日本神話『オオクニヌシの国譲り』
天照大神 の憂鬱
度重なる失敗に、
「ねぇ、
「どうしようって ・ ・ ・ 随分と大雑把なフリですね。」
「ぶぅ。だって話が全然、前に進まないんだもん。むしろ悪化してるじゃない。」
「そうですね。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ねぇ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私 ・ ・ ・ 間違ってたのかな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
今日は珍しく弱気だ。いつものワガママ娘の影も無い。
「私は、アマテラスが間違っているなんて思っていませんよ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、きっとオオクニヌシも間違っていないんです。」
「 ・ ・ ・ なんであのチャラ男が間違ってないのよ。あんな他力本願で作った国なんて長く持つわけないじゃない。海外から攻められたら一発で滅びるわよ。」
「他力本願だろうと彼は人の為を想って国を作りました。それは間違ったことではないでしょう?証拠に彼は皆から好かれている。」
「でも ・ ・ ・ それなら最初から何もしなければ良かったんじゃない?そしたら鳴女もワカヒコも死なないで済んだもの。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ やっぱり私が間違ってたのよ ・ ・ ・ 」
「アマテラス ・ ・ ・ なぜそうやって片方を間違いにしたがるんですか。双方が正しくても対立することは珍しくありません。」
「だって ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「貴方は、オオクニヌシよりも、天つ神が治めた方が人々を幸せにできると考えたのでしょう?それは正しくないんですか?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 傲慢じゃない?」
「トップの仕事は方針を決める事です。それは傲慢と呼びません。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「我々だって、完璧ではない。どんな難問も一発で解決できるような手段を常に持っている訳ではないんです。失敗したなら、そこに学び手段を変えればいい。
重ねますが、私は貴方の方針が間違っているとは思わない。
元々は、貴方のご両親が作った国じゃないですか。私も天つ神が治めた方がより良い国にできると思っていますよ。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ りがと。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ちょっと、
って、これは他力本願じゃ無いのか??まぁ、とりあえず元気になったみたいだからいいけど。
「そうですね ・ ・ ・ ・ ・ ・ ワカヒコの件で、
「ふん!ここまで来て『はい、やめます』なんて言わないわよ。この国を返してもらうの。それだけの事よ。」
「わかりました。では、武力の雷神、タケミカヅチを向かわせましょう。更に加え、空を飛ぶ船の神、アメノトリフネも一緒に向かわせます。彼は、戦艦のように迫力があるので、戦力に圧倒的な差があることを見せつけることができます。そうすれば、わざわざ剣を持って戦おうなどとは思わないでしょう。」
「うん。ありがとう、
「えぇ。大丈夫です。次こそ成功しますよ。」
タケミカヅチの派遣
オオクニヌシは、また
浜に着くと
なんじゃありゃ。超カッコイイじゃないか。某有名RPGがやりたくなるフォルムだ。なるほどね。こんなん見せられたら兵も一発で戦意喪失しちゃうや。
鳥船が浜に着くと
代わりに、タケミカヅチが船からハシゴも使わず、浜辺に飛び降り、オオクニヌシを睨みつけた。オオクニヌシはそれをいつもの営業スマイルで返す。
「こんにちは。タケミカヅチさんですね。わざわざ
しかし、タケミカヅチは返事もしない。それどころか、おもむろに十拳剣を抜くと、波打ち際に剣先が上になるように刺した。
「へ?? ・ ・ ・ 何してるんですかっ!?」
オオクニヌシは戸惑った。なんとタケミカヅチは、その剣先の上にあぐらをかいて座り込んだのだ。
「うわぁ ・ ・ ・ 見てるこっちが痛いや。なんか中華でこんな芸、あったよね?」
タケミカヅチはオオクニヌシを見据えると威圧的に要件を言った。
「オィ、オオクニヌシ。テメェが治めているシマは、本来アマテラスの姉御が治めるべきだと思わねぇか?」
うわー、ヤンキーキャラかよ。面倒くさ。
「はぁ ・ ・ ・ 今回はずいぶんと、単刀直入なんですね。」
空飛ぶ船に雷神か。いきなり攻撃はされなかったものの、いよいよ武力行使って感じ。タケミカヅチを口説く時間が欲しいな ・ ・ ・
「どうなんだって聞いてんだよっ!!」
「んー ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ちょっと考えさせてください。」
「待つつもりはねぇ。」
ダメか。
「そうですか ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、せっかく来てくれたのに、申し訳ないんだけど、僕はもう国のことは息子に任せてるんですよね。コトシロヌシに聞いてみよう。僕じゃ判断できないや。」
「なら、コトシロヌシに会わせろや。」
「いやぁー ・ ・ ・ それが、残念なことに彼は今、漁に出ているんですよ。しばらく待ってもらえませんか?よければ
「フン ・ ・ ・ ・ ・ ・ 小賢しい男だ。俺は
タケミカヅチは鳥船に、コトシロヌシを探すよう命じた。
「え?この広い海を探す気ですか??いやぁ ・ ・ ・ それは、すぐには見つからないんじゃないかなぁ?」
「まぁ、待ちなって。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぃ。」
タケミカヅチか ・ ・ ・ 情報が足りないな。情か、女か、権力か、何か引っかかればいいんだけど ・ ・ ・ 筋肉系の攻略は苦手なんだよ。どっかのひぃ×6じぃちゃんみたいに。
オオクニヌシは少しでも情報を引き出そうとタケミカヅチに話題を提供したが、全く相手にしてもらえなかった。しかも、コトシロヌシはすぐに見つかってしまったようだ。鳥船の甲板の金具に首根っこを吊るされて半泣きでこちらに近づいてくる。
「ひぃっ ・ ・ ・ 父上 ・ ・ ・ これは一体??」
オオクニヌシはにっこりと息子を向かえたが、長い付き合いのコトシロヌシにはこの笑顔がイライラしている時のものだと分かった。こーいうときは、あとが恐い。
「やぁ。コトシロヌシ。すぐに見つかったようで良かった。こちらは、
『何でもいい。時間を稼いでくれ。』オオクニヌシはコトシロヌシに耳打ちした。
「 ・ ・ ・ そっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうですか。タケミカヅチ様、ご用件ってなんでしょう?」
「あぁ。テメェが治めている国のことだが、本来はアマテラスの姉御が治めるべきもの。速やかに譲ってもらおうか。」
「えっと ・ ・ ・ それは、どうかな??なんか、いろいろ手続きとか大変で難しいかも ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
コトシロヌシはタケミカヅチの顔色を伺ったが、伺うまでもなく、めっちゃ怖い顔だった。タケミカヅチはコトシロヌシをギロリと睨みつけると、低い声でゆっくりと同じ言葉を繰り返した。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 速やかに譲ってもらおうか。」
「っっは ・ ・ ・ ・ ・ ・ はいっ!!もちろん良いですよ。天照様の御子なら安心して任せられるや。ねっ?父上??」
はぁっ??まじかよ。コイツ使えねぇ!!!
オオクニヌシは我が子のナヨさにビビった。しかし、ここでボロが出ればそのまま戦争に突入だ。その場を取り繕うしか無かった。
「あ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ、そうかもな。」
「 ・ ・ ・ じゃ、私はこれでっ!!」
そう告げると、コトシロヌシは柴垣の中に引き蘢ってしまった。相当、怖かったのだろう。
「決まりだな。」
「あっ ・ ・ ・ いやー ・ ・ ・ 実は ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「なんだ、まだあるのかよ?」
「えぇ、息子が治めていると言いましたが、実は、2人で治めてるんですよね。タケミナカタにも聞いてみなくっちゃ!!君と名前、似てるし、仲良くなれるかも。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まぁ、いいや。タケミナカタは、どこだ?」
「こっちです。」
ふぅーー。危ない。危ない。コトシロヌシのせいで一瞬で勝負がついたかと思ったけど・・・意外と融通利く人みたいだな。タケミナカタなら、頭も冴えるし、強い。
ヌナカワヒメとの子が、まさかあんなにたくましく育つとはねぇ。東北まで遠征頑張って良かった!この人、話しても無駄そうだし。あの子の力に賭けるしか無いな。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ まだか?」
「はいはい。お待たせしました。ここですよ。おーい、タケミナカタはいるかい?」
「親父!お客さんか?」
「あぁ、お前に国のことでお話があるそうだ。」
『僕としては譲りたくない話だ。』オオクニヌシは、また息子に耳打ちした。
「 ・ ・ ・ そうですか。では、話を伺いましょう。」
タケミカヅチは今度も「国を譲れ」と、威圧的に睨んだ。しかし、タケミナカタにたじろぐ様子は無かった。先ほどのコトシロヌシとはひと味違うようだ。さらに、タケミナカタは勝負まで挑んできた。
「どうしても国を譲れというのであれば、俺らの力比べで勝負をしようじゃないですか。あんたが勝ったら、国を譲り天つ神に仕えますよ。でも、俺が勝ったら
「ガハハ!俺様に力勝負で挑むとはな!!その意気だけは評価してやるよ。いいだろう。勝負の方法は任せる。」
「 ・ ・ ・ 勝負は簡単だ。強く手を握り合って、ギブした方が負け。これでどうだ?」
「いいだろう。」
そういうと、タケミカヅチはすぐに手を差し出した。
しかし、タケミナカタがその手を握ろうとすると、手はつららに変わり、刃物に変わり、触れることすらできなかった。
「おい!天つ神のくせに卑怯だぞ!!反則だろ!?」
「ガハハ!そんなルールは聞いていねぇ!!握れない、テメェの負けだっ!! ・ ・ ・ 覚悟はいいな?」
「っ!?うそだろ??」
天つ神のくせに悪役っぽいタケミカヅチは、勢いよくタケミナカタに襲いかかった。
ガラガラ!ガシャン!!と、激しく揉み合い、タケミナカタは必死に逃げ出した。
「逃がさねぇ!!」と、悪役のタケミカヅチも後を追った。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あらら。2人とも行っちゃったよ。」
その場に一人ぽつんと残されたオオクニヌシは、しばらくぼぉっと立ち尽くした後、何か思い出したかのように、息子のコトシロヌシの元に向かった。
あの様子じゃあ、しばらく時間が掛かるだろう。今のうちにお
引き継ぎだ。
結局、タケミナカタは信濃の諏訪湖まで追い詰められ、観念するしかなかった。
「 ・ ・ ・ わかりました。
「わかりゃーいいんだ。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ くそっ。」
余談だが、このタケミナカタとタケミカヅチの勝負は、相撲の
オオクニヌシの国譲り
タケミカヅチは勝負が決まると、
「オオクニヌシ。タケミナカタも観念した。速やかに国を譲ってもらおうか。」
「あぁ、いいよ。」
「はっ?いいのか??」
思いのほかアッサリと答えられたので、ついつい素が出てしまった。
『いかん!威厳威厳!!』その様子を見て、オオクニヌシはくすくす笑う。
「でも、代わりに条件を出させてもらってもいいかな?」
「ゴホン。 ・ ・ ・ あぁ、いいだろう。」
「僕はね、
・ ・ ・ だからここに壮大な社を作って欲しい。
「わかった。約束しよう。必ず
「そう。ありがとう。じゃあ、子供達は天つ神に仕えさせるね。タケミナカタの件も目を瞑ってもらえないかな?そしたら、僕は
「そうか ・ ・ ・ 悪りぃな。天つ神はアンタへの感謝を忘れねぇ。」
「そりゃどうも。じゃ、お疲れ様。僕はこれで。」
「はっ?もう行くのか??家族とのお別れとか、御涙頂戴的なアレは???」
「くすっ、もう済ませたよ。それに、引き際の良い男の方がモテるっていうしね。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 黄泉でもモテる気なのか?」
「もちろん!神話によれば、イザナギとイザナミは離婚したそうじゃないか。つまりイザナミちゃんは今フリーってことだ。 ・ ・ ・ いいよねぇ。ヤンデレ。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「でも、年上のバツイチってハードル高いかなぁ?うまく口説ければ良いんだけど ・ ・ ・ 。もし失敗して、一日に死ぬ人間が1000人から増えちゃったらごめんね。その時は、そっちで出生率を調整してくれ。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「それと天照大神にもよろしく。彼女も可愛いんでしょ?黄泉に来るときは声かけてって伝えておいて。」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わ ・ ・ ・ わかった。」
「じゃ。この国のこと、よろしくね。」
オオクニヌシはタケミカヅチに軽くバイバイと手を振ると、この世を去った。