おまけ『ラノベ風古事記の末路』
ラノベ風古事記の末路
『バタンッッ!!!』
阿礼の部屋の扉が大きな音を立てて開いた。そこには、天パでひょろっこく背の低い中年男性がご立腹の様子で立っている。
「ゲッ!!安万侶っ!!」
安万侶と呼ばれた彼は、部屋にズカズカと押し入ると『ガスッ』っと阿礼の胸ぐらを掴み天高く掲げた。
「・・・・阿礼さん、アレ、一体どうゆうことですか?」
「ぎぅっ!!安万侶っ!!ぐっ・・苦しいっ!!めっちゃ苦しいっっ!!!」
「だから、あの古事記モドキはなんなんすかって聞いてるんです。朝廷内ですげー拡散されてるんすけど。」
彼の目は完全に座っている。すげー怖い。
「ちっ・・・違うんだ安万侶っ!!聞いてくれ。ボクはもっと、みんなに古事記をラフに楽しんでもらいたくって・・・・それに元明様だって女だし、ラノベっぽい方が好きかなって・・・」
「ほざけっっ!!先代天皇の性癖や失敗談まで元明陛下がラフに楽しめるわけねぇだろっっ!!天武もアンタも天皇ナメ過ぎなんだよっっ!!!!威厳が無くなるだろうがぁっっっ!!!!!」
安万侶は、思いっきり阿礼を地面に放り投げた。「痛いっ!!」と、体制を崩した阿礼だったが、自然といつでも土下座できるような正座におさまった。
「ゴゴゴゴゴ・・・ゴメンナサイっっ!!」
「阿礼さん、本当に反省してるんすか??せっかくあのふざけた内容を俺が必死にオブラートに包んでまとめ上げたってのに、こーゆうことされると元明陛下が困ることになるんですけど。天武が死んでオジャンになった古事記のプロジェクトを拾ってもらった恩を忘れたわけじゃ無いですよねぇ?」
「もちろん!悪気は無くて!!」
「このあと、不比等様から直々にお説教ですから。覚悟しておいてください。」
「ゲッ!!不比等っ!?いっ嫌だあああぁぁぁぁ!!」
「不比等・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・さま・・・デス。」
「よろしい。」
阿礼は力なく項垂れた。
「・・・はぁ。係長昇進を狙った力作だったのに・・・。」
「あんな文章で昇格できると思ったら大間違いだ。俺は今、日本書紀の編纂で忙しいんです。余計な仕事増やさないでくださいよ。」
「別に安万侶に迷惑はかけて無いじゃないか。」
ぷっくり頬を膨らませて安万侶を睨みつけると、逆に『チッ』と舌打ちされ、ガンを返された。
「大迷惑です。これから、アンタがばらまいたニセ古事記を、全て回収して焼却処分しなきゃいけないんですから。」
「えぇっ!?ヒドイッッ!!」
「当然です。」
「あぁ・・・・・めっちゃ頑張って書いたのにぃぃ・・・・」
阿礼が悲痛な声を上げると、安万侶は『はぁ。』と深くため息をついて、頭をポリポリと掻いた。
「まぁ・・・・せっかくなんで、天武の御陵の前でまざまざと焼き払ってやろうかと思っているんですけど・・・・・・・・・一緒に来ます?」
阿礼は目を丸くした。歴史の編纂が忙しすぎて、最近はブラック企業と化している朝廷の外に出るなんて、超久しぶりだ。
「・・・えっ?御陵っ??行ってもいいのか??」
「いいですよ。どうせ、報告にお墓参り行こうと思ってたし。」
「君はツンデレかっ!!」
「阿礼さんにデレを見せた覚えはありません。それに、その前に不比等様のお説教ですから。」
「げっ・・・・・・・・嫌だな。」
「自業自得です。ほら、行きますよ、阿礼さん。」
「えーーー・・・・」
「文句言わないっ!!!」
その後、阿礼に付き添った安万侶も、なぜか一緒に上司の不比等から「仕事が遅せぇんだよ。バカ。」と説教される羽目になり、阿礼は肩身の狭い思いをした。
こうして阿礼の書いたラノベ風古事記はすぐに焼却処分させられ、おかげで、日本にはマトモな方の古事記が残ったんだとさ。
めでたしめでたし。