古事記FUN!! ロゴ

そもそも古事記とは
ラノベ古事記

日本の神話・古事記の情報発信サイト

登場人物紹介 Characters

大事忍男神(オオコトオシオ)
(日本書紀には同名の神の記載なし())

イザナギとイザナミが島々を生み終え、いよいよ「神生み」が始まる。そのトップバッターとして登場するのが、大事忍男神(オオコトオシオ)です!

名前に入っているのは、なんだか気になる「大事」の二文字。一体、どんな大仕事に関わる神様なのでしょうか?

古事記・日本書紀での描かれ方

古事記では「神生み」のトップバッター!

古事記では、イザナギとイザナミが島々を生み終えた後、最初に生む神様として登場します。続くのは、石土毘古神(イワツチビコ)、石巣比売神(イワスヒメ)などの神々です。

ただし、ここでいう「最初」は、あくまで国生みの後に始まる神生みでの順番。その前にヒルコや島々が生まれているので、二柱にとって初めての子供、という意味ではありません。

日本書紀の神様との関係は?

國學院大學の神名データベースでは、大事忍男神と同じ名前の神様について、日本書紀の登場箇所は挙げられていません。

一方、江戸時代の国学者・本居宣長は、日本書紀の「泉津事解之男(ヨモツコトサカノオ)」との関わりから、この神様の名前を考えています。ただし、これは宣長による解釈。日本書紀に「大事忍男神の別名」と書かれているわけではありません。

ほかの文献にも名前が残っています

國學院大學の資料では、『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』の「陰陽本紀」にも、大事忍男神の名前が見えると紹介されています。古事記・日本書紀とは別の文献にも、名前が受け継がれているんですね!

大事忍男神とは?

まず押さえておきたいのは、「国生みと神生みの切り替わりに登場する神様」ということ。

古事記は、この神様が何かを作ったり、誰かと戦ったりする姿を語っていません。どんな性格なのか、どんな力を持っているのかも、本文だけでは分からないんです。

そのため、大事忍男神を知る手がかりになるのは、名前と登場する位置。「島々を生み終えた、ちょうどその時に生まれる」という配置から、さまざまな解釈が生まれてきました。

神様の名前 大事忍男神
オオコトオシオノカミ
親神 イザナギ・イザナミ
登場する場面 古事記上巻・国生みの後。神生みの最初
役割の解釈 国生みの完了や、神生みの始まりなどに関わるとする説がある

名前の由来・意味

「オオコトオシオ」という名前には、いくつもの読み解き方があります。特に面白いのが、「大事」を終わった仕事と見るか、これからの仕事と見るかという違いです。

「国生み、おつかれさま!」という名前?

本居宣長は、この名前を国生みという大仕事の完了と結び付けました。

イメージするなら、「島々を生む大仕事が、ひと区切りついた!」という場面でしょうか。ここでは、大事忍男神の名前を、それまでの国生みを締めくくるものとして読んでいるんですね。

「さあ、神生みを始めよう!」という名前?

一方、研究者の西宮一民は、「大事」をこれから始まる神生みと関係付けています。「忍」を力強さと読む解釈もあり、これからの大仕事に向かう力を感じさせる読み方です。

たとえるなら、物語の最初に「これから、こんなことが起こりますよ」と見出しを置くようなもの。大事忍男神の名前そのものが、後に続く神々の誕生を予告している、という読み方なんですね。


西宮は、こうした「結論を先に示す」語り方が、神々の系譜にも用いられていると考えています。

終わりと始まりの間に登場する神様だからこそ、両方の読み方が生まれるのが面白いところですね!

神々の誕生をひとまとめに表す、という説も

ほかにも、「大」を美称、「忍」を「おしなべて」という意味に取り、神々を生む営み全体をまとめて表した名前とする説があります。

また、後に続く神々の先触れとして置かれた名前とする説や、家屋を造る大仕事に関係付ける説もあります。どれか一つに決まっているわけではなく、名前と周囲の神々をどう読むかによって、見えてくる姿が変わるのです。

情報量が少ないからこその、神話あるあるですね!

個人的には、イザナギとイザナミの前に生まれる阿夜訶志古泥神の名前も「ああ、なんて尊いことなのかしら」という名前で、物語の区切りに出てきているので、オモダルの完成を喜んだのか。これからはじまるイザナギとイザナミの物語に歓喜しているのか……

いずれにせよ、大事忍男神も同系統の物語を区切る神様だと考えています。

登場する神話(国生みから神生みへ)

イザナギとイザナミは、淡路島や四国などの島々に続いて、さらに六つの島を生みます。その国生みが終わると、大事忍男神を先頭に、神々が次々と生まれていきます。

まずは、最初の十柱を見てみましょう。順番だけでなく、どんなものに関わる神様なのかを並べると、大事忍男神の少し変わった立ち位置が見えてきます。

順番 神様の名前 読み 関わるもの・解釈
1 大事忍男神 オオコトオシオ 国生みや神生みという大事業全体
2 石土毘古神 イワツチビコ 住居に関わる神
3 石巣比売神 イワスヒメ 住居に関わる神
4 大戸日別神 オオトヒワケ 住居に関わる神
5 天之吹男神 アメノフキオ 住居に関わる神
6 大屋毘古神 オオヤビコ 住居に関わる神
7 風木津別之忍男神 カザモツワケノオシオ 住居に関わる神
8 大綿津見神 オオワタツミ 海の神
9 速秋津日子神 ハヤアキツヒコ 水門の神
10 速秋津比売神 ハヤアキツヒメ 水門の神

※国生みを終えた後の、神生みでの順番です。「住居に関わる神々」という分類は西宮一民の解釈で、神格には別の説もあります。表が画面に収まらない場合は横にスクロールできます。

大事忍男神だけ、少し違う役割?

石土毘古神から風木津別之忍男神までの六柱は、住居に関わる神々と考えられています。そして、その次に登場するのが、海と水門の神々……

この読み方に沿って見ると、後に続く神々が住居や自然などに関わるのに対し、大事忍男神の名前だけが、「大事を忍ぶ」という現象を表しています。

一柱だけ、名前が指し示す範囲が違うようです。

ここからは私なりの読み方ですが、大事忍男神の登場は、「島々を生む場面が終わり、ここからは神々を生んでいきますよ」という、シーンの切り替わりを示しているのかもしれません。

たとえるなら、新しい章の扉に置かれた見出しのような存在。西宮が説く「神生み全体をまとめる名前」という解釈を踏まえると、そんなふうにも読める気がします。

この後も、自然に関わる神々が続きます

神生みは、この十柱で終わりではありません。続いて水に関わる神々が生まれ、さらに風の神・志那都比古神(シナツヒコ)、木の神・久久能智神(ククノチ)、山の神・大山津見神(オオヤマツミ)、野の神・鹿屋野比売神(カヤノヒメ)へと続いていきます。

島々の誕生から、暮らしや自然に関わる神々の誕生へ。大事忍男神自身の活躍は語られませんが、前後の流れをたどると、その名前が置かれた場所にも意味を感じられますね!

伝承の地

三重県鈴鹿市に残る祭祀

古事記には、大事忍男神に固有の出生地や、活動した土地は記されていません。一方、現在この神様を祀る場所として確認できるのが、三重県鈴鹿市の庄内神社と長瀬神社です。

どちらも、三重県神社庁の祭神一覧に「大事忍男命」の名前が載っています。神話の舞台というわけではありませんが、書物の中の神様が、今も祀られていることを知る手がかりになります。

歴史の中に残る大事忍男神

神話に登場する神様が、いつから、どこで祀られるようになったのか。大事忍男神については、まだ分からない部分もあります。

庄内神社は、明治40年(1907年)に村内の40社を合祀し、現在の社名になったと説明されています。長瀬神社も、明治40年頃に地域の諸社を合祀し、明治44年(1911年)に現在の場所へ移りました。

「合祀」とは、複数の神社の神様を、一つの神社で一緒にお祀りすること。現在の祭神一覧の背景には、こうした地域の神社の歩みがあります。

ただし、この由緒だけでは、大事忍男神がそれぞれの土地で祀られ始めた時期までは分かりません。神社全体の歴史と、一柱ごとの信仰の歴史は、分けて考えておきたいところです。

御利益(神徳)

名前から、「大きな仕事を応援してくれそう!」と感じる神様です。

神名から願いを重ねるなら、大事な挑戦をやり遂げる力や、困難に負けずに進む強さをお願いしたいところ。仕事や勉強、新しい目標に向かう時。「どうか、最後まで頑張れますように!」と、手を合わせたくなります。

また、「忍」の字にも、苦しい時に耐え忍ぶ姿を重ねたくなります。これは古い言葉の意味をそのまま説明したものではありませんが、今を生きる私たちにとっては、心の支えになる受け止め方ではないでしょうか。

大切なことに取り組む時、途中で苦難があっても、くじけずにやり遂げられるように……大事忍男神は、そんな願いを託して頼りたい神様なのです!

祀られている主な神社

神社庁の公開資料で、大事忍男命の祭祀を確認できる神社をご紹介します。

庄内神社(三重県鈴鹿市)

庄内神社(しょうないじんじゃ)
所在地:三重県鈴鹿市東庄内町2453

イザナギ・イザナミをはじめ、多くの神々とともに、大事忍男命が祀られています。江戸時代には近郷の氏神として信仰を集め、明治の合祀を経て現在に至る神社です。

長瀬神社(三重県鈴鹿市)

長瀬神社(ながせじんじゃ)
所在地:三重県鈴鹿市長沢町2201

主祭神は倭建命(ヤマトタケル)。大事忍男命は、合祀された神々の一柱として記されています。一つの神社に、地域で祀られてきたさまざまな神様が集まっているんですね。

参考資料・出典

古事記本文の記述、名前についての解釈、現在の神社での祭祀を、それぞれ以下の資料で確認しています。本居宣長説は、國學院大學の注釈による紹介を参照しました。

この記事の参考資料

西宮一民校注『古事記』(新潮日本古典集成、新潮社)「神々を生む」注5・6

國學院大學: 古事記ビューアー「神生み」 / 神名データベース「大事忍男神」

三重県神社庁: 庄内神社 / 長瀬神社

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。

ラノベ古事記

あなたの「推し神様」がきっと見つかる!