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石巣比売神(イワスヒメ)
(日本書紀には同名の神の記載なし())

イザナギとイザナミが島々を生み終え、神々を生み始める「神生み」。大事忍男神、石土毘古神に続いて、三番目に生まれるのが石巣比売神(イワスヒメ)です!

「イワ」は石や岩。それでは「ス」は、砂? それとも、住むところを意味する「巣」? 名前の読み方しだいで、家を支える女神にも、大地に関わる女神にも見えてきます。

古事記・日本書紀での描かれ方

古事記では、神生みの三番目に誕生

古事記上巻では、イザナギとイザナミが国生みを終えた後、大事忍男神、石土毘古神、石巣比売神の順に生まれます。石巣比売神の次は大戸日別神(オオトヒワケ)です。

ここでの「三番目」は、国生みの後に始まる神生みの最初の十柱の中での順番。古事記はこの神様が生まれたことを記しますが、何かを建てたり、誰かと会話したりする場面までは語りません。

日本書紀と、ほかの文献では?

國學院大學の神名データベースでは、同じ名前の神の日本書紀での登場箇所は挙げられていません。本文に、石巣比売神を日本書紀の別の神と結び付ける説明もありません。

一方、同データベースには、『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』の「陰陽本紀」に石巣比売神の名が見えると記されています。古事記以外にも名前が伝わっているんですね。

石巣比売神とは?

ひとことで紹介するなら、石と砂、あるいは岩のようにしっかりした住まいに関わると考えられている、イザナギとイザナミの娘です。

先に生まれる石土毘古神(イワツチビコ)が家の土台となる石や土なら、石巣比売神はそこに重なる砂や、暮らしを営む「すみか」。そう考えると、二柱が続けて登場する場面がぐっと身近に感じられますね。

神様の名前 石巣比売神
イワスヒメノカミ
親神 イザナギ・イザナミ
登場する場面 古事記上巻・国生みの後。神生みの三番目
役割の解釈 岩と砂、岩のように堅固な住居、または大地の形成に関わるとする説がある

名前の由来・意味

「ス」を砂と読むなら、岩と砂の女神

一つ目は、イワスの「ス」を砂の意味にとる読み方。石巣比売神を岩石や砂を表す女神と考える説です。

石土毘古神の「石・土」と、石巣比売神の「石・砂」。並べてみると、石だけでなく、細かい土や砂も土地や住まいを形づくる大切なものだと気付かされます。

この説では、名前の漢字を一文字ずつ現代の意味で読むというより、「イワス」という音をどう理解するかがポイントになります。

「巣」をすみかと読むなら、家そのものの女神

もう一つは、名前の「巣」をすみか・住居と考える説です。西宮一民の『古事記』の注釈では、岩のように堅固な住居に関わる女神という読み方が示されています。

國學院大學の神名データベースには、住居を取り仕切る女性のような神格として読む説も紹介されています。砂という「材料」から、暮らしを守る「住まい」へ。同じ「ス」でも、解釈によってイメージが変わるのが面白いところですね!

島々に「大地」が形づくられる、という説も

さらに、住居よりも大きな国土に目を向ける見方もあります。『古事記』新編日本古典文学全集の解釈では、石土毘古神と石巣比売神を、国生みで生まれた島々に大地が形づくられることを表す神々と考えています。

家の床や壁を思い浮かべるか、それとも島の地面そのものを思い浮かべるか。どちらの景色も、石や砂という足元のものから広がっていきます。

登場する神話(国生みから神生みへ)

島々を生み終えたイザナギとイザナミは、次々と神々を生みます。石巣比売神は、その始まりに並ぶ十柱のうちの三番目。前後の神様も見てみましょう。

順番 神様の名前 読み 関わるもの・解釈
1 大事忍男神 オオコトオシオ 国生みや神生みの大事業に関わるとする説
2 石土毘古神 イワツチビコ 住居に関わる神(別に大地の説)
3 石巣比売神 イワスヒメ 住居に関わる神(別に大地の説)
4 大戸日別神 オオトヒワケ 住居に関わる神
5 天之吹男神 アメノフキオ 住居に関わる神
6 大屋毘古神 オオヤビコ 住居に関わる神
7 風木津別之忍男神 カザモツワケノオシオ 住居に関わる神
8 大綿津見神 オオワタツミ 海の神
9 速秋津日子神 ハヤアキツヒコ 水門の神
10 速秋津比売神 ハヤアキツヒメ 水門の神

※国生みを終えた後の、神生みでの順番です。「住居に関わる神」という分類は西宮一民の解釈です。石土毘古神・石巣比売神を大地の形成に関わる神とする説もあります。海と水門については古事記本文に記されています。表が画面に収まらない場合は横にスクロールできます。

石土毘古神とは、名前が対!?

「イワツチビコ」の次に「イワスヒメ」。名前を並べると、男女の対のように見えます。石と土の神様については、石土毘古神のページでも紹介しています。

ただ、古事記は二柱を夫婦とは書いていません。たとえば、イザナギとイザナミの関係には、イザナミを「妹(いも)」と呼ぶ表現が出てきますが、石土毘古神と石巣比売神には、そうした関係を説明する言葉がないのです。

名前は対のように読める。けれど、夫婦かどうかは分からない。この少しの余白が、古事記を読む楽しさでもありますね。

住まいの神々から、海や風、山の神々へ

この後には、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神などが続きます。西宮一民は石土毘古神から風木津別之忍男神までの六柱を、住居に関わる神々として読みました。

その後には海や水門、さらに風・木・山・野の神々が生まれます。島だけだった世界に、地面やすみか、自然が次々と重なっていく。そんなふうに読むと、神々の長い名簿が、一つの物語のように見えてきませんか?

伝承の地

名古屋の石神社に残る名前

石巣比売神の名前を思い出させる場所として、愛知県名古屋市の深島神社(ふかしまじんじゃ)があります。境内の石神社について、現地の由緒掲示を紹介した記録には「石土彦神・石巣姫神」と記されています。

「石巣姫神」は、古事記でここまで使ってきた「石巣比売神」とは表記が違います。現地でどうお祀りされているかを知る手がかりとして紹介しますね。

歴史の中に残る石巣比売神

『先代旧事本紀』の「陰陽本紀」には、古事記と同じ石巣比売神の名が見えると、國學院大學のデータベースは紹介しています。神生みの名簿が、別の文献にも受け継がれているわけです。

土地の祭祀では、表記を変えた「石巣姫神」の名も見られます。1915年刊の『名古屋市史』社寺編は、深島神社の石神社に「石土彦命・石巣姫命」が祀られたと記し、石神社が名古屋城内から移された経緯にも触れています。

古事記の登場箇所と、名古屋でお祀りされてきた歩みは、別の時代のお話。文献の中の名前が、地域の神社でどんな姿をしているのか、たどってみるのも面白いですね!

御利益(神徳)

「石と砂」や「岩のように堅固な住まい」という名前の解釈に、願いを重ねるなら。家がしっかりと建ち、家族が安心して暮らせますようにと、頼りたくなる女神様です。

新しい家に住み始める時、家族と過ごす場所を整えたい時。「ここを、ほっとできるすみかにできますように」と手を合わせるのもいいですね。

家の「巣」という字を見ると、建物の丈夫さだけでなく、帰ってきた時にほっとできる場所も思い浮かびます。これは神名の解釈から重ねる願いですが、暮らしのそばで頼りたくなる神様ですね!

祀られている神社

深島神社境内・石神社(愛知県名古屋市)

深島神社(ふかしまじんじゃ)境内の石神社
所在地:愛知県名古屋市北区柳原2丁目3-19

現地由緒の紹介には、西社殿の石神社に「石土彦神・石巣姫神」の名が記されています。石巣比売神を考える時に気になる、二柱が並ぶ祭祀ですね。

石土毘古神と石巣比売神は、深島神社でも並んで祀られています。古事記に「夫婦」とは書かれていませんが、神話でも神社でも一緒の二柱。仲良しで、ちょっとうらやましいですね!

参考資料・出典

古事記本文の誕生順、神名についての諸説、名古屋での祭祀を、それぞれ以下の資料で確認しています。住居や大地についての説明は研究上の解釈、家族の安心を願う部分はこの記事での受け止め方です。

この記事の参考資料

西宮一民校注『古事記』(新潮日本古典集成、新潮社)「神々を生む」注6

國學院大學:古事記ビューアー「神生み」 / 神名データベース「石巣比売神」

名古屋市編『名古屋市史』社寺編(1915年):国立国会図書館の書誌・本文

深島神社の現地由緒掲示の紹介:現地写真と掲示の転記

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。

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