日本神話『根の堅洲国 』
スサノオの試練
2度も八十神に殺されたオオナムチは、カムムスビから「
オオナムチが
『スサノオ様が住んでるくらいだ。きっと、ここだろう。』と思いノックをしようとすると、急にその戸が開き、出てきた人とぶつかった。
ポフッ ・ ・ ・ ・
「きゃっ」と、若い女の人が小さく声を上げる。
「わっ、ビックリした ・ ・ ・ ・ 大丈夫?」
「ごめんなさい ・ ・ ・ ・ お客様がいたなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!」
2人の目が合うと、その場の空気が急に変わった。
初対面にも関わらず2人は惹かれ合い、見つめ合う。『あれ、どうしよ。目ぇ逸らせない ・ ・ ・ ・ 』そして、オオナムチと彼女は引き寄せられるかのように唇を重合った。『人ん家の玄関先でまずいよな ・ ・ ・ ・ 』と思いながらも止めることができない。
彼女は後ずさり踏み石に足がかかると、そのまま玄関に腰を落とした。オオナムチは彼女に覆い被さる。『ていうか、コレいけちゃう感じ??誰かに見られたらやばくない??』なんて思いながらも続けて首筋にキスをする。
「んっ ・ ・ ・ ・ 」
『あ。無理だコレ。止まんないや。』
--そのうちオオナムチは、考えるのをやめた。
数十分後。
オオナムチは、ふんどし一丁のまま土下座をしていた。
「スッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ スミマセンでしたあぁぁ!!」
初対面で襲ってしまった手前、もう平謝りするしかない。
「こんなつもりで来たわけじゃないんですけどっっ!!」
「いえっ、私の方こそ ・ ・ ・ ・ !!」
彼女も肌着姿のまま頭をペコペコ下げる。端から見ると、すげーシュールな図だ。
「えっと ・ ・ ・ ・ ごめん、名前も聞いてなかったね。僕はオオナムチ。スサノオ様に会いに来た。ていうか、そもそもこの家で大丈夫だった?」
「あ ・ ・ ・ はい。私はスサノオの娘、スセリビメです。」
「へっ!? ・ ・ ・ ・ 娘っっ??」
オオナムチは、血の気がサーっと引くのを感じた。『いや、そうだよな ・ ・ ・ ・ 同じ家にこんな若い子いたら、娘の可能性大だよな ・ ・ ・ あぁ~~やっちまったぁ!!!』
「ふふっ、大丈夫よ。パパ、昔は荒ぶる神だったらしいけど、今はすっかり落ち着いて優しいもの。」
「えっ、あ ・ ・ ・ ゴメンナサイ。顔に出てしまった ・ ・ ・ ・ 」
「案内するわ。服はちゃんと整えてよね。」
「はい、スミマセン。」
オオナムチの身支度が整うと、スセリビメが、
「パパいる??お客様よ。」
彼女の後ろから部屋の中がのぞけて見えた。あの金屏風の絵は ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 龍虎?そして赤と金を基調にしたこの部屋の配色、どっかで見たな ・ ・ ・ ・ あれは確か ・ ・ ・ ・ ・ 火曜の深夜にやってたヤクザ映画 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
部屋の中から、ドスの効いた低い声が聞こえてきた。
「あぁ?珍しいな。誰だ?通してくれ。 ・ ・ ・ ・ つーかお前、何か顔、赤くないか?熱でもあんのか??」
「えっ??そうかなぁ??気のせいじゃない???ささっ、オオナムチさん、こちらですよ~。」
「アッ ・ ・ ・ ・ ドウモ。アリガトウゴザイマス!!!」
まずい!!無駄に緊張するっっ!!
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
っっこの人がスサノオ様?うわぁぁぁ ・ ・ ・ ・ すげェ睨んでる。こっちすんげぇ睨んでるよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 怖えぇぇぇぇぇ!!!
「え ・ ・ ・ ・ えーっと、初めまして。 ・ ・ ・ ・ 私はオオナムチと申します。あなたの6代孫にあたる者で ・ ・ ・ ・ 」
「おぅ、そうか。で ・ ・ ・ ・ 何の用だ?」
『ギロリ。』
「はは ・ ・ ・ ・ 初対面で、そんな睨み効かせないでくださいよ。えぇと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
実は僕、異母兄弟に殺されそうで ・ ・ ・ ・ いや、ていうか、正直にいうと2度も殺されてしまいまして。情けない話しなのですが、スサノオさまに助けていただこうと思い伺ったのです。」
「なんだ?コラ?頼りねぇ奴だなぁ。オィ。テメェでなんとかしろよ。」
「まぁまぁ、そう、おっしゃらず ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「あぁ~あぁ〜〜 ・ ・ ・ ・ オレの血を受け継いだとは思えないナヨさだな。でもまぁ、血族のよしみだ。とりあえず今日は、うちに泊めてやるよ。部屋を貸してやろう。」
「あっ ・ ・ ・ ・ ありがとうございます!」
「 ・ ・ ・ ・ スサノオ様 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここは?」
「あぁ?見りゃわかるだろ?蛇の室屋だ。」
室屋!?牢獄じゃ無くて??だいたい何で、家の中に蛇の室屋があるんだよっ!!!拷問以外にどんな用途があるんだっっ!?
「えっと ・ ・ ・ ・ 部屋中ヘビまみれで、足の踏み場が無いんですケド。」
「あんだぁ?コラ??泊めてやるっつってんのに文句あんのかオィ???」
ヒィ!!この人、めっちゃ怖えぇ ・ ・ ・ ・ 絶対カタギの人間じゃないっ!!!!
「いやっ!!めっちゃ
「おぅ、ならいいんだ。そこに、ワラがあるから、開けてもらえ。毒蛇も混ざっているから気をつけろよな。俺はもう寝る。じゃあな。」
「 ・ ・ ・ ・ はぁい。おやすみなさぁい。」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぁ ・ ・ ・ ・ どこが優しいパパだよ。 ・ ・ ・ あぁーまずいなぁ ・ ・ ・ アレ、ばれちゃったのかなぁ ・ ・ ・ 。
オオナムチが、途方に暮れていると、後ろから声がした。
「オオナムチ ・ ・ ・ ・ 」
「スセリビメ!!」
「シッ!静かに ・ ・ ・ ・ パパに内緒でヒレを持って来たの。」
ヒレとは昔の女性とか、天女とかがよく肩に巻いてる、ヒラヒラしてるあれだ。しかしこれでは、ヘビを避けようがない。
「うぅん、気持ちは
「違うわよ。ちゃんと最後まで聞いて。これはヘビのヒレって言って呪力があるの。3回振るとヘビは大人しくなるわ。」
スセリビメがヒラヒラと3回ヒレを振ると、蛇はピクリとも動かなくなった。
「おぉ!すごーい!ありがとう、スセリビメ!!これで、なんとか眠れそうだ!!」
こうしてオオナムチは彼女のおかげで蛇の室屋で一夜を過ごすことができた。
まだ続く試練
翌朝ーーー
「おぃ、スセリ、朝飯 ・ ・ ・ ・ 」
しかし、台所から顔を出したのはオオナムチだった。なぜか割烹着を着ている。
「あ、スサノオ様、おはようございます。ご飯できてますよ。」
「あぁ??テメェが作ったのか?女かよっ!!女々しい奴だなぁ!!!」
「兄達に散々作らされましたからね。」
なんだ。生きていやがったか。第一関門クリアってとこだな。コイツ、見込みはありそうなんだが ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ どうも頼りねぇ。
「 ・ ・ ・ ・ ところで、昨日は寝れたのか?」
「えぇ、お陰様でグッスリ!ありがとうございました。」
「 ・ ・ ・ そうか。モグモグ ・ ・ ・ ・ ん ・ ・ ・ うめぇな。」
「くすっ。それはよかった。」
「 ・ ・ ・ ・ フン、いいだろう。今日は違う部屋に泊めてやるよ。」
「おぉ~!ありがとうございます!!」
その夜ーーー
ブゥゥ ・ ・ ・ ・ ン ・ ・ ・ ブゥゥ ・ ・ ・ ン ・ ・ ・ ・
案内された部屋には、不快な羽音が
「 ・ ・ ・ ・ で、この部屋はなんですか?スサノオ様。」
「あぁん??見りゃあわかるだろ??蜂とムカデの室屋だ。今日は布団まで用意してやったんだ。ありがたく思いな。」
うわぁ、本当だぁ~。大きな蜂の巣に気を取られて全然、気づかなかったけど、床もムカデさんでいっぱいだぁ。
「さすが、優しいなぁースサノオ様は。ムカデの添い寝付きとか、すんげー贅沢。」
「チッ! ・ ・ ・ ・ こいつらは一発で死ねる量の毒をもっている。せいぜいグッスリと寝ることだな。」
「そ ・ ・ ・ ・ そうですか。それは深く深く眠れそう。とってもうれしいや。」
「フン。また明日な。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 会えるなら。じゃ。」
「ははは。おやすみなさぁい ・ ・ ・ ・
・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・あ"ぁっっ!!!
絶対バレてるっっ!!!
アレ、絶対バレてるって!!!!!
あの人、僕のこと殺す気だっっ!!!!!」
オオナムチは膝を付いて項垂れた。
試しに蛇のヒレを振ってみたが効果はない。
「ですよねぇ ・ ・ ・ ・ 」
オオナムチが部屋の前で体育座りをしながらどうしたものかと考えていると、また後ろから声がした。
「オオナムチ ・ ・ ・ ・ 」
「ヒメっっ!!よかった ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 正直、また何か持ってきてくれるんじゃないかと思って、すげー期待してた!!」
「ふふっ、オオナムチったら ・ ・ ・ ・ パパがごめんね。今日は、ムカデと蜂のヒレを持って来たわ。使い方は昨日と一緒よ。」
「本当にありがとうっ!超愛してるっっ!!」
「私も ・ ・ ・ ・ ・ ・ おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
翌朝ーーー
「オィ、飯っっ!!!」
昨日の流れを考え、
「お、おぃ ・ ・ ・ ・ あのナヨイ男はどうした?死んだか?」
「もう、パパったら。今日の朝ごはんもオオナムチさんが作ってくれたのよ?」
なんだ、よかった ・ ・ ・ ・ いや、別に心配してねぇけど。オオナムチは台所からお盆を持って部屋に入ってきた。また割烹着姿だ。コイツには男のプライド的なものは無いのだろうか?
「あ、おはようございます。スサノオ様。 ・ ・ ・ ・ あとこれ、お味噌汁です。」
「おぅ。まだ生きてやがったか。しぶとい奴だな。 ・ ・ ・ ズズッ ・ ・ ・ ・ うめぇな。」
「くすくすっ、ありがとうございます。ところで、スサノオ様、目玉焼きは、醤油派ですか?ソース派ですか?」
「ん、ソース。」
「はぃはぃ、どうぞ。」
「オゥ。」
「僕はお醤油で。ちなみにオリーブオイルとお塩で食べるのも美味しんですよ。僕的には、ピンクソルトがオススメかな。」
「アホか。んな洒落たモン、ウチにねーよ。」
うぅん。コイツと喋ってると、どうも調子狂うな ・ ・ ・ ・
朝ご飯を食べ終わった
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オイ、ナヨイの。今日は一緒に出かけようじゃないか。」
「えっ!?2人で??おぉ~〜!!ついに何か兄対策の必殺技とか教えてくれる感じですか??」
「まぁ、そんなところだ。」
「よっしゃ!喜んでお供しますっ!!」
オオナムチは飛び上がって喜んだ。
まだまだ続く試練
昼ーーー
乾いた風の音がする。そこは見渡す限りの荒野だった。日本だというのに、どか西部映画にでも出てきそうな印象だ。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ で、どこですか?ここ?」
「あぁ??見りゃあわかるだろ?荒野だ。」
「確かに、それ以上でもそれ以下でも無く荒野ですね。必殺技の伝授には最適だ。」
「オイ、ナヨいの。見ていろ。」
打つと音が鳴るタイプの矢で、戦場等では合図として利用されることが多い。
どこを狙っているのだろうか。
「おぉ~!さすがスサノオ様。よく飛びますね。弓技の伝授ですか??確かに、僕は近距離っていうより遠距離タイプかも。パーティーに一人いると楽なんですよね。」
「違げぇよ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あれを取ってこい。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ん??」
「さっきの鏑矢を取って来いっつったんだよっ!!聞こえなかったのか?コラ??」
「えぇー。無茶振り ・ ・ ・ ・ 」
ついさっきまで必殺技の伝授かとばかり思っていたオオナムチは、どうもやる気が出ないらしい。
仕方なく
「もし ・ ・ ・ ・ 無事に取って来れたら、スセリとの結婚も考えてやってもいい。」
オオナムチは一転、目を輝かせて
『うっ ・ ・ ・ ・ うぜぇ。』
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お義父さん!!」
『ブチィッッ!!!!』
「テメェにお義父さんと呼ばれる筋合いはねぇ!!!!!さっさと取って来やがれっっ!!!!」
「はいっ!行って来ますっっ!!」
オオナムチは意気揚々と草原に
しかし、その瞬間 ・ ・ ・ ・
『はぁっ??どうゆうこと???』
オオナムチが振り返ると、
「 ・ ・ ・ ・ おぃ、ナヨイの。今日はスセリの助けはねぇ。生きたけりゃ、自分の力で帰って来ることだな。」
「スサノオ様 ・ ・ ・ 熱っ!!何でもお見通しってわけですか??くっそ、絶対取ってきますから ・ ・ ・ ・ アレ、約束ですからねっっ!!」
オオナムチは矢が放たれた方向へ走った。
しかも最悪なことに追い風だ。火の巡りは早く、あっという間にオオナムチは囲まれてしまった。
「あぁ!クソッ!!逃げらんない ・ ・ ・ ・ 」
ゴォゴォと音を立て、火の手が迫って来る。絶体絶命のピンチ!!そんな中、この場に似合わない、とっても可愛らしい声が聞こえた。
「チューチュー!」
「へ??ちゅー??そうだよ、ちゅーの1回や2回したくらいじゃ、死んでも死に切れない ・ ・ ・ って、ん??何??? ・ ・ ・ ・ ネズミ???」
鳴き声のする方を見るとネズミが必死で何かを訴えかけてきた。
「チュー!! ・ ・ ・ ・ ウチハホラホラ、ソトハスブスブ!! ・ ・ ・ ・ ウチハホラホラ、ソトハスブスブ!!」
「ん?何その呪文??今、忙しいんだけど。 ・ ・ ・ 内はホラホラ、外はスブスブ? ・ ・ ・ ・ 内はホラホラ、外はスブスブ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 下ネタ??」
「チューっ!!!」
・ ・ ・ ・ どうやら違ったらしい。
「えっ?違うの??」
「チゥ!!チウッッ!!」
火が迫ってくる。ネズミも必死だ。ネズミは後ろを振り返りながら
するとイキナリ『ズボッッ』っと地面の中に足が沈んだ。そしてそのまま・・・
「うわあぁぁぁぁっっ!!!!!」
ドスン。オオナムチは昭和のギャグ漫画に出てきそうな体勢で穴に落ちた。
「イテテ ・ ・ ・ ・ かなり深い穴だな。あのネズミ、この穴のことを伝えたかったのか。全然わからなかった。 ・ ・ ・ ・ でもとりあえずここで火が収まるのを待てそうだ。」
「チューチュー」とまた鳴き声が聞こえた。さっきのネズミだ。ネズミはその身体に見合わない長い棒を咥えていた。
「あぁ、さっきはありがとう。助かったよ。 ・ ・ ・ ・ ん?何?その棒 ・ ・ ・ 矢?
「ちゅー!」ネズミはなんだか得意げだ。しかし、その矢には羽根が無かった。
「あれ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ くすくすっ、羽根、食べちゃったのか?しょうがないな。まぁ、いいや。 ・ ・ ・ ・ ありがとな。」
オオナムチが頭をなでてやると、ネズミは「ちぅ。」申し訳なさそうに一礼をして、そそくさと帰って行った。残されたオオナムチは、穴の中で一晩過ごすことにした。
そして、