
二度目の結婚式を終えると、イザナミはまたすぐに身籠った。
縁側に座ったイザナミは、大きくなった自分のお腹を優しく撫でている。
その横顔には、喜びの中に消せない不安の色が滲んでいた。
僕が彼女の手に自分の手を重ねると、イザナミは驚いて顔を上げる。

イザナギ……?

大丈夫だよ……今度こそ
その言葉に、イザナミは涙を浮かべて微笑む。
僕は出産の無事を祈って、また新しく産屋を建てた。

そして、ついにその日がやってきた。
イザナミが出産のために産屋に入り、扉が閉められる。
僕は一人、その前を行ったり来たり、全く落ち着くことができなかった。

大丈夫。今度こそ、うまくいく。そうに決まってる……!!

でも……もしまた…………
最悪の想像が頭をよぎり、僕はギュッと目をつぶった。
と、その時。
静寂を突き破るように、力強く、高らかな声が響き渡った。


産声……産声だ!
僕はいてもたってもいられず、産屋の扉をバタンと開く。

イザナミっ!!
そこには、最高に幸せな顔で微笑むイザナミと、僕らの赤ちゃんがいた。


イザナギ……私、やっと…………

ああっ! おめでとう、イザナミっ!! 本当に……

本当におめでとう!!!
僕は、感無量でイザナミを強く抱きしめた。
今度は悲しみを分けるためじゃない。
幸せを一緒に喜ぶための抱擁だ!
我が子のあまりの可愛さに、僕がその小さな体を抱き上げた……その時。

あれ? この子、なんか、急速に体が大きくなってない?
赤ちゃんの体がミシミシと音を立てて、みるみるうちに巨大化していくではないか。

きゃっ! イザナギ、ちゃんと赤ちゃんのこと抱えてあげてよ!!

え? えええっ!? いや、これはさすがに無理な大きさでは!? どんどん体が膨らんで……

ってか、これ、島になっていってない?? 肌が土で、髪の毛が草????
僕らがテンパっている間に、我が子はついに産屋をバキバキッ!!と、破壊してしまった。

そして、オノゴロ島よりも大きくドドーンと海に飛び出し……
あっという間に立派な一つの島になったのだ。

えええええええ?????????

びびびび……びっくりしたぁぁ!!!!!
なにがなんだか分からず、僕らは体をふわりと宙に浮かせて、眼下の我が子を見下ろす。
すると何もなかった島に、みるみる緑が広がっていく様子が見えた。
まるで絵の具を落としたみたいに、若草色が僕らの赤ちゃんを覆っていく。

綺麗……
やがて真っ白な砂浜が岸辺を縁取り、そこへ穏やかな波が「おめでとう」とささやくように打ち寄せた。

……ミナカヌシ様が言っていた『国を生み成せ』って、こういうことだったんだ
生まれたばかりの子を、イザナミは愛しそうに見つめている。
そして、ぽつりとつぶやいた。

……決めた。この子の名前、『淡路島』にする

あわじしま?

うん。ヒルコちゃんと淡島ちゃんの次に生まれた子だから、淡路島

この子に、二人の兄弟がいたことを、覚えていてほしくて……

どうかな?
うまく島にならなかったヒルコと淡島は、僕らの子どもの数には入らない。
でも、この名前なら……

うん…………

すっごくいい名前だ!!
涙がポロポロ頬を伝っていく。
お互い涙でぐしゃぐしゃになった顔を見ると、僕らはやっと心から笑い合えた。
こうして最初に生まれた子どもは、淡道之穂之狭別島、淡路島だった。

よーし!
それじゃあ、この調子でガンガン国生みしてこー!!

おー!!
一度コツを掴んでしまえば、そこからの国生みは早かった。
次に生まれたのは伊予之二名島(四国)だ。


わ、おもしろい。この子、体は一つなのに顔が四つもある

ふふっ! 名前も四つ付けてあげなくちゃだね?
僕らはその四つの顔に、それぞれ
愛比売(伊予国・愛媛県)、
飯依比古(讃岐国・香川県)、
大宜都比売(粟国・徳島県)、
建依別(土左国・高知県)
ということにした。

次に生まれたのは、隠伎之三子島(島根県 隠岐諸島)。

別名は天之忍許呂別。
その次は、筑紫島(九州)。

この子も顔が四つあったので、
白日別(筑紫国・福岡県)、
豊日別(豊国・大分県)、
建日向日豊久士比泥別(肥国・佐賀県と長崎県と熊本県北部)、
建日別(熊曾国・熊本県南部と鹿児島県)
ということにした。

その後も、伊岐島、別名は天比登都柱。次に津島、別名は天之狭手依比売。

次に佐度島を生んだ。

こうしてトントン拍子に、国生みが進んでいた、ある日……

きゃあ!
と、イザナミの大きな叫び声が聞こえた。

イザナミ!? 大丈夫か!?
僕は慌てて産屋の扉を開けようとしたが、その前に産屋がバキャバキャ!!!っと破壊され、巨大な島が内側から飛び出してきたではないか。
八番目に生まれたのは、ひときわ大きくて立派な、大倭豊秋津島……別名は、天御虚空豊秋津根別。

本州だったのだ。

びびびび……びっくりしたよぉ!!

デカッ!!! 大きすぎて、上の方、見えないんだけどっ!!!!
僕らはその豪快な誕生に、思わず笑い合った。
改めて空に浮かんで、八つの若々しい島を見下ろす。
これが全部、僕らの子どもだなんて……
なんて誇らしいんだろう!!

私たちの可愛い可愛い子たち

八つの大きな島々は合わせて、『大八島国』って呼ぶね!

おお! カッコイイ!!

イザナミはネーミングセンスもいいなぁ♡
僕がイザナミの聡明さと優しさと愛しさと可愛らしさに惚れ惚れして、へらっと笑うと、イザナミがクスッと吹き出す。
僕らは思わずハイタッチをした。

本当に立派な国になったね!

これだけ大きければ、もう、広さは十分じゃないかな?

ええっ!?
それって、もう、出産は終わりってこと!?
僕らには、まだまだ夫婦の楽しい営みの時間が必要だと思うのですが……

あっ、あー。えっと。で、でも……

ほら。見て、イザナミ!

ん?

あそこと、あそこ。島と島の間が、少し広くて寂しくないかな?

確かに……少し、寂しいかな?

寂しいよっ!!!

それに、あの辺にも島を生んでおかないと、日本の排他的経済水域が狭まるし……!!

僕らの可愛い大八島が、より豊かに暮らせるように、弟や妹たちを、追加で産んであげるのはどうだろうか?
僕がキリッとキメ顔で提案をすると、イザナミは心底幸せそうに微笑んだ。

いい考え!

イザナギは、優しいパパだね?

ウッ……

うんっ♡
僕の良心は若干痛んだが、喜んでくれたし、嘘もついてないし、問題はない!!
こうして本州出産の帰り際に、
吉備児島、別名は建日方別(岡山県児島半島)、
小豆島、別名は大野手比売(香川県小豆島)、
大島、別名は大多麻流別(山口県周防大島)、
女島、別名は天一根(大分県姫島)、
知訶島、別名は天之忍男(長崎県五島列島)、
両児島、別名は天両屋(長崎県男女群島)と、
吉備児島から天両屋島まで、合わせて六つの島を生んだ。

こうして何もなかった海の上に、日本の元となる形ができあがった。



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