日本神話『 天地開闢 てんちかいびゃく

アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カムムスビ

日本の始まり

この国の歴史は世界がまだ未完成で、神様すらいなかったところから始まる。

現在の世界は『神の住む天界』『人の住む地上』『死者の住む冥界』の三層に分かれているけれど、その頃は地上も天界もまだ分かれていなくて、冥界は存在すらなかった。ただ世界は混沌と、どこまでもどこまでも続いていた。

そこから長い長い時間をかけて 天地開闢 てんちかいびゃく したとき ・ ・ ・ ・ まぁ、つまり、天と地がなんとなく分かれたとき。やっと1人の神が生まれた。

彼の名前は 天御中主神 アメノミナカヌシノカミ 。"アメノ"は苗字みたいなものだから、"ミナカヌシ"が名前になるのだろう。日本に生まれた最初の神だから彼が最高神ってことになる ・ ・ ・ ・ ・ ・ はずなんだが。神話の中で彼が他の神からそんな扱いを受けるシーンは1度も出てこない。言ってしまえば、空気な神だ。ミナカヌシは生まれてから、しばらくの間ボーっとしていたが、特に何もする事が無かったので、とりあえず姿を隠す事にした。

その後に生まれたのが 高御産巣日神 タカミムスビノカミ だ。名前が長いので、いつもは 高木神 タカギノカミ って呼ばれている。 高木神 タカギ はふわふわした感じの癒やし系で、周りにはよくピヨピヨと鳥が飛んでいる。雲の上というよりは森の中に住んでいそうな雰囲気だ。しかしその時は彼もすることが無かったので、すぐに姿を隠した。

続いて生まれたのが 神産巣日神 カムムスビノカミ 。カムムスビは見た目は男、中身は女、そしてその正体はオネェだ。恋バナとイケメンが大好きで、神を結ぶという意味の自分の名前を「愛のキューピッドみたいじゃない?」とか言って非常に気に入っている。この時は、彼もすぐに姿を隠してしまった。

その後も2人、 宇麻志阿斯訶備比古遅神 ウマシアシカビヒコヂノカミ 天之常立神 アメノトコタチノカミ とかいう神が現れて姿を隠した。この最初に生まれた5人が 「別天つ神」 ことあまつかみ と呼ばれる特別な神だ。

最初に生まれた彼らにはまだ性別という概念が無かった。
男でも女でもない 独神 ひとりがみ と呼ばれる神々なのだ。なのでカムムスビは、自分は地上のオネェよりは女性に近い存在なのだと常日頃から主張している。

それからも続々と神が生まれて来るが、別に全員を覚える必要は無い。なんせこの後、 別天つ神 ことあまつかみ の中でも話に出てくるのは、 高木神 タカギ とカムムスビくらいなもんなのだ。あ、あと、空気な最高神のミナカヌシがちょっぴりだけ。

さて、 別天つ神 ことあまつかみ の後にさらに2人の 独神 ひとりがみ が生まれると、その後にやっと性別のある神が生まれた。男女ペアの神が5組だ。この5組のペア神と2人の 独神 ひとりがみ は合わせて、 「神代七代」 かみのよななよ って呼ばれている。

その中で一番最後に生まれた、 伊邪那岐命 イザナギノミコト 伊邪那美命 イザナミノミコト が最初の主人公になる神だ。名前くらいなら聞いた事があるだろう。なんせこれから日本の島々を産む神なのだ。

こうして神々の数が増えてくると、おしゃべりも増え、そのうち天界は 『高天原』 たかまがはら 、地上は 『葦原の中つ国』 あしわらのなかつくに 、いつの間にか発生した冥界は 『黄泉の国』 よみのくに と呼ばれるようになった。

しかし 高天原 たかまがはら が活気づく一方で、 葦原の中つ国 あしわらのなかつくに は全く栄える気配が無かった。海は広がっているものの、島も人も見当たらない。それを不思議に思ったミナカヌシは、 高木神 タカギ とカムムスビを呼びつけて会議を開いた。
3人は 葦原の中つ国 あしわらのなかつくに を盛り上げるにはどうしたらよいか話し合い、その結果、末っ子のイザナギとイザナミを降ろし、国づくりをさせることに決めた。

ミナカヌシは早速イザナギとイザナミを呼びつけ、地上に国を作るよう命じた。そしてイザナギに 天沼矛 アメノヌボコ という、玉飾りの凝った装飾がしてある美しい矛を渡した。この矛には地面を固める不思議な力があるから、小さな島くらいなら作れるはずだ。
イザナギは 天沼矛 アメノヌボコ を受け取ると、まだあどけなさが残る顔の上にハテナを浮かべながら質問した。

"くに"って ・ ・ ・ とか、とか、とかがいるやつですか?」

「そうそうそんな感じ。何か困ったことがあったら、いつでも帰っておいで。」

なんて適当に答えて2人を送り出したものの、実はミナカヌシにも国って何なのかよくわかっていなかった。だって、この時はまだ人間どころか島すら無かったのだからしょうがない。

こうして、この国は神々の気まぐれから作られることになった。

イザナギとイザナミ

イザナギとイザナミ

別天つ神 ことあまつかみ の神殿を出たイザナギは 天沼矛 アメノヌボコ を片手に持ち、 呆然 ぼうぜん と立ち尽くした。だいたい、国づくりをしてこいって、こんな矛を渡されたものの、コレ一本で何ができるんだろう。

ていうか、そもそも『国』って一体なんなんだ。

イザナギはとりあえず、自分たちが降りる場所が必要だと思った。だって地上にはまだ島すら無く、海の上に油みたいな、よくわかんないものがプカプカとクラゲみたいに漂っているだけなのだ。イザナギは、イザナミを連れて 天浮橋 アメノウキハシ に向かった。この頃はまだ天と地の間が近かったので、 天浮橋 アメノウキハシ からは 葦原の中つ国 あしわらのなかつくに がよく見えたのだ。

「ねぇ、イザナギ!見て見てっ!!水の上になんか変なのが浮いてるっ。気持ちわるーい!!」

葦原の中つ国 あしわらのなかつくに を見たことがなかったイザナミは、無邪気にはしゃいだ。超かわいい。彼女のおかげで少しだけテンションの上がったイザナギはミナカヌシに言われた通り 天沼矛 アメノヌボコ で地上をつっつくことにした。

早速、2人が海に矛を突き刺し『こおろ、こおろ』と掻き回して引き上げると、矛の先から塩が滴りみるみるうちに固まって、小さな島ができた。
思ったよりも簡単に島ができたので、イザナギのテンションはさらに上がった。せっかくなのでその島の名前を考えた。

「ねぇ、イザナミ。この島、 淤能碁呂島 おのごろじま って名前にしない??ここに神殿を作ろうよ。そこで一緒に住むんだ!」

「わぁ!楽しそぉっ!!」

イザナギの提案をイザナミは大喜びで賛成してくれた。こうして、2人は 淤能碁呂島 おのごろじま に降り、大きな大きな神聖な柱を建てて、それを中心に広い神殿を築いて住んだ。


そんなある日のこと、イザナギはずっと前から気になっていた疑問をイザナミに投げかけた。

「 ・ ・ ・ ・ ねぇねぇ、イザナミ、君と僕って一緒に生まれたのに、なんか形が違う気がしない?? ・ ・ ・ 君の身体ってどんな形してるの?


「え??なんか、身体の形はできてる気がするんだけど ・ ・ ・ ・ ・ 」


「だけど?」


「うーん、あのね、私の体 ・ ・ ・ 何か足りないところがあるの。


「へぇ!!実は僕の体もだいたいできてるっぽいんだけど、なんか余計なものがくっ付いてるんだ!!ずっと気になってたんだけど ・ ・ ・ ・ ・ 何でなんだろ??」

好奇心旺盛に目を輝かせるイザナギだったが、正直なところ、イザナミはその答えを知っていた。しかし、ここはとりあえず、知らないフリをする。

「うぅん ・ ・ ・ なんでかしらね?」

しかし、イザナギは早々に答えを導き出す。

「ねぇ!もしかしたらさ、君の足りたいところを僕の余計なところで埋めたら、なんか良いことが起きるんじゃないかな??」

「えっ!?ヤんのっっ??」

「ん??やる??何を???」

予想外の展開にイザナミは戸惑った。いやいやいやいや。女子の足りないところを男子の余分なところで補うアレって言ったらソレしかないだろ。そう思いながらも念のため確認をする。

「 ・ ・ ・ ・ ・ 本当に分からないの?カムムスビ様にあれやこれや詳~しく聞かされなかった??」

「なんだよ ・ ・ ・ 。知ってるなら教えてよ。」

イザナギは少しイライラした様子で答える。どうやら本当に分からないらしい。

「うぅん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかった。じゃあ、教えてあげる。」
「やった!」
「でも、その前にしたいことがあるの。」
「何?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・結婚。
「結婚??わぁ。楽しそうっ!!なんだか、大人な展開だね!!」

『いや、エッチなことする時点で大人な展開なんだけど。』とイザナミは思ったが、そこはスルーした。とりあえず、籍さえ入れてしまえばこっちのものだ。イザナミは結婚式の準備をそそくさと進めた。

こうして準備が整うと早速、日本初の結婚式が始まった。イザナミはいつもより豪華な衣装を身に纏い、とっても幸せそうだ。そんな彼女に見とれていたイザナギは、いざ本番になるとガチガチに緊張した。

2人はまず神聖な柱の前に背中を合わせて立った。そして、柱の周りをイザナギは左から、イザナミは右からくるりと周り、出会ったところでハイテンションのイザナミから声をかける。

「まぁ!なんて素敵な方なんでしょうっ!!」

続いてイザナギがドキドキしながら、ぎこちない返事を返した。

「ワァ。なんてキレイなヒトなんだ。」

こうして、日本初の結婚式は、あっさりと終わった。

「よし!これで、結婚成立ねっ♪」

イザナミはとっても満足気だ。一方のイザナギは一瞬で終わってしまった結婚式に戸惑っていた。


え??早っっ!!本当にこれでいいの??てか、僕の方から、声掛けた方がよかったんじゃない?」


「いいのいいのっ!さっ、お布団に行きましょ♪♪」

イザナミは、イザナギの手を引っぱりさっさと寝室に向かった。

「えっ??イザナミ??ちょと ・ ・ ・ 待ってよ!!え?何っ??なにっ??何すんのっっ??? ・ ・ ・ ・ ちょ ・ ・ ・ 待っ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぅっ♥

こうして2人はトントン拍子に初夜を迎えた。

国産み

イザナミはすぐに 身籠 みごも り、出産をした。しかし2人の間に最初に生まれた子供は、ヒルのような形をした 水蛭子 ひるこ だった。ちゃんとした島にならなかったので、仕方なく葦の船に乗せて海に流すことにした。

2人はまた抱き合ったが、次の子も海にふよふよと浮く泡のようで、できそこないの 淡島 あわしま だった。2回もちゃんとした子供を産めなかったイザナミは意気消沈してしまった。

いつも笑顔のイザナミが体育座りのまま動かない。ていうか、すんげー負のオーラが出ている。めっちゃへこんでる。困ったイザナギは彼女を励まそうと、 別天つ神 ことあまつかみ に相談しに行くことにした。

2人が久しぶりに 高天原 たかまがはら に戻ると、ミナカヌシは優しく迎え入れ、 太占 ふとまに で占ってくれた。 太占 ふとまに とは、雄鹿の骨を焼いて、入ったヒビを見て占うことだ。

ミナカヌシはヒビを見ながら、2人に質問をした。

「うーーん ・ ・ ・ もしかして、結婚式の時、イザナミの方から声をかけた?」

「はい ・ ・ ・ 」

イザナミが答えると、たまたま同席していたオネェのカムムスビが、横から間を入れずに声を上げた。

「んもぉ!それじゃぁダメよ!!プロポーズは男性からしなくっちゃ!!!」

「「なっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ なるほどっ!!」」

子供がうまく産めなかった原因に、とっても 納得 なっとく した2人は、カムムスビに何度もお礼をいうと、最後までアドバイスを言い切れなかったミナカヌシの 哀愁漂 あいしゅうただよ う後ろ姿を横目に 淤能碁呂島 おのごろじま に戻った。

余談 よだん だが、ミナカヌシの出番はこれで終わりだ。

さて。家に帰ると2人は再び結婚の儀式を行った。神聖な柱をくるりと周り、今度はイザナギから声をかける。

「わぁ!なんて素敵な女性なんだ!」

イザナミもこれに答えた。

「まぁ!なんて素敵な殿方なんでしょう!!」

こうしてサラッと2回目の結婚式を終え、抱き合うと、今度は次々と立派な島々が生まれた。

2人は最初に産まれた島を 淡路島 あわじしま と名付けた。うまく形にならず、海に流してしまった淡島を忘れないようにと思いを込めた。

さらに次々と、四国、隠岐の島、三島、 筑紫島 つくしのしま (九州)、 壱岐島 いきのしま 、対島、佐渡島、そして、 大倭豊秋津島 おおやまととよあきつしま (本州)を産んだ。

これらの島は、「 大八島 おおやしま と呼ばれた。

だいたい国の形ができて、満足したイザナミだったが、「いや!まだ人が住むには狭いよっ!!狭すぎるよっ!!!」というイザナギの必死の訴えによって、2人はまた抱き合い、吉備の児島、小豆島、大島、姫島、知訶島、両児島を産んだ。

こうして何も無かった海の上に島々が並び、日本の元となる形ができたのだった。

『系図』別天つ神:アメノミナカヌシ、タカミムスビ、カムムスビ、神代七代:イザナギ、イザナミ

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