日本神話『八岐大蛇』

八岐大蛇

八岐大蛇退治

 

「んあー!良い朝だーーー!!」

 

一目惚れしたクシナダヒメを八岐大蛇から救うことになり、昨晩、ちゃっかり彼女の実家に泊まり込んだ須佐之男スサノオは、太陽に向かって伸びをした。

 

『いいねぇ。太陽って。なんかネェちゃんが見守ってくれてる気がする。ま、戦うのは夜だけど。』

 

須佐之男スサノオの頭の中にはすでに作戦があった。夜までに準備をしなくては。

よしっ!そんじゃあ、いっちょやりますかっ!!なぁ、アシナヅチ、この辺に酒蔵は無いか?」

早速クシナダヒメの父、アシナヅチに協力を求める。

「えぇ、ございますが ・ ・ ・ ・ 」

「そしたら、そこから一番強い酒をありったけもらってきてくれ。でかい樽8つ分だ。あと、家の周りに垣根を植えても問題ないよな?」

「問題ありませんが ・ ・ ・ 何をするので?」

「まぁ、見てなって! ・ ・ ・ ・ そんで、クシナダ。お前は見つかったら大変だから、クシに変えとこう。特等席でオロチ退治を拝ませてやるよ。

 

サクサクと指示を出す須佐之男スサノオに、急に名前を呼ばれたクシナダヒメは慌てた。っていうか、昨日の今日で早速、呼び捨てですか??

 

「はぁ?クシってどういうこ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

『ぼふんっ!!』

 

須佐之男スサノオは説明もろくにせず、クシナダヒメをクシに変え、髪に挿した。そして、着々と準備を進める。まずは家の周りに大きな垣根を植え、8つの門を作った。垣根を作り終わると、ちょうどアシナヅチが酒を持って帰ってきた。

 

「スサノオ様、お待たせしました。どちらに持って行きましょう?」

「あぁ、こっちに頼む!」

 

須佐之男スサノオとアシナヅチは、用意した8つの門の前に8つの酒樽をひとつづつ並べていった。そして準備が終わる頃には日が沈みかけていた。八岐大蛇は日が沈むと同時に来るらしい。須佐之男スサノオは不謹慎だと思いながらもついつい口の端がニヤリと上がってしまう。

 

 

『楽しみだなぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』

 

 

そして、日は静かに沈んだ。

 

 

ズズズズズズ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

   ズズズズズズ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

聞き慣れない奇妙な音がひびく。それはだんだん大きくなり、地震のように地面が揺れ出した。遠くから8つの頭を望むことができる。『なるほど。谷8つ分は盛り過ぎだと思ったが、こりゃでかい。』須佐之男スサノオは武者震いした。

 

 

ズズズズズズ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

  ズズズズズズ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ピタッ

 

 

クシナダヒメの家の前まで来ると、八岐大蛇はこちらに気づいたようだ。合計16個の目玉が須佐之男スサノオを睨みつけた。

 

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前誰だ?見ない顔だな。」

 

 

須佐之男スサノオは満面の笑みで八岐大蛇を迎えた。ふっふっふ!ここはしっかり大人の対応っつーもんを見せてやる。

 

あぁ、ヤマタノオロチ様!!お待ちしておりました。ただ今、クシナダヒメはあなたのために、身支度を整えております。酒を用意しましたので、しばらくの間、こちらでお待ちください。」

 

「 ・ ・ ・ 酒?ほぅ、ワシを酔わせてその間に逃げようとでもいうのか?」

 

「まっさかぁ~!そのつもりなら、こんな夜まで待っていませんって。さぁ!ここらで一番の酒を用意しました。もちろん、皆様の分取りそろえてます。」

 

「フン!まぁいいだろう。どのみち、怪しい動きがあれば、一捻りだ。」

 

オロチは、門のひとつひとつに顔を入れ、酒を飲み始めた。

 

「ん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ これ ・ ・ ・ ・ うまいな。」

 

どうやら、この酒が気に入ったらしい。

 

ハハッ!ありがとうございます。夜は長い。ゆっくりお楽しみください。」

 

やべぇ ・ ・ ・ うまいぞコレ本当 ・ ・ ・ ・ と、八岐大蛇はブツブツと言いながら酒に夢中になった。須佐之男スサノオは、じっと笑顔でその時を待った。

 

しばらくすると、どこからかイビキが聞こえてきた。頭が一つ、また一つと眠り出したのだ。

 

『 ・ ・ ・ ・ なんだ。ちょろかったな。』

 

須佐之男スサノオは、十拳の剣とつかのつるぎを抜き、ガァガァと寝込んでいる八岐大蛇の頭にこっそりと近づいた。

 

「 ・ ・ ・ ・ ありゃりゃぁ~?オロチちゃ~ん。気ィ抜き過ぎなんじゃねぇの??

 油断してっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 寝っ首掻かれるぜっっ!!」

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ キアアアアアアアアアアアア ・ ・ ・ ・

 

 

オロチの悲鳴ひめいが辺り一面にひびいた。

 

須佐之男スサノオが、酔ってフラフラになった首を次々と十拳剣で斬り落としていったのだ。

 

 

「貴様アァ!!騙したなアアアアアアア!!!」

 

 

オロチは奇声を上げた。しかし、時既に遅し。

 

 

「悪りぃなっ!お前が最後のいっちょだっっ!!」

 

 

ザクリ。

 

 

須佐之男スサノオはあっという間に、最後の首も切り落としてしまった。

 

 

「ハッ!呆気なかったなぁ。」

 

 

しかし、すぐ近くで『ドオォォォォォン!』と低い大きな音と共に、地鳴りがした。どうやら、残りの尾が暴れまわっているようだ。

「チッ!往生際の悪い奴だ。」

須佐之男スサノオは、残った尾も次々と切り落としていった。すると・・・

 

ガツンッッ!!!!

 

「うわっ!なんだ?なんだ???」

 

尾の中で何か引っかかったのだ。不思議に思い切り出すと、立派な大刀が出て来た。

 

「うおぉ~なんじゃこりゃ??カッケェ~!!コレあれじゃね???ラスボス倒すともらえる最強武器的なソレじゃねっ!?」

 

『スサノオは草薙の剣を手に入れた。』

 

しばらくのたうち回っていたヤマタノオロチだったが、やがて動かなくなった。須佐之男スサノオの完全勝利だった。

 

「終わったか ・ ・ ・ ・ オィ、クシナダっ、もうイイぞ!」

 

『ぼふんっ!!』

 

須佐之男スサノオは、クシに変えていたクシナダヒメを元の姿に戻した。

 

「わわっ!!!何なに?キャッ!!ヌメヌメするっ!!これ、オロチの上???臭っっさ!!血生臭っっっ!!!」

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前、本当にうるせぇ女だな。」


「うわぁ ・ ・ ・ 本当に倒しちゃったのね。」


「あぁ!言ったろ??俺が守るって。」


「ふふっ、よくそんなクソ恥ずかしいセリフを平気で言えるわね。
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ありがと。スサノオ。」


「へへっ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ クシナダ、これから宜しくな。」


「うん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 本当にありがとうっっ!!

 

ガバッッ!!

 

「うわっっっ!!!」

 

クシナダヒメはうれしそうに須佐之男スサノオに飛びついた。
こうして、2人は結ばれ夫婦となった。

 

スサノオ、クシナダヒメ

八雲立つ

それから、数日後。高天原たかまがはら天照大神アマテラスの部屋を思金神オモヒカネが覗いた。

「アマテラス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ スサノオが面会をしたいと、そこまで来ているんですけど ・ ・ ・ どうします?」

「えっ??全然気づかなかった。この前は稲妻を鳴らしながら来たのに ・ ・ ・ 通してあげて。」

「はい。」

 

ダダダダダダダッ ・ ・ ・ ・ バタンッッッ!!!!!

 

「ネェちゃんっ!!」

 

「バカッ!みんなの前では御姉様って呼べって言ったじゃないっ!!」

 

「あ、悪りぃ、オネーサマ。それより俺、好きな人ができたんだ!!

 

「はぁ?あんた、そんな事をいうためにここまで来たわけ??」

 

んなわけねーだろ。これを高天原たかまがはらに納めようと思って ・ ・ ・ ・ 」

 

須佐之男スサノオは、八岐大蛇退治で手に入れた草薙の剣を高天原たかまがはらに収めに来たのだ。

 

「わぁ、すごい ・ ・ ・ ・ 立派な剣ね。これ、もらっちゃっていいの?」

 

あぁ、もちろんだ!!!俺が、高天原たかまがはらでやっちまった罪は消えないが ・ ・ ・ 少しでも償いたいんだ。だからこの剣、もらって欲しくて。」

 

「そう ・ ・ ・ ・ ・ ・ ありがと。それじゃあ、遠慮無くいただくわ。」

 

「そうか!よかった!!」

 

「クスっ、にしてもあんた、すごい変わり様ね。きっと素敵な人と出会えたのね。」

 

「あぁ!クシナダは最高の嫁だっ!」

 

・ ・ ・ は?今、何と??

 

天照大神アマテラスは口をポカンと開けて須佐之男スサノオを見た。

 

「えっ?ヨメ??あんた、結婚したのっ???高天原たかまがはらを出てからまだ何週間も経ってないじゃない!!」

 

「ハハッ!一目惚れだからな!」

 

いやいや、一目惚れだからと言って、展開早すぎでしょ。結婚ってそんな一瞬で決まるもんなの??まぁ、幸せそうだからいいけど。

 

なんだろう。このやるせない感じ。

 

「そ ・ ・ ・ ・ そうなの。まぁ、とにかく良かったわ。おめでとう。」

 

「おぅ!ありがとっ!!」

 

「 ・ ・ ・ あんたを高天原たかまがはらに帰すことはできないけど、いつでも応援してるからね。」

 

あぁ!!ありがと!! ・ ・ ・ ・ そんじゃ、俺、出雲いずもに帰るわ。サヨナラだ。世話んなったな、ネェちゃん!!!」

 

「うん ・ ・ ・ ・ ・ ・ バイバイ。元気でね。」

 

「あぁ、ネェちゃんもなっ!!」

 

ダダダダダダダ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

須佐之男スサノオは、用が済むとさっさと出雲いずもに帰ってしまった。弟を追放ついほうしてから、ずっと気にかけていたいた天照大神アマテラスは、彼の成長と活躍が素直にうれしかった。須佐之男スサノオが置いていった草薙の剣を見ると、自然と笑みがこぼれる。

 

「よかったですね。元気そうで。」

 

そんな天照大神アマテラスの笑顔を見て、思金神オモヒカネが声を掛けた。

 

「うん ・ ・ ・ ・ 」

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、先越されちゃいましたね。」

 

「黙れ、メガネ。」

 

「ゴメンナサイ。」

 


 

それから数ヶ月が経ち、話は地上の出雲いずもに戻る。

 

・ ・ ・ ・ バタン!!

 

朝っぱらからハイテンションの須佐之男スサノオが寝室の扉を勢い良く開けた。

 

「おい!クシナダ起きろ!!お前に見せたいモンがある。」

 

「ん~~ ・ ・ ・ 何よ ・ ・ ・ ・ まだ日の出前じゃない。」

 

「出かける準備だっ!!」

 

「へっ??うわっ!ちょっ ・ ・ ・ ・ 何よっ??

 

須佐之男スサノオは、クシナダヒメを無理矢理起こすと、彼女を担いで斐伊川の川縁を下へ下へと進んだ。

 

「ちょっと!ねぇ、どこまで行くのよっ!?」

 

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここだ。ここを抜けると ・ ・ ・ ・ 」

 

そこは、辺り一面に緑が生い茂る広々とした場所だった。

 

「わぁ~ ・ ・ 綺麗なところ ・ ・ ・ ・ 清々しい気分になるわね ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

 

「お前もそう思うか?俺も初めてココに来た時『なんて清々しい場所なんだ』って思ったんだ!だから、俺はこの土地を"須賀"と名付けた!!」

 

「うわっ ・ ・ ・ 単純っ!!」

 

クシナダヒメが辺りを見回すと小高い丘の上に大きな宮殿が見えた。「この辺の地主さんかな??」と眺めていると須佐之男スサノオは「こっちだ」と言って彼女の腕を引っ張った。

それは、幾重にも垣を巡らせた見事な宮殿だった。須佐之男スサノオはズカズカとその中に入って行く。『また不法侵入かよ』と思いながらクシナダヒメも後に続いた。しかし、家の中には誰もおらず、シンとしている。

 

「わぁー素敵な宮殿ね ・ ・ ・ ・ 新築の匂いがする ・ ・ ・ ・ 」

 

「俺が建てた。」

 

「はいっ!?」

 

須佐之男スサノオは得意気に笑っている。

 

「ここに、家族で住もう。」

 

「うそ ・ ・ ・ こんな立派な宮殿に? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ すごい。しばらくコソコソと出歩いていると思ったら ・ ・ ・ ・ 」

 

「驚いたか??」

 

「うん、とっても素敵! ・ ・ ・ ・ ・ ありがとう、スサノオ!!

 

宮殿の縁側からは、壮大な山々が一望でき、日の出と共に朝雲がもくもくと立ち上がってくるのが見えた。

 

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を ・ ・ ・

 

「何それ?歌??らしくないじゃない。」


「短歌だ。いいだろ??たまには。」


「ふふっ、そうね。案外才能あるかも。」


「へへっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 幸せになろうな。クシナダ。」


「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん。」

 

クシナダヒメは、うれしそうに笑顔を向けた。

 

こうして須佐之男スサノオは日本最古の短歌を残し、家族と共にいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

『系図』天つ神:イザナギ、アマテラス、国つ神:スサノオ、アシナヅチ、テナヅチ、クシナダヒメ、ラスボス:八岐大蛇退治

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