天皇記『久米兵と大和平定』
エウカシとオトウカシ
さらに一行が歩いていると、次はピカピカ光る泉の中から、尻尾のついた人が出てきた。イワレビコはまたテンションが上がった。
「じ ・ ・ ・ 獣人キタァァーーっ!!!」
( ・ ・ ・ ビクッ!!)
イワレビコが思わず声を上げると、獣人の尻尾がピンっ!と張った。向こうはめっちゃ警戒してる様子だ。
「あ ・ ・ ・ すみません ・ ・ ・ その尻尾 ・ ・ ・ ・ ・ ・ すげー、いいですね。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ??」
「君、名前は?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イヒカ ・ ・ ・ 」
不安そうに尻尾がしゅんと下がる。
きゅぅぅん♥
「是非とも彼が住んでる獣人村に行きたい!!」とねだったイワレビコだったが、八咫烏にふざけんなとつつかれたので、仕方なくさらに山奥へ進んだ。イヒカは警戒しながらも一緒についてきてくれて、そのうち仲間になった。
しばらく歩くとまた尻尾の生えた人が、今度は大きな岩を押し分けながら出てきた。
「うぉぉ!!またいた!!今度のはゴツイ!!」
「 ・ ・ ・ ??」
「あ、君、名は?」
「え?俺か?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ イハオシワクノコだ。」
「そぅ。ところで、イハオシワクノコさん、獣人には、女子もいるのだろうか??」
「ん?女?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、見たことねぇけど。」
「えっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ。そうなんですか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
イワレビコは一気にテンションが下がった。その様子を見ていた
そして、このイハオシワクノコさんも「なんか、面白そうだから。」とか言って付いてきてくれて、仲間になった。
なんだかんだで仲間が増えて、だんだん旅のパーティーっぽくなってきた一行は、また山を進み奈良の宇陀に出た。第一村人の情報によると、
「・・・っざけんなよイワレビコ!!マジビビった!!マジビビったんだけど!!」
いつも、口の悪い
「よしよし。可哀想に。怖かったんだなぁ。」
イワレビコは、
「怖かねぇよバカ!!っざけんな!!マジざけんなっ!!!しかも、あいつ、軍を集めるとか言ってやがったぜ??どうすんだよ、イワレビコ。」
「そうか ・ ・ ・ 面倒だな。」
「あんな奴、さっさと殺っちまおうぜ??」
「うーん ・ ・ ・ いや、しばらく様子を見よう。軍がどのくらいの規模になるか見たい。ありがとな、八咫烏。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ おぅ。感謝しな。」
しかし、いくら経ってもエウカシの元に兵士が集まって来る様子は無かった。
今回、偵察から帰って来た
「フン!エウカシの野郎、全然兵が集まらねぇーじゃんかっ!!ざまぁみやがれ!!つーか、さっき偵察に行ったら頭下げられて、お詫びに歓迎の宴をするから来てくれだとよ。」
「えっ?そうなのか??随分、手のひら返すのが早い奴なんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「元々、肝っ玉のちっちぇー男だったんだよっ!!」
すると、その日のうちに、エウカシはイワレビコ達の野営に足を運び、ペコペコと頭を下げてきた。わざわざ一行を迎えるために御殿まで建ててくれたらしい。今夜、そこで宴を開くので是非来て欲しいというのだ。『まぁ、そこまでしてくれたのなら』と、イワレビコ達は招待を受けた。
日も暮れ、一行は宴へ行く準備をしていた。久米兵は久しぶりのタダ酒だとワイワイはしゃいでいる。そんな中、久米兵のリーダー、オオクメがイワレビコの元に
「なぁ、旦那。エウカシの弟のオトウカシが面会したいって、そこまで来てるんすけど、どうします?」
「え?オトウカシの方はすぐに仕えるとか言って、大人しくしてなかったっけ?」
「でも、息切らして慌てた様子でしたよ?」
「そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ じゃあ、通してやって。」
弟のオトウカシは、オロオロした様子で部屋に入って来た。すぐ後ろには、久米最強の兵士、ミチノオミがピタリとついている。無表情だが、何か少しでも怪しい動きがあれば、すぐに首を飛ばせる構えだ。
「ミチノオミ ・ ・ ・ そんなに威嚇するなよ。怖がってんじゃん。」
ミチノオミは、チラッとイワレビコを見ると柄から手を離した。
「 ・ ・ ・ オトウカシさん。オレらはこれから、エウカシさんのところに行くところだったんだけど ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何かご用かな?」
「は ・ ・ ・ はい。あの、その、兄上の宴会なのですが ・ ・ ・ あれは罠なのです!」
カチャッ ・ ・ ・ ミチノオミがまた柄に手をかける音がした。
「ミチノオミ、やめろっってば ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ で、オトウカシさん。罠ってどういうこと?」
イワレビコは穏やかな口調で、冷たくオトウカシを見据えた。彼の説明によると、兄のエウカシが作った御殿の入り口には巧妙な仕掛けがあり、板の間を踏むとバネの力で人を圧殺させることができる仕組みになっているとのことだった。
「そっか。ありがと。オトウカシさん。よかったら、中でお茶でも飲んで行って。」
イワレビコはオトウカシを中へ案内するため席を立つと、オオクメに視線を送った。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オオクメ。ミチノオミと先に行って、エウカシさんがどうやって、オレのことを迎えるつもりなのか確認してきてもらえる?」
「あぁ ・ ・ ・ わかった。」
オオクメは軽く頷くと自分の槍を取り、ミチノオミと共にエウカシの元へ向かった。
2人が着くとエウカシは上機嫌で迎え、新築の御殿まで案内しくれた。オオクメは、久米兵のリーダーとして、愛想良く笑顔でエウカシに話しかけた。
・・・と言っても、彼の目尻には入れ墨が入っており眼光も鋭いので、笑ったところで怖い顔にしか見えないのだが。
「エウカシさん、スイマセンね、俺らだけ先に案内してもらっちゃって。」
「いえっ、とんでもございません!こちらこそご足労、ありがとうございました!」
「へぇ~!これが、その御殿かぁ。立派っすね!」
「ありがとうございますっ!!」
エウカシが上機嫌なのには訳があった。彼が仕掛けた罠は、一回一回しか動かない構造になっていたので、バラバラに来てくれた方が確実に敵を仕留められるのだ。
その罠がバレているとはつゆ知らず、エウカシは2人に中に入るよう勧める。御殿の目の前まで来ると、オオクメは本題に入った。
「 ・ ・ ・ ところでさ、エウカシさんは、ウチの旦那が天つ神の御子だっつーコトは知ってますよね??」
「はい、もちろん存じております!」
「そ~。だからなのかね?あの人、ちょーっとズレてるとこあってさ ・ ・ ・ 。変なとこでキレたりするんすよぉ~。」
「え ・ ・ ・ そうなんですか??」
「そうなのそうなの。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ だからさ。せっかくもてなしてくれるエウカシさんの為にも??嫌な思いして欲しくないからさ。リハーサルってコトで、ウチの旦那をどーやってもてなすつもりなのか、見してもらえないかな?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ は?」
「ん??俺、何か難しいこと言ったか?旦那をどーやってもてなすのか聞いただけっすよ。ほら。エウカシさん。先に入って、お手本を見せてくれよ。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ っ!!」
上機嫌だったエウカシの笑顔が一瞬で消えた。
オオクメは笑顔のままだったが、イッちゃってる殺人鬼にしか見えない。
「ん?どうした?難しかねぇだろ。この、入り口の。その、板の間を踏むだけだ。」
「へ ・ ・ ・ え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや ・ ・ ・ 」
エウカシは頑なに動かない。
ずっと黙って横からやりとりを聞いていたミチノオミが、無言で剣を抜いた。
「ひっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
エウカシが逃げようとすると、オオクメの槍がそれを防いだ。エウカシは、
「あ ・ ・ ・ あの ・ ・ ・ 申し訳ありませんでした!!その ・ ・ ・ あ ・ ・ ・ ぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ん??何で謝るんすか?俺ら、この場をくれたエウカシさんに感謝してんのに。」
オオクメが槍の先でペチペチとエウカシの頬を叩く。
「 ・ ・ ・ 嫌っ ・ ・ 許して ・ ・ ・ くださ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
エウカシの顔が恐怖で引きつる。
「ほら ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あと一歩っすよ?」
オオクメは冷たく笑むとエウカシを軽く槍でついた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!!」
バチン。
結局、エウカシは自分で作った罠で死んでしまった。
ミチノオミはその死体を無言で引き摺り出すと、バラバラに切り刻んだ。
野原がエウカシの血で一面真っ赤に染まってしまったので、そこは宇陀の血原と呼ばれるようになった。
「 ・ ・ ・ 臭っせ ・ ・ ・ ・ ・ お前、ホントエグいよな ・ ・ ・ 俺、味方でよかったわぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
ミチノオミは無表情のまま軽く会釈した。
2人が帰ると、他の久米兵が喜んで勝利の歌を歌ってくれた。
「宇陀の山城に罠を張ったら大物がかかったぜ!!」
しかし、タダ酒を逃した久米兵には何処か元気が無い。そんな彼らを見たオトウカシが宴を用意てくれた。イワレビコは、オトウカシに礼を言い、あの戦いからずーっと休まずに付いて来てくれた兵士達をねぎらった。
土雲平定
こうして宇陀を平定した一行は、次に忍坂(奈良県桜井市)の大室に向かった。そこには穴ぐらでサバイバル生活を送っている『土雲』という戦闘集団がいるらしい。そこでまた八咫烏に様子を探ってきてもらった。
「 ・ ・ ・ イワレビコ、あいつら穴ぐらで武装して、お前らが通る時に串刺しにする気だぜ?
「そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 穴に隠れられたら、こっちから攻めるのも難しいな。リアルモグラ叩きになっちまう。」
「ここを越えれば生駒山だが、どうすんだ?迂回すんのか??」
「いや ・ ・ ・ ・ ・ 今回は、こちらから罠にかけよう。オオクメ、料理が得意な久米兵を集めてくれ。できるだけ多くだ。」
「ん?あぁ。わかった。」
「八咫烏は、八十建に伝言を頼む。『友好の証に、豪勢な料理でもてなす』と伝えてくれ。もちろん土雲全員分、用意するとな。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ おぅ。任せな。」
作戦当日。忍坂の大室の周りには美味しそうな匂いが漂っていた。
いつもは武装している久米兵だが、今日はみんなコック姿で、腕まで袖まくりをしており、妙に爽やかだ。 ・ ・ ・ とは言っても、さすが兵士。キャベツの千切りがめっちゃうまい。
予想以上に料理好きな男子が多かったので、オリーブオイルが足りなくなるという、ハプニングに見舞われたが、よくよく聞いてみると、サラダ油で全く問題無い内容だったのでそれで代用し、なんとか、土雲全員分の料理を作り終えることができた。顔に似合わず、盛り付けもやたらオシャレだ。
この光景を見たイワレビコはふとあることを思い出す。 ・ ・ ・ ・ ・ あ、そっか。いつもみんなで朝食 食べてるから、見てる番組が一緒なんだ。
ありがとう!モコ●キッチン!!
余談だが、国の平定後、久米兵の子孫の久米氏は、兵だけではなく、多くの料理人も排出し、代々朝廷に仕えることになる。
さて。普段サバイバル生活をしている土雲は、こんなに美味しそうな料理を見るのは初めてだった。警戒しながらも、穴の中から次々に土雲が出てくる。そして最後に、親玉らしい人物が出てきた。
「こんにちは。あなたが八十建さんですね?」
イワレビコは
「 ・ ・ ・ そうだ。」
「私は、カムヤマトイワレビコと申します。よろしくお願いします。 ・ ・ ・ しかし、話には聞いていましたが、この穴の中にこんな大勢いらっしゃったとは。さすが土雲ですね。中にもまだいるんでしょう?料理が足りるかな??」
「いや、これで全員だ。」
「そうでしたか ・ ・ ・ ・ ・ ・ それはよかった。みなさんにお会い出来るなんて光栄です。せっかくだ。友好の印に歌を詠みましょう。」
「歌?土雲にはそんな女々しい文化はない。 ・ ・ ・ だが、いいだろう。聞いてやる。」
「ありがとうございます ・ ・ ・
『忍坂の大室にはたくさん土雲が住んでいる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ が、
どんなに大勢住んでいようが 久米の兵が切てやるよ。』」
「はぁっ!?それが歌かよっ??土雲を愚弄しやがって!ぶった斬ってやる!!」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 殺れ。」
ザシュッッ!!
斬ったのはミチノオミだ。今日は彼もコック姿をしている。
・ ・ ・ ゴトン。
一瞬の出来事だったので土雲は現状を理解できずにその場で固まっていた。久米兵はこれを合図に、服の下に忍ばせていた武器を取り出し、一斉に彼らに襲い掛かった。そして、あっという間に土雲を制圧してしまったのだった。
※作戦で使用された料理は、戦闘終了後にイワレビコ&久米兵で美味しくいただきました。
この忍坂を越えればついにナガスネビコのいる
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 行くぞ。イツセの仇を討つ。」
久米兵は深く頷き、イワレビコの後に従った。