日本神話『オオクニヌシの国造り』
オオクニヌシのチャラ男伝説
イケメンが若くしてこの国の王様になったのだ。ぶっちゃけモテてモテて仕方がなかった。そして何よりも彼自身、ウサギもびっくりする程のプレイボーイだった。
中でも因幡から自分のためにわざわざ足を運んでくれたヤカミヒメは、オオクニヌシのお気に入りだった。
しかし、正妻のスセリビメからしてみればたまったもんじゃない。スセリビメは事あるごとにヤカミヒメに嫌がらせをしていた。そりゃ、いくら一夫多妻制の時代とは言え、おおっぴらにイチャつかれたらイジメたくもなる。
ヤカミヒメは、身籠り赤子を生んだものの、スセリビメの睨みが怖すぎて、産まれたての子供を置いたまま因幡へ逃げ帰ってしまった。スセリビメは、いつの間にか家に住み着いていた5人の側室の中でも、最大のライバルを実家に返し、一安心した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ が、問題はまだまだ山積みだった。だって、そもそも、この家に肝心のオオクニヌシがいないのだ。
夫は全国で噂になっている美女をコンプリートするため、旅に出ていた。
「チッ!!いくら、モテる男の方がいいとは言え、限度があるだろ。限度が。」
――その頃。
オオクニヌシは絶世の美女という噂のヌナカワヒメを口説くために、東北の越国まできていた。飛行機も新幹線も車も無い時代に、今の島根県から山形県までの長旅だ。美女一人のためにすんごい執念だ。
しかし、やっとの思いでヌナカワヒメの家に着いたオオクニヌシだったが、部屋の前で呼びかけても呼びかけてもガン無視で返事がない。時はすでに明け方になっていた。それでもせっかく苦労してここまで来たのに、ここで引き下がる訳にはいかない。そこでオオクニヌシは彼女に歌を贈った。
「ねぇ、ヒメ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 聞こえてるんでしょ?
僕は自分にふさわしい妻を探して日本中旅をして来たんだ。でも、なかなかいい人に出会えなくてさ。そんな時に君のことを聞いて、いてもたってもいられなくて、ここまで来ちゃったんだよ。
もう明け方だっていうのに、刀も旅支度も解かずに君の部屋の前で待ちぼうけているなんて、笑えるだろ?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ほら、君にも聞こえる?
山ではヌエが鳴き、野ではキジが鳴き、庭ではニワトリまで鳴いて朝を知らせてる。
はぁ・・・あの鳥達、みんな殺しちゃおうかな。そしたら、朝が来るのを止められるかもしれないだろ?」
すると、ずっと静かにしていた扉の向こうから、くすっと笑い声が聞こえようやく彼女も歌を返してくれた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 私は風にそよぐ草のような女です。私の心は鳥のようにあなたを慕っております。だから、どうかあの鳥達は殺さないであげてください ・ ・ ・
今は無理ですが、夜になれば私の淡雪のように若々しい胸を撫でることができますから。」
どうやら、今晩はOKということらしい。「よっしゃ!」っと、オオクニヌシはスキップで宿へと向かった。こんな調子で彼は"シラミ潰し"に全国で噂になっている美女を制覇して行った。
しかし数ヶ月後。久しぶりに家に帰ると、スセリビメが鬼のような形相で待ち構えていた。
「あなたさぁ、何ヶ月この家を開けたと思ってるのかなぁ。国を収めたいとか言ってたの、どこのどちら様でしたっけ??あれからずっと遊んでばっかじゃないっ!!」
『ビクッッッ!!』
さすが
「へ??いやいや、仕事ですってば。全国に側女を作ればだな、その、えっと・・・国づくりが円滑に進んだり進まなかったりするわけだから ・ ・ ・ これは必須でマスト的なあれなんだってば。」
「ほざけっ!!んなクソみたいな言い訳、聞きたかねぇんだよっっ!!!」
「あぅっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
ま ・ ・ ・ まずい ・ ・ ・ ・ ・ ・ このままじゃ、夢のハーレム計画が ・ ・ ・
オオクニヌシは、スセリビメに隠れ、ハーレム計画の準備を着々と進めた。
そしていよいよ大和へ逃避行!と馬に跨った、その時・・・
「オオクニヌシ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
『ビクゥッッッッ!!!!』
後ろから、スセリビメの声が聞こえた。『やべっっ!見つかった!!!くそぅ。ココまで秘密裏に進めて来た計画が!!』しかし、スセリビメにはいつもの迫力がない。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐすっっ ・ ・ ・ 」
「ヒメ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 泣いてるの?」
「ヒメって呼ばないで。 ・ ・ ・ だって、また行っちゃうんでしょ?どっかの違うヒメたちのとこに。」
いくらチャラ男でも、正妻の涙は堪える。オオクニヌシは、彼女に歌を送った。
「・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん。
ねぇ、泣かないでよ、スセリビメ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まぁ、そう言っても、君は僕が行けば泣くんだろうけど ・ ・ ・ 。
寂しいだろうけど、僕には何で君がそんなに悲しむのかわからないんだよ。だって、一番美しくて、一番大切なのは君なんだから ・ ・ ・ どこに行ったって、君以上の人がいるわけないじゃないか。」
「くすん ・ ・ ・ オオクニヌシ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん、ありがとう ・ ・ ・ ・ ・ ・ ちょっと待ってて。」
何を考えたのかスセリビメは、家の中に戻ってしまった。オオクニヌシは馬に跨がったまま、出るに出れず待っていると、彼女は酒の支度をして、また戻ってきた。
気のせいかさっきよりも、肌けている。
「はい、オオクニヌシ。旅の前に一杯どうぞ ・ ・ ・ 」
スセリビメは、馬に跨ったオオクニヌシの脚に手をかけ酒をついだ。馬の上からだと、胸の谷間がよく見える。そして彼女は先程のお返しに歌を詠んだ。
「あなたは素敵な人だもの。それに男だから、全国に側女がいるのはわかってるわ。
でも私は女だから愛するのは1人だけ。
あなただけよ。
これからもずっとずっと、あなた1人を愛しし続けるわ。
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ やわらかいベッドの上で私の胸をまさぐってくれればいいのに。
さ、もう一杯いかが?」
・ ・ ・ ・ ・ ・ っっっっっ!!!!!!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ん?どうしたの??」
「馬、置いてきます。」
「あら、そう?じゃ、お部屋で待ってるわ。今日はお布団、干したてなんだぁ♥」
「うわぁーい♥」
これで、彼の浮気性が治ったわけではなかったが、夫婦の仲は睦まじかった。
最終的に、オオクニヌシは全国に180人もの子供を授かったと伝えられている。
オオクニヌシの国造り
さて。女性に関しては、国を制したと言っても過言では無いオオクニヌシだったが、肝心な国づくりは全然進んでいなかった。
『うーん。だいたい、噂になってる子はコンプしたし、そろそろ国づくりやらなくちゃなぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 国づくりか ・ ・ ・ 正直めんど ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、でも、オオクニヌシなんて立派な名前もらっちゃったし ・ ・ ・ ・ ・ ・ どうしたものか。』
オオクニヌシは、悩みがあると、よく
そこで海をぼぉーーーっと眺めていると、遠くから船が漕ぎ寄って来るのが見えた。しかし、近付いても近付いても大きくならない。目の前まで来て、やっとその理由がわかった。それはガガイモの実を削った10cmほどの船だったのだ。中には小さい神が乗ってる。服のサイズが無いのだろう。蛾の羽を纏っていた。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ こんにちは。君は?」
しかし、返事がない。こっちを凝視しているので、通じてはいそうなのだが。
「喋れないの??」
やはり、返事はない。超気になる。特に抵抗もしなかったので、小さな神を肩に乗せて、物知りのクエビコ(カカシの神)にこの神が誰か知っているか聞きに行った。すると、クエビコはカムムスビの子供のスクナビコナじゃないかと教えてくれた。
『カムムスビ様か ・ ・ ・ ・ ・ ・ あのオネェ、正直ちょっと苦手なんだけど ・ ・ ・ 。でも、命の恩人だしなぁ。まぁ、せっかくだ。お礼も兼ねて、
こうして、オオクニヌシは
「あっらー!!オオクニヌシくんじゃないっ!!来てくれたのねぇ~
うぅん ・ ・ ・ ・ ・ ・ やっぱり、この女子とは言い切れないテンション、苦手だ。しかし、嫌味のない営業スマイルはオオクニヌシの得意分野だった。
「 ・ ・ ・ カムムスビ様、お久しぶりです。あの時は本当にありがとうございました。あなたがいなかったら、今の私はありませんでした。」
「いいのよぉ!気にしないでっ!!」
カムムスビはとっても上機嫌だ。
「ところで今日は別件なんです。
「あら!スクナビコナじゃない。良かったわぁ。見つけてくれてありがとう。この子ったら、小さすぎて、指の隙間から落ちちゃったのよ。」
「そうでしたか。」
「えぇ。でも、ちょうどいいから、お礼に国づくりを手伝わせましょうか?」
「えっ、国づくりを?」
スクナビコナに気を取られて忘れていたが、そもそも国づくりに悩んで美保関に行ったことを、オオクニヌシは思い出した。
「あ。そういえば。 ・ ・ ・ 実は、国づくりの方向性を悩んでいたんです。スクナビコナさんの力を貸していただければとっても助かります。」
「よかった!!オオクニヌシくんのお役に立てて
「うんっ!まかちょ~け~!!」
「うわっ!喋った!!しかもテンション高っ!!スクナビコナさん、よろしくね。」
「ハイサイ!うにげ~さびらっ!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ 何なんだこのキャラは。オオクニヌシがリアクションに困っていると、カムムスビがフォローを入れた。
「ごめんなさいね、オオクニヌシくん。この子、琉球に憧れてて。」
『あぁ、なるほどね。いるいる。無駄に方言、真似したがる人。でも琉球はまだ日本じゃないし。ややこしくなるから、変に設定持ち込まないで欲しいな。』
オオクニヌシはカムムスビにお礼を言い
そんなある日、オオクニヌシは肩にスクナビコナが乗っていないことに気付く。心配になり、そこらじゅうを探したが見つからない。
まずい、知らないうちに潰しちゃったかな ・ ・ ・
しかし、机の上に小さな手紙を見つけた。サイズ的にスクナビコナからだろう。手紙を開くと、辛うじて読めるサイズの文字が並んでいた。
あげっ!!クソ。あいつ、国造りの途中でバカンスに行きやがった!!
しかも、帰ってくるつもりねぇだろコレ!ていうか、こっちじゃ『ニライカナイ』って言わないから!!
『
全部、『
「くそっ!!僕だって時間さえあれば、誰かヒメと2人でだな ・ ・ ・ ・ ・ ・ あ、いや、現地でちゅらさん調達ってのも ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ!!くそっ!!羨ましい!!!!」
国造りのパートナーを失ったオオクニヌシは、悩んだ時のいつもの場所、美保関のほとりで体育座りをしながら海を眺めていた。
あぁ、いいなぁ。僕もバカンス行きたいな ・ ・ ・ 。正直、国のために一人で頑張る気になれないんだよなぁ ・ ・ ・ ヒメ達のためならどこまでも頑張れるんだけど。
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんかまた、国づくりに都合のいい神様とか何かが現れないかな。僕としては、他力本願のポリシーは貫き通したいところなんですよねぇ。
そんなことを考えていると、突然海が光出した。その光は
「おぉ~なんて都合のいい展開!!こんにちは、僕は、オオクニヌシ。君は?」
「うむ、ワシはオオモノヌシノ神という。お主、国づくりに悩んでおるな?」
「へぇ!!なんか、もう事情全部知ってますみたいなキャラなの??オオモノヌシとオオクニヌシで名前がめっちゃ被ってるのが難点だけど、この際どうでもいいや。」
「ワシはお主の分身だからな。ワシを丁寧に祀れば、手伝ってやらなくもないが?」
「へ??分身っ!?そ、そうなんだ ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、なんだろう。この認めたくない感じ。それに、祀るって言っても何か実績が無いと、何をどう祀ったらいいものか ・ ・ ・ 」
「祀らなければ、国づくりを全力で失敗に追い込む。」
「わぉ。それ、選択肢無じゃん。」
「どうするんだ?今すぐ決めろ。」
「うぅん ・ ・ ・ まぁ、いいか。それなら祀ってあげよう。どこに祀ればいいんだ?」
「うむ。大和の三輪山の上に祀るといい。」
「おけー。もともとノープランだったし。ちょうどいいや。じゃーやりますかっ!」
オオクニヌシは、早速オオモノヌシを大和の三輪山に祀った。
しかし、気軽に承諾したものの、彼を祀った途端、みるみるうちに豊かな土地が広がり、作物がよく育つようになった。食物に恵まれた
こうして富も名声もヒメ達も手に入れたオオクニヌシだったが、ここで
そして話しは「地上の国つ神」VS「天界の天つ神」のドロドロした展開に進むことになる ・ ・ ・ ・ ・ ・