日本神話『三貴神さんきしん

アマテラス、ツクヨミ、スサノオ

三貴神さんきしんの誕生

黄泉の国よみのくにから無事に脱出し、イザナギが地上に戻ると、まだ夜明け前だった。風が心地よい。しかし黄泉の国よみのくにの死臭が取れずに気になったので、河原でみそぎをすることにした。みそぎとは、水で体を清める儀式のことだ。

月明かりにキラキラと照らし出された小川を見つけると、イザナギは服を脱ぎながら近づいた。すると、不思議なことに服を脱ぎ落とすたび、新たな神々が生まれた。さらに川に入って水を浴び身体を清めると、またそのたびに新たな神々が生まれる。

徐々じょじょに空が朝焼け色に染まると、やがて朝日が差し込み、辺りは神秘的な空気に包まれた。

そしてイザナギが最後に左目を清めると、天照大神アマテラスオオミカミが。右目を清めると、月読命ツクヨミノミコトが。鼻を清めると、須佐之男命スサノオノミコトが生まれた。後に三貴神さんきしんと呼ばれるようになる強力な神々だ。

 

「 ・ ・ ・ すごい ・ ・ ・ こんなに強い神が生まれるなんて ・ ・ ・ 」

 

驚く父親を見て、少し高飛車たかびしゃな印象の女神、天照大神アマテラスは得意げに微笑んで見せた。ふいに、イザナミの笑顔と重なる。1人で三貴神さんきしんを生んだイザナギだったが、3人にどこか彼女の面影を感じた。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ アマテラス、ツクヨミ、スサノオ。君たちは、僕らが生んだ神々の中でも一番強力だ。だから、君たちに頼みたい事がある。」

 

「わぁ!なになにっ??」

 

黙りこくる男子陣を尻目に、天照大神アマテラスうれしそうに声をあげた。

 

「まずは、アマテラス。君には高天原たかまがはらを治めてほしい。」

 

3人の中でも、ひときわ輝きを放っていた天照大神アマテラスに、イザナギは高天原たかまがはらを任せ、自分がつけていた勾玉まがたまも授けた。

 

「わぁ!素敵っ!!任せてっ!!」

 

天照大神アマテラスうれしそうに微笑んだ。

 

「そして、ツクヨミは夜を。スサノオには海を治めてほしい。」

 

天照大神アマテラスと違って、男性陣は黙ってうなづいた。しかし彼らも、素直に月と海に向かって行ったので、とりあえずイザナギも家に戻ることにした。

 

須佐之男スサノオの反抗期

こうしてイザナギが淤能碁呂島おのごろじまに戻ると、信じがたい光景が目の前に広がっていた。

海が荒れて荒れて荒れまくっていたのだ。

海を任せたのは須佐之男スサノオだ。

「つーか、任せた後の海のが荒れてるって、どーゆうこと??? ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、つってもまだ生まれたばっかだもんな。そんなすぐには治めらんないよね??」

 

しかし、何年経っても、何年経っても、海の大荒れは収まらない。それどころか、この大荒れに引きつけられるかのように、悪霊が大量に増えてしまった。

 

あぁーーもぅっっっ!!!アイツ、なにやってんだよっっっっ!!!今年でいくつになるわけ???もうヒゲも立派に生えてんじゃない??? ・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅーん ・ ・ ・しょうがないな ・ ・ ・様子でも見に行くか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

イザナギが彼を探しに出かけると、すぐに大海原に向かって泣き叫んでいる須佐之男スサノオを、見つけることができた。


あまりにも大きな声で泣き続けるものだから、周りの木々は枯れ、泉も干上がり、悪霊が充満している。

 

『原因これだぁぁぁーーーーー ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・』

 

イザナギは須佐之男スサノオのあまりの荒れように呆然ぼうぜんと立ち尽くした。

 

「うおおおおおん!!うおおおおおおん!!!!!」

 

もはや泣いているんだか叫んでいるんだかよくわからない。『コイツ何年間この状態で泣き続けたんだよ ・ ・ ・ 。』とりあえず、イザナギは須佐之男スサノオの様子を伺いながら、優しく話しかけてみることにした。

 

「なぁ、スサノオ ・ ・ ・ どうかしたのか??何で泣いれるんだ???誰かにイジメられたのか????」

「ひっく ・ ・ ・ ・ ・ ・ ひくっ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ スサノオ?」

「ちがう ・ ・ ・ ひっく ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 根の堅洲国ねのかたすくにに行きたい ・ ・ ・ ・ ・ 母ちゃんに ・ ・ ・ 会いたいんだ ・ ・ ・ 。」

 

それは、意外な答えだった。根の堅洲国ねのかたすくにと言えば黄泉の国よみのくにのある地の国だ。あの日の記憶がよみがえる。

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナミのことか。駄目だめだ。それはできない。」


「なんでっ??」


須佐之男スサノオ、彼女は死者になってしまったんだ。会いに行けばお前だって ・ ・ ・ 」


「嫌だっ!!母ちゃんに会いたいっ!!」

 

須佐之男スサノオは声を荒げた。息子の聞き分けの無い態度たいどに、イザナギも徐々じょじょにイライラが込み上げてくる。

 

「それはお前が死者の恐ろしさを知らないから言えるんだ。」

 

「 ・ ・ ・ 母ちゃんが怖いわけないだろっっ!!!俺は根の堅洲国ねのかたすくにに行きたいんだっっ!!!」

 

駄目だめだ、スサノオ!いい加減かげんにしろっ!!」

 

と、つい声を荒げてしまう。

 

「うぅ ・ ・ ・ う ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うああああああああああああんっっ!!!!!」

 

須佐之男スサノオが泣き叫ぶと、周りの木々は更に腐り、海は大荒れとなった。

 

「やめろ!スサノオ!!みんなに迷惑がかかってるのが、わからないのかっ!!」

 

しかし。須佐之男スサノオは泣き止まない。

 

「うああああああああっっっ!!」

 

「あぁ!もういいっ!!これ以上この国に邪気を放つなっっ!この国から出て行け!!お前の天つ神の身分を剥奪はくだつするっ!!根の堅洲国ねのかたすくにでも、黄泉の国よみのくにでもどこでも行けばいい!

・ ・ ・ 追放ついほうだっっっ!!!」

 

「んぐああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

須佐之男スサノオは泣き叫びながらどこかへ逃げて行ってしまった。
泣き声が聞こえなくなると辺りはしんと静まり返った。

「ハァ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

イザナギは深く溜め息をついた。
自分の子供にロクな説教せっきょうもできないなんてな ・ ・ ・ もしイザナミがいてくれたら ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「いや、よそう。僕は十分この国に尽くした。後は子供達に任せよう。」

 

この事件を機にイザナギは淡海おうみへ渡り、隠居生活を送ることにした。
こうしてイザナギとイザナミの物語は幕を閉じ、主人公は子供達へと移って行く。

 

誓約うけい

イザナギに天つ神の身分を剥奪はくだつされた須佐之男スサノオは気が立っていた。

ムカつくムカつく ・ ・ ・ 俺はただ母ちゃんに会いたいって言っただけじゃねーか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

苛立ちは募り歩くたびに周りの木々は腐り、空からは雷が落ちた。

『国から出るように言われちまったしなぁ ・ ・ ・ 。最後になるだろうから、ネェちゃんに顔出してから行くか。』

そう思い、須佐之男スサノオ高天原たかまがはら の宮殿に向かった。

 

ゴォォォン ・ ・ ・ ゴオォォォン ・ ・ ・ ゴオォォォン ・ ・ ・

 

高天原たかまがはらの神殿に雷のような轟音がひびいた。

 

「な・・・なによ、この音??地震???」

 

尋常ではない音に、天照大神アマテラスは身を構える。すると、思金神オモヒカネが慌てた様子で報告に来た。思金神オモヒカネはフワフワしている高木神タカギの息子で、とても頭の良いインテリな神だ。

 

「アマテラス、大変です!スサノオがすごい剣幕でこちらに向かっています!!」

 

「なんですってっ!?」

 

お父様に追放ついほうされたって聞いたけど ・ ・ ・ まさか高天原たかまがはらを攻めに? ・ ・ ・ どうしよう ・ ・ ・ 高天原たかまがはらを守らなくちゃ ・ ・ ・ ・

 

天照大神アマテラスは慌てて髪を解くと、男性のようにミズラを結った。そして甲冑を纏い、背には1000本、脇にも500本の矢を入れ、最後に護身の勾玉まがたまを下げた。日本初の男装だ。

 

「よしっ!!」

 

準備が終わり表に出ると、須佐之男スサノオはすぐそこまで来ていた。

 

「スサノオ!それ以上、こっちに来ないで!!あんた、何しに高天原たかまがはらまで来たのよっ!?」

 

「ネェちゃん ・ ・ ・ なんっちゅー格好を ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

お姉様って呼びなさいっっ!!あんたは、天地を脅かし、お父様から天つ神の身分を剥奪はくだつされたって聞きいたわ!間違いないわね??」

 

天照大神アマテラスの問いに、須佐之男スサノオは不機嫌に答えた。

 

「別に天地を脅かしたかったわけじゃねぇよ。俺はただ母ちゃんに会いたいって言っただけだ!なのに父ちゃんはそんなことは許さないって・・・」

 

「その腹いせに高天原たかまがはらを奪いに来たってわけ??」

 

違げぇよ!冷静になれよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オネエサマ。話になんねぇ。」

 

「私はあんたのことを信じられないの!日頃の行いが悪いんじゃないっ!!」

 

「っせーなぁ。わかったよ。そんなにいうなら、誓約うけいしようじゃねぇか。」

 

誓約うけいとは、お互いに譲れないことがあった時に、どちらが正しいかを占うことだ。
賭けに勝った方が正しいことになる。2人は、生んだ神の性別でどちらが正しいか占うことにした。

 

「良いわ。じゃあ ・ ・ ・ あんたの腰の剣をもらおうかしら。」

 

「あぁ、いいぜ。俺はその勾玉まがたまをもらおう。」

 

天照大神アマテラスは、須佐之男スサノオの剣を受け取ると、バキボキと3つに折りにし、水で清め、それを口の中で噛みくだいた。ふっと吹き出すとその中から3人の女神が生まれた。

また、須佐之男スサノオ天照大神アマテラス勾玉まがたまを水で清め、口の中でくだいた。ふっと吹き出すと、今度は5人の男神が生まれた。天照大神アマテラスは、生まれた神々を見ながらつぶやいた。

 

「私の勾玉まがたまから生まれた5人の男神が私の子で、あんたの剣から生まれた3人の女神があんたの子 ・ ・ ・ 」

 

「フン!つまり、心優しい女子を生んだ俺に、高天原たかまがはらを攻める意思はなかったって証明できたわけだっ!!!!ぃよっしゃぁーっっっ!!!!」

 

「えっっ??」

 

天照大神アマテラスは、須佐之男スサノオに言われるまで自分が負けたと思っていなかった。というのも普通、誓約うけいをする際、あらかじめ勝ち負けのルールを決めるのだが、今回それをすっかり忘れていたのだ。しかし、須佐之男スサノオのいう通り女子を生んだということは攻める気は無かったのだろうと納得なっとくした。

 

「うぅん ・ ・ ・ そうね ・ ・ ・ ・ ・ ・ 疑って悪かったわ。」

 

「だから言ったろ??参ったかっ!!俺、まだ行き先が決まってねーんだ。しばらくここで世話になるからなっ!!」

 

「わかったわよ ・ ・ ・ でも、みんなに迷惑をかけないでよね。」

 

「おぅっ!!」

 

しかし、ここで天照大神アマテラス須佐之男スサノオを受け入れたことが、あの有名な事件を引き起こすトリガーとなってしまう ・ ・ ・ ・

『系図』イザナギ、イザナミ、三貴神:アマテラス、ツクヨミ、スサノオ

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