日本神話『八雲立つ』
八雲立つ
ヤマタノオロチ退治から何日か経ったある日。

オモヒカネ
アマテラス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ スサノオが面会をしたいと、そこまで来ているんですけど ・ ・ ・ どうします?

アマテラス
えっ??全然気づかなかった。この前は稲妻を鳴らしながら来たのに ・ ・ ・

アマテラス
まぁ、いいわ。通してあげて。

オモヒカネ
はい。

スサノオ
ネェちゃんっ!!

アマテラス
バカッ!みんなの前ではお姉様って呼べって言ったじゃないっ!!

スサノオ
あ、悪りぃ、オネーサマ。
それより俺、好きな人ができたんだ!!

アマテラス
はぁ?あんた、そんな事をいうためにここまで来たわけ??

スサノオ
んなわけねーだろ。俺だってそんな暇じゃねぇんだから。

アマテラス
知らないわよ ・ ・ ・ じゃー何??

スサノオ
あぁ、そぅそぅ。これをアマテラスおねーさまに納めようと思って ・ ・ ・ ・
スサノオは細長い木箱をアマテラスに手渡した。それを開くと、手触りの良いさらさらした布に包まれ、白銀に輝くとても美しい剣が収められていた。
ヤマタノオロチ退治で手に入れた『

アマテラス
わぁ、すごい ・ ・ ・ ・ 立派な剣。これ、もらっちゃっていいの?

スサノオ
あぁ、もちろんだ!!!俺が、高天原でやっちまった罪は消えないけど ・ ・ ・ちょっとでも償いたいんだ。だからこの剣、もらって欲しくて。

アマテラス
そう ・ ・ ・ ありがと。それじゃあ、遠慮無くいただくわ。

スサノオ
そうか!よかった!!

アマテラス
クスっ、にしてもあんた、すごい変わり様ね。きっと素敵な人と出会えたのね。

スサノオ
あぁ!クシナダは最高の嫁だっ!!

アマテラス
・ ・ ・ は?今、何て??
アマテラスは口をポカンと開けてスサノオを見た。

アマテラス
えっ?ヨメ??あんた、結婚したのっ???高天原を出てからまだ何週間も経ってないじゃない!!

スサノオ
ハハッ!一目惚れだからな!

アマテラス
いやいや、一目惚れだからと言って、展開早すぎでしょ。結婚ってそんな一瞬で決まるもんなの??まぁ、幸せそうだから別にいいけど。
・ ・ ・でも、なんだろう。このやるせない感じ。

アマテラス
そ ・ ・ ・ ・ そうなの。まぁ、とにかく良かったわ。おめでとう。

スサノオ
おぅ!ありがとっ!!

アマテラス
・ ・ ・ あんたを高天原に帰すことはできないけど、いつでも応援してるから。

スサノオ
あぁ!!ありがとなっ!! ・ ・ ・ ・ そんじゃ、俺、出雲に帰るわ。サヨナラだ。世話んなったな、ネェちゃん!!!

アマテラス
うん ・ ・ ・ ・ ・ ・ バイバイ。元気でね。

スサノオ
あぁ、ネェちゃんもなっ!!
スサノオは、用が済むとさっさと出雲に帰ってしまった。弟を追放してから、ずっと気にかけていたいたアマテラスは、彼の成長と活躍が素直に嬉しかった。
スサノオが置いていった草薙の剣を見ると、自然と笑みがこぼれる。

オモヒカネ
よかったですね。元気そうで。
そんなアマテラスの笑顔を見て、オモヒカネが声を掛けた。

アマテラス
うん ・ ・ ・ ・

オモヒカネ
・ ・ ・ ・ ・ ・ でも、先越されちゃいましたね。

アマテラス
黙れ、メガネ。

オモヒカネ
ゴメンナサイ。
それから数ヶ月が経ち、話は地上の出雲に戻る。
朝っぱらからハイテンションのスサノオが寝室の扉を勢い良く開けた。

スサノオ
おい!クシナダ起きろ!!お前に見せたいモンがある。

クシナダヒメ
ん~~ ・ ・ ・ 何よ ・ ・ ・ ・ まだ日の出前じゃない。てか、あんた髪伸びるの早すぎ。

スサノオ
ん?そうか??んなことより、出かける準備だっ!!

クシナダヒメ
へっ??うわっ!ちょっ ・ ・ ・ ・ 何よっ??
スサノオは、クシナダヒメを無理矢理起こすと、彼女を担いで

クシナダヒメ
ちょっと!ねぇ、どこまで行くのよっ!?

スサノオ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここだ。ここを抜けると ・ ・ ・ ・
そこは、辺り一面に緑が生い茂る広々とした場所だった。

クシナダヒメ
わぁ~ ・ ・ 綺麗なところ ・ ・ ・ ・

スサノオ
お前もそう思うか?俺も初めてココに来た時『なんて清々しい場所なんだ』って思ったんだ!
だから、俺はこの土地を"須賀"と名付けた!!

クシナダヒメ
うわっ ・ ・ ・ 単純っ!!
クシナダヒメが辺りを見回すと小高い丘の上に大きな宮殿が見えた。

クシナダヒメ
この辺の地主さんかな??
と眺めているとスサノオが

スサノオ
こっちだ。
と言って彼女の腕を引っ張った。
それは、幾重にも垣を巡らせた見事な宮殿だった。スサノオはズカズカとその中に入って行く。

クシナダヒメ
また不法侵入かよ。
と思いながらクシナダヒメも後に続いた。しかし、家の中には誰もおらず、シンとしている。

クシナダヒメ
わぁー素敵な宮殿ね ・ ・ ・ ・ 新築の匂いがする ・ ・ ・ ・

スサノオ
俺が建てた。

クシナダヒメ
はいっ!?
スサノオは得意気に笑っている。

スサノオ
ここに、家族で住もう。両親も呼んで、アシナヅチはここで長老になりゃいい。

クシナダヒメ
うそ ・ ・ ・ こんな立派な宮殿で? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ すごい。しばらくコソコソと出歩いていると思ったら ・ ・ ・ ・

スサノオ
驚いたか??

クシナダヒメ
うん、とっても素敵! ・ ・ ・ ・ ・ ありがとう、スサノオ!!
宮殿の縁側からは、壮大な山々が一望でき、日の出と共に朝雲がもくもくと立ち上がってくるのが見えた。

スサノオ
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を ・ ・ ・

クシナダヒメ
・ ・ ・ 何それ?歌??らしくないじゃない。

スサノオ
短歌だ。いいだろ??たまには。

クシナダヒメ
ふふっ、そうね。案外才能あるかも。

スサノオ
へへっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 幸せになろうな。クシナダ。

クシナダヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん。
クシナダヒメは満面の笑みを浮かべてうなずいた。
こうしてスサノオは日本最古の短歌を残し、家族と共に、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。