりの精いっぱいの愛情だったのかもしれない

妊娠出産にトラブルはつきものだからな

むぅ……

…………その後……

ヒルコは流れ着いた島で『恵比寿神』になったなんて話もある

えっ? 恵比寿様っ???

中世以降に広まった信仰だがな

ああー、そうね。民間信仰だけど……

漂着物を、海の彼方から来た神聖なものとして祀る信仰があって、そうした海の神を「エビス」と呼ぶ地域があるんだ

だから、海沿いでは恵比寿神が祀られている例も多い

言われてみれば……よく、恵比寿様の神社、見るかも

ヒルコはどこかの浜に漂着して、「ちょっと贅沢な神様」になったのかもな?

なんか……ちょっぴり救われた気がします

この神話に心を痛めたのは、安万侶だけじゃないってことだ

じゃあ……淡島は??

これも名前から、「泡のように形を保てなかった島かも?」って想像するくらいしかできない

そしたら、やっぱり淡島も流されちゃったんですか?

いや、淡島については「流した」という記述すらないんだよ

ただ、「この子もまた子どもの数には入れない」とあるから、流されたと想像することもできるな

日本書紀の一書には、「胞」……つまり、「胎盤」だったって記述もあるけど……

もしかすると、流すことすらできず、泡みたいに消えてしまったのかもしれない

悲しいけど……これも、二柱が望んだような国にはなれなかったんだ

淡島は……なんか、恵比寿様になった的なやつないんですか??

そうだなー
一応、比定地の候補は、友ヶ島や兵庫県林崎沖などを挙げる説がある

あとは、「淡島」や「淡嶋」を名乗る神社は全国にあるんだけど……

これも、古事記の淡島をそのまま祀っているとは限らないんだ

むぅぅーーん……

あっ! そういえば、静岡県に同じ名前の淡島があるよな?

えー? それ一緒にしちゃう??

良かったな、安万侶。淡島は現代でも子どもたちから大人気だ

あわしまマリンパークな!

淡島は、有名な聖地でもある

……ラブライブの

む? あれ。なんか、まろ、励まされてる??

ははっ! よかったな、お兄さんとお姉さんが優しくて

ふふっ。よかったです

おい天武、どこにお姉さんがいるんだ?

安万侶、続きの質問は?

え? でも、阿礼さんが……

ああ、阿礼ちゃんのことなら大丈夫。絡むと長くなるから無視して?

なら、振るなっ!!!

はい、続き

……転職したい

そしたら……太占ってなんですか??

占いの一種だな。鹿の肩甲骨を、「上溝桜」っていう木の皮を使って焼くんだ

すると、骨にヒビが入るから、それを見て吉凶を占う

御合は?

改めて結婚式をやり直して、また二柱で交わったんだ

次は……無事に赤ちゃん、産まれてきてくれるかな?

ふっ! もう、恥ずかしがらないんだな?

あっ、そういえば

でも……今は、それより、イザナキとイザナミが無事に赤ちゃんを授かれることの方が気になるというか……

むしろ、愛し合う夫婦が繋がることで、赤ちゃんができるんだって考えると、素敵だなって

そもそも、そんなに恥ずかしがることじゃなかったのかも

ははっ! そっか

安万侶の未来のお嫁さんは、きっと幸せ者だな

へへっ

妊娠出産ってのはさ……当たり前に子どもが生まれてくるように思われがちだけど

実際にはいろいろなトラブルがあるんだよ

ふーん

流産なんか、現代でも確認された妊娠の約15%に起こる

およそ6〜7回に1回だ。決して低い数字じゃない

しかも、こういうことが起こると、なんでか母親に責任を押しつけてくるヤツが湧く……

ったく、一番傷ついている人間に、ネチネチ絡んできやがって……気に食わん

へーかの恨み節がリアルだ……

でも……ここでは「二柱の神議りて」ってあるだろ?

イザナキとイザナミは二人で話し合って、天つ神に助言をもらいに行ったんだ

流産や死産の多くは、どうすることもできない理由で起こる。当然、母親のせいじゃないし、父親だって傷つく

日本で最初の夫婦が、二人で一緒に悲しみを乗り越えていく神話は、同じようにつらい経験をした人たちの心を支えてきたのかもしれないな?

そっか……

ちなみに、始祖となる夫婦神が、最初の出産に失敗するよく似た神話は、アジアの各地にもあるそうだよ

それだけ、多くの人々の心に響いたんだろう

へ〜。なんだか深いお話ですね!

こればっかりはな。悲しみが大きい分、自分を含めて誰かを責めがちだが……誰も悪くないことだから

安万侶も大きくなって結婚して、もしもつらい経験をしてしまった時は、ちゃんと二人で一緒に乗り越えるんだよ

はいっ!

よし!

さて。そしたら……次は国生みか

ちょ……一回、まろ吸いしてから進もうかな……

て……天武……ボ、ボクも一服……

む?

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