国生み神話

二度目の結婚式を終えると、イザナミはまたすぐに身籠った。

縁側に座ったイザナミは、大きくなった自分のお腹を優しく撫でている。

その横顔には、喜びの中に消せない不安の色が滲にじんでいた。

僕が彼女の手に自分の手を重ねると、イザナミは驚いて顔を上げる。

イザナミ

イザナギ……?

イザナギ

大丈夫だよ……今度こそ

その言葉に、イザナミは涙を浮かべて微笑む。

僕は出産の無事を祈って、また新しく産屋うぶやを建てた。

そして、ついにその日がやってきた。

イザナミが出産のために産屋に入り、扉が閉められる。

僕は一人、その前を行ったり来たり、全く落ち着くことができなかった。

イザナギ

大丈夫。今度こそ、うまくいく。そうに決まってる……!!

イザナギ

でも……もしまた…………

最悪の想像が頭をよぎり、僕はギュッと目をつぶった。

と、その時。

静寂せいじゃくを突き破るように、力強く、高らかな声が響き渡った。

.anim_background{ opacity:0; transition: 0.5s; text-align: center; margin: 1.388888vw 0; } .anim_background.on{ transition: 0.5s; opacity:1.0; } body.background{ background: #fff2aa; transition: 0.5s; color: #FEFAF7; }
イザナギ

産声……産声だ!

僕はいてもたってもいられず、産屋の扉をバタンと開く。

イザナギ

イザナミっ!!

そこには、最高に幸せな顔で微笑むイザナミと、僕らの赤ちゃんがいた。

.anim_background{ opacity:0; transition: 0.5s; text-align: center; margin: 1.388888vw 0; } .anim_background.on{ transition: 0.5s; opacity:1.0; } body.background{ background: #faf1e8; transition: 0.5s; color: #FEFAF7; }
イザナミ

イザナギ……私、やっと…………

イザナギ

ああっ! おめでとう、イザナミっ!! 本当に……

イザナギ

本当におめでとう!!!

僕は、感無量かんむりょうでイザナミを強く抱きしめた。

今度は悲しみを分けるためじゃない。

幸せを一緒に喜ぶための抱擁ほうようだ!

我が子のあまりの可愛さに、僕がその小さな体を抱き上げた……その時。

イザナギ

あれ? この子、なんか、急速に体が大きくなってない?

赤ちゃんの体がミシミシと音を立てて、みるみるうちに巨大化していくではないか。

イザナミ

きゃっ! イザナギ、ちゃんと赤ちゃんのこと抱えてあげてよ!!

イザナギ

え? えええっ!? いや、これはさすがに無理な大きさでは!? どんどん体が膨ふくらんで……

イザナギ

ってか、これ、島になっていってない?? 肌が土で、髪の毛が草????

僕らがテンパっている間に、我が子はついに産屋をバキバキッ!!と、破壊はかいしてしまった。

そして、オノゴロ島よりも大きくドドーンと海に飛び出し……

あっという間に立派な一つの島になったのだ。

イザナギ

えええええええ?????????

イザナミ

びびびび……びっくりしたぁぁ!!!!!

なにがなんだか分からず、僕らは体をふわりと宙に浮かせて、眼下の我が子を見下ろす。

すると何もなかった島に、みるみる緑が広がっていく様子が見えた。

まるで絵の具を落としたみたいに、若草色が僕らの赤ちゃんを覆おおっていく。

イザナミ

綺麗……

やがて真っ白な砂浜が岸辺を縁取り、そこへ穏やかな波が「おめでとう」とささやくように打ち寄せた。

イザナギ

……ミナカヌシ様が言っていた『国を生み成せ』って、こういうことだったんだ

生まれたばかりの子を、イザナミは愛しそうに見つめている。

そして、ぽつりとつぶやいた。

イザナミ

……決めた。この子の名前、『淡路島あわじしま』にする

イザナギ

あわじしま?

イザナミ

うん。ヒルコちゃんと淡島ちゃんの次に生まれた子だから、淡路島

イザナミ

この子に、二人の兄弟がいたことを、覚えていてほしくて……

イザナミ

どうかな?

うまく島にならなかったヒルコと淡島は、僕らの子どもの数には入らない。

でも、この名前なら……

イザナギ

うん…………

イザナギ

すっごくいい名前だ!!

涙がポロポロ頬を伝っていく。

お互い涙でぐしゃぐしゃになった顔を見ると、僕らはやっと心から笑い合えた。

こうして最初に生まれた子どもは、淡道之穂之狭別島あわじのほのさわけのしま、淡路島だった。

イザナギ

よーし!
それじゃあ、この調子でガンガン国生みしてこー!!

イザナミ

おー!!

一度コツを掴んでしまえば、そこからの国生みは早かった。

次に生まれたのは伊予之二名島いよのふたなのしま(四国)だ。

イザナギ

わ、おもしろい。この子、体は一つなのに顔が四つもある

イザナミ

ふふっ! 名前も四つ付けてあげなくちゃだね?

僕らはその四つの顔に、それぞれ

愛比売えひめ(伊予国・愛媛県)、

飯依比古いいよりひこ(讃岐国・香川県)、

大宜都比売おおげつひめ(粟国・徳島県)、

建依別たけよりわけ(土左国・高知県)

ということにした。

次に生まれたのは、隠伎之三子島おきのみつごのしま(島根県 隠岐諸島)。

別名は天之忍許呂別あめのおしころわけ。

その次は、筑紫島つくしのしま(九州)。

この子も顔が四つあったので、

白日別しらひわけ(筑紫国・福岡県)、

豊日別とよひわけ(豊国・大分県)、

建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけ(肥国・佐賀県と長崎県と熊本県北部)、

建日別たけひわけ(熊曾国・熊本県南部と鹿児島県)

ということにした。

その後も、伊岐島いきのしま、別名は天比登都柱あめひとつばしら。次に津島つしま、別名は天之狭手依比売あめのさでよりひめ。

次に佐度島さどしまを生んだ。

こうしてトントン拍子に、国生みが進んでいた、ある日……

イザナミ

きゃあ!

と、イザナミの大きな叫び声が聞こえた。

イザナギ

イザナミ!? 大丈夫か!?

僕は慌てて産屋の扉を開けようとしたが、その前に産屋がバキャバキャ!!!っと破壊され、巨大な島が内側から飛び出してきたではないか。

八番目に生まれたのは、ひときわ大きくて立派な、大倭豊秋津島おおやまととよあきつしま……別名は、天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけ。

本州だったのだ。

イザナミ

びびびび……びっくりしたよぉ!!

イザナギ

デカッ!!! 大きすぎて、上の方、見えないんだけどっ!!!!

僕らはその豪快ごうかいな誕生に、思わず笑い合った。

改めて空に浮かんで、八つの若々しい島を見下ろす。

これが全部、僕らの子どもだなんて……

なんて誇ほこらしいんだろう!!

イザナミ

私たちの可愛い可愛い子たち

イザナミ

八つの大きな島々は合わせて、『大八島国おおやしまのくに』って呼ぶね!

イザナギ

おお! カッコイイ!!

イザナギ

イザナミはネーミングセンスもいいなぁ♡

僕がイザナミの聡明そうめいさと優やさしさと愛いとしさと可愛かわいらしさに惚れ惚れして、へらっと笑うと、イザナミがクスッと吹き出す。

僕らは思わずハイタッチをした。

イザナミ

本当に立派な国になったね!

イザナミ

これだけ大きければ、もう、広さは十分じゃないかな?

イザナギ

ええっ!?

それって、もう、出産は終わりってこと!?

僕らには、まだまだ夫婦の楽しい営いとなみの時間が必要だと思うのですが……

イザナギ

あっ、あー。えっと。で、でも……

イザナギ

ほら。見て、イザナミ!

イザナミ

ん?

イザナギ

あそこと、あそこ。島と島の間が、少し広くて寂さみしくないかな?

イザナミ

確かに……少し、寂しいかな?

イザナギ

寂しいよっ!!!

イザナギ

それに、あの辺にも島を生んでおかないと、日本の排他的経済水域はいたてきけいざいすいいきが狭せばまるし……!!

イザナギ

僕らの可愛い大八島が、より豊かに暮らせるように、弟や妹たちを、追加で産んであげるのはどうだろうか?

僕がキリッとキメ顔で提案をすると、イザナミは心底幸せそうに微笑んだ。

イザナミ

いい考え!

イザナミ

イザナギは、優しいパパだね?

イザナギ

ウッ……

イザナギ

うんっ♡

僕の良心は若干痛んだが、喜んでくれたし、嘘もついてないし、問題はない!!

こうして本州出産の帰り際に、

吉備児島きびのこじま、別名は建日方別たけひかたわけ(岡山県児島半島)、

小豆島あずきしま、別名は大野手比売おおのでひめ(香川県小豆島)、

大島おおしま、別名は大多麻流別おおたまるわけ(山口県周防大島)、

女島ひめしま、別名は天一根あめひとつね(大分県姫島)、

知訶島ちかのしま、別名は天之忍男あめのおしお(長崎県五島列島)、

両児島ふたごのしま、別名は天両屋あめふたや(長崎県男女群島)と、

吉備児島から天両屋島まで、合わせて六つの島を生んだ。

こうして何もなかった海の上に、日本の元となる形ができあがった。

国生み神話MAP

相関図・神様一覧

国生み相関図
国生みをする神
大八島国
・ 淡路島
アワジシマ
古事記名:淡道之穂之狭別島
伊予之二名島の四つの面
・ 愛比売
エヒメ
伊予国
・ 隠岐之三子島
オキノミツゴノシマ
隠岐/別名:天之忍許呂別
筑紫島の四つの面
大八島国の続き
・ 壱岐島
イキノシマ
古事記名:伊岐島/別名:天比登都柱
・ 対馬
ツシマ
古事記名:津島/別名:天之狭手依比売
・ 佐渡島
サドシマ
古事記名:佐度島
・ 本州
ホンシュウ
古事記名:大倭豊秋津島/別名:天御虚空豊秋津根別
六島
・ 吉備児島
キビノコジマ
児島半島/別名:建日方別
・ 小豆島
アズキシマ
別名:大野手比売
・ 大島
オオシマ
屋代島とする説など/別名:大多麻流別
・ 姫島
ヒメシマ
古事記名:女島/別名:天一根
・ 知訶島
チカノシマ
五島列島/別名:天之忍男
・ 両児島
フタゴノシマ
別名:天両屋
※斜体は、『古事記』の記述を現代語訳した箇所です。
Author & Historical Supervisor:小野寺優
Illust:駒碧 × AI × Canva
#らのこじ感想 をXでシェアする
当サイトラノベ古事記が
書籍化しました!

月間50万PVの「古事記」現代語訳サイト『ラノベ古事記』がついに書籍化しました!
サイト読者の方にもさらに楽しんでいただけるよう、日本神話のエピソードに限界まで愛を加筆しています。個性豊かな神々の中から、ぜひあなただけの「推し神様」を見つけてください!かなり分厚い一冊になりましたが、ポチっと応援していただけたら嬉しいです!

詳細をチェック!



著書一覧