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天之闇戸神(アメノクラドノカミ)
(日本書紀には同名の神の記載なし())

天之闇戸神

天之闇戸神(アメノクラド)は、山の神・大山津見神と、野の神・鹿屋野比売神の子として登場する神様です。「闇戸」という名前には、日の差し込みにくい谷や、険しい山の地形を表すという解釈があります。

両親にあたるのは大山津見神(オオヤマツミ)と鹿屋野比売神(カヤノヒメ/野椎神)。子八神の第五に登場し、次の国之闇戸神(クニノクラド)と対になる神様です。

天之闇戸神とは?

神様の名前天之闇戸神
アメノクラドノカミ
アメノクラトノカミとも読む
親神大山津見神(オオヤマツミ)・鹿屋野比売神(カヤノヒメ/野椎神)
登場する場面古事記上巻・神生み
神格・名前の解釈暗い谷や険しい地形に関わる神とする説がある。子八神の第五
日本書紀の表記(日本書紀には同名の神の記載なし)

古事記・日本書紀での描かれ方

霧の神々の次に現れる「闇戸」

古事記の神生みでは、山の神・大山津見神と、野の神・野椎神が、山野を分担して八柱の神を生みます。野椎神(ノヅチ)は、鹿屋野比売神の別名。カヤノヒメとノヅチは、ここでは同じ親神を指しています。

その八柱のうち、天之闇戸神は五番目に名が挙がります。直前には天之狭霧神・国之狭霧神が並び、続いて天之闇戸神・国之闇戸神が登場します。霧から闇へと続く名前の並びにも、山野の景色を思わせるものがあります。

この場面で語られるのは、誕生と神名の連なりです。天之闇戸神が誰かと話したり、旅をしたりする個別の物語は記されていません。短い登場だからこそ、親神や、隣に並ぶ神々との関係から読み解いていきたい神様です。

「アメノクラト」という読みも

この記事ではアメノクラドで統一していますが、國學院大學の神名データベースでは「あめのくらとのかみ」と読んでいます。末尾を濁らせない読みもあることを覚えておくと、資料を調べる時に役立ちます。

日本書紀には同名の神の記載はありません。

古事記以外では、『先代旧事本紀』の陰陽本紀に同じ神名が見られます。

名前の由来・意味

クラは、光の届きにくい谷?

「闇戸」のクラを暗い場所や谷と捉え、トを場所の意味とする解釈があります。また、切り立った崖に挟まれた地形など、険しい岩場と結び付ける説もあります。

山を歩くと、開けた斜面から、急に光の少ない谷へ入ることがあります。同じ山の中でも、場所が変わると明るさや空気の感じ方が変わる。その違いを思うと、闇戸という名にも具体的な景色を重ねられますね。

天之闇戸神と国之闇戸神の関係

「天之」「国之」の二つの名には、山と野、高い場所と地上などを対応させる説があります。名前を対にする言葉と考える説もあり、天之闇戸神だけの場所を地図のように区切ることは難しいところです。

私は、二柱を並べることで、山野の暗がりや険しさを、広がりのあるものとして受け止められそうです。明るく見晴らしのよい景色だけでなく、近づく時に身を引き締める場所にも、神の名があるのですね。

風・木・山・野の四神と、山野の子八神

大地の神々

このまとまりには、親子の世代が二つあります。まずイザナギとイザナミから四柱が生まれ、そのうちの山の神・大山津見神と、野の神・鹿屋野比売神が、さらに八柱を生みます。

組内の順神様の名前読み関わるもの・関係
風・木・山・野の四神|親神:イザナギ・イザナミ
1志那都比古神シナツヒコ風の神
2久久能智神ククノチ木の神
3大山津見神オオヤマツミ山の神/下段八神の親神
4鹿屋野比売神
別名:野椎神
カヤノヒメ野の神/下段八神の親神
↓ 大山津見神 + 鹿屋野比売神(別名:野椎神)が生む子八神
子1天之狭土神アメノサヅチ土・山野の境界に関わる神とする説
子2国之狭土神クニノサヅチ土・山野の境界に関わる神とする説
子3天之狭霧神アメノサギリ山野に立つ霧に関わる神とする説
子4国之狭霧神クニノサギリ山野に立つ霧に関わる神とする説
子5天之闇戸神
このページ
アメノクラド暗い谷・険しい地形に関わる神とする説
子6国之闇戸神クニノクラド暗い谷・険しい地形に関わる神とする説
子7大戸或子神オオトマトヒコ山野で道に迷うことに関わる神とする説
子8大戸或女神オオトマトヒメ山野で道に迷うことに関わる神とする説

※上段はイザナギ・イザナミの子、下段は大山津見神・鹿屋野比売神の子として整理しています。数字はそれぞれの組での登場順です。八神を生む主体には文章解釈の違いがありますが、本記事では大山津見神・野椎神の子と読む解釈で整理しています。子八神の神格には諸説があります。色付きの行がこのページの神様です。表は横にスクロールできます。

著者の所感―山野の明るさと、暗さの両方を見る

八神の名前を、土、霧、暗がり、道に迷うことの順につなげて読む説があります。その中で天之闇戸神は、霧の先に現れる、光の届きにくい景色を思わせる存在です。

闇という字から怖い神様と決めるよりも、まずは山野の中にある暗い場所を思い浮かべてみたいところ。木漏れ日の明るさと、谷間の深い陰。その両方があって一つの山だと思うと、神々の名前にも風景の厚みが感じられます。

祀られている神社―水上神社(滋賀県長浜市)

滋賀県長浜市余呉町摺墨648に鎮座する水上神社(みなかみじんじゃ)では、滋賀県神社庁の配祀神一覧に天之闇戸命の名が記されています。狭土・狭霧の神々などとともに、お祀りされる神の一柱です。

古事記で並ぶ狭土・狭霧の神々の名前が、神社の御祭神の案内にも見えるのが印象的です。物語の中で出会った神様に、今も手を合わせられる場所がある。私はそこに、神話と日々の祈りがつながる喜びを感じます。

御利益に寄せて―自然への敬いと、無事を願う心

ここでは、神名に触れて私が託したくなる願いをご紹介します。暗い谷や険しい場所に関わるという解釈からは、山野を行き来する時の無事や、足元をよく見て進む落ち着きを願いたくなります。美しい自然を楽しむ気持ちと、その大きさを敬う気持ちを、両方持っていたいですね。

見えにくい場所でも、急いで決めつけず、よく確かめる。アメノクラドの名前は、そんなふうに自然と向き合う自分の姿勢を、静かに振り返らせてくれるように感じます。

参考資料・出典

古事記の登場場面は原文と読み下しを、神名の解釈や日本書紀との関係は國學院大學の資料を参照しました。神社の紹介は、下記の滋賀県神社庁の案内に基づいています。「こんな願いを託したい」という部分は、神様の名前や信仰から考えた読み手としての受け止め方です。

この記事の参考資料

國學院大學・神名データベース「天之闇戸神」―神名・登場箇所・諸説

國學院大學・神名データベース「鹿屋野比売神」―別名と子八神の解釈

古事記原文「神生み」

ラノベ古事記「神生み神話」原文・読み下し

滋賀県神社庁「水上神社(長浜市余呉町摺墨)」―配祀神

執筆:小野寺優(古事記学会会員・『ラノベ古事記』著者)

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。

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