日本神話『天孫降臨てんそんこうりん

アメノオシホミミ、オモヒカネ

天照大神アマテラスの孫ニニギ

タケミカヅチより、オオクニヌシが国を譲り黄泉に行ったとの報告を受け、天照大神アマテラスは身の引き締まる思いがした。国譲り自体は目的ではない。ここからが本当のスタートなのだ。彼女は両親ができなかったことを成し遂げたかった。

 

「よし。早速、長男のアメノオシホミミに統治者として降りてもらいましょう。」

 

「えっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?」

 

天照大神アマテラスの決意を横目に、思金神オモヒカネはつい声が出てしまった。オシホミミと言えば国譲りの時、一番最初に逃げ帰ってきた奴じゃないか。

あんな頼りない奴で大丈夫かな ・ ・ ・

しかし、天照大神アマテラスは気にする様子も無くオシホミミを部屋に呼んだ。彼は今日もなんだか気怠そうにしている。うぅん。やっぱり心配だ。

 

「オシホミミ、あなたが統治者として、葦原の中つ国あしわらのなかつくにを治めなさい。」

「え ・ ・ ・ ・ ・ ・ めんどks ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

ほら、やっぱり嫌そうじゃん。この人絶対、人の上に立つのとか向いてないって。

思金神オモヒカネは心の中で、オシホミミが断るようにと祈った。

その願いが届いたのかどうかは分からないが、オシホミミはオシホミミで必死に断る理由を考えていた。だって、この状況で葦原の中つ国あしわらのなかつくにに降りたら、絶対、高天原たかまがはらに帰って来れないじゃないか。

嫌だよ。この生温い生活を捨てて下界に行くなんて。絶対に嫌だ。でも、母さんのことだ ・ ・ ・ 簡単には断れないし、それなりの理由が必要だな ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「あーーー ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ 俺も行きたいのはヤマヤマなんだけどなぁ ・ ・ ・ ・ ・ すげぇ準備してたんだけどなぁ ・ ・ ・ でも、ちょっと無理かも。」

 

「はぁ??なんでよっ???」

 

天照大神アマテラスはご立腹の様子だ。オシホミミは面倒くさそうに頭をぽりぽり掻いた。

 

「んーーいやー ・ ・ ・ ・ ・ ・ 実はさぁ ・ ・ ・ できちゃったんだよね。」

 

「え?できちゃったって何がよ。」

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 子供。」

 

「はぁっっっ!?いつの間にっ???相手は誰よっ???」

 

・ ・ ・ チラッ。

 

思金神オモヒカネは一瞬、オシホミミからの視線を感じた。
ん?何だよ。誰なんだよ?思金神オモヒカネに漠然とした不安がよぎった。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 千々姫。」

 

「っっっつつ!!!!なんだとっっっ!!!!????

テメェ、俺の妹に何してくれてんじゃゴルアァァァァ!!!!!!!!」

 

千々姫といえば、思金神オモヒカネが溺愛している妹だ。思金神オモヒカネの目が完全に血走っている。天照大神アマテラスは、彼がこんなにブチ切れている姿を初めて見た。普段全然怒らないせいもあって、めっちゃ怖い。

 

「ちょっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 思金神オモヒカネ、落ち着いてよ ・ ・ ・ !」

 

思金神オモヒカネをなだめる天照大神アマテラスを無視して、オシホミミは面倒くさそうに彼を睨み返した。

 

「 ・ ・ ・ んなこと言ったって、しょうがねーじゃんか。あいつが勝手に乗っかってきたんだから。」

 

ブチィッ!!思金神オモヒカネはオシホミミの胸ぐらに掴みかかった。

 

「ふっっざけんなあぁぁ!!!俺の妹がそんなにエロいわけがないっっ!!!!」

 

「るせーな ・ ・ ・ 別にいーじゃねぇか、やっちまったもんは。」

 

「いいわけ無ぇだろっ!!許さねぇよっっ!!!表に出ろっ!!!ブッ殺!!!」

 

「チッ ・ ・ ・ めんどくせぇなぁ。このシスコン野郎 ・ ・ ・ ・ ・ ・ やんのか?あぁ??

 

「あぁ!望むところだっ!!!」

 

「ちょっ!!思金神オモヒカネ、落ち着いてってば!!!」

 

このままだと殺し合いもしかねないと、天照大神アマテラスが慌てて思金神オモヒカネを止めると、この騒ぎを聞きつけた千々姫が慌てて仲裁に入って来た。

 

「わぁーーわぁーーーー!!!!ミミぃ、お兄ぃストーーーーーップ!!!!!! ストーーーーーーーーーップ!!!!!!」

 

思金神オモヒカネの血走っていた目が、急に涙目に変わる。

 

「あぅっっ!!千々ぃぃぃ~~~!!!大丈夫だったかっっ??この男に変なことされたのかっっ????

クソッッ!!お兄ちゃんが今すぐ、黄泉に送ってやるからなっっっ!!!」

 

思金神オモヒカネは今にも十拳の剣とつかのつるぎを抜きそうだ。千々姫は必死にそれを押さえつけた。

 

「お兄ぃ、落ち着いてってば!千々とミミは、ラブラブでベビーちゃんを授かったのっっ!!!もっと、喜んでよ!!」

 

「は??で ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ ほら、ニニギ、入って来なさい。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

千々姫の声を聞いて、扉の後ろから小走りで少年が入って来た。そそくさと、母親の後ろに隠れると、不安そうな上目遣いで思金神オモヒカネのことを見つめた。

 

「 ・ ・ ・ っっ!!」

 

「ほら、ニニギ、おじちゃんにご挨拶は?」

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ こんにちは。オモヒカネおじちゃま ・ ・ ・ 」

 

ズキューン!!

 

思金神オモヒカネはハートに矢の刺さる感覚がした。これが甥っ子 ・ ・ ・ めちゃめちゃ可愛いっっ!!!

 

「ふふ~可愛いでしょう??」

 

「かっ ・ ・ ・ かわ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ブフッッッ!!!

 

思金神オモヒカネがニニギに心を奪われたその瞬間。横腹にタックルを受け吹き飛ばされた。天照大神アマテラスだ。

 

「きゃーーー可愛い~~♥♥♥

やだぁーー私おばあちゃんじゃなぁ~~~い!!!

なんか、変な感じ!!孫かぁ~たまんないわぁ~~~!!!」

 

「つーわけだから、ニニギに行かせよう。」

 

どさくさに紛れてオシホミミが提案をする。

 

うんうん、大賛成っっ!!ニニギちゃん、葦原の中つ国あしわらのなかつくにに降りて、国を治めるのよ。わかった?」

「はいっ、おばぁちゃま!」

「う"っっっ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ え ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ おばぁちゃまって、間違ってはいないんだけど ・ ・ ・ 間違ってはいないんだけどね ・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん ・ ・ ・ 試しに、アマテラちゃまって呼んでみようか。」

「?? ・ ・ ・ アマテラちゃま??」

「はうぅっっ♥よし。これでいこう!!私、ニニギちゃんが地上に降りる前に、道が安全か確認してくる~~!」

 

天照大神アマテラスはスキップをしながら部屋を出た。

「あ、私も行きます!!」思金神オモヒカネも後に続く。

 

そんな2人の後ろ姿を見て、オシホミミはホッと胸を撫で下ろした。

「よかったなー。国を治めるんだてさー。がんばれよーニニギ。」

「はいっ!!」

ニニギの純粋な笑顔が輝いた。

国つ神の使者サルタビコ

高天原たかまがはら葦原の中つ国あしわらのなかつくにを繋ぐ、天浮橋アメノウキハシに着いた天照大神アマテラス思金神オモヒカネは、対岸から見えないように姿勢を低くし葦原の中つ国あしわらのなかつくにの方向を偵察していた。橋の入り口では、すんごく光ってる人が立って道を塞いでいる。

「 ・ ・ ・ あからさまに怪しいですね。ニニギを危険な目に遭わせる訳にはいかない。おじちゃんが、全力で守るっっ!!!

思金神オモヒカネ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

どうやら、彼の中でオシホミミの件は脳内消去されたようだ。精神的に追い詰められると記憶を無くすことがあるって聞いたことあるけど ・ ・ ・

どんだけ妹、好きなんだよ。

「アメノウズメに様子を見てきてもらいましょう。彼女は、どんな男でも油断させる不思議な力を持っている。」

「 ・ ・ ・ うん、そうね。」

とりあえず、いつもの調子に戻ったので良しとしよう。2人は一度神殿に戻り、天照大神アマテラスを天岩戸から出す時にダンスで大活躍したウズメに、光る人の様子を見てくるように頼んだ。

 

ウズメは、小走りで光る人に近づいて行った。光る人が、急にそわそわし出す。彼女の胸元から視線を逸らすのに必死の様子だ。遠くから様子を覗いていた天照大神アマテラス思金神オモヒカネは、目を見合わせ『よしっ!』と頷いた。

 

「こんにちわ。ねぇ、おじさぁん、そんなところで何してるの??」

 

「はっっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!おっぱ・・いや、えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私は、サルタビコと申しまして ・ ・ ・ えぇと ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの、国つ神なんですが、その ・ ・ ・ 天つ神の御子がいらっしゃるって聞いて ・ ・ ・ ・ ・ ・ その ・ ・ ・ 道案内に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

「ふぅん?じゃあ、おじさん優しい人なんだ??」

 

「は ・ ・ ・ はいっ、優しい人です!!」

 

「そっかぁ~~おっけー♪♪じゃあ、準備してくるから、ちょっと待っててね!」

 

「は ・ ・ ・ はいっ!」

 


 

「 ・ ・ ・ というわけでございますたっ♪♪」

 

ウズメは元気よく天照大神アマテラスに報告をした。

 

「そっか。変な人じゃなくてよかった。じゃあ、いつまでも待たすのも申し訳ないし、こっちも早く準備しなくちゃね。」

 

天照大神アマテラスは報告を受けると、天岩屋戸あまのいわやどの時に活躍した思金神オモヒカネ、ウズメ、コヤネ、フトダマ、タヂカラオと、他3人に、ニニギと一緒に葦原の中つ国あしわらのなかつくにに降りるよう指示を出した。

メンバーは旅支度を済ませると、続々と、天浮橋アメノウキハシに集まり、道案内人のサルタビコの元へ向かった。

「岩戸のメンバーが久しぶりに勢ぞろいだな。」コヤネが懐かしそうに笑った。

「うん、懐かしい!」フトダマが相づちを打つ。

「お前も大人になったよなぁ!!」タヂカラオは天照大神アマテラスの頭をポンポン叩いた。

うっ ・ ・ ・ うるさいわねっ!!私が一番信頼してるメンバーなんだからっっ!!!頼むわよ??」

「あいあいさぁー♪♪」ウズメが楽しそうに手を上げた。

 

「それと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ニニギ ・ ・ ・ これをあなたに授けるわ。」

 

天照大神アマテラスは、大切そうに3つの道具を取り出した。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ これは?」

 

"三種の神器"よ。これは、八咫鏡やたのかがみと、八尺瓊の勾玉やさかにのまがたま。私が挫けそうだった時に助けてくれたアイテム。で、これが草薙の剣。弟の須佐之男スサノオがドン底から這い上がった時に授かった剣。

特にこの"八咫鏡やたのかがみ"は私の変わりだと思って、大切に祀ってね。

 

三種の神器を受け取ると、ニニギはずっしりと自分の責任の重みを感じた。

 

「 ・ ・ ・ ありがとうございます。大切にします。」

 

「うん。ニニギなら大丈夫よ。だって、私の孫だもの!!!

 

「はいっ!」

 

ニニギの純粋な笑顔に、きっとこの子たちなら、オオクニヌシにも自慢できるような素敵な国にしてくれるだろう。と天照大神アマテラスは確信を持つことができた。

そして、彼女は最後に思金神オモヒカネに声をかけた。思えば彼には天岩屋戸あまのいわやど事件からずっと世話になりっぱなしだ。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ それじゃあ、思金神オモヒカネ。ニニギのこと、よろしくね。」

「アマテラス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ニニギと天降りさせていただいて、ありがとうございます。」

「いいのよ。こっちは、もう落ち着いてるし。 ・ ・ ・ 政治のこと、サポートしてあげてね。今まで、本当にありがとう。」

「こちらこそ。ありがとうございました。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私がいなくても、こまめにお部屋の片付けしてくださいね。」

「ぶー。大丈夫よっ!!」

 

天照大神アマテラスが頬をぷっくり膨らますと、周りのみんなにケタケタ笑われてしまった。その笑い声が消えると急にシンとする。天照大神アマテラスは慌てて、言葉を続けた。

 

「あ、えっと、 ・ ・ ・ ・ ・ ・ それじゃぁね、みんな。」

 

そう言って、笑顔で軽く手を振った。

 

「はい ・ ・ ・ ・ ・ ・ 行って参ります!」

 

ニニギが大きく手を振り返すと、天降りメンバーは一斉に葦原の中つ国あしわらのなかつくにに向かった。

サルタビコに連れられ、一行はどんどん小さくなっていく。

最後まで、高天原たかまがはらのトップらしく毅然とした態度たいどを ・ ・ ・ と考えていた天照大神アマテラスだったが、気が付けば必死でニニギたちに手を降っていた。

天浮橋アメノウキハシから思いっきり身を乗り出すもんだから、侍女が慌てて彼女の服を掴んだ。
そんな侍女に構わず、ニニギに向かって彼女は大声で叫ぶ。

 

「ニニギぃ!!

・ ・ ・ ・ ・ ・ 私 ・ ・ ・ 私っ、いつでも見守ってるからね!!!

あなたのことも ・ ・ ・ あなたの子供も、孫も、子孫も、これから作り上げる国も、この国に住む人たちも ・ ・ ・ ・ ・ ・

みんなのこと、ずっと、ずっとぉ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!!」

 

「はぁいっ!!」

 

ニニギが最後にもう一度振り返って大きく手を振ると、そのまま雲の向こうに見えなくなってしまった。天照大神アマテラスは、涙をぽろぽろ流しながら、みんなが行ってしまった先をいつまでもいつまでも見つめていた。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぅ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐすっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、泣いてないもん。」

 

こうして舞台は地上へと移ってゆく。

ニニギ、アマテラス

天孫降臨

一行が雲をかき分けかき分け降り立った場所は、日向の高千穂(宮崎県)の峰だった。初めて葦原の中つ国あしわらのなかつくにに降り立ったニニギは目を輝かせた。

 

「ここなら、海の向こうの韓国からくにも望めるし、岬から本島までまっすぐ道が続いています。朝日がよく見えて、夕日も綺麗に照らしてくれるでしょう。アマテラちゃまも見守りやすい素敵な場所だと思いますっ!!

 

思金神オモヒカネも高千穂で浴びる太陽を心地よく感じた。

 

「そうですね ・ ・ ・ あれでいて寂しがり屋だから、きっと見えやすいところの方が喜ぶと思います。」

 

「えぇ、始まりの場所にピッタリですね!ここに宮殿を建てましょう。」

 

ニニギ達はまず、少しでも高天原たかまがはらから見えやすいようにと、空高く柱を立て、宮殿を築いた。こうして天つ神の葦原の中つ国あしわらのなかつくに生活が始まった。

『系図』天つ神:タカミムスビ、アマテラス、オモヒカネ、千々姫、オシホミミ、ニニギ、ホヒ、国つ神:スサノオ、オオクニヌシ

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