天皇記『神武天皇の即位』
ナガスネビコとの決戦
一行が
前回も待ち伏せしていただけあって、さすが情報が早い。久米兵は武器を抜き、一歩一歩、近づいた。相手の方が明らかに数が多いが、もう淀川の支流で戦ったあの時とは違う。ここまでの戦いで、確実にレベルを上げてきたのだ。負ける気がしなかった。距離が近くなるに連れ、久米兵がウズウズしているのが伝わってくる。
そして、声の届く距離まで近づくと、イワレビコは少し高台になった場所で、久米兵を止めた。ナガスネビコが、馬に跨がり前へ出てくる。
「イワレビコ殿 ・ ・ ・ また貴殿か!なぜ凝りもせずこの地を攻めるのだ!!」
「
「ハッ!偽天つ神がよくいうわ!!」
・ ・ ・ え??偽天つ神??
久米兵がざわつく。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何?どーいうことだ。」
「貴殿が1番分かっているだろう!この嘘吐きが!!」
「いや、わからん。説明してもらおうか。」
「その必要は無いっっ!!!皆っっっ!!!あいつは偽の天つ神だっ!!!捕まえて八つ裂きにしてやれっ!!!」
『オオオオォォォォォォォ!!!』
ナガスネビコの軍が勢い良く走ってくる。しかしこちらでは、さっきまで開戦を待ち望んでいた久米兵に動揺が走っていた。
偽物ってどういうことだ?
だが敵は待ってくれない。 ・ ・ ・ くっそ!!こっちの士気を下げるのが目的か???ふざけんな!!!!イワレビコは久米兵に向かって叫んだ。
「 ・ ・ ・ オイ!!お前らっ!!
オレがニセモンかどうかはお前らが1番良くわかってんだろ!!
敵の言葉に惑わされるなっ!!イツセの弔い合戦だ!!!
久米の強さを見せつけてやれ!!!」
『ッッッ!!ウオオオオォォォッッ ・ ・ ・ !!!』
我に返ったように久米兵に士気が
兵達は、全力疾走でナガスネビコの軍に向かった。
こちらの方が数が少ないにも関わらず、形勢は五分五分だ。両軍が激しくぶつかり合う中、イワレビコは高台から弓を構えナガスネビコを狙った。すると脳内にこの場に似合わないユルい声が
・ ・ ・ プツッ
・ ・ ステス ・ ・ ・ テステス。あー。お疲れ様です。
時間無いんで簡潔に言いますけど、そのままの体制で5分くらいキープしてもらえますか??
・ ・ ・ ガサッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ったく、あのてんてる娘なんとかならn ・ ・ ・
プツッ ・ ・ ・ ツーッツーッ ・ ・ ・
・ ・ ・ っ!?え?何今のっ!?今の声、本当に
しかし、天つ神の指示とあれば仕方が無い。プルプルしながらもイワレビコはその体制をキープした。
『 ・ ・ ・ あの人は何をやってるんだ?』
という視線を、ナガスネビコ軍だけでなく、久米兵からも感じる。
時より前線を抜け、イワレビコに向かってくる敵をミチノオミが斬った。いつも無表情の彼が、迷惑そうな顔でこっちを見てくる。
っっやばい。腕より心がくじけそう。でも頑張る。 ・ ・ ・ ていうか、もう5分以上経ってない??
イワレビコが周りの視線と腕のプルプルに耐えること約30分、やっと
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ で、コイツ、何ができるんだ?
イワレビコの不信感に満ちた視線を尻目に、
すると辺りは閃光に包まれ、ナガスネビコの軍はたちまち目がくらんで視力を失ってしまった。
『よかった!待った甲斐があった!!』イワレビコと久米兵がほっと胸を撫で下ろすと、
「今だっっ!!殺れっっっ!!!!」
久米兵はこの期を逃すまいとバッサバッサと敵を薙ぎ払う。
イワレビコもやっと矢を放ち、ナガスネビコが乗っていた馬を一発で仕留めた。こうして勢いの増した久米兵は一気にナガスネビコの軍を制圧することができた。
オオクメがナガスネビコを捕らえ、イワレビコの前に差し出す。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 旦那、トドメやります?」
「あぁ。」
イワレビコは、自分の前にひざまづいたナガスネビコの首に剣を当てた。ついに兄の仇を取る時が来たのだ。
「ナガスネビコさん、何か言い残すことがあれば聞くが?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの金の
「あぁ、私は
「 ・ ・ ・ ・ ・ しかし我が主、ニギハヤヒ様も天つ神の御子なのだ ・ ・ ・ 。なぜ
「は?天つ神の御子?? ・ ・ ・ 本当か?そんなの初耳だぞ。」
イワレビコは、思わず剣を引いた。
「ニギハヤヒ様は
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「我はニギハヤヒ様こそが天下を治めるべき人物だと考えている。先ほどの
「参ったな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 兄貴の仇が天つ神の部下かよ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ あやつもニセモノだったのだ。」
「はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ナガスネビコさん、顔を上げてもらえないか。」
顔を挙げたナガスネビコは、騙されてたまるものかと言わんばかりの表情でこちらを睨みつけた。イワレビコは、矢の入った
「
「なっ ・ ・ ・ これは ・ ・ ・ ・ ・ ・ 確かに、この世のものではない ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ですな。」
「これで信じてもらえるか?」
ナガスネビコはやっと信じることができた様子で、急に
「これは ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 大変なご無礼を ・ ・ ・ !!」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あんたはあの時、アマテラスの御子を殺したんだよ。」
カチャ。イワレビコがまた首に剣をかける。
「はっ ・ ・ ・ しかし ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「何だよ、まだ信じられないか?」
「いえ、しかし ・ ・ ・ ・ ・ ・ 負けた身で恐縮ではございますが、一度戻らせていただけないでしょうか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ニギハヤヒ様にご報告がしたい。」
ナガスネビコは、後悔と困惑の入り交じった表情でイワレビコに頭を下げた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかった。いいだろう。」
『はぁっ!?いいのかよ??』という顔でオオクメに睨まれたが無視した。
ナガスネビコは深く頭を下げると、ニギハヤヒの宮殿へと戻って行った。
「なんだよ、旦那!!さっさと殺っちまえばよかったのに。本当に返してよかったんすか?? ・ ・ ・ イツセ様の仇じゃないっすか ・ ・ ・ 」
「あぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ だが、その天つ神とやらが何者なのか気になる。今日は野営に戻ろう。」
ここまで着いてきてくれた仲間たちに『ナガスネビコに悪気が無さそうだったから切れなかった。』とは言えなかった。
戦には勝ったものの、ナガスネビコの首を取れなかった久米兵はどうも煮え切らないまま、トボトボと野営へ戻った。
神武天皇の即位
後日、ナガスネビコが仕えていると言っていたニギハヤヒがイワレビコの元に尋ねて来た。聞くと彼も確かに
イワレビコも『なら、なんでナガスネビコを差し向けたんだ?』とは聞かなかった。
「 ・ ・ ・ なるほどな。やっと辻褄が合ったよ。じゃあ、ナガスネビコさんは?」
「はい。彼にも事情を説明したのですが、私が国を治めるべきだと聞かずに、また攻めると剣を取ったので ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 死罪に。」
「えっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうでしたか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
こうしてニギハヤヒはイワレビコに仕えることになった。このニギハヤヒの子孫が、後の物部氏となる。
また死罪になったナガスネビコだが、血筋は途絶えずに、後の織田家や伊達家の元祖となる。まぁ、確かに言われてみれば、馬の上で指揮を執るのも、フィギュアで美しく滑るのも、スネが長い方が向いていそうだ。
ナガスネビコが死罪になったとの報告を受けた久米兵は、喜び酒を酌み交わした。勝利を祝って、いつの間にか恒例となった久米歌を詠った。
『粟畑なのにくっさいニラが生えているっ!力
・ ・ ・ 現代の感覚で聞くと意味不明の内容が多い久米歌だが、大和朝廷の酒宴ではお約束の宮廷儀礼となり、長い間宴会を盛り上げた。現代だと、試合で勝った映像がテレビで何度も何度も流れるように、当時は勝利の歌を何度も何度も詠ったのだ。
その日はイツセの仇を取れたと言って久米兵は大いに盛り上がり、朝まで飲んで歌って踊って楽しんだ。
一方、イワレビコはどうも、仲間と一緒に盛り上がる気分になれず、月を肴に独り酒に浸っていた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 兄貴、やっとここまで来たよ ・ ・ ・ 平定の旅もあと少しだ。」
その後もイワレビコは久米兵と共に各地を回り、大和の地を平定すると奈良県の橿原に宮を置いた。
そして辛酉年の春正月に『初代 神武天皇』として即位。
ついに天下を治めることとなった。
日本のはじまりについて
実はこの初代天皇の即位、つまり日本が建国した正確な年については、正直なところ昔のことすぎていつなんだかサッパリわからない。
でも、日本書紀の記述から逆算して西暦にすると紀元前660年2月11日になる。
この2月11日が、現在の日本の『建国記念の日』だ。
その不確かな日を建国記念の日にすることについては戦後かなり議論があったらしいが、『そこはさ?目を瞑ってさ??1300年の間、日本人が残した歴史を、そのまま信じようよ?だってそーいうのって、科学とか考古学の話しじゃなくない??ロマンじゃないっ!?』とかいう話しにでもなったんだろう。
だって、日本はギネスブックにも登録されている世界最古の国なのだ。分からなくたって、しょうがない。
ちなみに、何で建国の正確な年がわからないのに世界最古に認定されているのかというと、2位のデンマークが、10世紀の建国だから。古事記や日本書紀が書かれたのが8世紀なので、1番古い国ってことになる。
とにかく、この日本っていう国は、人と神との境がまだ曖昧だった頃。文字すら無かった大昔に「彼」が大和で大王(おおきみ)になったところから歴史がスタートした。