日本神話『因幡の白兎』
因幡の白兎
オオナムチには、大勢の異母兄弟がおり、彼らは
そんなある日。
確かに、これだけ人数がいれば誰かしら気に入る人がいるだろう。他の
「あ、でも、オオナムチは置いて行くだろ?」
「いや、因幡までは、かなりある。荷物持ちが必要だ。」
という訳で、オオナムチも
オオナムチは、自分の華奢な身体の2倍はある八十神の大きな荷物を運ぶことになり、正直テンションガタ落ちだった。
「ていうか、僕にはまだ結婚なんて早いし。全然ついて行く意味ないんですけど。」
そう独り言をつぶやいた時には、とっくに
そりゃ、彼らは手ぶらなんだから足取りも軽い。『はぁ。遅れればまた面倒な事になるし・・・やるしかないか。』オオナムチは
一方、先に歩いていた
「うわっ!?何だコレ??ウサギか?気持ち悪っ ・ ・ ・ ・ おい、ウサギ、お前なんで皮が剥がれてるんだ??」
その問いに、ウサギは涙を流しながら答えた。
「うぅ ・ ・ ・ ・ ワニに皮を剥がされてしまったのです。痛い ・ ・ ・ ・ 痛いよぅ ・ ・ ・ 」
ワニと言っても、あのワニではない。昔は口の大きな魚の事を何でもかんでもワニと呼んでいた。一般的にはサメのことだ。
「そうかそうか、そりゃ可哀想だったなぁ!そうだ、いい事を教えてやるよ!!」
「そう、その傷の治し方だ!まずは、海水でよーく傷口を洗うんだ。その後、あの、風の当たる丘でよーく乾かせ。」
「うん、そしたら、すぐに治るさ!!」
「本当ですかっ??それは、ご親切にありがとうございますっっ!!!」
「礼には及ばない。今後は気をつけるんだな!では、我らはこれにて失礼。」
ウサギは、
「ギアァァァァ ・ ・ ・ 痛い痛い痛い痛い ・ ・ ・ ・ 」
「あいつ、本当にやりやがった!!バカだなっ!!アハハハハハッ!!」
遠くで八十神の笑う声が聞こえた。
「騙された ・ ・ ・ ・ 騙された ・ ・ ・ ・ 痛い痛い痛い ・ ・ ・ ギアァァァ ・ ・ ・ ギアァァァァ ・ ・ ・ ・ 」
まぁ、そりゃー痛いだろう。塩水なんだもの。あまりの痛みにウサギが叫び続けていると、誰かが後ろを通りかかった。
「うわっ!?ビックリした ・ ・ ・ ・ 何?これ ・ ・ ・ ・ ウサギ??」
突然後ろから声がして、ウサギは飛び上がって驚いた。
「大丈夫??」
声も気弱そう。さっきの人達より親身になってくれるかも。ウサギはことの経緯を語り出した。
「うぅ ・ ・ ・ ・ 聞いてください ・ ・ ・ ・ 」
「え、イキナリ語る感じ??」
「実はうさ、そこの隠岐の島に住んでいたんです。でも、こちらの広い陸地にどうしても行きたくなって ・ ・ ・ ・ ワニを騙したんです。」
オオナムチは『続けるんだ ・ ・ ・ ・ 』と思ったが、断れない性格だったので、話を聞いてあげた。
「うさは、ワニに『この島に住むウサギと、この島の周りに住むワニ、どっちが多いか比べようよっ!』と提案しまして。『うさがワニの数を数えるから島の向こうから海岸まで順番に並んで。』と言いました。うさは、数えるふりをしながら上をぴょんぴょん飛んでこの海岸まで渡ってきたんです。」
「ふぅん。 ・ ・ ・ ・ でもそしたら、ワニに皮を剥がされるタイミングは無くない?」
「いいえ ・ ・ ・ ・ 最後の一匹に差し掛かった時、調子に乗ったうさは、『やーい!騙されてやんの!海を渡るのに、橋になってもらったんだよーっ!』って言ってしまったんです。」
「あちゃー。」
「そしたら、ワニはひどく怒って ・ ・ ・ ・ うさは皮を剥がされてしまったんです。」
「痛そ。」
「 ・ ・ ・ ・ しかも、ここで苦しんでいたら、八十神が通りかかりまして ・ ・ ・ ・ 」
「え?八十神っ!?」
「海水を浴びて乾かせば治ると治療法を教えてくれたのですが、かえって悪化してしまって ・ ・ ・ ・ 」
「はぁ??海水っ!?そんなの、悪化するに決まってるじゃないか!!」
それまで、適当に聞き流していたオオナムだったが、八十神の名前を聞くと、なんだか急に責任を感じた。
「はぁ ・ ・ ・ 八十神のいう事を信じるなんて ・ ・ ・ ・ しょうがないな。」
オオナムチは周りを見渡した。目的のものが見つからなかったのか、続けてウサギに質問する。
「 ・ ・ ・ ・ この辺に川は無い?」
「川??」
「うん、まずは塩を落とさなくちゃ。」
「あ、ありがとうございます!ご案内します!!」
ウサギは川に向かって進み出したが、動くたびに悲痛な声を上げた。見ていて痛々しい。オオナムチは道中で蓮の花を摘んだ。
「まったく ・ ・ ・ 兄さん達はこんな小さなウサギを虐めて何が面白いんだか。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ほら、おいで。」
川に着くと、オオナムチはウサギの体についた塩を川の水で丁寧に落とし、先程摘んだ蓮の花粉を付けてやった。これには、止血の効果があった。
オオナムチの適切な処置で、すっかり元通りになったウサギは、何度も何度もお礼を言った。
「あぁ、本当にありがとうございました!!このご恩は一生忘れません!」
「いいよ。僕の兄達が迷惑をかけたしね。」
「あの ・ ・ ・ ・ お礼にですが、ひとつ予言をしましょう。」
それまでアニメ声で話していたウサギは急に声を潜めた。
「八十神はヤカミヒメを娶れません、夫にはあなたが選ばれますよ。」
「えっ、僕? ・ ・ ・ ふぅん。僕みたいな子供を選ぶなんて、変わったお姫様だね。」
「信じてください。うさの予言は当たるんです♪♪」
ウサギはドヤ顔でオオナムチを見た。彼は『そんな予知能力持ってるなら、もっと事前になんとかなったんじゃ ・ ・ ・ ・ 』と思ったが、そこは黙っておいてあげた。
「わかったよ。君もこれからは気をつけてね。」
「はいっ!本当にありがとうございました!!」
こうしてウサギは喜んで森に走って行った。
八十神の復讐
さてさて。先に因幡に着いていた
『こうしてオオナムチはヤカミヒメと結婚していつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。』
と、絵本では締め括られるところだが、原作はそう簡単な展開で終わらない。求婚を断られ、逆ギレした
作戦会議を終え、しばらく待っていると、やっとオオナムチが因幡に着いた。
「オオナムチ、遅かったな!!」
「あれ??兄さん達、どうしたんですか?こんなところで ・ ・ ・ ・ ・ ヤカミヒメには会えたんですか??」
「ふん!会えたさ。だが、ヤカミヒメはお前と結婚したいそうだ。」
「えっ??なんで僕??」
ウサギの予言を全く信じていなかったオオナムチは、目を丸くして驚いた。
「知るかよ。それより、伯伎国の手間山に赤いイノシシが住んでいてな。そいつが、畑を荒らすから、ヤカミヒメは酷く困っているそうだ。未来の花嫁のために、お前はイノシシ退治に行かなければならない!!!俺らが崖の上からイノシシを落としてやるから、お前が捕まえろ。」
「えっ?? ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ 協力してくださるのはとても
オオナムチは訝しげな顔で兄たちを見た。『まずい。計画がバレたか??』八十神に緊張が走る。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 本当に可愛かったんですか??」
「超美人だったよ!!!バカッ!!!クソッッ!!!!!」
「えっ、あぁ、そうですか ・ ・ ・ ・ なら、頑張ろうかな。」
「オオナムチ、あそこから、落とすからな!絶対に捕まえろよなっっ!!」
「は ・ ・ ・ ・ はいっ!!」
「よーし!!イノシシを落とせー!!」
「「おぉーーー!!!!」」
合図を聞くと、八十神は、焼けて真っ赤になった岩を上から落とした。オオナムチは、それを受け止めようと構える。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ プチッ。
・ ・ ・ ・ まだ物語の途中なのだが、当の主人公が死んでしまった。
だがしかし。少年漫画の主人公というものは、7つのボールとか、大きな黒い玉とか、巨人化とか、いろいろと生き返り方が用意されているものだ。
オオナムチの死を聞きつけた母は嘆き悲み、
「あらぁ ・ ・ ・ ・ 大変だったのね。彼はイケメンになると踏んでいたのに ・ ・ ・ ・ わかったわ。貝の神、キサガイヒメとウムガイヒメを遣わせましょう。」
イザナミが死んだ時には完全シカトだったカムムスビだが、今回はアッサリと使者を送ってくれた。
キサガイヒメと、ウムガイヒメは、岩にこびり付いたオオナムチの死体をベリベリ剥がすと、貝の粉とハマグリの出し汁を混ぜ合わせ、身体に塗った。
するとみるみるうちに、やけどは治り、オオナムチは生き返った。
しかし、オオナムチが生きていることを知った
今度は巨木を縦に割り、Y字になるよう、両側から枝を引っ張った。
その割れ目に、オオナムチを無理やり立たせると、しなった枝を一斉に離し ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ バチン。
木は大きな音を立てて、オオナムチを挟み込んだ。オオナムチはまた死んでしまったのだ。
しかし、
「どうしよう ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 二度も生き返ったものの、ツッコミどころが満載すぎて、どこから手をつけたらいいかわからない ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
オオナムチは頭を抱えた。ていうか、何であの人達、毎回毎回サイコパスな殺し方すんだよ ・ ・ ・ せめてもう体がベチャってなるのは嫌だ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そんなことを考えていると、目の前に一筋の光が。カムムスビが降り立ったのだ。
「オオナムチ、あなた、また殺されたっていうから、心配で見に来たんだけど ・ ・ ・ お母様、自分で生き返らせることができたのね。」
「カムムスビ様 ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、そこらへんの細かい設定は、神話だし。なんか、もう、いいかなって。それより、先日は命を助けていただいて、ありがとうございました。」
「やっだぁ~いいのよぉ!!あなた、イケになると思ってたのよねぇ~!!!生き返らせて正解だったわっ♥今度、一緒にお食事でもどぉ??」
オオナムチの成長した姿にカムムスビはとってもご満悦だ。
「へっ??あ~〜 ・ ・ ・ そうですねぇ。とっても
「あらぁ ・ ・ ・ ・ ・ 残念だわ。でもそうねぇ。確かに、このままじゃ、また八十神に殺されちゃうわね。」
「いいかげん、僕ももう、死ぬの嫌なんですけど。特に圧死。」
「そう ・ ・ ・ ならこのまま
「スサノオ様?あの伝説の??まだ生きてたんだ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「昔に比べてだいぶ優しくなったって聞くから、頼れるんじゃない?」
「 ・ ・ ・ ・ わかりました。カムムスビ様、何から何までありがとうございました。」
「いいぇ、気をつけて行ってきてね♥」
こうして次章では、前期の主人公と、今期の主人公の、コラボ企画が実現することになった。