天皇記『エウカシとオトウカシ』
エウカシとオトウカシ
さらに一行が歩いていると、次はピカピカ光る泉の中から、尻尾の生えた人が出てきた。またイワレビコのテンションが上がる。
イワレビコ
じっ ・ ・ ・ 獣人キタァァーーっ!!!
イヒカ
・ ・ ・ ビクッ!!
イワレビコが思わず声を上げると、獣人の尻尾がピンっ!と張った。向こうはめっちゃ警戒してる様子だ。
イワレビコ
あ ・ ・ ・ すみません ・ ・ ・ その尻尾 ・ ・ ・ ・ ・ ・ すげー、いいですね。
イヒカ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ??
イワレビコ
君、名前は?
イヒカ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イヒカ ・ ・ ・
不安そうに尻尾がしゅんと下がる。
イワレビコ
是非とも彼が住んでる獣人村に行きたい!!
とねだったイワレビコだったが、八咫烏に「ふざけんな!」とつつかれたので、仕方なくさらに山奥へ進むことにした。イヒカは警戒しながらも一緒についてきてくれて、そのうち仲間になった。
しばらく歩くと、また尻尾の生えた人が、今度は大きな岩を押し分けながら出てきたではないか。
イワレビコ
うぉぉ!!またいた!!今度のはゴツイ!!
イハオシワクノコ
・ ・ ・ ん??もしかして、あんたが天つ神の子か?
イワレビコ
あぁ、そうだけど、君、名前は?
イハオシワクノコ
俺?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ イハオシワクノコだ。
イワレビコ
そっか。ところでイハオシワクノコさん、獣人には、女子もいるのだろうか??
できればケモ耳付き希望。
イハオシワクノコ
女??いや、見たことねぇな。
イワレビコ
えっ?
イワレビコ
あぁ、そうなんですか ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワレビコのテンションが一気に下がる。その様子を見ていた八咫烏と久米兵に、ケタケタと笑われてしまった。
イハオシワクノコ
はは。ご期待に添えなかったみたいで悪かったな。俺、近くに天つ神の子が来たって聞いたから迎えにきたんだ。
イワレビコ
なんだそうだったのか。ありがと。助かるよ!
イハオシワクノコ
つーか、俺らみたいのに獣耳が生えてたら、気持ち悪くねぇか?
イワレビコ
えぇ、おっしゃる通りです。
こうして、イワレビコに『理想と現実の溝の深さ』を教えてくれたイハオシワクノコも、そのまま仲間になった。
なんだかんだで仲間が増えて、だんだん旅のパーティーっぽくなってきた一行は、また山を進み奈良の
第一村人の情報によると、宇陀にはエウカシとオトウカシという兄弟が住んでいて、兄の方は気性の荒い性格らしい。イワレビコは用心のため
八咫烏
・・・っざけんなよイワレビコ!!マジビビった!!マジビビったんだけど!!
いつも口の悪い八咫烏だが、遣いから帰ると、さらに口が悪くなっていた。
どうやら、弟のオトウカシの方はあっさり仕えると言ってきたのだが、兄のエウカシは絶対嫌だと言って八咫烏が近づいた瞬間、
イワレビコ
よしよし。可哀想に。怖かったんだなぁ。
イワレビコが、八咫烏の頭を撫でてやる。
八咫烏
怖かねぇよバカ!!っざけんな!!マジざけんなっ!!!しかも、あいつ、軍を集めるとか言ってやがったぜ??どうすんだよ、イワレビコ。
イワレビコ
そうか ・ ・ ・ 面倒だな。
八咫烏
あんな奴、さっさと殺っちまおうぜ??
イワレビコ
うーん ・ ・ ・
いや、しばらく様子を見よう。軍がどのくらいの規模になるか見たい。
イワレビコ
ありがとな、八咫烏。
八咫烏
・ ・ ・ ・ ・ ・ おぅ。感謝しな。
しかし、いくら経ってもエウカシの元に兵士が集まって来る様子は無かった。
今回、偵察から帰って来た八咫烏はご機嫌だ。
八咫烏
フン!エウカシの野郎、兵が全然集まらねぇーでやんのっ!!ざまぁみやがれ!!
つーか、さっき偵察に行ったら頭下げられて、お詫びに歓迎の宴をするから来てくれだとよ。
イワレビコ
えっ?そうなのか??随分、手のひら返すのが早い奴なんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・
八咫烏
元々、肝っ玉のちっちぇー男だったんだよっ!!
すると、その日のうちに、エウカシはイワレビコ達の野営に足を運び、ペコペコと頭を下げて
エウカシ
ぜひともイワレビコ様に仕えさせてください!!
と言ってきた。わざわざ一行を迎えるために御殿まで建てたらしい。今夜、そこで宴を開くので是非来て欲しいというのだ。
イワレビコ
まぁ、そこまでしてくれたのなら。
と、イワレビコたちは招待を受けることにした。
日も暮れ、一行は宴へ行く準備をしていた。久米兵は久しぶりのタダ酒だとワイワイはしゃいでいる。
そんな中、久米兵のリーダー、オオクメがイワレビコの部屋を覗いてきた。
オオクメ
なぁ、旦那。エウカシの弟のオトウカシが面会したいって、そこまで来てるんすけど、どうします?
イワレビコ
え?オトウカシの方はすぐに仕えるとか言って、大人しくしてなかったっけ?
オオクメ
でも、息切らして慌てた様子でしたよ?
イワレビコ
そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ じゃあ、通してやって。
しばらくすると、弟のオトウカシがオロオロした様子で部屋に入って来た。
すぐ後ろには、イワレビコが信頼している最強の付き人、ミチノオミがピタリとついている。無表情だが、何か少しでも怪しい動きがあれば、すぐに首を飛ばせる構えだ。
オトウカシ
ヒッ ・ ・ ・
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワレビコ
ミチノオミ ・ ・ ・ そんなに威嚇するなよ。怖がってんじゃん。
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ミチノオミは、チラッとイワレビコを見ると柄から手を離した。
イワレビコ
すみませんね、オトウカシさん。
イワレビコ
オレらはこれから、エウカシさん家に行くところだったんだけど ・ ・ ・ ・ ・ ・ 何かご用でした?
オトウカシ
は ・ ・ ・ はい。あの、その、兄上の宴会なのですが ・ ・ ・
あれは罠なのです!
ミチノオミがまた柄に手をかける音がする。
イワレビコ
ミチノオミ、やめろっってば ・ ・ ・
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ で、オトウカシさん。罠ってどういうこと?
イワレビコは穏やかな口調で、冷たくオトウカシを見据えた。
彼の説明によると、兄のエウカシが作った御殿の入り口には巧妙な仕掛けがあり、板の間を踏むとバネの力で人を圧殺させることができる仕組みになっているらしい。
イワレビコ
そっか。教えてくれてありがと。よかったら、中でお茶でも飲んで行って。
イワレビコはオトウカシを中へ案内するため席を立つと、オオクメとミチノオミに視線を送った。
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ オオクメ、ミチノオミ、悪いんだけど、先に行ってエウカシさんがどうやって、オレのことを迎えるつもりなのか確認してきてもらえる?
オオクメ
あぁ ・ ・ ・ わかった。
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオクメは軽く頷くと自分の槍を取り、ミチノオミと共にエウカシの元へ向かった。