天皇記『応神天皇』
ヤカワエヒメとの出会い
そして、来る者拒まず ・ ・ ・
そんな生活を続けていたら、いつの間にか男子11人、女子15人と子だくさんになっていた。
となると、問題になるのが皇太子選びなのだが、
それは今から数年前 ・ ・ ・
彼女との出会いは宇治(京都府宇治市)の脇にある、木幡村だった。だから、息子の名前が、ウジノワキだなんて単純な名前になってしまったのだが。
まぁ、とにかく。
そして時は動き出す。
既に彼女は遥か後方だ。
「ちょっと、君っ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ どこの娘っっ!?」
「えっ!?」
彼女は驚いた顔で振り返った。まるで職質のようなナンパだ。しかし、身なりもしっかりしてるし、変な人では無さそうだ。彼女は不審に思いながらも、とりあえず名を名乗った。
「ヒフレノオミの娘、ヤカワエヒメと申しますが・・・・」
「和邇の大豪族か ・ ・ ・ よかった。それなら母上にも反対されない ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ 母上??」
「いや、こっちの話だ。あの、明日、必ず迎えに行くからっ!俺、今、急いでてっ!!」
「えっ??迎えにって ・ ・ ・ ・ ・ 」
「絶対行くらっ!待っててくれよなっっ!!」
それだけいうと
一方、ヤカワエヒメは和邇の家に帰ると早速このことを父親に報告した。すごい不審者だったけど、でも悪い人では無さそうだけど ・ ・ ・ でも名前すら教えてもらってないのに、どうしよう。といった内容だ。
父親は彼女の話しを聞いて驚いた。特徴が天皇にそっくりだったからだ。ていうか、それ、天皇なんじゃないか?父親は、喜んでお仕えしろと言って、慌てて嫁入りの準備を整えた。
翌日、「ごめんくださーいっっ!!」と、
そして、ヤカワエヒメを貰う許可を父親からもらい、酒も入ってご機嫌になった
「宇治の道端で出会った娘は、遠くから見れば盾のように美しい立ち姿で、近くで見れば白く美しい歯が並んでる。よっぽど良い土を焼いて作ったんだなって眉墨で眉も綺麗に整えてあって、メイクのセンスもいい。昨日まではあの子と一緒に寄り添えたら良いのにって夢見ていたのに、今はここで寄り添ってる ・ ・ ・ 」
応神天皇の皇太子選び
やがて、ウジノワキにも子どもができる程、息子達は大きく成長した。その中で皇太子候補に囁かれていたのは3人だった。長男のオオヤマモリ、次男のオオサザキ、そして末のウジノワキだ。
長男のオオヤマモリは、名前の通り山の主か何かですか?と問いたくなるほど恰幅が良く、山で会ったら熊と見間違えそうな見た目だった。彼の後ろにいれば、どんなに荒れた戦場でも死ぬ気がしない。そんな戦国武将のようで、気の強い人だった。
次男のオオサザキは、漢字で書くと「大雀」。大きなスズメにするくらいなら最初からもっと大きな鳥の名前にしてやればよかったのに。彼は、サザキの名に似合わず、スゲー女好きで、天皇よりオオクニヌシの名を継いだ方がいいんじゃないかとさえ言われていた。とは言っても女さえ絡まなければ、聡明で面倒見のいいみんなの兄貴的な存在だった。
末のウジノワキは、まぁ、一言で表すなら「ショタ系」だ。なんか、守ってあげたいタイプ。
最近、俺も老けたよなーと感じてきた
もう年齢的に、
「お前らさ、孫もだいぶ大きくなってきたけど、『上の子』と『下の子』どっちが可愛いと思う??」
オオヤマモリは、何も考えずに「上の子ッス!!!まじ可愛いッス!!!」と答えた。
一方、オオサザキは、『あー、こりゃあれやな。ウジノワキのサポート選びやな。』と思い「下の子ですね。まだ手ぇがかかるんで、放っておけへんのです。」と答えた。
「だよなぁ~、俺も下の子の方が可愛いと思うっ!!」
オオヤマモリはまさか皇太子候補の自分が山守なんかに指名されるとは思っていなかったようで、でっかい口をポカンと開けた。オオサザキは、兄のケツをちょんと突ついて、退室を
「なんであのちっこい末っ子が!!!」と、オオヤマモリは不満そうだったが、オオサザキは「えぇやんか。親父の決めたことなんやから。」と取り合わなかった。
というのも、オオサザキは父親と仲が良く、前々から「ウジノワキを皇太子にするつもりなんやろな。」と感じ取っていたのだ。それに加え、以前、ものすんごい美人の嫁を譲って貰った恩があり、それ以来、
日向のカミナガヒメ
それは何年か前の話しになる。
そのものすんごい美人はカミナガヒメという名前だった。名前からして、髪の長い美人が想像できる。彼女は日向(九州)に住んでいたのだが、あまりにも美し過ぎて大和でも噂が稲妻の如く毎日のように
そこでカミナガヒメを迎えに行ったのがオオサザキだったのだ。
オオサザキはカミナガヒメを一目見ると一瞬にして心を奪われた。だいたい女好きの彼に、美人を迎えに行かせるなんて、
しかし、オオサザキの脳裏には『ある事件』がよぎった。彼のひいじいさんにあたる、ヤマトタケルの兄の件だ。確か彼は、父親に美人を迎えに行くよう頼まれ、自分の妻にしてしまい、厠の前でバラバラに解体されたと聞く。
『 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 便所の前では死にたない。』
そこで頭をフル回転させたオオサザキは、成務天皇の代からずっと仕えている武内に「親父にカミナガヒメを譲って貰えないか聞いて欲しい。」と頼み込んだ。ていうか、武内の寿命が長過ぎだ。もうとっくに200才は越えている。
「武内いぃぃっっ!!!一生のお願いやぁぁ!!!オレ、こない人を好きになったんは産まれて初めてなんやぁぁっっっ!!!!」
「オオサザキ様 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 武内は元カノの時も、元元カノの時も、その前も、前も前も前も数え切れぬほど同じ台詞を伺っております。」
「いや、あれはちゃうねんっ!越えたんやっ!!オレのラブメーターの新記録が大幅に更新されたんや!!!」
「しかし、オオサザキ様のラブメーターはすぐに更新されますから ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「それは ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、ほら!!オレ、親父の嫁には手ぇ出したこと無いやろ??これでも人として最低限のルールは守っとるつもりや。オレはフリーしか落とさないっっ!!!!」
「 ・ ・ ・ それは大変結構でございます。」
「でもな、彼女がこのまま親父の嫁に行ってもーたら、オレ、一線越えちまう気がするんや。そう。つまり、ピンチや!!わかるやろ???オレの命が掛こうてるていうても過言やない!!だからな??頼むよ武内ぃ~~!!!!」
「うぅん。しかし、坊ちゃまが何と申されるか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ハハッ!いけるて!!親父は『坊ちゃまぁ~』呼ばれてる限り武内に頭上がらへんもん。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ なっ??お願いっっ!!!」
オオサザキは『パンッ!』と手を合わせると、憎めない笑顔でニカッ笑った。
こうして彼の説得に折れた武内は、それとなく
その直後。毎年行っている新嘗祭(にいなめさい)という収穫を祝う祭があった。
今では『勤労感謝の日』と呼ばれている。カミナガヒメは
すると、
「さぁ!若い奴らと野蒜(のびる)を摘みに行こうじゃないか。俺が行く道には香りのいい橘の花があるけれど、上の方は鳥が枯らし、下の方は誰かが折ってしまったようだ。でもその間には、ほんのりと赤く染まったつぼみが残ってるだろ?そいつをお前の嫁にするといい。」
要は、みんなの前でカミナガヒメを譲ると公約してくれたわけだ。その場にいた面々は、これはめでたい!!と乾杯し、酒が進んだ。
オオサザキは父親に心から感謝し、しばらくサシで飲んでいたが、途中から悪ノリが始まり ・ ・ ・ と、まぁ、かくかくしかじかで、みんなベロンベロンになった。
そしてベロンベロンになった
「俺は池の水を止める杭が打たれたことを知らなくてっっ!!水草に手が伸びていたことも気付かなくてっっ!!あぁっっ!!あの時の俺っ!!バカッッ!!!!はぁーー ・ ・ ・ まじで惜しいことしちまったなぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
やっぱりカミナガヒメは、譲るには惜しい美人だったらしい。
一方、一足早くカミナガヒメと席を外していたオオサザキは彼女に歌を詠んでいた。
「あんたは遠い遠い国から来よったが、大和ではあんたの噂が毎日、雷みたいに騒がしく聞こえとったんや。オレなんか嫌われへんかって不安やったけど、そのあんたが今はオレの腕の中におる ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 最高に幸せや。」
オオサザキはぎゅっとカミナガヒメを抱きしめた。
こうしてカミナガヒメを譲ってもらったオオサザキは、その恩を忘れず、以来、
やがて、
オオヤマモリの謀反
そして
自分の命が狙われていることを知ったウジノワキは、すぐに罠を張ることにした。
オオサザキと連携を取り「明日、ウジノワキが1人で宇治川に行くらしい。」という情報をオオヤマモリに流す。オオヤマモリにしてみれば、命を狙う絶好のチャンスだ。
そして当日、ウジノワキは宇治川のほとりに兵に弓を持たせて潜ませた。 川の対岸には、背格好が似ている家来に豪華な着物を着せて、目立つように座らせた。遠目から見れば、まるで天皇が座っているようだ。道ゆく人々も勘違いをし、次々に挨拶をしながら通って行く。中には彼を拝み出すおばあちゃんまでいた。
一方、ウジノワキはみすぼらしい船頭の格好をして帽子を深くかぶり、船渡しの客待ちを装った。小さい頃からよく池でボートを漕いで遊んでいたので、船を漕ぐのは得意だったのだ。そして彼が漕ぐ船の底は、油を塗って足が滑りやすいようにした。これでスタンバイはOKだ。
しばらくすると、オオヤマモリが数名の兵を連れてやって来た。
オオヤマモリは「あれだ、いたぞ。」と、対岸に見える偽ウジノワキを指すと、船頭に化けた本物のウジノワキに対岸に向かって船を出すよう命じた。
彼は、素知らぬ顔で兄と数名の兵を乗せて船を出した。ゆっくりと進み、兵を潜ませている場所まで向かう。だんだん目的の場所に近づくと、弓を持った人影がちらほら動いているのがわかった。しかし弓の射程距離まではもう少しある。『バレませんように・・・』と、船を漕ぐウジノワキの手には緊張で汗が
「オイ、船頭。」
「へっ!?何ですかっっ!?」
ウジノワキはビクッと驚き、危うく櫂を落としそうになった。
「 ・ ・ ・ この川の向こうに、大きなイノシシがいると聞いた。我らで討ち取れると思うか?」
「え?あぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イノシシですか。・ ・ ・ ・それは ・ ・ ・ ・ ・ ・ 無理でしょうね。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何故だ?」
「今まで、討ち取ろうとする人が何人もいたんですけど、誰もできなかってんですよ。
だから ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (もうちょい ・ ・ ・ )」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんだ?」
「あぁ ・ ・ ・ だから ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オオヤマモリ兄さんにも無理だと思います。」
そう言い放つと、ウジノワキは船を思いっきり揺らした。
「っっ!?ウジノワキっ ・ ・ ・ !!!」
と、名を呼ばれたような気がしたが、同時に『バシャン!』と大きな音を立ててオオヤマモリと兵は落ちてしまったので、ハッキリとは聞こえなかった。
宇治川のほとりに潜んでいたウジノワキの兵は、この音を合図に川に落ちたオオヤマモリを目掛けて一斉に矢を放った。
こうしてオオヤマモリは、死んでしまった。
仁徳天皇の即位
そして、今度こそウジノワキが無事に皇位を継ぐ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ かと思いきや。
今度はウジノワキが「オオヤマモリ兄さんに勝ったのは、サザキ兄のお陰だ」と言い出し、皇位を譲ろうとした。
しかし、オオサザキはオオサザキで父親との約束がある。「せっかく長兄を殺ったのに、お前が継がんと意味ないやろ。」と反論した。
「いや、サザキ兄が継ぐべきです。」
「あほか。オレは親父にお前に皇位を継がせるよう頼まれとるんや。」
「うわー、さすがサザキ兄!父上に信頼されてたんですね!よっ!!天皇の器っ!!」
「知るかい。オレのでかい器は全国の女子のワガママを叶えるためにあんねんっっ!!!」
と、収拾がつかなかった。
そんなある日、「謀反が収まり、新たな天皇が決まった」という噂を聞いた海女達がお祝いのために大量の海産物を朝廷に献上しに来た。
「ウジノワキ。お前に献上された魚や。」
「いえ、違います。サザキ天皇サマサマに献上された魚です。」
「あほか。俺は親父にお前が飯を残さず食うよう見張れて言われとんのや。早よ食わんか。」
「そんな話、初めての聞きましたよ。僕は魚好きなんで、見張る必要は無いと思いますけど?」
「そりゃええ。俺は骨があるやつが嫌いなんや。やっぱし、お前が食うべきやな。」
「あっ!サザキ兄、ウニ好きでしたよね??こんなにたくさんある!!これ全部、サザキ兄のために採ってきてくれたんだ。流石サザキ兄は国民から愛されてますねっっ!! 」
「じゃかあしいわ。オレは不特定多数の乳デカ美人に愛されてりゃ、国民からどない思われようが、どーでもええねんっっ!!」
と、ラチがあかず、どちらも貢物を受け取らないまま大量の海産物を腐らせてしまった。海女達は、帰り際、泣きながらそれらを捨てたそうだ。
結局2人とも譲らずに天皇不在の期間が3年も続いた。しかし、体の弱かったウジノワキが早くに亡くなってしまったので、オオサザキは悲しみながらも最終的には皇位を継ぐことになった。
そう。彼こそが、学校の教科書に載ってたあの「前方後円墳」の「中の人」だ。彼の即位によって古事記の中巻はは締めくくられ、