日本神話『コノハナサクヤヒメ』
猿女君
日向に建てた宮殿で国づくりを進めながら、ニニギは立派な大人へと成長した。
そんなある日、
ついでに、ウズメが1人でサルタビコに声をかけた時の勇気を称えて、名前をあげた。
「これからは、サルタビコの名前をもらって、「
「わぁい♪♪ありがと~~!!ウズメ ・ ・ ・ じゃないや、サルメ頑張る~!!」
名をもらうことは、その人の力も貰うことを意味していた。ウズメは華奢な身体にサルタビコの強靭な力を手に入れたことになる。ある意味最強だなぁ~。と思いながら、ニニギは2人を送り出した。
それから数週間後、
コノハナサクヤヒメ
さて。日々忙しく国づくりに励んでいたニニギだが、久しぶりに休みが取れたので
しばらくフラフラ歩いていると、丘の上に女性の姿が見えた。ニニギは吸い寄せられるかのように、彼女の元へ向かい、声をかけた。
「あ ・ ・ ・ あの ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はい?」
そう言って、彼女が振り返る姿が、ニニギにはスローモーションに見えた。
『可憐』という言葉がこんなに似合う人がこの世にいたなんて ・ ・ ・ 。
「あ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと、遠くから、あなたのことが見えたから ・ ・ ・ ボクは、ニニギです。 ・ ・ ・ あなたは?」
「私は ・ ・ ・ ・ ・ ・
サクヤヒメ??名前まで可愛いんですけどっ!!
え?うそ?どうしよう。可愛過ぎて困る。
な ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんか ・ ・ ・ 話さなくっちゃ!!
あ、いや、でも、何を話したらいいかわからない ・ ・ ・ どうしよ。沈黙が続いちゃってる!!何かっ ・ ・ ・ なにか話題っっっ!!
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ あのっ!!!!」
ニニギは目をつぶって頭を下げ、握手を求めるように右手を前に出した。そして、大声で彼女へのまっすぐな想いをぶつけた。
「ヤらしてくださいっっ!!!」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぁ?」
彼女のビックリするほど冷たい「はぁ?」という声にニニギは戸惑った。
あれ?ボク何かまずいこと言った??
ていうか、今、ボクなんて言った??
ボク、今 ・ ・ ・ なんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
つい先ほどの回想と共に、ニニギの全身から血の気が引いた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ はっ! ・ ・ ・ いやっ!!違っっ!!!!!」
やっちまったぁぁーーー!!!!
頭を抱えて項垂れたニニギの姿を見ると、サクヤヒメは彼に悪意はなかったと判断したようで、くすくす笑いながら返事をくれた。
「えっと、ごめんなさい。父上に聞いてみないと ・ ・ ・ 私じゃ答えられません。」
それは予想外の答えだった。
「えっっ?聞いてもらえるんですか??父上って?」
「山の神、オオヤマツミノ神です。ニニギ様はどちらの方なんですか?」
オオヤマツミと言えば、イザナギとイザナミが、神産みの時に産んだ神じゃないか。ニニギは運命を感じた。
「そうでしたか!ボクは日向の宮殿から来ました。
「天照大神様の???まぁ!それはきっと父上も喜ぶわ!!私、姉もいるんです。もしかしたら姉も一緒にって話しになるかも ・ ・ ・ まずは一度、帰らせていただいてもいいですか?」
「え?お姉さんもですか??わ ・ ・ ・ わかりました。宮殿でお待ちしています!!」
やたー!!お姉ちゃんって ・ ・ ・ 絶対美人じゃんっ!!ちょー楽しみなんですけどっ!!アマテラちゃま!!!ネームバリューをありがとうっっ!!!
2人はそのまま別れ、ニニギはスキップをしながら宮殿に戻った。
それから数日後。
約束通りサクヤヒメは日向の宮殿まで足を運んでくれた。 しかし、お姉さんは来てくれなかったようだ。代わりに侍女らしき人が隣にいる。いやしかし、人の顔をどうこういうのは趣味じゃないけど、すんごいブサイクな侍女だ。
サクヤヒメが隣にいるからっていうのもあるんだろうけど、こんな笑っちゃうくらいのブスは初めて見たな。ニニギは悪いなと思いながらも、くすっと吹いてしまった。
サクヤヒメはニニギの前まで来ると、三本指を付いて、おしとやかに頭を下げた。やはり彼女は本当に見惚れてしまう美しさだ。
「ニニギ様、父上に結婚の許しをもらって参りました。コノハナノサクヤヒメと ・ ・ ・ ・ ・ ・ こちらが姉のイワナガヒメでございます。」
ニニギは笑顔のまま固まった。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ え?
いや、ちょ、ごめん。 ・ ・ ・ どこの誰が姉って言いました?」
「私でございます。」
えっ!?あんた侍女じゃなかったのか!?
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと。
あの、ごめんなさい。
ブスはいいです。お引き取りください。」
ニニギも三本指を付いて丁重にお断りした。
「は??」
「いや、ブスはいいんです。ていうか無理なんです。え?だってブスですよね?」
「しかし、父上はニニギ様の事を思って ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「いやいやいやいやいや ・ ・ ・ ・ ・ ・ ボクのためを思うなら、ブスは控えてください。 本当にごめんなさい。体質的に向かないんです。
だって、君、ブスの限界を超えた究極のドブスじゃないかっっっ!!」
ブチィィっっっ!!!!
イワナガヒメはニニギの暴言に耐えられず、ブチ切れた。
「っざけんなぁ!!さっきからおとなしく聞いてやってりゃブスブスブスブスうるせぇなぁ!!!!父上はな、アンタのためを思って私を嫁にやったんだよ!!!」
「うわっ、ブスがキレた ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「るせぇ!!コノハノサクヤヒメは、花のように繁栄をもたらすだろうが、散るのが定めなんだ。アンタは、神の子のくせに寿命が来るだろうよ!!子供も孫も末裔までみーんなねっ!!
私には岩のように永遠の命を守る力があったんだよ、ばーかっ!!フンッ!!後悔したって遅いんだからっ!!ざまぁみやがれっっっ!!!!」
「えぇ!?そんな設定なんですか!?」
「今更気付いたって、もう手遅れなんだよっっっ!!帰ってやる!!実家に帰らせていただきます!!! コンチクショウ!!!!」
言いたいことだけいうとイワナガヒメはズカズカと宮殿を出て行ってしまった。ニニギは一瞬慌てたが、彼女を追うことは無かった。しかし、この事件がキッカケで天皇家は神の子にも関わらず寿命ができたのだった。
とは言っても、その夜サクヤヒメと初夜を迎え、ニニギはイワナガヒメのことなど、一瞬で忘れてしまったのだが。
ニニギとサクヤヒメの誓約
それから、あっという間に数ヶ月が経った。
意外なことに、あの日以来2人は同じ布団に寝ていなかった。
いや、別に避けてるとか、嫌われてるってわけじゃないんだけど。国づくりの方もあるからさ。最近、いろいろと仕事で疲れちゃってて。
しかし、この日は珍しく、サクヤヒメがそろそろとニニギの部屋に入ってきた。
そして目の前まで来ると三本指を付き、頭を下げた。なんの用だろう?とドキドキしながらも、やっぱ彼女は可愛かった。サクヤヒメは顔を赤らめながら口を開く。
「・・・という訳で、子供を授かりました。そろそろ、出産の時期ですのでご報告をと思って。」
ニニギは笑顔のまま固まった。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ へ? 今なんて?」
「ですから、もうじき出産なので、ご報告をと。」
「はぁ??いやいやいやいや!!!!!え?うそ?早くない?
早過ぎじゃない???ていうか、あの日以来、やってないじゃないですかっっ!!!え??どういうことっ???」
「そりゃ ・ ・ ・ 天つ神の御子ですから ・ ・ ・ 普通とは違うものかと ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「うっそだぁ!!そんな、一回くらいじゃ着床しないですよ。それに十月十日も経ってないじゃん!!えぇっ??嘘っ!?そういう事???元カレいたんですか?」
「はっ??いませんよ!!」
「あぁーーーーそーいうことかーーーーそうですよねぇーーー可愛いもんあぁ~~~彼氏いない訳ないですよねぇーーーーー」
「な ・ ・ ・ ・ ・ ・ ひどいです!私がそんな事する女に見えるんですかっっ???」
しかし、ニニギは聞く耳を持たずに頭を抱えて項垂れている。
「あああぁぁぁ ・ ・ ・ そっかぁ~あぁ、どうしよう。予想以上にショック深い!!あぁーーやべぇーーー立ち直れないかもしんない!!!!」
「ちょっ!何よ!?天つ神の御子を報告もなしに産むべきじゃないと思って伝えにきたのに ・ ・ ・ !!!自分の妻を疑うなんてサイテー!!!!」
「そんなこと言われたって ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ねぇ?」
ブチィッッ!!!
サクヤヒメは顔に似合わずブチ切れた。ニニギは女性を怒らせるのが得意らしい。
「もういいです!!じゃあ、
「えぇっ?危ないですよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「いいんです!その辺の国つ神の子供だったら、無事に生まれて来れるわけがないですもの!!でも、天つ神のあなたの子なら、ちゃんと生まれてくるはずよ!!!」
「うぅ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかりました。」
サクヤヒメは、さっさと産屋の中にこもり、産気づくと小屋に火をつけた。
昔は出産のときに流れる血は汚れていると考えられていたので、家とは別に小屋を建てて出産をしたのだ。もちろん簡易的なものなので、小屋の材料は木の柱に藁の屋根と燃えやすい素材ばかりだ。火はゴォゴォと音を立て小屋はあっという間に燃え上がってしまう。
「ちょ、火の巡りが過ぎませんか??これ、本当にマズイやつじゃないですか??」
ニニギは見ていられず産屋に駈け寄って声を上げた。
「っっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ サクヤヒメ!!ボクが悪かったから ・ ・ ・ 出て来てください!!ねぇ、結果なんてどっちでもいいからっ!!サクヤ!!聞こえてるんですか??意地張ってないで!お願いだから ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
産屋からサクヤヒメを連れ出そうと考えたが、あまりにも火が大きく近づくことすらできない。
「これじゃ、全然中の様子が見えない ・ ・ ・ サクヤ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
絶望的な情景にニニギが膝をついたその時 ・ ・ ・
『 ・ ・ ・ ・ ・ ・ おぎゃあ!おぎゃあ!!』
赤子が元気に泣く声が
「泣き声 ・ ・ ・ っっ産まれた? ・ ・ ・ 産まれたんですねっっ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ よかった!!」
泣き声はさらに
『おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!!おぎゃあ!おぎゃあ!』
「え?なになに??なんか、予想以上にうるさいんですけど ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
ニニギが
「ニニギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「サクヤ!!よかった、無事だったんですねっ!!!」
ニニギは思わず
「ほら ・ ・ ・ あなたの子だったでしょ?三つ子よ。」
「三つ子っっっっっ!!??まじか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 神の血すげぇ!!!」
赤子はまだ、おぎゃあおぎゃあと泣き叫んでいる。サクヤヒメに我が子を抱かせてもらい顔を覗くと、ニニギは最初から
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ サクヤ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 疑ったりしてごめんなさい。一人でよく頑張りましたね。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん。いいの。よかった、信じてもらえて。」
つかれてフラフラになった彼女の笑顔も、やっぱり可愛かった。仲直りした2人は、3つ子をホデリ、ホスセリ、ホオリ、と名付け、大切に育てた。
こうしてまた主人公は子供達へと移って行く。