天皇記『クチコのとばっちり』

クチコのとばっちり

クチコのとばっちり

その日はザーザーぶりのひどい雨だった。

クチコがヌリノミの屋敷に着くと、イワノが表玄関に迎え出た。

クチコ

クチコ

イワノ様、陛下よりイワノ様への歌を預かって参りました!

そしてクチコはは雨にも関わらずビチャビチャの地面にひざまづき、歌を献上しようとする。

しかし、

イワノヒメ

イワノヒメ

どうせまた人を小馬鹿にした歌なんだろ??そんなもん、いらん。

クチコ

クチコ

えっ!?イワノ様っ!?

そう言うと、イワノはきびすを返し裏の玄関に向かった。

クチコは彼女を追いかけ、屋敷をぐるりと周り、裏口でまた膝を付き歌を献上しようとする。すると、またイワノは表玄関へと歩く。クチコはまたぐるりと表玄関に向かい ・ ・ ・ と、こんな八つ当たりを何度も何度も繰り返され、ついに一歩も動けなくなるほど疲れ果て、庭の真ん中で水たまりに腰まで浸かって倒れ込んでしまった。

イワノヒメ

イワノヒメ

ふん!ざまぁみろっ!!

クチコが巻いていた赤色の帯紐は色が落ち、水たまりを真っ赤に染め、藍色の着物まで赤く染まっている。

そんなクチコの姿を見たヌリノミの女中、クチヒメが涙を流して歌を詠った。

クチヒメ

クチヒメ

『イワノ様、意見することをお許しください。彼のこちらの姿はあまりにも涙ぐましく思います。』

イワノヒメ

イワノヒメ

・ ・ ・ ・ なんでお前が仁徳の家来のために泣くんだよ。関係無いだろ。

クチヒメ

クチヒメ

いえ、クチコは私の兄なんです ・ ・ ・ ・ ・ ・

そういうと、彼女は泣き崩れてしまった。

イワノヒメ

イワノヒメ

・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅ。そっか。

さすがにイワノも悪い気がしたが、やっぱり仁徳からの歌を受け取る気になれない。

イワノヒメ

イワノヒメ

お前から言って、帰ってもらえ。

クチヒメ

クチヒメ

わかりました ・ ・ ・

line

仁徳天皇

仁徳天皇

え、受け取らなかったん?

ヤタノワキ

ヤタノワキ

ほら、サザキ兄、もう直接迎えに行った方がいいわよ。

仁徳天皇

仁徳天皇

うーん。もう帰ってこんなら、それでえぇんちゃう??

ヤタノワキ

ヤタノワキ

いいわけないでしょっ!!!行くなら行く!行かないなら行かないでさっさと歌書くっっ!!!!

仁徳天皇

仁徳天皇

んーー ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかったよ。

そしてまたクチコに歌を持たせた。

仁徳天皇

仁徳天皇

『山の山を耕して、山代の女が作った大根みたいに白い腕は誰が盗んだんやろか。あの腕はオレが枕に使こうとったんやけど。

仁徳天皇

仁徳天皇

・ ・ ・ ・ ・ ・ 知らない仲でもないくせに。

line

こうしてまた歌を持たされてしまったクチコは、ヌリノミの家の前で胃に穴が空きそうな気持ちになりながら立ち尽くしていた。

クチコ

クチコ

この夫婦喧嘩、胃に悪ぃ。

すると、ほんの数日で、ゲッソリと痩せ細った兄を、妹のクチヒメが見つけて声をかけてきた。

クチヒメ

クチヒメ

お兄ぃ!裏から入って。話しがあるの ・ ・ ・ ・ ・ ・

クチコ

クチコ

裏口に回ったところで入れてもらえるのだろうか。

と半ばトラウマを引きずりながら、クチコは裏口に向かった。するとそこには家の主のヌリノミが待ち構えており

ヌリノミ

ヌリノミ

実はご相談がありまして ・ ・ ・

と、部屋の中のに通された。どうやら、イワノに居着かれているヌリノミもかなり困惑しているようだ。

ヌリノミ

ヌリノミ

私は元々、百済の出身なので、イワノ様が謀反の心を持っていると疑われたらどうしようかと、本当に困っていて ・ ・ ・ 。謀反は死罪です。とばっちりで殺されたらたまりません。

クチコ

クチコ

・ ・ ・ ・ ・ ・ 確かに。とばっちりはもう、ご免です。

クチコは、くすんだ視線で天を仰いだ。

クチヒメ

クチヒメ

ねぇねぇ、おにぃ、陛下に直接迎えに来てもらえないのかな?イワノ様は迎えに来て欲しいだけだと思うんだけど・・・

クチコ

クチコ

どうだろう ・ ・ ・ 正直、陛下はヤタノワキ様にゾッコンって感じで・・・帰って来ないなら、それはそれでみたいな空気が・・・・

ヌリノミ

ヌリノミ

ちょっ!!それは困りますっっっっ!!!!!

ヌリノミは、絶望的な声を上げた。どうやら心底困っているらしい。しばらく押し黙って考えを巡らせるとひとつの案を思い付いた。

ヌリノミ

ヌリノミ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの ・ ・ ・ 私、実は家で百済から持って来たカイコを飼っているんです。

ヌリノミ

ヌリノミ

ちょうど繭を作って孵化する頃だし、まだ日本には、あまり入って来てないから、陛下にとっても珍しいはず。

クチコ

クチコ

カイコ? ・ ・ ・ 白い繭を作るってやつですよね?丈夫な糸ができるって、聞いたことがある。

ヌリノミ

ヌリノミ

はい、イワノ様はこれを見に来ただけで、謀反の心配は無いって伝えるんです。 ・ ・ ・ ついでに『陛下も見に来て』って手紙を書けばっ!!

クチコ

クチコ

なるほど ・ ・ ・ ・ ・ ・ それなら陛下だってさすがに離婚する気は無いだろうし、空気読んで迎えに来てくれるかも!!

ヌリノミ

ヌリノミ

ですよねっ!!私、早速手紙を書きます!!

こうしてヌリノミは、仁徳宛ての手紙を書いた。

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クチコ

クチコ

陛下、ヌリノミ様よりお手紙を預かって参りました。

クチコ

クチコ

イワノ様があちらにいる理由は、彼が飼っている虫にあります。この虫は、1度は這う虫になり、1度は蚕になり、最後には飛ぶ鳥になる、3度も姿を変える不思議な虫なんです!

イワノ様はそれを見に来たまでで、それ以外の下心などありませんっ!!

ヌリノミの手紙を広げながらその話を聞くと、仁徳はしばらく沈黙し

仁徳天皇

仁徳天皇

んー。さよか ・ ・ ・ そりゃ珍しい虫やな。ほんなら、オレも見に行かなな。ヌリノミには明日行くって伝えとって。

と言って微笑んだ。クチコは安心し、喜んでヌリノミに伝えに行った。

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