天皇記『仁徳天皇とメドリ』

仁徳天皇とメドリ

メドリとハヤブサワケ

最後は、ウジノワキとヤタノワキの妹、メドリだ。

ウジノワキの遺言で、2人の妹を頼まれていた仁徳天皇にんとくてんのうは、メドリのこともずっと気にしていた。しかし、まぁ、なかなか声をかけられる状態でもなかったので、イワノのスキをついては手紙やプレゼントを送るくらいの関係だった。

とは言っても、姉のヤタノワキと違って元々仲が良かったという訳でも無かったので、返事はいつも素っ気ないものだった。

しかし、メドリは年頃にも関わらず、いつまで経っても結婚の話しが出てこない。悩んだ末、仁徳にんとく「妻として宮中に住まへん?」といった内容の手紙を送ることにした。もちろんイワノがいるので、長くは一緒に住めないだろうが、天皇とのバツイチはプレミア価値のつく時代だった。

 

手紙を頼まれたのは仁徳にんとくの腹違いの弟、ハヤブサワケだ。メドリにとっては腹違いの兄ってことになる。

 

しかし、仁徳にんとくから手紙を渡されたハヤブサワケの足取りは重かった。というのも、ハヤブサワケはずっとメドリに想いを寄せていたのだ。『手紙、渡したくないな。』とは思いつつも、仁徳にんとくの命令では届けるしかない。ハヤブサワケは、下を向いたままメドリに手紙を渡した。

 

彼女は仁徳にんとくからの手紙を読むと、黙ったままハヤブサワケの袖をぎゅーっと掴んだ。彼女のこーいう小悪魔っぽいところがツボなのだが、そんな態度たいどを取られる度に『メドリが自分なんか好きになる訳がない。落ち着け俺っ!!』と強く自分に言い聞かせ、必死に理性を保っていた。

 

「やだ ・ ・ ・ あんな奴のところ、行きたくない。」

「あんな奴って ・ ・ ・ ・ ・ それ聞かれたらマズイでしょ。」

と言いつつ、ちょっとホッとする。

「だって、イワノの嫉妬でヤタ姉は散々な目に合ったのよ?」

「それは俺も聞いたけどさ。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それに、私、他に好きな人がいるの。」

「はぁっ?????誰っっっ!!!???」

 

ハヤブサワケは凄く困った表情で驚いた。今まで彼女に好きな人の話なんかされたことない。『誰だっ!?全然わからない!!俺以外にもココ通ってる奴いたのか!?』

 

「はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 鈍感すぎだよ、ばか。」

 

メドリは、ハヤブサワケを見つめた。

 

『ん?何??』

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

彼女はまだこっちを見てる。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 嘘っ!?俺っ???

 

ハヤブサワケはめちゃめちゃ驚いた。別にメドリは、今まで小悪魔を気取っていたわけではなかったのだ。彼女もずっとハヤブサワケのことが好きだった。

「散々こっちからアピってんのに、歌のひとつもよこさないで ・ ・ ・ 。別に、嫌なら良いんだけどさ。」

っっんなわけあるか!!!ずっと好きだったんだ ・ ・ ・ すげーうれしい ・ ・ ・ ・ 」

メドリは、満足そうに彼の顔を見つめた。顔が近い。しかもキスをねだってきた。めっちゃ可愛い。。。そして彼女の柔らかい唇に触れた瞬間 ・ ・ ・

 

ハヤブサワケの理性は吹っ飛んだ。

 

真昼間から2人は身体を重ね合い、それからというもの、ハヤブサワケは仁徳にんとくの命令などすっかり無視して、毎日のように彼女の家に足を運ぶようになった。

 

一方、仁徳にんとく仁徳にんとくで、メドリの事を気にしていた。

 

『ハヤブサワケに手紙頼んでから、むっちゃ経つけど、返事遅すぎやないか??素っ気ないヤツなら毎回必ず帰って来んのに。うぅん。前々から思っとったんやけど、やっぱしオレ嫌われとるんかな ・ ・ ・ ・ ・ 』

 

なんだか不安になり、仁徳にんとくはイワノのスキを伺って直接メドリの家に足を運んだ。 庭から彼女の部屋を覗くと、メドリは機織り機に向かって布を織っていた。横顔がヤタノワキにそっくりだ。仁徳にんとくの胸がチクリとした。

 

「メドリ ・ ・ ・ 久しぶり。それ、誰に織っとるん?」

彼女は、チラッと目を上げ仁徳にんとくだと確認すると、下を向いたまま答えた。

「 ・ ・ ・ ・ 空高く翔けるハヤブサのためです。」

はぁっ?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ、なんや、そーゆーことかい。 ・ ・ ・ ほんならいうくれりゃーえぇのに ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

メドリはプイッとそっぽを向く。気まずい。

「まぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ したら ・ ・ ・ しゃーないな・・帰るか。」

 

こうしてあっさりとフラれた仁徳にんとくは、トボトボと宮殿に帰った。やっぱり嫌われているっぽかったのは悲しかったが、どこかこの展開がうれしかった。

 

そのつぼみをお前の妻にするが良い ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんつって。」

 

仁徳にんとくは2人に罰を与えることも無く身を引いた。

 

一方、仁徳にんとくと入れ違いでハヤブサワケはメドリの屋敷に出向いた。しかしいつもなら、笑顔で迎えてくれるメドリが今日は深刻そうだ。ハヤブサワケが心配そうに顔を覗き込むと、メドリは彼に抱きつき、耳元で歌を詠った。

 

雲雀のように天高く飛翔するハヤブサ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あのサザキを狩り落として。

 

要は、仁徳にんとくを殺して。ってことだ。実のところ、前々からメドリは心底、仁徳にんとくを嫌っていた。兄のウジノワキが死んだのは、仁徳にんとくのせいだと考えていたのだ。

しかしこの歌はすぐに宮中まで届いてしまう。仁徳にんとく「まじかー」とつぶやき頭を抱えた。謀反は死罪だ。あんときちゃんとフォローしとれば ・ ・ ・ なんて考えたってもう遅い。仁徳にんとくは2人を討つよう軍に指示を出した。

 

軍に追われたハヤブサワケとメドリは、倉橋山(奈良県桜井市)を登った。ハヤブサワケは君と登れば険しい山でも険しさなんて感じないっ!と詠い、彼女の手を取り必死に走ったが、ついに宇陀(奈良県宇陀郡)で捕らえられ、殺されてしまった。

 

その報告を聞き、仁徳にんとくは項垂れた。いつもは女絡みの話しになると、ヒステリックに怒り狂うイワノも、今回ばっかりは彼の隣で心配そうにぴとっとくっつき、寄り添ってくれた。

仁徳天皇とメドリ

イワノヒメ

一夫多妻性が当たり前の世の中で書かれたイワノは、嫌な女のように表現されているが、ただ「浮気をするな」と現代では当然のことを訴えているだけだった。

彼女は夫に自分一人を愛して欲しいと願っていた。その考え方が千何百年かの先の、最先端な考え方だっただけであって、彼女自身は道徳心の高い、素敵な人だった。

そんな彼女の性格が現れたエピソードが1つ残っている。

ハヤブサワケとメドリの処刑から何年か経ったある日、宮中で宴会があった。たくさんの人が招待され、その中にはハヤブサワケとメドリを伐ったオオタテという名の将軍も参加していた。オオタテは、自分の妻を連れて挨拶のためにイワノに酒を注ぎに行った。

酒を注がれ、微笑んで挨拶を交わしたイワノだったが、オオタテの妻の腕に巻かれた腕輪を見ると表情が曇った。

『あの腕輪 ・ ・ ・ ・ ・ 仁徳が気に入って昔よくつけてたやつじゃない。最近見てなかったけど ・ ・ ・ まさか、仁徳のヤツ、人妻まで手を出してっっ!?

・ ・ ・ ・ ・ ・ いや。アイツはD以上、25以下、未婚じゃないとリスクは冒さない ・ ・ ・

まさか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ メドリの死体からオオタテが盗んだのっ??

オオタテ夫婦に強い嫌悪感を抱いたイワノは、その場で酒をぶちまけると「こんな醜い女、顔も見たくないっ!!さっさとここから出て行けっ!!」と妻を追い出し、オオタテを呼び出した。

メドリとハヤブサワケは仁徳を殺そうとしたから処刑されたのっ!!それは当然で仕方の無いことでしょ??なのにお前はっっ ・ ・ ・ メドリの身体がまだ暖かいうちに腕から腕輪を盗むなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんて惨い奴なのっ!!お前なんか死刑だっっ!!!

こうして、オオタテはその日のうちに処刑された。

 

その他、仁徳にんとくは、300才近くなった武内と歌を詠み合ったり、立派な木で船を作ったり、廃材で琴を作ったりなど、後半はどうでもいいような聖帝伝説を残して、83才で亡くなった。

『系図』応神天皇、ナカツヒメ、ヤカワエヒメ、武内宿禰、ヤカワエヒメ、イワノヒメ、仁徳天皇、ウジノワキ、ヤタノワキ、メドリ、ハヤブサワケ、履中、墨江、反正、允恭

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