天皇記『雄略天皇と神』

雄略天皇

葛城山の神

雄略天皇ゆうりゃくてんのうの『アホの子伝説』は、女性絡みの話しだけではない。アカイコとの約束から時を遡って、まだ雄略ゆうりゃくが天皇になりたての頃に話しは戻る。

雄略ゆうりゃくは狩りをするために葛城山に登っていた。

すると見たこともないくらい巨大なイノシシが現れた。まるで、あの映画に出てきた山の神みたいだ。

 

『 ・ ・ ・ ・ っっかっけぇ!!殺すっ!!!』

 

テンションの上がった雄略ゆうりゃくは、岩陰からイノシシを追い、弓を構えた。そして、狙いを定め ・ ・ ・

『トンッ』と見事に矢を命中させた。

「よっし!!!」 と、雄略ゆうりゃくが岩陰から立ち上がると、イノシシと目が合った。遠くからでも目がゴウゴウと怒りに満ちているのがわかる。

『あれっ??矢ぁ、刺さってんのに ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全然効いてないっ???』

雄略ゆうりゃくはサアッと血の気が引くのを感じた。彼が後ずさり、慌てて踵を返すと、それを合図にイノシシは全速力で突進してきた。

「早っっ!!!」

雄略ゆうりゃくも全力で走ったが、あっという間にすぐ後ろまで追いつかれてしまった。しかも目の前には巨木が立ちはだかる。

「クソッ!!!!」

っと、雄略ゆうりゃくはその木に飛びついた。その瞬間、

 

『ドスンッッッ!!!』

 

イノシシの激しい突きで、巨木は大きく揺れた。雄略ゆうりゃくは手を滑らせたが、落ちたら殺される。必死に枝にしがみついた。そうしているうちに、イノシシは第二波のために助走をつけている。

 

「やばいやばいやばいやばい!!!!!」

 

雄略ゆうりゃくはさらに木の上まで登り強くしがみ付いた。

 

『ドスンッッッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』

『ドスンッッッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』

『ドスンッッッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』

 

定期的な間隔で巨木に激しい振動が走る。恐怖で半泣きになりながら雄略ゆうりゃくは歌を詠った。

 

「オレ様、天下を治める天皇なのにっ!!!怪我したイノシシが、怖すぎて何にもできねぇ!!!!頼むっっ!!誰か助けてくれぇぇぇ!!!!!!!」

 

雄略ゆうりゃくはぎゅーっと木にしがみつき、イノシシの怒りが収まるのを待ち続けた。やがてイノシシは大人しくなり『てめー、今度ふざけた真似しやがったらタダじゃおかねぇからな??』とでも言わんばかりに、鼻息を「ブフッ!!」と鳴らすと山の奥に帰って行った。

 

さて。九死に一生を得た雄略ゆうりゃくは、また葛城山に登る用があったので、今度は用心して、大勢の家臣を連れて歩いた。家臣には、自分でデザインした紺の着物に赤い帯を締めさせて、おそろいの制服を着せた。

すると、向こうの山にも鏡に写したように全く同じ格好をした行列が見えてきた。

「なんだ?アイツら。このオレ様のスタイルをパクってんのか??ムカつく。殺す。」

雄略ゆうりゃくが矢を放とうとすると、向こうも構えてきた。

「 ・ ・ ・ ・ へぇ。このオレ様に矢を向けるとは、いい度胸してるじゃねぇか。オィ!アンタ名は?

 

すると、むこうの先頭を歩いていた人がこちらを向いてうれしそうに喋った。

 

ふふっ!君、面白いよね。私、人前に姿見せるの好きじゃないんだけど ・ ・ ・ この前、ツボっちゃって ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。」

「あぁ??アンタ何言ってんだ?オレ様は名前を聞いてるんだ。」

「あっ、ごめんなさい。 ・ ・ ・ ・ ・ 私は一言主大神(ひとことぬしのおおかみ)と申します。この山で守り神やってます。」

「へっ?? ・ ・ ・ 神っっ!?

雄略ゆうりゃくは、また血の気がサアッッと引くのを感じた。

「はい、神です。得意技は言葉にした吉凶をリアルにすることです。」

「それ、最強やん ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「でも、急に神様なんて胡散臭いですよね? ・ ・ ・ もしよければ、天変地異か何か起こしましょうか? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 今。

一言主大神は優しい笑顔でニッコリ微笑んだ。

まずい。

この笑顔はアレだ。

人間の命なんて、蚊の命とさして変わらないと思っている人の笑顔だ。

 

「っっいやッッ!!大丈夫デスッッッ!!!オレ、神様めっちゃ信ジテマスカラッッッ!!!!まじ、アーメンッッッス!!!」

 

ブフッッッッ!!!!ふっ ・ ・ ・ ふふふふっ!!面白い ・ ・ ・ 君、面白過ぎる ・ ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ 神様に矢を向けるのは良くないよね?」

 

「あぅっっ!!すみませんデシタァァァっっ!!!」

 

雄略ゆうりゃくは慌てて一言主大神に土下座をすると、クルリと家臣の方を向き、

 

 

「テメェら全員、脱げぇぇ!!!フンドシ以外、身についてるモン全部、差し出すんだあぁぁ!!!!」

 

 

と叫んで、刀や、弓矢、服まで全部脱ぎ捨ててて、一言主大神に献上した。そして雄略ゆうりゃくはフンドシ一丁でまた土下座した。

一言主大神はパチパチ手を叩いて大喜びし、献上の品を受け取った。

それから、一言主大神に道を案内され、無事に山を抜けた一行は、そのままフンドシ一丁で目的地に向かい、そこで何とか服を譲ってもらえたのだが ・ ・ ・ ・ 道中で色んな人に目撃され、この面白すぎる噂は世界中に広まり、やがて『はだかの王様』とかいう絵本になってロングセラーしたとかしないとか。

雄略ゆうりゃくをひどく気に入った一言主大神は帰りも現れて一行を見送った。それ以来、雄略ゆうりゃくは葛城山に行く度、彼に絡まれたという。

雄略天皇、アマテラス

アマテラスの神託

さてさて。雄略ゆうりゃくと神様のお話はもう1つ残っている。

既に忘れ去られているかもしれないが、雄略ゆうりゃくは天皇だ。神様と血が繋がっている、あの、ちゃんとした天照大御神の家系の神聖な人だ。だから、大悪天皇とかアホの子とか呼ばれながらも、しっかり伝統は守って、新嘗祭や国見儀礼やなんやと神様に感謝をする儀式は執り行っていた。

そんなある日、彼は神床で神託を仰いだ。天皇が神様に夢でアドバイスをもらうあの儀式のことだ。しかし儀式とか言いながら、雄略ゆうりゃくは爆睡していた。すると・・・

 

ペチン。

 

雄略ゆうりゃくは謎の女性に頬を叩かれた。しかし、全く気付かない。

 

ペチン。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ やはり無反応だ。

 

・ ・ ・ ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ベチンッッ!!!!

 

「ん ・ ・ ・ んぁ? ・ ・ ・ 痛てぇ ・ ・ ・ 誰 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐぅ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

えっ!?嘘っ??まだ寝るのっ??ちょっと ・ ・ ・ 起きてよ雄略 ・ ・ 話しが進まないじゃない。」

「んー ・ ・ ・ ・ ・ ・ 無理 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

ちょっ!!無理じゃないわよ。せっかく伊勢から着たのにっ!!ねぇ ・ ・ ・ 起きてってば!!」

「 ・ ・ ・ るせーな ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ デリヘル頼んだ覚えは ・ ・ ・ ねぇ。」

あぅっ!!何で崇神すじんと同じ勘違いすんのよ ・ ・ ・ あんたたち、いつも神床で何やってるわけ??」

「んー? ・ ・ ・ ・ ・ ・ そりゃぁ ・ ・ ・ ・ ・ 神聖な ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 儀式だ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

雄略ゆうりゃくは気怠そうに半分起き上がり、謎の女性の腕を掴んだ。

「??」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 試してみるか?」

そしてそのまま、彼女に覆い被さる。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!!ギャーーー!!!」

 

ベチンッッッ!!!!

 

「痛って!!!」

 

ベチンッッッベチンッッッベチンッッッベチンッッッ・・・

 

「痛っ!!痛っ痛っ痛てぇよ!!ふざけんな!!殺すぞっ!!!オィ!!チェンジ!!!チェンジだチェンジ!!」

 

「っっ雄略のバカあぁぁぁぁ!!!!!!」

 

彼女は叫ぶと泣き出した。

 

「うわ。やべぇ。面倒くせぇ。何で泣くわけ??泣けば許されると思ってるわけ??そーいうの嫌いなんだけど。だいたい、アンタ誰なんだよ。

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ アマテラス。」

「あぁ?? ・ ・ ・ アマ ・ ・ ・ ・ ・ テラ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっ ・ ・ ・ マジで??

「マジよ。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ マジか。」

 

ここまできてやっと雄略ゆうりゃくは彼女のことをじっくり見た。確かに言われてみればこの世のモノとは思えないような美しい着物を着ている。ていうか、ふよふよ浮いている。『コレ本物じゃん。』雄略ゆうりゃくはなんだか嫌な予感がした。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ え ・ ・ ・ もしかして、また引っ越しがしたいとか ・ ・ ・ ・ ・ そーいう感じのやつを神託とかホザく気じゃねぇだろうな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「ちっ!!違うわよっ!!そーいうのじゃないのっ!!もっと大変なのっっ!!私の命に関わる重要な神託なのっっ!!!」

「あぁ?本当かよ?マジ、嫌な予感しかしねぇんだけど。」

「あぅ。あなたもっとご先祖様に対する敬意の念とかないわけ??

「アンタに威厳を感じることができねぇ。」

「なっ ・ ・ ・ 何よっ!!日本は、ご先祖様をちゃんと大切にする国なのっっ!!トップがお手本にならなくてどうすんのよっ!!!!あなた天皇でしょっ???

「知るかよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まぁ、とりあえず聞いてやるから言ってみ?」

えっ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ ・ ・ ・ えっと、あのね ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私 ・ ・ ・ お腹が ・ ・ ・ ・ ・ ・ 空いたの。」

「あぁ???」

「ちっっ違うのっっっ!!!あの、私、もう年齢もわからないくらいおばあちゃんでしょ???だからね、うまくご飯食べられないのっ!!!」

「いや、意味わかんねぇ。」

「こぼしちゃうのっっ!!障がい者なのっっ!!!一人じゃスプーンも持てないのっっ!!!!」

雄略ゆうりゃくはよくわからない言い訳にイライラした表情で天照大神アマテラスを見つめた。

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ だから何なんだよ?

 

「えっ ・ ・ ・ だから ・ ・ ・ ・ ・ 誰か ・ ・ ・ そばで一緒にご飯食べてくれる人が欲しい ・ ・ ・ 」

 

寂しいのか。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それなら斎王がいるだろ?オレの娘も伊勢に送ってやったじゃねーか。」

「だって、人間じゃ、おしゃべりしながら一緒にご飯食べられないでしょう??それに斎宮って意外と神宮から遠いし ・ ・ ・ 貢物とか言っていろいろくれるけど、生米って結構固いのよ??お魚だって目が合うから食べる時、本当ごめんなさいって思うし ・ ・ ・ 」

「おぃ ・ ・ ・ ・ ・ ちょっと待った。まさか今までの貢物全部、生で食ってたのか??」

「えっ??みんな生で食べないの?」

「いやいや。神がどうやって飯食ってるのかなんてオレが知るわけねぇだろ。高天原たかまがはらで調理とかするんじゃねぇの??」

「そりゃ、高天原たかまがはらではちゃんとご飯係の人がいて、お料理作ってくれるわよ??でも、こっちにいる時は、みんながくれたもの食べてるから ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ ・ ・ 自分で調理したりは?」

「え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ コンロの火のつけ方わかんない。」

「アンタ、太陽神だろ。」

「違うのっ!!私やると、地球が燃えちゃうのっ!!人類滅亡の危機なのよっ!!!」

「 ・ ・ ・ あぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ めんどくせぇ ・ ・ ・ 。はぁ。したら、誰か適当に祀ってやるよ ・ ・ ・ 。料理がうまくて、話し相手になって、面倒見が良くて、アンタのワガママに耐えられる神 ・ ・ ・ ・ ・ ・ いるかわかんねーけど。」

 

すると天照大神アマテラスパアッと笑顔になった。

 

「ふふん!そうっ!!そうよっ!!分かればいいのよ分かればっ!」

 

「どうしよう。遠回しの拒否が通じねぇ。 ・ ・ ・ つーか、誰祀りゃいいんだよ。オレ、そんなに神、詳しくないぜ??」

「大丈夫!目星は付けてるの!!トヨウケちゃんって子なんだけど、料理がとっても上手なのよっ♪♪」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ トヨウケ?」

豊受大神(とようけのおおかみ)。イザナミの孫で食物の神。私の姪っ子??」

「創造神の孫、ちゃん呼ばわりかよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「それじゃ、近いうちにちゃんと祀ってよねっ!!私ん家の近くにっっ!!!!」

「あぁ? ・ ・ ・ はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まぁ ・ ・ ・ わかったよ。」

 

雄略ゆうりゃくの曖昧な返事に天照大神アマテラスうれしそうに笑ったかと思うと、次の瞬間には朝になっていた。全然、寝た気になれなかった雄略ゆうりゃくはその日は昼までフテ寝した。そしてすぐに取り掛かるのは癪だったので、数ヶ月後から伊勢神宮に外宮を作り始め、数年後に豊受大神を祀った。

 

こうして伊勢神宮には、天照大御神が祀られる『内宮』と、豊受大神が祀られる『外宮』ができた。

 

雄略ゆうりゃくはアホの子伝説をいろいろ残しながらも、後半は高句麗に滅ぼされた百済を復興させたり、宋から技術者を招き、養蚕業を推進させたりと、なんだかんだで真面目な業績も残し、124歳でこの世を去った。

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