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頬那藝神(ツラナギノカミ)
(日本書紀には同名の神の記載なし())

頬那藝神

波のない水面に、空や木々が映っている。そんな穏やかな景色を思わせる神様が、頬那藝神(ツラナギ)です!

速秋津日子神(ハヤアキツヒコ)と速秋津比売神(ハヤアキツヒメ)の子にあたる神様で、水に関わる八柱のうち三番目に登場します。「頬」と書いて、どうして水の神様なのでしょう? 名前の意味と、今も受け継がれる信仰を見ていきましょう。

古事記・日本書紀での描かれ方

古事記では、水に関わる八柱の三番目

古事記上巻の神生みでは、速秋津日子神・速秋津比売神が河と海を「持ち別けて」、八柱の神を生みます。沫那藝神(アワナギ)、沫那美神(アワナミ)に続くのがツラナギ。その次に、対応する名前の頬那美神(ツラナミ)が登場します。

この記事では、速秋津日子神・速秋津比売神を親神とする読みで紹介します。なお、八柱を生む主体をイザナギ・イザナミとする異説もあります。この読みの違いは、ハヤアキツヒメの記事で詳しく紹介しています。

日本書紀には同名の神の記載なし

日本書紀には同名の神の記載はありません。國學院大學の神名データベースでは、他の文献として、先代旧事本紀の「陰陽本紀」に見える頬那芸神が挙げられています。

神様の名前頬那藝神(頬那芸神)
ツラナギノカミ
親神速秋津日子神(ハヤアキツヒコ)と速秋津比売神(ハヤアキツヒメ)
対となる神頬那美神(ツラナミ)
古事記での登場上巻・神生み。水に関わる八柱の三番目
名前・神格の解釈凪いだ水面を表す神とする説

頬那藝神とは?

ひとことで紹介するなら、静かな水面に関わると考えられる神様です。長い活躍譚がある神ではありませんが、神名を読むと、身近な水の風景が見えてきます。

名前の由来・意味

「頬」は顔のほっぺではなく、水の表面?

「頬」という漢字を見ると、顔のほっぺを思い浮かべますよね。ここでは「ツラ」と読み、表面を意味する言葉に通わせて、水面を表していると解釈されます。

「那藝」は凪、「那美」は波

「那藝」は「凪」と結びつけ、次のツラナミの「那美=波」と対に読む説があります。穏やかな水面と、波立つ水面。名前の似た二柱に、水の静と動を見る読み方です。

一方、名前の末尾を男女の対応として読む説もあります。ただし、ツラナミに「妹」といった記載がないことなどから、男女の神としない説もあります。ここでは、二柱を夫婦と決めず、水面に関わる対の神として紹介します。

登場する神話――水の神々、八柱の子

水の神々の子ども

速秋津日子神・速秋津比売神から生まれる八柱です。アワナギ・アワナミは泡、ツラナギ・ツラナミは水面に関わると読むと、二組の違いが分かりやすくなります。

神様の名前・読み名前から考えられる働き
沫那藝神
アワナギ
泡の静まる様子とする説
沫那美神
アワナミ
泡が波立つ様子とする説
頬那藝神
ツラナギ
穏やかな水面とする説
頬那美神
ツラナミ
波立つ水面とする説
天之水分神
アメノミクマリ
水を分ける働き。「国之」と対
国之水分神
クニノミクマリ
水を分ける働き。「天之」と対
天之久比奢母智神
アメノクヒザモチ
水を汲む器・水の分配に関わるとする説
国之久比奢母智神
クニノクヒザモチ
水を汲む器・水の分配に関わるとする説

※働きの説明は神名に基づく解釈です。古事記本文が一柱ずつ役割を説明しているわけではありません。表は横にスクロールできます。

その後には、水を分ける働きに関わる水分神、水を汲む器と結びつけられる久比奢母智神が続きます。水の姿だけでなく、人や土地に恵みを届ける働きにも目を向けた並びとして読むことができます。

伝承の地――奈良の伊那佐山

ツラナギを祀る都賀那岐神社は、奈良県宇陀市の伊那佐山の山頂に鎮座します。國學院大學の神社データベースでは、この山を神武天皇の東征に関わる伝承地として紹介しています。

ただし、古事記の神生みで、ツラナギが伊那佐山に生まれたと書かれているわけではありません。神生みの場面と、後に神様が祀られた土地の伝承は、分けて見ていきたいですね。

歴史の中で伝えられてきた信仰

國學院大學の解説によると、『日本文徳天皇実録』には仁寿二年(852年)、都賀那木神が官社に列せられた記事があります。『延喜式』神名帳にも、大和国宇陀郡の「都賀那木神社」が記されています。

これは神社の古い歩みを知る手がかりです。現在祀られている神様の名前と、古代の記録に出てくる社名・神名を、そのまま同じ情報として扱わないことも大切です。

御利益(神徳)

雨の恵みと、豊かな実りを願う

都賀那岐神社の公式案内には、干ばつの際、麓の村から松明を持って登り、雨を願ったという伝承が紹介されています。高龗神とツラナギを祀る、水の神様への祈りです。

この伝承から紹介できるのは、雨の恵みや、田畑の実りを願う信仰です。ツラナギ一柱だけの御利益一覧ではなく、二柱を祀る神社で伝えられてきた信仰としてご紹介します。

神名からは静かな水面が浮かびますが、神社では、暮らしに欠かせない雨を願う人々に大切にされてきたのですね。

祀られている主な神社

都賀那岐神社(奈良県宇陀市)

都賀那岐神社の公式案内で、高龗神(タカオカミ)・頬那芸神(ツラナギ)の二柱を御祭神として確認できます。社名の読みは「つがなきじんじゃ」です。

所在地は奈良県宇陀市榛原山路335。標高637メートルの伊那佐山の山頂にあり、公式サイトでは麓の登山口から約30分と案内されています。所要時間は目安として、足元を整えて、自分のペースでお参りしたいですね。

参考資料・出典

神名の解釈や文献上の登場、神社の歴史は國學院大學の公開資料を参照しました。祭神と雨乞いの伝承、参拝案内は都賀那岐神社の公式サイトに基づきます。御利益は神社で伝えられる信仰と、古事記の記述を区別して紹介しています。

この記事の参考資料

國學院大學:古事記ビューアー「神生み」

國學院大學:神名データベース「頬那芸神」

國學院大學:神名データベース「天之水分神」

國學院大學:神名データベース「天之久比奢母智神」

國學院大學:神社データベース「都賀那岐神社」

都賀那岐神社:公式サイト(御祭神・伝承・鎮座地)

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。

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