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大綿津見神(オオワタツミ)
(少童命(ワタツミノミコト))

イザナギとイザナミの神生みで、風木津別之忍男神の次に生まれるのが、大綿津見神(オオワタツミ)です!

住まいに関わると考えられている神々に続いて、ここで登場するのは海の神様。神話の景色が、家のまわりから広い海へ、ぐっと広がるようですね。名前の意味や、ほかの「ワタツミ」との関係、海辺で大切にされてきた信仰を見ていきましょう。

古事記・日本書紀での描かれ方

古事記では、神生みの八番目に登場!

古事記上巻では、国生みを終えたイザナギとイザナミが、続いて神々を生みます。大事忍男神から数えて八番目に生まれるのが大綿津見神。本文には「海神」と役割が明記されています。

ここでいう八番目は、国生みの後に始まる神生みでの順番です。前には風木津別之忍男神、次には水門の神・速秋津日子神と速秋津比売神が登場します。

日本書紀では「少童命」という海神が登場

日本書紀の神代上・第五段の一書第六には、海神を「少童命(ワタツミノミコト)」と呼ぶ記述があります。「一書」は、本文とは別に収められた異伝のこと。古事記の「大綿津見神」とは表記を分けて紹介します。

「少童」と書くと、幼い子どもの神様を想像してしまいますね。この字と、童の姿をした水神の信仰との関係を考える説もあります。ただ、記紀の物語に、この海神が子どもの姿だと描かれているわけではありません。

大綿津見神とは?

ひとことで紹介するなら、イザナギとイザナミから生まれた、広い海をつかさどる神様です。

海は、魚や貝を育み、人や荷物を運んでくれる場所。でも、ひとたび荒れれば、近づくことさえ難しくなります。恵みをいただく感謝と、無事を願う気持ち。その両方を受け止めてくれそうな神様ですね!

神様の名前 大綿津見神
オオワタツミノカミ
歴史的仮名遣い おほわたつみのかみ
親神 イザナギ・イザナミ
古事記での登場 上巻・国生みの後。神生みの八番目
本文に記された役割 海の神
関連する海神 禊の綿津見三神、海幸山幸の綿津見大神
※それぞれの登場場面と関係は、下で紹介します。

名前の由来・意味

「ワタツミ」は、海の神霊という意味

國學院大學の解説では、名前の「ワタ」は海、「ツ」は「〜の」にあたる言葉、「ミ」は神霊を表すとされています。「大」は、その神様をたたえる言葉。合わせると、大いなる海の神霊というイメージです。

「綿」の字がありますが、ふわふわした綿の神様ではありません。「綿津見」は音を表すために漢字を借りた表記とするのが基本的な説明です。一方、「ミ」を、海を見守る主宰者の意味に読む説も紹介されています。

山の神「オオヤマツミ」と似ていますね

同じ神生みには、山の神・大山津見神(オオヤマツミ)も登場します。「ワタ」と「ヤマ」を並べると、海と山が向かい合うようですね。國學院大學の「神生み」の注釈でも、対応する神名として説明されています。

登場する神話(国生みから神生みへ)

国生みの後に生まれる、最初の十柱です。大綿津見神の前には、住まいに関わる神々と解釈されてきた名前が並びます。

順番 神様の名前 読み 関わるもの・解釈
1大事忍男神オオコトオシオ国生みや神生みの大事業に関わるとする説
2石土毘古神イワツチビコ住居に関わる神という説
3石巣比売神イワスヒメ住居に関わる神という説
4大戸日別神オオトヒワケ住居に関わる神という説
5天之吹男神アメノフキオ住居に関わる神という説
6大屋毘古神オオヤビコ家屋に関わる神という説
7風木津別之忍男神カザモツワケノオシオ住居に関わる神という説
8大綿津見神オオワタツミ海の神
9速秋津日子神ハヤアキツヒコ水門の神
10速秋津比売神ハヤアキツヒメ水門の神

※国生みを終えた後の、神生みでの順番です。「住居に関わる神」は神名に基づく解釈。海と水門については古事記本文に記されています。表が画面に収まらない場合は横にスクロールできます。

住まいの神々という読み方をすると、大綿津見神の登場は、家から自然へと視線が移る区切りのようにも感じられます。この後も、水門、風、木、山、野へと神々が続きます。島が生まれ、その島を取り巻く世界が、少しずつ豊かになっていくようですね。

綿津見三神・海幸山幸の海神との関係

禊で生まれる「綿津見三神」とは?

古事記には、名前に「綿津見」がつく神様が、ほかにも登場します。黄泉の国から帰ったイザナギが体を清める場面では、水底で底津綿津見神、水の中で中津綿津見神、水の上で上津綿津見神が生まれます。この三柱が「綿津見三神」です。

大綿津見神はイザナギとイザナミの神生み、綿津見三神はイザナギの禊による誕生。まずは、この場面の違いを覚えると分かりやすいですね。古事記が阿曇連(アヅミノムラジ)たちの祖神と記すのも、禊で生まれた三柱です。

山幸彦を助ける、海の宮の神様

さらに「海幸山幸」の物語には、海の宮に暮らす綿津見大神が登場します。兄から借りた釣り針をなくした火遠理命(ホオリ/山幸彦)を迎え、娘の豊玉毘売(トヨタマビメ)と結婚させる神様です。

海神は釣り針を捜す手助けをし、帰る時には、潮を満たす珠と引かせる珠を授けます。困った時に頼りになるうえに、海を動かす力まで持っている。とても心強いお義父さんですね!

豊玉毘売の妹は、玉依毘売(タマヨリビメ)です。二柱を海神の娘としてたどる時には、この海幸山幸につながる系譜として読むと、話がつかみやすくなります。

みんな同じ神様、と考えていい?

神生みの大綿津見神と、海の宮の綿津見大神をつなげて読む解釈があります。國學院大學の「神生み」の注釈も、後の物語で活躍する山と海の神が、ここでイザナギとイザナミの子に位置づけられる点を重視しています。

一方、同大学の神名データベースは、さまざまな「ワタツミ」をすべて同じ性質の神としてまとめられるかには、慎重な見方を示しています。このページでは、海の神々としてのつながりを紹介しながら、どの場面のワタツミなのかも添えています。

伝承の地

桂浜の岬に祀られる、海の神様

高知県の桂浜には、海を望む龍王岬に海津見神社(龍王宮)があります。高知市の公式案内が挙げる祭神は、大綿津見神です。

古事記の神生みの場面には、この神様が桂浜で生まれたとは書かれていません。こちらは、後に海辺の人々が神様を祀り、大切にしてきた土地。神話の名前が、身近な海の風景と結びつく場所なのですね。

歴史の中で伝えられてきた信仰

古い歌にも登場する「ワタツミ」

ワタツミへのまなざしは、古事記だけに見られるものではありません。國學院大學の『万葉神事語辞典』によると、万葉集にも、海神が潮を満ち干させるという歌や、海神に雨を願う歌があります。ここで歌われるワタツミは、海神一般への信仰を知る手がかりです。

航海の無事と、豊かな漁を願って

大綿津見神の名を掲げる信仰の例として、北海道の野付神社があります。北海道神社庁の由緒では、安政5年(1858年)、藤野四郎兵衛が野付半島の龍神崎に、航海の安全と大漁を祈って大綿津見神を祀ったことを創始としています。

神話の中では短い紹介でも、海で働く人にとっては、毎日の暮らしに関わる大切な神様。「今日も無事に戻れますように」という願いが、信仰を支えてきたのでしょうね。

御利益(神徳)

海上安全・大漁を願う神様

大綿津見神には、航海の安全や豊かな漁を願う信仰があります。野付神社の由緒は、その願いを具体的に伝えています。船に乗る時や、海に関わる仕事をする時、無事を祈って頼りたい神様ですね。

雨や晴れ、商売や良縁への願いも

桂浜の海津見神社について、高知市は、海上安全や漁業の豊かさに加え、祈雨祈晴・商売繁盛・良縁成就の神徳も紹介しています。祈雨祈晴は、雨を願ったり、晴れることを願ったりする祈りです。これらは、同社で伝えられている信仰として紹介できる御利益です。

海の恵みに感謝しながら、働く人も、帰りを待つ人も、穏やかに過ごせますように。そんな願いを、一緒に届けたくなりますね!

祀られている神社・関連する神社

海津見神社(龍王宮/高知県高知市)

高知市の公式案内で、大綿津見神を祭神として確認できる神社です。桂浜公園内の龍王岬に鎮座し、若宮八幡宮が管理しています。海に向ける感謝や、暮らしの願いを重ねてお参りしたい場所です。

船魂神社(北海道函館市)

北海道神社庁の案内では、大綿津見神とともに、塩土翁命・須佐之男神を祀っています。函館市元町に鎮座し、函館港や港で働く人々の安全と繁栄を願う信仰を集めています。

社記に基づく由緒では、保延元年(1135年)にさかのぼる創始を伝え、津軽海峡の海難を避け、海上安全を願って祀られたといいます。創始の年代は、神社が伝える由緒として受け止めたいところです。

野付神社(北海道別海町)

北海道神社庁の案内に、祭神を大綿津見神と記す神社です。現在の鎮座地は別海町尾岱沼潮見町。先に紹介した龍神崎での祭祀を源流とし、尾岱沼で暮らす人々の信仰とともに受け継がれてきました。

大海神社(大阪府大阪市)――海の宮の神を祀る関連神社

住吉大社の摂社です。住吉大社の公式案内は、祭神を豊玉彦命・豊玉姫命と記し、海幸山幸神話の海の宮の神と、その娘として紹介しています。ここでは、その神話につながる関連神社として取り上げます。

同社は延喜式内社と案内され、社前の「玉の井」には、山幸彦が海神から授かった潮満玉を沈めたという伝承があります。神話の不思議な珠に、ぐっと近づけそうなお話ですね!

参考資料・出典

古事記の記述と研究上の解釈は國學院大學の公開資料、祭神と地域の信仰は神社庁・神社・自治体の公式案内を参照しました。日本書紀の表記は同大学の解説によって確認しています。神名データベースが挙げる研究書は、今回は直接参照していません。

この記事の参考資料

國學院大學:古事記ビューアー「神生み」

國學院大學:神名データベース「大綿津見神」

國學院大學:古事記ビューアー「みそぎ②」

國學院大學:神名データベース「綿津見神」

國學院大學:神名データベース「玉依毘売」

國學院大學デジタル・ミュージアム:万葉神事語辞典「わたつみ」(月岡道晴)

高知市:龍王岬・海津見神社

北海道神社庁:船魂神社

北海道神社庁:野付神社

住吉大社:摂社・大海神社

執筆のためのリサーチノート・参考文献


Writer’s Note:
本記事は、國學院大學の公開資料や古典文献・研究資料を参考に、作家・クリエイターであり、古事記学会会員でもある小野寺 優(ラノベ古事記 著者)が執筆しています。本文の記述や研究者の解釈をご紹介しながら、物語を楽しむ視点から、著者自身の考察も添えています。

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