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空飛ぶ船なの!? 神様であり、船でもある。しかも、国譲りという大仕事に参加している――。鳥之石楠船神(トリノイワクスフネ)は、名前を知るほど想像が膨らむ神様です!
別名は天鳥船(アメノトリフネ)。古事記の国譲りでは「天鳥船神」として登場し、タケミカヅチとともに出雲へ向かいます。神生みで名前だけを見ていた神様が、ずっと後の重要な場面で再登場するのです。
個人的には、普段は人の姿で話しているのに、いざという時にはFFに出てくるような飛空艇に変身できる神様だったらいいな!と思っています。
まずは神話の中でどんな役割を果たしたのかを見ていきましょう!
鳥之石楠船神とは?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 古事記の神名 | 鳥之石楠船神(トリノイワクスフネノカミ) |
| 別名 | 天鳥船(アメノトリフネ)/国譲りでは天鳥船神 |
| 親神 | 伊邪那岐神(イザナギ)・伊邪那美神(イザナミ) |
| 登場場面 | 神生み/葦原中国の国譲り |
| 主な働き | 建御雷神に同行し、事代主神を交渉の場へ連れてくる |
| 日本書紀の関連表記 | 鳥磐櫲樟船・天鳥船など。日本書紀では「船」として描かれる |
| 信仰とのつながり | 航海・交通・航空の安全を願う信仰 |
神生みで誕生する、イザナギ・イザナミの子
古事記では、大山津見神と鹿屋野比売神の子八神を記した後に、鳥之石楠船神が登場します。ここで神生みの主体はイザナギ・イザナミへ戻ります。直前の大戸或女神たちとは親神が異なり、鳥之石楠船神はイザナギ・イザナミの子です。
その次に大宜都比売神、続いて火之夜藝速男神が生まれます。最後の火の神は、火之迦具土神(ヒノカグツチ)という名前でも知られています。船・食物・火という、暮らしを思わせる神々が並ぶところにも、私は面白さを感じます。
船・食物・火――神生みの終盤に並ぶ三柱
山野の子八神の後には、船の神、食物の神、火の神が続きます。一見すると別々のものですが、「船で食物を運び、それを火で煮炊きする」と考えると、一連の暮らしの営みとしてつながります。
これは、國學院大學の古事記注釈が『日本古典文学全集』の説として紹介している、並び順の解釈です。本文に三柱が協力して食事を作る場面があるわけではありませんが、運ぶ・食べる・火を使うというつながりから神生みを眺めると、神様たちがぐっと身近になりますね。
以下に、その三柱をまとめました。親神はいずれもイザナギ・イザナミです。背景色の付いた「このページ」の行が、いま読んでいる神様です。各神名から、それぞれの記事へ進めます。
| 並び順 | 神名・読み | どんな神様? |
|---|---|---|
| 1 | 鳥之石楠船神 (トリノイワクスフネ) 別名:天鳥船(アメノトリフネ) このページ | 船の神。 国譲りでタケミカヅチに同行し、コトシロヌシを迎えに行く。 |
| 2 | 大宜都比売神 (オオゲツヒメ) | 食物の女神。 スサノオに殺された後、身体から蚕や五穀が生じる。 |
| 3 | 火之夜藝速男神 (ヒノヤギハヤオ) 別名:火之炫毘古神・火之迦具土神 (ヒノカグツチ) | 火の神。 誕生が母イザナミの死につながり、物語は黄泉訪問へ向かう。 |
※三柱をまとめたのは、このページでの説明上の整理です。古事記の本文に「以上、三神」と区切る記述はありません。
また、私はこの三柱を、世界を形づくる神々の一覧と、その後に動き出す物語をつなぐ神様たちとしても読みたくなります。船と食物の神は後の物語に再登場し、火の神は誕生そのものが大きな転機になる。編纂者の意図を断定するものではありませんが、暮らしのつながりと物語のつながり、その両方を感じられる並びだと思います。
天鳥船神の活躍① タケミカヅチと出雲へ
国譲りの場面で、天照大御神たちは、地上の葦原中国へ遣わす神を改めて選びます。候補となった天之尾羽張神が自分の子・建御雷神を推薦し、天鳥船神を建御雷神に添えて派遣することになります。
二柱が降り立ったのは、出雲国の伊耶佐の小浜(イザサノオハマ)。現在の稲佐の浜に結び付けて語られる場所です。大国主神に、葦原中国を天つ神の御子へ譲る意思があるかを問いかけます。
ここで注目したいのは、古事記が二柱をひと組で登場させていることです。タケミカヅチの強烈な印象に目を奪われがちですが、アメノトリフネも、国の行方を左右する交渉に参加しているのですね。
天鳥船神の活躍② 留守のコトシロヌシを迎えに行く
大国主神は、国譲りについて息子の事代主神が答えるだろう、と伝えます。ところが、その事代主神は、鳥をとったり魚をとったりするため、御大の前(ミホノサキ)へ出かけていました。
そこで出番となるのが、天鳥船神です。事代主神のところへ遣わされ、交渉の場へ連れてきます。事代主神は国を譲ることに同意し、その後、船を踏み傾け、天の逆手を打って青柴垣に隠れます。
「大事な話をする相手が、その場にいない」。そんな時、相手を迎えに行ける神がいるから、交渉が進む。アメノトリフネの仕事は、物語を実際に動かす、とても大切な役割だと思います。
なお、事代主神が踏み傾ける船について、本文は「その船」と記しています。ここをアメノトリフネの変身場面と読むと想像は広がりますが、古事記に、人の姿から船へ変身したという描写があるわけではありません。神話の記述を踏まえた上で、姿を想像する楽しみが残されています。
名前の意味――鳥・石・楠・船
「鳥」には、鳥が飛ぶような速さや、水鳥が水面に浮かぶ姿などを重ねる説があります。「石」は堅固さを褒める言葉とも、「楠」は船材となるクスノキとも解されます。鳥のように進む、丈夫な楠の船というイメージなら、長い名前もぐっと覚えやすくなりますね。
「石楠」は、花のシャクナゲをそのまま指すと読むところではありません。日本書紀の「櫲樟」もクスノキの表記です。名前の中に、船に使う木への知識や、頑丈な船であってほしいという願いを感じたくなります。
個人的に、高天原は雲の上にあると考えているので、そこから葦原の中つ国に降りるために、鳥のように飛べる船だと考えています。さらに、タケミカヅチのお遣いもできると考えると、人の姿にも変身可能……考えれば考えるほど素晴らしい設定の神様です!
日本書紀では、神様が「船」として現れる
日本書紀には、鳥之石楠船神に対応・関連するものとして、鳥磐櫲樟船(トリノイワクスフネ)や天鳥船(アメノトリフネ)などが登場します。ここでは「神」を付けた神名ではなく、乗り物である船として語られる点が特徴です。
神代上第五段の一書第二には、鳥磐櫲樟船を生み、その船に蛭児(ヒルコ)を乗せて流す話があります。本書では、蛭児を乗せる船は天磐櫲樟船と呼ばれます。古事記のヒルコの船は葦船なので、文献を読み比べると、同じ場面にも船の違いが見えてきます。
船の神様の名前を調べていたら、物語の初めに登場したヒルコへつながる。こういう出会い直しがあるから、日本神話の別伝を読むのは楽しいですね!
日本書紀の神代下第九段本書では、大己貴神のもとへ来るのは経津主神(フツヌシ)と武甕槌神(タケミカヅチ)です。事代主神に用件を伝える時には、使者の稲背脛(イナセハギ)が、熊野諸手船に乗って向かいます。この船の別名が天鴿船です。
古事記ではアメノトリフネという一柱が果たす役割が、日本書紀では「使者」と「使者を運ぶ船」という形で見えてくる。二つを並べると、神と船との距離の近さがよく分かります。
また、同じ第九段の一書第二には、大己貴神が海を往来するためのものとして、天鳥船が高橋・浮橋とともに挙げられます。国譲りのために来る側だけでなく、大己貴神の側にも船の名前が現れるのが面白いところです。本文の違いを保って読むと、天鳥船という名が持つ広がりを感じられますし、やっぱり空を飛ぶ船のことを「鳥船」と呼んていたのではないか……と想像してしまいます!
フツヌシとの関係――文献ごとの組み合わせを楽しむ
| 文献 | 国譲り・平定で注目したい組み合わせ |
|---|---|
| 古事記 | 建御雷神 + 天鳥船神 |
| 日本書紀・第九段本書 | 経津主神 + 武甕槌神 事代主神への使者:稲背脛/乗り物:熊野諸手船(天鴿船) |
| 出雲国造神賀詞 | 天夷鳥命 + 布都怒志命(フツヌシ) |
さらに面白いのが、出雲国造が朝廷で奏上する祝詞、出雲国造神賀詞(イズモノクニノミヤツコノカムヨゴト)です。ここでは天穂比命の子・天夷鳥命(アメノヒナトリノミコト)に布都怒志命を添え、地上の平定に向かわせます。
國學院大學の解説では、天夷鳥命を天鳥船と同神と見る説が紹介されています。この説を通して眺めると、「鳥」の名を持つ神とフツヌシが組む伝承が、アメノトリフネの物語とも響き合います。
ただし、天夷鳥命は天穂比命の子、鳥之石楠船神はイザナギ・イザナミの子として語られ、系譜が異なります。同神視は、こうした違いを含めて考える学説です。アメノトリフネとフツヌシが同一神だ、とこの組み合わせだけから結論づけることはできません。
私には、同じ大仕事を語るのに、文献によってチーム編成が変わるところが魅力的に感じられます。どの神を中心に語るかによって、国譲りの見え方まで変わる。推しを追いかけながら別の文献を開くと、思いがけない相棒に会えるのですね。
出雲の地に残る、船と使者の物語
島根県松江市美保関の美保神社には、諸手船神事(モロタブネシンジ)が伝わります。神社の案内では、美保崎にいる事代主神が、父・大国主神から国譲りの相談を受ける場面を儀礼にしたお祭りとされています。
本を読んでいると短い一節に見える「船で知らせを運ぶ」という場面が、お祭りとして受け継がれている。海を渡る使者の仕事を、土地の人々が大切にしてきたことを感じます。
出雲市大社町鷺浦の伊奈西波岐神社(イナセハギジンジャ)は、稲背脛命を主祭神とする神社です。島根県神社庁の由緒にも、熊野諸手船で事代主神へ知らせを届ける話が記されています。日本書紀の使者をたどると、こちらのお社につながります。
フツヌシを追うなら、出雲国風土記の意宇郡楯縫郷の地名説話も気になります。布都怒志命が天石楯を縫い直したことが、楯縫という地名に結び付けられています。安来市の岳山には、その天石楯と伝わる岩もあります。
これはアメノトリフネ自身の冒険として記された話ではなく、フツヌシ側から広がる出雲の伝承です。船の神を入口に、使者、武神、そして土地に残る岩へ。神々の関係をたどるほど、出雲を歩く楽しみが増えていきそうです。
鳥之石楠船神・天鳥船神を祀る神社と信仰
茨城県神栖市の息栖神社(イキスジンジャ)では、岐神を主神とし、相殿に天鳥船神と住吉三神をお祀りしています。鹿島神宮、香取神宮とともに、東国三社として親しまれるお社です。
神栖市観光協会は、天鳥船神を交通守護の神、鹿島大神の先導を務めた神として紹介しています。出雲の国譲りで出会った神々を、東国三社の信仰の中で再び思い浮かべられるのも嬉しいところです。
兵庫県尼崎市の船詰神社(フナヅメジンジャ)は、鳥之磐楠船命を主祭神とする神社です。兵庫県神社庁の由緒では、天鳥船命という別名とともに、交通運輸の祖神、船舶・車馬・航空の安全を守護する神として紹介されています。
古い神話の船が、今を生きる私たちの車や飛行機の旅にもつながる。時代とともに乗り物が変わっても、「無事に行って帰ってきてほしい」という願いは変わらないのだと感じます。
埼玉県所沢市の所澤神明社境内・鳥船神社は、所沢での初飛行から百年を記念して、2011年10月に創建されました。公式案内では、航空安全・交通安全を祈るお社として、人々の願いを鳥船に乗せて高天原へ届ける信仰が紹介されています。
人を運ぶ船が、願いも運ぶ船になる。その受け止め方がとても素敵です。空を飛ぶ乗り物を思わせる名前が、航空の歴史を持つ土地で大切にされていることにも、胸が躍ります。
神奈川県伊勢原市の大山阿夫利神社では、本社のある山頂部に鳥之石楠船神を祀るお社があります。公式案内によると、大山は海からも見え、漁師たちの目印となる山であることから、この神が祀られています。
山の上に船の神様、という意外な組み合わせも、海を行く人の目で考えると納得できます。あの山が見えるという安心感。そんな航海の支えにも思いを寄せて、お参りしたくなりますね。
御利益・神徳――大切なものが、無事に届きますように
航海・交通・航空の安全を願う信仰に触れると、私ならまず、旅立つ人が無事に目的地へ着き、また元気に帰ってこられることを祈りたいと思います。通勤や通学、仕事での移動、楽しみにしていた旅行も、大切な旅です。
そして、事代主神を迎えに行った働きからは、人と人をつなぐことにも思いが向きます。会いたい人に会えること。伝えたい思いを、相手へ届けられること。これは神話を読んだ私の願いですが、アメノトリフネに託したくなる気持ちです。
もう一つの見どころ――フツヌシの船にも鳥の姿
香取神宮の神幸祭では、経津主大神の御神輿を乗せる御座船に、霊鳥鷁(ゲキ)の飾りが付けられます。公式案内では、この船は鷁首船(ゲキシュセン)とも呼ばれています。
これをそのまま「アメノトリフネそのもの」と決めることはできませんが、フツヌシの信仰をたどった先にも、鳥と船が組み合わさる姿があるのは、見ていてわくわくします。船首に鳥の顔がある神様の船。飛空艇を想像したくなる気持ちが、また少し強くなりました。
著者の所感――人の姿から、FFの飛空艇に変身してほしい!
ここからは、私の創作的な想像です。アメノトリフネは、普段は仲間たちと同じように会話しているのに、「出番だよ」と声を掛けられた瞬間、鳥を思わせる美しい船首を持つ飛空艇へ変身する神様だったらいいな、と思っています。
タケミカヅチが剣を携えて乗り込み、船は雲の上から出雲の海へ。交渉相手が留守と分かれば、「迎えに行ってくる」と軽やかに飛び立つ。戦いの強さとは別のところで、仲間から絶対に頼りにされている存在です。
FFで飛空艇に乗れるようになる時の、行ける場所が一気に増えるあの高揚感。それを、一柱の神様が持っていると思うと、たまりません。神様自身が、冒険の行き先を広げてくれる。
古事記に変身の場面はありませんが、神として語られ、船とも深く結び付く存在だからこそ、どんな姿で仲間と旅をしていたのかを想像したくなります。神生みの名前の列で出会った一柱が、後の国譲りで頼もしい相棒になる。アメノトリフネは、そんな再登場を楽しみに覚えておきたい神様です!
参考資料・出典
古事記の本文、國學院大學の神名解説、神社・神社庁・自治体等の公開資料を参照しました。日本書紀との比較には、國學院大學の文献対照と関連する神社の由緒を用いています。神名の同一視は説として紹介し、飛空艇への変身や神様に託したい願いは著者の所感として記しています。
この記事の参考資料
執筆:小野寺優(古事記学会会員・『ラノベ古事記』著者)
執筆のためのリサーチノート・参考文献
Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。
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