天皇記『ヤマトタケル』
イヅモタケル
父の
この時、
ヤマトタケルは刀を持っていなかったので、偽の刀を作り腰にぶら下げて、
そんなある日、偶然(?)イヅモタケルに道端でバッタリ出会った。彼はヤマトタケルの10歳くらい年上だろうか。ゴレンジャーでいうと、正義感の強いレッドに抜擢されそうな顔立ちだ。
「あれっ ・ ・ ・ ・ ・ もしかして、イヅモタケルさんですか?」
「ん、そうだが ・ ・ ・ 」
「わぁ!本物だ~!!すご~い!!」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 君は?」
「あっ、すみません!!ボクはヤマトタケルって言います。実は、熊襲からの帰り道で ・ ・ ・ 」
「大和!?朝廷の者か。」
イヅモタケルはあからさまに敵を見る目付きに変わり、剣に手をかけた。
「あっ、スイマセン!別にケンカしに来た訳じゃ無くてっ!!たまたま帰りに通りかかっただけなんです。イヅモタケルさんのことは、噂で聞いてたから ・ ・ ・ すっごく強いんですよね??本物に会えるなんてラッキーとか思って、つい声を掛けちゃって ・ ・ ・ 」
ヤマトタケルは、困ったように上目遣いをしてイヅモタケルを見つめた。彼は、警戒した面持ちでヤマトタケルのことをじっと見据えると、敵意が無いと判断したようで、剣から手を離した。
「 ・ ・ ・ ・ すまない。大和と聞いて、つい警戒してしまった。」
「いえ、いいんです。こちらこそ急に声かけちゃってすみませんでした。」
「いや、こちらが悪い。 ・ ・ ・ 大和のタケルくんは熊襲の帰りと言ったな。今日の宿は決まっているのか?」
「え??まだですけど。」
「なら、うちに泊まるといい。どうせ野宿だろう?」
「えーっ!?いいんですかっ??」
「ま、先ほど無礼の詫びも兼ねてだ。歓迎するよ。」
「わぁ!ありがとうございますっ!!」
「それに ・ ・ ・
イヅモタケルはニカっとイタズラっぽく笑った。
2人はすぐに意気投合し、仲良くなった。そして次の日、ヤマトタケルはイヅモタケルに斐伊川に沐浴をしに行こうと誘った。斐伊川と言えば
斐伊川に着くとヤマトタケルはスグに服を脱ぎ捨てて川に飛び込む。
「実はボク、一週間くらいお風呂入ってないんですよ~。臭くなかったですか??本当すみませんっ!!」
「はっ!そうか。そりゃあ失敗したな。お前が使った布団はよーく洗っておくよ。」
「えー、スグに臭い取れるかなぁ??心配です。ふふっ!!」
とかなんとか喋りながら2人は沐浴を楽しんだ。
そしてヤマトタケルはそそくさと身体を洗い先に川を出ると、服を着ながら物欲しそうにイヅモタケルの剣を見つめた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ イヅモタケルさんの剣、めちゃめちゃカッコイイですねぇ~」
「そうか?もうだいぶボロいぞ?まぁ、長年使ってるから愛着もあるがな。でも、ヤマトの剣の方が新しくていいじゃないか。」
「え~?そうですかぁ??やっぱ、長年使わないと"味"が出ない気がする。」
「はは。そうかもな。」
「ねぇ、イヅモタケルさん、ボク達の剣、交換こして手合わせしません??
「ん?あぁ、いいぞ?でも、怪我しないようにな。」
「はぁい!」
イヅモタケルは、川を出て袴だけ履くと濡れた髪を一つに束ね、ヤマトタケルの刀を腰に差した。ヤマトタケルはニコニコしながらルールを提案した。
「きっとボクの方が弱いから、ボクが"始め"って言ったら一緒に抜刀する感じでいいですか?」
「あぁ。いいぞ。」
「ふふっ、よかった。それじゃ ・ ・ ・ 」
2人はスッと刀を構えた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 始め。」
イヅモタケルはザッと踏み込み剣を抜いた。 ・ ・ ・ いや、抜こうとした。しかし、抜けない。
『硬い? ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、柄と鞘が繋がってる??』
そりゃそうだ。だってヤマトタケルは剣を持っていなかったのだ。彼が交換したのは偽物の剣だった。 しかし、人懐っこい笑顔の友人がそんなことするなんて、イヅモタケルは夢にも思わなかった。彼は混乱の中で一瞬、その友人が狂気に満ちた顔を自分に向けたような気がした。
グサリ。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!?」
「 ・ ・ ・ すみませんね、イヅモタケルさん。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ や ・ ・ ま ・ ・ ・ と?」
イヅモタケルは腹をひと突きされ、自分の置かれた状況も理解できないまま力なく地面に伏した。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ふっ ・ ・ ・ ・ ・ くふふっ!!面白い面白いっ!!」
ヤマトタケルはケタケタ笑ながら上機嫌に歌を詠った。
「
ヤマトタケルは最初からこの作戦でイヅモタケルを殺すつもりでいた。偽の刀は事前にイチイの木を削って形を作り、蔓を巻いて見た目だけ豪華にして腰に差していたのだ。
「ふふっ!ふっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ くふふっ!!」
何かツボったらしく、彼の笑い声は止まらない。端から見ると、完全に
兄さんを殺したときは何も言ってくれなかったけど、確かにあの人は家族だったもんな。父上が喜ばなかった理由もわかる気がする。でも今回は、熊襲だけじゃなくって、山川海の神、そんで
ヤマトタケルは小走りというか、半ばスキップで大和までの道中を進んだ。
しかし
まず、ヤマトタケルの元気な姿を見ると
「そうか。では引き続き、東12ヶ国の荒ぶる神々を平定してこい。」
「え ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『そうか』だけ?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ あっ、えっと、ごめんなさい。そうじゃなくって、その平定って一人だけでやるのかなって。えっと、東の荒ぶる神々は軍を以てしても難しいって聞いた事が ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ならば、矛と供を授けよう。」
「あっ、はぃ ・ ・ ・ ありがとう ・ ・ ・ ・ ・ ・ ございます ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
草薙の剣
こうしてヤマトタケルは大和について休む間もなくまた平定の旅に出かける事になった。
とぼとぼと朝廷を後にしたヤマトタケルは、
伊勢に着くと、斎王の
「オグナ~!待ってたよ~!!あっ、今はタケルだったか。平定の話し聞いたよ??すごいわねぇ~!あんた、大活躍じゃない!!なんか、ちょっと見ないうちにすっかり大人になっちゃった気がするわ~!!」
「 ・ ・ ・ 伯母さん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぁりがと ・ ・ ざいます ・ ・ ・ 」
「ん?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ひっく ・ ・ ・ 」
「えっ!?うそ?泣いてんの??」
ヤマトタケルは、その倭姫の声を聞くと玄関にしゃがみ込み、泣き出してしまった。
彼は
「タケル ・ ・ ・ 大丈夫?ちょっとは落ち着いた?」
「ひっく ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ きっと ・ ・ ・ ・ ・ 父上は、ボクなんか死んじゃえばいいって思ってるんです ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐじゅっ ・ ・ ・ 」
「何言ってんの ・ ・ ・ そんな訳ないじゃない。アイツは昔っから愛情表現とかできない奴なんだって。おばちゃんだって、小さい頃アイツに何度泣かされたかわかんないよ?しかも暴力じゃなくて、陰湿なイジメでだからね。想像できるでしょ?」
「 ・ ・ っく ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ 熊襲だけじゃなくて、山、川、海、
「いやいや、アイツはダメなんだよ。Sの星の元に産まれてきた男だから。褒めたりとかそーいうのできないんだって ・ ・ ・ 」
「でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ 大和に帰ったら休む間もなく東の12ヶ国を平定しろですよ?」
「うーん。それは期待されてるんじゃなくて?」
「期待?まさか。12の国を相手に軍も兵も無しで、与えられたのは、古ぼけた矛と"戦闘能力ゼロの料理番"だけです。抜刀斎の方ならともかく、料理番って ・ ・ ・ ・ ・ これじゃもう、死んでこいって言われてるようにしか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっボクが死ぬことが父上にとっての幸せなんだ ・ ・ ・ 」
ヤマトタケルは体育座りで膝に顔をうずめた。
「はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 思春期の男子ってのは、何ですぐにそういう思考になるのかね? おばちゃんは、タケルが死んじゃったら悲しいけどな。」
「伯母さん ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
少しの沈黙の後、倭姫は何かを思いついたかのようにパチンと手を叩いた。
「あっ!そうだ。おばちゃんが可愛い甥っ子のために良いものをプレゼントしてあげよう!!」
彼女はなぜかドヤ顔だ。
「え ・ ・ ・ ・ ・ ・ プレゼント?」
「 ・ ・ ・ えっと、確かここの引き出しに ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あ、はい。これ。」
彼女は小さな袋を手渡した。中には何か硬いものが2つ入っている。
「何ですか?この石っころ。」
「あんた、自分で火も付けた事無いの??どからどう見ても火打石でしょ??」
「あぁ、火打石か。ボクいつも、縄文スタイルで火ぃ起こしてました。確かに便利。」
「そうだったの??それはそれで、すごいわね。 ・ ・ ・ まぁ、火で困った時には、これがあるってこと、思い出してね。」
「あ、はい。ありがとうございマス ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ 何よ?これだけじゃ不満?」
「えっ?あ、いや、別にそういうわけじゃ無いんですけど、なんか、さっき伯母さん、すごいドヤ顔してたから。」
「ふっふっふ!!気づいちゃいました??実は、もう一個のやつがスゴイんだよねっ。ちょっと待ってて!」
倭姫は奥の部屋から綺麗な包みに入った木箱を取り出し、丁寧に開いた。中もまた綺麗な布に包まれており、さらに開くと立派な剣が入っていた。ヤマトタケルはなぜか鳥肌が立った。
「うわぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ かっこいい ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「いいわよ。抜いてみても。」
剣を手に取ると、ずっしりと心地よい重みがあり、抜くと不思議と手に良く馴染んだ。思わず刃先の美しさに見惚れてしまう。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 綺麗 ・ ・ ・ 」
「綺麗よねぇ ・ ・ ・ とても太古の剣とは思えない。これが"草薙の剣"よ。」
「えっ!?うそっ??草薙の剣っっ!?っ三種の神器じゃないですか!!なんでココにあるんですかっ!!」
「アマテラスの引越しの時に八咫鏡と一緒に持ってきたのよ。この剣も強い力を持ってるからね。大和のオオモノヌシと相性が悪いの。」
「そうだったんだ。ずっと朝廷にあるものかと思ってた ・ ・ ・ ・ ・ でも、こんな貴重なものもらえませんよ。」
「いいのよ、持っていって?アマテラスもそれを望んでるわ。タケル1人で12ヶ国を平定して、あの顔面硬直の景行をギャフンと言わせてやんなさいよ!!ね?だから、持って行って??」
倭姫は草薙の剣をヤマトタケルに押し付けると、にっこり笑った。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ っありがとうございますっ!!」
「絶対に肌から放さないでよね?そうしたらこの剣があんたを守ってくれるわ。」
「はいっ!」
倭姫に励まされたヤマトタケルは、また人懐っこい笑顔を取り戻した。
駿河平定
こうして草薙の剣を手に入れ、平定の旅に向かったヤマトタケルだが、彼はいつの間にか嫁をもらえる年齢になっていた。そこで尾張(愛知)に着くと、この辺で一番可愛いと噂のミヤズヒメの家に立ち寄った。
彼女は噂通りの美しさで、2人はお互いに一目で恋に落ちたのだが、ヤマトタケルは『自分へのご褒美は平定の後に取っておこう』と思い、彼女と夜を共に過ごすこと無く、「東の国を平定し終えたら必ず迎えに来るから」と約束して先を急いだ。
しかし、一度訪れてしまった彼のモテキはとどまる事を知らず、大和からはオトタチバナヒメがヤマトタケルを追いかけてきた。2人がどこで出会ったのかは知らないが、彼女は「私もタケルと一緒に行く」と言って聞かない。
最初は「危ないから」と必死に止めたヤマトタケルだったが、なんだかんだで彼女がついて来てくれた事が
ちなみに"戦闘能力ゼロの料理番"も一緒についてきているはずなのだが、オトタチバナヒメの登場で、彼の視界からは完全にフェードアウトされた。
さて。テンションの上がったヤマトタケルはガンガン東へ進んだ。そして駿河(静岡県)まで来ると国造(くにのみやつこ)の家に立ち寄った。「国造」とは今の県知事みたいな役職の人のことだ。国造はヤマトタケルの姿を見ると驚いたような喜んだような表情で彼を迎えた。
「ヤマトタケル様 ・ ・ ・ あの熊襲と
彼は謙りながら、ヤマトタケルにヘコヘコと頭を下げた。
『おぉ~〜なんだか、RPGのはじまりの村の村長のセリフみたいだ。』
このシチュエーションにさらにテンションの上がったヤマトタケルは、喜んで彼の依頼を引き受けた。
しかし、ヤマトタケルが野原に入ってしばらく歩いても沼は見つからない。と言っても隣のオトタチバナヒメとイチャイチャ話しながら進んでいたので時間は長く感じなかったのだが ・ ・ ・ それにしても、こんな短距離で道に迷ったのかと不安になってきたところで、どこからか焦げた匂いが漂ってきた。
ふと後ろを振り返ると、野原を焼きながら火が迫ってくるではないか。
その火はあっという間に2人に追いつき、絶体絶命のピンチとなってしまった。ヤマトタケルはオトタチバナヒメを呼び寄せ、火の無い方に走らせた。よく見ると炎の向こうに、すげー悪どい顔で笑っている国造が見える。始まりの村の村長が裏切り者なんてまさかの展開だ。そんなクソゲー、購入した覚えはない。
ヤマトタケルは自分の中で何かが『プチン』と切れる音を感じた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ザッ!!
ヤマトタケルは草薙の剣を抜くと自分の周りのまだ焼けていない草を全て薙ぎ払った。(それでこの剣は「草薙の剣」と呼ばれることになるのだが、その前からこの単語を使っていたことに関してはスルーで。) そして「火で困った時に使いなさい。」と、倭姫に渡された火打石で国造側の草に火をつけ、風を放つと、ゴゥっとその火は燃え上がり、押し寄せてきた炎の方向へと向かって行った。やがて、炎同士はぶつかり合い、あっという間に2つの炎は消えてしまった。
後に残ったのは、焼け野原とブチ切れたヤマトタケルだけだ。
ヤマトタケルは火が落ち着くと、オトタチバナヒメを置いて、国造の家に戻った。 ・ ・ ・ まぁ、その後はどうなるかだいたい想像がつくだろう。彼は国造一家をことごとく斬殺し、ケタケタ笑ながらその家に火を放って焼き払った。なので、この地は後に焼津(静岡県焼津市)と呼ばれるようになった。
「へぇ。火打石って便利だなぁ。よく燃えるや。まじでうける。くふふっ!!」
彼は、楽しそうに燃えさかる炎を見つめた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ タケル!!」
遠くでオトタチバナヒメが心配そうに自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。 ヤマトタケルは、にっこり笑うと彼女の元に戻った。