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森の木も、家を支える柱も、もとは大地に根を張って育った木。その木の神として古事記に登場するのが、久久能智神(ククノチ)です。
イザナギとイザナミの子で、風の神・志那都比古神の次に生まれます。「久久」という少し不思議な名前から、木々と人の暮らしのつながりを見ていきましょう!
久久能智神とは?
| 神様の名前 | 久久能智神 ククノチノカミ |
|---|---|
| 親神 | 伊耶那岐神(イザナギ/イザナキ)・伊耶那美神(イザナミ) |
| 登場する場面 | 古事記上巻・神生み |
| 神格・名前の解釈 | 木の神。風・木・山・野の四神の二番目に登場 |
| 日本書紀の表記 | 句句廼馳 ククノチ |
古事記・日本書紀での描かれ方
古事記はククノチを、はっきり「木の神」と紹介しています。志那都比古神から鹿屋野比売神までの四柱のうち、二番目の神様です。表記は「久久能智神」のほか、繰り返しの記号を用いた「久々能智神」も見られます。
木が一本ずつ植えられていくような場面は語られず、神様の名前が短く示されています。それでも、木という存在そのものに神を見いだしていたことが伝わる、印象的な一節です。
日本書紀では句句廼馳(ククノチ)と書かれ、神代上・第五段の本文に「木の祖」として登場します。同じ段の一書第六でも、木の神々をククノチと呼ぶ記述があります。「一書」は、日本書紀があわせて収めている別伝のことです。
古事記と日本書紀で漢字の見た目は変わっても、木に関わる神としてのつながりは分かりやすいですね。
名前の由来・意味
ククノチの「クク」には、植物の茎に関わる古い言葉とする説と、「木々」に関わる言葉とする説があります。「ノ」はつながりを表し、「チ」は霊的な力や尊い存在を表す語と考えられています。
語源の細かな解釈には幅がありますが、木や植物の生命力に目を向けた名前として読むことができます。春に芽を伸ばし、年を重ねながら幹を太くしていく木を思うと、名前の奥にある力強さも感じられます。
『延喜式』に収められた大殿祭(おおとのほがい)の祝詞には、木の霊として屋船久久遅命(ヤフネククノチノミコト)が登場します。ククノチと関連する神として、宮殿をつくる木材や神聖な柱に宿る神と捉える説が紹介されています。木の神への信仰が、建物を支える柱や、そこで暮らす人々を守る祈りへとつながっていく点も興味深いところです。
森で育った木が、伐り出された後には建物を支える。そう考えると、木の恵みは森の中だけで終わるものではないんですね。私たちが木の家や道具を大切に使うことも、その恵みを受け継ぐ一つの形なのかもしれません。
風・木・山・野の四神と、山野の子八神

このまとまりには、親子の世代が二つあります。まずイザナギとイザナミから四柱が生まれ、そのうちの山の神・大山津見神と、野の神・鹿屋野比売神が、さらに八柱を生みます。
| 組内の順 | 神様の名前 | 読み | 関わるもの・関係 |
|---|---|---|---|
| 風・木・山・野の四神|親神:イザナギ・イザナミ | |||
| 1 | 志那都比古神 | シナツヒコ | 風の神 |
| 2 | 久久能智神 このページ | ククノチ | 木の神 |
| 3 | 大山津見神 | オオヤマツミ | 山の神/下段八神の親神 |
| 4 | 鹿屋野比売神 別名:野椎神 | カヤノヒメ | 野の神/下段八神の親神 |
| ↓ 大山津見神 + 鹿屋野比売神(別名:野椎神)が生む子八神 | |||
| 子1 | 天之狭土神 | アメノサヅチ | 土・山野の境界に関わる神とする説 |
| 子2 | 国之狭土神 | クニノサヅチ | 土・山野の境界に関わる神とする説 |
| 子3 | 天之狭霧神 | アメノサギリ | 山野に立つ霧に関わる神とする説 |
| 子4 | 国之狭霧神 | クニノサギリ | 山野に立つ霧に関わる神とする説 |
| 子5 | 天之闇戸神 | アメノクラド | 暗い谷・険しい地形に関わる神とする説 |
| 子6 | 国之闇戸神 | クニノクラド | 暗い谷・険しい地形に関わる神とする説 |
| 子7 | 大戸或子神 | オオトマトヒコ | 山野で道に迷うことに関わる神とする説 |
| 子8 | 大戸或女神 | オオトマトヒメ | 山野で道に迷うことに関わる神とする説 |
※上段はイザナギ・イザナミの子、下段は大山津見神・鹿屋野比売神の子として整理しています。数字はそれぞれの組での登場順です。子八神の神格には諸説があります。色付きの行がこのページの神様です。表は横にスクロールできます。

木・山・野の神を並べてみると
ククノチの後には、山の神・大山津見神と、野の神・鹿屋野比売神が続きます。木、山、野は、実際の景色の中でも互いにつながっています。
ただ「緑がある」と眺める代わりに、木そのもの、木々を抱く山、その裾に広がる野と、一つずつ名前を呼んでみる。四神の並びは、身近な自然を少し丁寧に見つめ直すきっかけにもなりそうです。
この後の八神を生む親神は、大山津見神と鹿屋野比売神です。ククノチは、その二柱とともに生まれる木の神として、上段の四神に位置します。
祀られている神社
西宮市山口町下山口に鎮座する公智神社(くちじんじゃ)では、久久能智神を、健速須佐之男命・奇稲田姫命とともにお祀りしています。公式サイトも、木の神様をお祀りする神社として案内しています。
兵庫県神社庁に掲載された由緒には、孝徳天皇が有馬温泉を訪れた際、滞在する御殿の建築に、この神社の地から採った木材が使われたと伝えられています。良材を育む土地と木の神への信仰が結び付く、印象的な伝承です。
木と関わる仕事や、木を使ったものづくりに向き合う時には、材料となる木が育ってきた年月にも思いを寄せたいところ。「いただいた木を、よい形で生かせますように」と、感謝を伝えたくなります。
苫小牧市の樽前山神社(たるまえさんじんじゃ)では、大山津見神・久々能智神・鹿屋野比売神の三柱をお祀りしています。公式サイトでは、それぞれ山・木々・原野を司る神として紹介されています。古事記で続けて登場する三柱を、一緒に仰ぐことのできるお社です。
会社や地域の安全祈願、人生の節目の御祈願に加え、地鎮祭や上棟祭も奉仕されています。自然の恵みへの感謝と、住まいや仕事を支える人々の無事への願いを、重ねて手を合わせたくなりますね。
御利益(神徳)―木の恵みを、大切に使うために
木の神に願いを託すなら、森が豊かに育つこと、木に関わる仕事の安全、そして木の恵みに支えられた住まいの平安を祈りたいと思います。ククノチの姿を思い浮かべると、暮らしの中の木製品も、少し違って見えてきます。
一度には大きくなれなくても、時間をかけて根を張り、枝を伸ばしていく。そんな木の育ち方に、自分の仕事や学びを重ねるのも素敵です。「焦らず、しっかり育っていけますように」。ククノチには、そんな願いもお伝えしたくなります!
参考資料・出典
古事記の登場場面や神名の解釈、日本書紀との関係は國學院大學の資料を、神社の紹介は各神社の公式サイト・神社庁の案内を参照しました。それぞれの神社で受け継がれてきた信仰を大切にしながら、参拝の際に託したい願いについても綴っています。
この記事の参考資料
執筆のためのリサーチノート・参考文献
Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。
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