天皇記『神功皇后』

仲哀天皇、神功皇后

神功皇后の神がかり

ヤマトタケルの父、景行天皇けいこうてんのうが137歳で亡くなると、息子の成務天皇せいむてんのうが後を継いだ。ヤマトタケルとは異母兄弟だ。彼はヤマトタケルとは全然性格が違い、めちゃめちゃマジメで、勤勉で、仕事好きで、天皇っていうよりは、日本の官僚の鏡のような人だった。

成務せいむは行政区画とか、中央集権化とか、なんだか難しそうなプロジェクトに精を出し、家庭も顧みずひたすら仕事にのめり込んだ。しかし、縁の下の力持ち程、影は薄いものだ。彼に関するエピソードが全然残っていない。マジメに働いた天皇よりも天皇になれなかった英雄の方が断然、認知度が高いなんて、昔っから世の中は理不尽にできているらしい。

ちなみに、彼と双子のように育った親友の武内宿禰タケシウチノスクネには沢山活躍する話が残っている。武内タケシウチ成務せいむとタメで、誕生日まで一緒だったそうだ。武内タケシウチ成務せいむから大臣に任命され、これからびっくりするほど長い間、古事記の中に登場する。

 

成務せいむは様々な業績を残したが、子宝に恵まれず、ヤマトタケルの息子、仲哀ちゅうあいを皇太子に立てると、95歳で亡くなった。

 

ここで初めて天皇の直系が途絶えてしまったわけだが「ヤマトタケルの息子なら全然OK!むしろ Come on!!」と誰も文句は言わなかった。

仲哀ちゅうあいが物心ついた時には、すでにヤマトタケルはこの世にいなかった。しかし、彼は幼い頃から父親の武勇伝を聞いて育ったため、ちょっとイッちゃってるあの英雄にすごい憧れを抱いていた。

そのせいもあってか、彼はとってもイッちゃっている嫁をもらった。神功皇后じんぐうこうごうだ。彼女は垂仁天皇の時代に不老不死の薬を探したお菓子の神様『タジマモリ』の孫娘だ。彼女は天皇の血も、新羅の王家の血も継いでいる。

 

まぁ、要は血統書付きの完全なる『お嬢様』だった。

 

ある日、仲哀ちゅうあいは熊襲の平定に行く事にした。熊襲と言えば父親のヤマトタケルが一番最初に平定したところだ。しかし、ヤマトタケルが亡くなってから、徐々じょじょに治安が乱れてアンチ朝廷が増え、最近は無法地帯になっていた。仲哀ちゅうあいは「父の通った道を辿れる」という、どこかうれしい気持ちもあり、準備には力が入った。

 

しかし『いざ出発!』という時になって馬を出すと、仁王立ちの神功じんぐう仲哀ちゅうあいの前に立ちはだかった。

 

神功じんぐうは、日本人とは思えないゴージャスでヒラヒラした着物を身にまとい、ヨーロッパ貴族か何かですか?と問いたくなるような立て巻きロールだ。

後ろから、「神功様!お待ちください!!」と言いながら、武内タケシウチが追いかけてくる。成務せいむの幼なじみだったあの大臣だ。成務せいむはもう亡くなっていたので、95才以上って事になるが、仲哀ちゅうあいが若い頃から白髪姿で、昔から年齢が不詳なのだ。彼は『タケシウチ』というよりは『タナカ』とかシンプルな名前の方が似合いそうなおじいちゃんで、『大臣』というよりは『執事』と言われた方がしっくりとくる。

 

「陛下っ!!申し訳ございません。武内がお止めしたのですが ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

「あぁ、いいよ。いつものことだし ・ ・ ・ 」

 

神功じんぐうと、武内タケシウチが並ぶと、背景にバラ園をあしらいたくなる。仲哀ちゅうあいは、武内タケシウチが自分の家臣であることをすでに忘れかけていた。

 

「 ・ ・ ・ で、神功、どうかしたのか?」

 

「仲哀は、寂しがり屋さんでしょう?だから、わらわが一緒に同行して差し上げますわ。」

 

出た。神功のドヤ顔。

 

遊びに行くんじゃ無いんだけどな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 後ろで武内タケシウチがめっちゃ困った顔でオロオロしている。でも、彼女の後ろに待ち構えている荷物持ちの集団 ・ ・ ・ 兵より数が多いんじゃ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 駄目だめだ。これ完全にくっついてくるつもりだ。

 

「コレ、断るって選択肢は ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「当然、ございませんわっ!!」

「 ・ ・ ・ ですよね。分かったよ。でも、戦いになったらちゃんと後ろに下がってるんだぞ?」

 

仲哀ちゅうあいからOKをもらった神功じんぐうは、とても満足げな顔をして強引に彼と腕を組み、

 

「仲哀、ご安心なさい?熊襲の敵なんて、わらわが一瞬にして蹴散らしてさしあげますわっ!」

 

と、得意げに微笑んだ。仲哀ちゅうあいは『 ・ ・ ・ はぁ。』と大きくため息をつきつつも、彼女のこういうところがツボでもあった。

後ろでは「申し訳ありません、申し訳ありません ・ ・ ・ 」と武内タケシウチがうろたえている。うぅん、優秀な大臣だから本当は仕事して欲しいんだけど ・ ・ ・ 執事キャラが完全に板についちゃったな。

 


 

こうして一行は筑紫(福岡)まで来ると熊襲での戦いを占うことにした。仲哀ちゅうあい自ら神寄せをして神託を仰ぐというので、神功じんぐうはもちろん、武内タケシウチなど多くの家臣が同席した。

早速、仲哀ちゅうあいは琴を弾いて神寄せを行った。すると ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

『『キエエエェェェェェェェーーーーッッッッ!!!!!!!!』』

 

と、部屋中に気持ち悪い奇声がひびき渡った。仲哀ちゅうあいを始め、居合わせた人間が一斉にビクッとする。

 

神功じんぐうだ。

 

縦巻きロールが不気味にフワフワと波打ち、顔が完全にイッちゃってる。正月番組にしか出て来ない怪げな霊媒師みたいだ。その場にいた全員が神功じんぐうを凝視した。神功じんぐうは、半分白目を向きながら誰かに操られているかのように口を開いた。

 

『『仲哀 ・ ・ ・ 汝に西の海の先にある宝に恵まれた国をやろう ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』』

 

え、どうしよう。超怖い。いつもの神功じゃない。コレが神様??なんだか動きがカクカクしてめっちゃ気持ち悪い。ていうか、そもそも熊襲の平定が成功するかどうか聞きたくて呼んだのに。西の海の先にある国って、新羅じゃないか。俺、熊襲の平定に行きたいんだけど。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ 何か体よく断りたいな ・ ・ ・

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 西の海?向こうは丘を登って見ても海しか見えないけどな。」

 

仲哀ちゅうあいは、神託をしれっとあしらった。

 

『『 ・ ・ ・ っっっ我らに逆らうか!!ならばこの国すら汝に治める資格は無い!!!即刻黄泉に落ちるが良い!!!!!』』

 

気持ち悪い顔の神功じんぐう"クワッ"と凄むと、仲哀ちゅうあいが弾いていた琴の音が急に止んだ。同席していた武内タケシウチが慌てて駄目だめです、陛下っ!!弾き続けてください!!!」と叫んだが、返事がない。

確認すると、なんと仲哀ちゅうあいは既に亡くなっていた。

 

その場は凍り付いた。

 

ヤバい。これマジなやつだ。

 

神功じんぐうはまだ気持ち悪くカクカクしてる。武内タケシウチが勇気を振り絞って、謎の神に話しかけた。

 

「あの ・ ・ ・ 我々はこれからどうすればよろしいのでしょうか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

『『この国は全てこの女の腹の中にいる御子に治めさせよ ・ ・ ・ 』』

 

「そんな、神功様がご懐妊を??しかし、女子が産まれてしまったら?」

 

『『案ずるな。子は男子だ。』』

 

「 ・ ・ ・ あなた様は一体 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

『『我らはソコツツノオ、ナカツツノオ、ウワツツノオの三神。全ては天照大御神による意思。』』

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナギ様が禊でお生みになった三神でらっしゃいますね。」

 

『『真に西の国を求めるのであれば、天つ神、国つ神、山川海の神の全てに供物を捧げ、船に我らの御魂を祀るのだ。さすれば航海に我らの恩恵が与えられるであろう。』』

 

「はい ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ かしこまりました。」

 

武内タケシウチは深々と頭を下げた。

 

すると、神功じんぐうが急にパタリと後ろに倒れ気を失った。どうやら、三神が彼女の体から出て行ったらしい。 しかし、その場に居合わせた家臣は恐怖のあまり悲鳴ひめいを上げることすらできず、辺りはしんと静まり返った。

 

その後、神功じんぐうは気付くと武内タケシウチから仲哀ちゅうあいが亡くなった話を聞いた。しかし、彼女の中では彼を失った悲しみよりも、神への恐怖心の方が勝ってしまった。神寄せの場に居合わせた面々は祟りを怖れ、あらゆるお祓いをした。

神功皇后、武内宿禰

朝鮮出兵

神功じんぐうはソコツツノオ、ナカツツノオ、ウワツツノオに言われた通り、神々に供物を捧げると、三神を船にを祀り、武内タケシウチと共に軍を率いて新羅に船を向けた。

あれから神功じんぐうは塞ぎがちになり、いつものドヤ顔が見られない。武内タケシウチはずっと心配そうに彼女を見守っていた。

 

しばらく海を進むと海原の大小さまざまな魚が集まってきた。神功じんぐうはソワソワしながら船の周りを見ている。すると、魚たちの群れはどんどん増え、やがて船を背負って走り出した。高速のジェットスキーにでも乗っているかのように船がぐんぐんと前へ進んだ。

 

神功じんぐう”ぱあぁぁ” っと笑顔になると、船の先般に乗り出し、片足を台に乗せ、バサッと扇子を広げた。

 

「よろしくってよっ!!」

 

あ。ドヤ顔が戻った。どうやら魚の群れにテンションが上がったらしい。

 

「神のご意志では仕方がございませんわねっ!新羅はわらわが治めて差し上げますわっ!!」

 

「神功様 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

武内タケシウチ神功じんぐうの復活を心から喜んだが、あまりにも元気になり過ぎて『仲哀陛下にはお見せできませんね ・ ・ ・ 』と思った。武内タケシウチたちは後ろから彼女が海に落ちないように見守りながら、後に従った。

魚に背負われた船はあっという間に新羅まで着き、そのままドバシャーっと、海岸に乗り上げた。そして一気に神功じんぐうの軍が内陸まで乗り上げると、その様子を見ていた新羅王が城から飛び出してきて待ったをかけた。

 

「ちょっ!?えっっっ??ちょっと待った!!!なにっ!?コレどーうことっ!?」

「あなたが新羅王ですわね。ごきげんよう。」

「ゴ ・ ・ ・ ゴキゲンヨウ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ って、アンタ、何の用なわけ??」

「ふふん♪♪わらわがこの国を治めて差し上げますわ。それが神のご意志ですの。」

「え ・ ・ ・ ・ ・ ・ どうしよう。日本からすげーイタイのが来た。 ・ ・ ・ それより、アンタの腹めっちゃデカイけど大丈夫なのか?」

 

神功じんぐうの腹はパンパンに膨れており、今にも赤子が出てくるんじゃないかというような大きさだ。

 

「ふふっ、出産予定日なんてとっくの昔に過ぎておりますわ。」

「それ、やばくね?さっさと国に帰れよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ていうか、お願いします。帰ってください。

「ご安心なさって?腰に石を括り付けて出産を抑えておりますの。」

「はぁっ?そんなんで、腹の子は大丈夫なのか??」

「ご心配無用ですわ。わらわの御子は丈夫ですの。」

「はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「それで、貴方は、わらわにどう仕えてくださるのかしら?」

「仕える前提かよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ソレ、断るって選択肢は ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「当然、ございませんわっ!」

「っっっこの女、めんどくせぇ ・ ・ ・ !!!!」

「あら ・ ・ ・ 気分を害されましたの??」

「いえいえ。はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いいっすよ。そしたら、馬飼になって、お仕えしますね。 ・ ・ ・ はい。それじゃ。ご苦労様でした。お引き取りください。」

「あらら ・ ・ ・ それだけですの?せっかく海を渡って参りましたのに ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

あぁ??図々しい女だな。 ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ そしたら、貢物も送ってやるよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ 頻繁に。」

「あら、素敵っ!!誉めて差し上げますわっ!」

「まじか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「よろしくってよっ!!」

 

新羅王の提案した条件に満足した神功じんぐうは、うれしそうに扇子を仰いだ。

 

「クソ ・ ・ ・ ・ ・ ・ おいっ!!そこの爺さん!!!」

 

神功じんぐうのテンションに困り果てた新羅王は、話の通じそうな武内タケシウチに声をかけた。

 

「ったく、何なんだよあの女はっ!?」

「はっ、仲哀天皇の皇后、神功様でございます。」

「へ??皇后??」

「先日、仲哀陛下がお亡くなりになられましたので、神功様が国の代表を勤めさせて頂いております。今後ともどうぞ、宜しくお願いいたします。」

 

武内タケシウチは深々と頭を下げた。

 

「えっ ・ ・ ・ もしかしてオレ、やばいこと約束しちまった??」

「いえいえ、そんな。滅相もございません。大和は新羅王の寛大なお心に感謝しております。

「ちょっ、いやっ、さっきの約束キャンセルってのは ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「申し訳ございません ・ ・ ・ ・ ・ ・ 武内は、あくまで執事でございますので。」

「まじかよ。」

では新羅王、こちらが正式な書類でございまして ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

武内タケシウチは、ニッコリ微笑むとテキパキと事務手続きを済ませ、新羅を馬飼の役所、隣の百済を航海の役所として、朝貢の契約を結んだ。ちなみに朝貢が何かってことはグーグルさんに聞いてください。

こうして戦うこと無く朝鮮三国を手に入れると、神功じんぐうは新羅王の城の前に、占領した証のでっかい杖を掲げて、満足そうに微笑んだ。

それから神功じんぐうは、新羅でショッピングマタニティーエステグルメを堪能すると、また魚に背負われ、サーっと筑紫の国(九州)に帰って出産をした。それでこの地は宇美(福岡県糟屋郡宇美町)と呼ばれる。赤子はオオトモワケと名付けられたが、大きくなったら応神天皇おうじんてんのうになるんで。もう、応神おうじんで。

そして、朝貢国となった新羅、百済、高句麗の朝鮮三国を守るためにソコツツノオ、ナカツツノオ、ウハツツノオの三神を住吉神社(福岡県博多)に祀った。

オシクマとの皇位争い

神功じんぐうはしばらく宇美に滞在し、応神おうじんに物心がつくと、大和に帰ることにした。しかし、三神から次期天皇に任命された愛息子が他の兄弟に殺されるんじゃないかと恐れ、敵が攻めて来る前提で罠を張り、筑紫から難波へ船を進めた。

一方大和では神功じんぐうの読み通り、応神おうじんの異母兄、カゴサカとオシクマが神功じんぐう応神おうじんを殺す計画を立てていた。

 

『だって皇后が神がかりしたとか、めっちゃ怪しいじゃんか。あの人ちょっと頭おかしいし。本当は父上のこと、あの人が殺したんじゃないの??』

 

2人の意思は堅かった。そこでカゴサカとオシクマは神功じんぐうと戦って勝てるかどうかを占うため、山に誓約うけい狩りに行った。しかし狩りの途中、兄のカゴサカがイノシシに食われて死んでしまう。占いの結果はどう考えても大凶だ。

それでも弟のオシクマは自分の軍が負けるとは思えなかった。そこで、軍を率いて難波に向かった。

難波に着くと、何隻ものもの船が連なり、こちらに向かってきた。しかし兵の数は負けていない。それに一隻、黒い帆を上げた喪船が混ざっているではないか。

情報によると、応神おうじんが既に亡くなったという。

これなら勝てるとオシクマは確信した。まずは人が少ない喪船から攻め、占領したら次々に他の船を襲い皇后を討つ算段だ。

開戦するとオシクマはすぐに、その喪船を目掛けて攻めた。しかし、喪船からはゾロゾロと兵が湧き出し、返り討ちに遭ってしまう。

 

まぁ、そりゃあ、罠ですからね。うまく掛かってくれたわけだ。

 

出鼻をくじかれたオシクマだったが、両軍は激しい攻防戦を繰り広げた。そして、オシクマが軍の優勢を感じたその時。遠くから叫び声が聞こえた。

「皇后を討ち取ったぞーー!!!我々の勝利だーーーー!!!!!」

「皇后が亡くなられた。これ以上の戦いに意味はない!武器を収めろーーー!!!」

この朗報が届くと、オシクマ軍は次々に歓声をあげ、武器を収めた。すると ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「今ですわっ!!」

 

この声を合図に、オシクマ軍の上から一斉に矢の嵐が降り注いだ。

 

まぁ、これも、罠ですからね。すげー卑怯だけど。

 

この攻撃でオシクマ軍は壊滅し、彼は命からがら琵琶湖まで逃げた。そして『このまま敵に殺されるよりは。』と思い、湖に身を投げた。

こうして応神おうじんは、神功の作戦で皇位継承の戦いに勝った。

応神の禊

戦いが落ち着くと、作戦とは言え喪船に乗せられ、死人扱いをされてしまった応神おうじんは、穢れを祓うために近江(おうみ/福井県南西部)に向かうことになった。

近江までは、武内タケシウチが付き添った。端から見ると、坊ちゃんと爺みたいだ。まぁ、間違ってはいないけど。

目的地に着くと早速、穢れを祓うためのみそぎを行った。みそぎってのはあれだ。イザナギが黄泉から帰って来た時にも川でやってた、あの、お清めみたいなやつだ。 応神おうじんは、無事にみそぎを終わらせ心も体もサッパリした。

余談だが、この禊の文化が日本人を風呂好きにしたと言われている。

 

そして帰り道。

 

武内タケシウチが寝ていると、夢の中にイザサワケノ大神という狐のケモ耳付きの神が出てきて、「応神様から名前をいただきたい。ていうか、犬になりたい。」とせがんできた。武内タケシウチが「犬はちょっと、アレですけどお名前くらいなら ・ ・ ・ 」と、OKを出すと、神はとても喜んで、「明日、日浜に来てください。お礼がしたいんです!」と言ってすぐに消えてしまった。

翌日、武内タケシウチは事情を話し、応神おうじんを海に連れて行った。すると、浜には鼻の頭に傷をつけたイルカが大量に集まっていた。

「わぁ!神様がさくさんの御食(ミケ)をくださったんですね!うれしい!!」

応神おうじんは、無邪気にはしゃいで喜んだ。今でもイルカ漁は残っているが、当時のイルカは貴重な高級食材だったのだ。そして、約束通りに名前をあげた。

「これからは貴方を敬って『ミケツカミくん』って呼びますね!」

こうしてミケツカミは氣比神宮(福井県敦賀市)に祀られ、それ以来この地域からは、朝廷に塩や魚が届けられるようになった。

スクナビコナの美酒

それから数日後、2人が大和に帰ると、神功じんぐうが大喜びで出迎えた。

「応神っ!!よく戻ったわねっ!!わらわが褒めて差し上げますわっ!!」

応神おうじんうれしくなって、神功じんぐうに抱きついた。

母上~〜!!ボク、ちゃんとミソギできましたよっ!!」

「あらぁ~、さすが愛しの仲哀の御子ですわっ!ささっ!ご褒美ですわ!!こちらをお飲みなさいっっ!!!

 

神功じんぐうは、応神おうじんに盃を持たせると、乳白色の飲み物をなみなみと次いだ。 武内タケシウチは嫌な予感がして、それが何か聞いた。

 

「神功様!まさかそれは ・ ・ ・ 」

 

御酒ですわっ!!しかも、この御酒はわらわが醸したものではありませんのっ!常世の国で石神となったスクナビコナが祝い踊り狂って醸した酒ですのよっっ!!さぁっ!全部飲みほしなさいっっっっ!!!!

 

神功じんぐうは上機嫌で歌を詠んできた。

 

まずいっっ!!このまま日本酒を応神にガブ飲みさせる気だっ!!武内タケシウチは慌てて歌を返した。

 

この御酒を作った方は、鼓を臼のように立ててその周りを歌いながら踊りながら醸したのでしょう!この御酒はなんとも言えず大変味が良くて楽しい!!さあさあ!!!

 

武内タケシウチ神功じんぐうから酒を奪うと、自分でイッキに飲み干した。

 

『 ・ ・ ・ ・ ・ ・ おぉ!これは確かに美酒っっ!!!』

 

武内タケシウチはちゃっかりベロンベロンに酔い、その晩は大宴会になった。そしてこの歌は朝廷で宴会の席の定番コールになった。

神功じんぐうは他にも様々な伝説を残し、やがて応神が皇位を継ぐと100才で亡くなった。

『系図』景行天皇、成務天皇、ヤマトタケル、仲哀天皇、開化天皇、ヒボコ、神功皇后、武内宿禰、応神天皇

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