日本神話『ワカヒコの派遣』
ワカヒコの派遣
出雲にホヒを派遣してから、3年もの歳月が流れていた。
アマテラスは、来る日も来る日もホヒからの連絡を待ち続けたが、連絡は一向に届かない。それどころか
しかも『出雲で、ホヒがオオクニヌシの後を金魚のフンみたいにくっついて回ってるのを見た!!』なんていう噂まで届いてくるじゃないか。
アマテラス
あの子、オオクニヌシなんかに媚て国造りを手伝ってるってこと??
アマテラスの怒りは日に日に増していった。
アマテラス
んあーもぉっっ!!!!ホヒは何やってんのよっ!オモヒカネっ!ちょっと、コレどーゆうこと??
オモヒカネ
えっ、私ですか?
オモヒカネは、あからさまにご機嫌ナナメのアマテラスに捕まってしまった。
彼女の隣に座っていた父親の高木に助けを求め視線を送ったが、
タカミムスビ
にこっ。
っと、無言でかわされてしまう。
さらにアマテラスは般若のような形相で睨んできた。
アマテラス
あんた以外にオモヒカネがいるの?
オモヒカネ
いやっ ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ そうですね ・ ・ ・ ・ ・ ・ ホヒは出雲に住み込んじゃったのかな??素敵な場所ですもんね。出雲。
アマテラス
あー違うっっ!!
アマテラスは、別に出雲を手に入れたい訳じゃなかった。
アマテラス
そのためにどうしたらいいのか聞いてんのっ!!
彼女は不機嫌にオモヒカネをまくし立てた。
オモヒカネ
まずい。これ以上、怒らせると危険だ。
と感じたオモヒカネは必死に頭をフル回転させた。
オモヒカネ
え ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ じゃあ、次はアメノワカヒコとか?
アマテラス
なんか、適当に言ってない??
オモヒカネ
まさかっっっ!!!アマテラスの息子ではないけれど、彼は野心家だし、仕事もよくできます。ホヒよりも、押しが強いから、ちゃんと交渉できるのでは?
アマテラス
なるほど ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん、いいわね!!それでいこう!!
アマテラス
アメノワカヒコー!!!ワカヒコー!!いるーー!?
しばらくすると、見るからに誠実っぽそうな好青年が入ってきた。
アメノワカヒコ
・ ・ ・ はい、呼びました?なんでしょう。
早速、事の次第を伝えると、ワカヒコは
アメノワカヒコ
お役に立てるなら。
と言って快く任務を引き受けてくれた。アマテラスは念のため、鹿を一発で射抜けると言う、
交渉がスムーズに進めば良いが、万が一のこともある。立派な弓矢を見ると、ワカヒコは気が引き締まった。
ワカヒコが出雲に向かうと、またオオクニヌシが出迎えに来ていた。
オオクニヌシはニコニコしながら出雲まで案内してくれた。
アメノワカヒコ
国譲りを頼みに来たって言うのに親切すぎないか?
ワカヒコの警戒心が強まる。
そして宮殿のこじんまりとした部屋に通されると、そこには豪勢な料理が用意されていた。
なんか、政治家とかが汚職の打ち合わせで使いそうな、料亭の個室みたいだ。ワカヒコの警戒心がさらに強まった。
アメノワカヒコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ 随分豪勢ですね。
オオクニヌシ
喜んでもらえたら嬉しいな。すみません、狭い部屋で。
アメノワカヒコ
いえ。
オオクニヌシ
いやー、実は、前回、ホヒさんがいらした時には、広い部屋に美女をたくさん用意していたんですけど ・ ・ ・ とっても真面目な方で、ドン引きされちゃって ・ ・ ・
アメノワカヒコ
フッ!!なるほど ・ ・ ・ ・ ・ ・ 確かに、それはホヒさんらしいですね。
ワカヒコは美女に囲まれて硬直するホヒの姿が容易に想像できた。
オオクニヌシ
だから、今日は2人だけにしてみたですけど ・ ・ ・ ・ ・ これでじゃあ、お客様に手酌をさせてしまう上に、花が無いので、僕の娘を同席させてもいいですか?
アメノワカヒコ
えぇ、もちろん。
オオクニヌシ
それはよかった。それじゃ。
オオクニヌシ
おーい、シタテルヒメ!ワカヒコさんに、お酒持って来てー!!
シタテルヒメ
はぁい!!すぐにお持ちしますね~。
隣の部屋から可愛らしい声が聞こえた。しばらくすると、ふすまが開き、酒を持った女性が入ってくる。ワカヒコは、彼女から視線を離せなかった。
こんなに美しい女性を見るのは初めてだったのだ。
その表情を見たオオクニヌシは、またほくそ笑む。
オオクニヌシ
・ ・ ・ ・ ・ あらら。天照大神、ダメだよこんな若い子よこしちゃ。瞬殺じゃないか。これじゃあ勝負にならないよ?
オオクニヌシ
さ、シタテルヒメ。ワカヒコさんにおつぎして。
シタテルヒメ
はい ・ ・ ・ どうぞ。
ワカヒコは、緊張で手が震えた。
アメノワカヒコ
あっ、ありがとうございま ・ ・ ・ わっ!
シタテルヒメ
キャ ・ ・ ・ ごめんなさい、こぼしちゃった。すぐに拭きますねっ!
アメノワカヒコ
いえっ、お構い無くっっ ・ ・ ・ !!
ワカヒコは、完全にテンパっている。オオクニヌシはくすくす笑いながら、詰みにかかった。
オオクニヌシ
あちゃぁ~、娘がすみません。この子、おっちょこちょいなんですよ ・ ・ ・ ・ ・ ・
アメノワカヒコ
いえっ、私の手元が狂ってしまって ・ ・ ・ 。
オオクニヌシ
いやいや。お気遣い、ありがとうございます。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 実は、シタテルヒメも、そろそろ嫁に出してもいい年頃なのですけどね。優しい方じゃないと、返されちゃうんじゃ無いかと心配で。まだ嫁ぎ先を決め兼ねてるんですよ ・ ・ ・ 。
アメノワカヒコ
そんな ・ ・ ・ 全国の男がこぞって喜ぶでしょうに。
オオクニヌシ
そうですか?僕としては、ワカヒコさんみたいな人にもらっていただけたら、安心なんですけどね。
ワカヒコの口に含んだ酒が、しぶきのように舞った。オオクニヌシの顔がその酒でベットベトになる。
アメノワカヒコ
へ?わ ・ ・ ・ 私ですか??
オオクニヌシ
・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、もし、ご迷惑で無ければ。と言う話です。
オオクニヌシは、おしぼりで顔を吹きながら答えた。
アメノワカヒコ
まさか!こんなに美しい方をもらって、迷惑な訳がない!!
オオクニヌシ
えー。気に入っていただけたんですかー?
アメノワカヒコ
いや、それより、シタテルヒメさんは、私なんかでいいんですかっ!?
シタテルヒメ
えぇ!もちろんっ!!ありがとうございます。とても嬉しい!!
シタテルヒメに事情を説明していたわけでは無かったが、どうやら彼女もワカヒコを気に入ったようだ。
オオクニヌシ
うわぁー。これはめでたい。すごいやぁ。こんな運命みたいことって本当にあるんだなー。早速、祝言の準備をしなくっちゃーー。
最後の方、オオクニヌシはセリフを棒読みしていたが、ワカヒコはとっても喜んだ。こうして、次の日には盛大に結婚式を挙げ、オオクニヌシはまたしても高天原からの使者を引き込むことに成功した。
それから、あっというまに数年が経ち、ちゃっかり出雲に住みついてしまったワカヒコは、シタテルヒメとの子宝にも恵まれ、幸せに暮らしていた。
しかし、何年経っても高天原の脅威を忘れることはでき無かった。アマテラスはそのうちまた出雲に使者を送ってくるだろう。3度も交渉に失敗しているんだ。次は武力で攻めてくるかもしれない。
だが、出雲には高天原に対抗できるほどの戦力があるとは思えなかった。いざとなれば戦わなければならないのに、オオクニヌシは戦向きじゃない。彼の息子にも兵をまとめられそうな人物はいない。
アメノワカヒコ
ならば自分が ・ ・ ・ ・ ・ ・
ワカヒコは次第に葦原の中つ国を自分で治めたいと考えるようになっていた。
結果的に高天原を裏切ることになってしまったものの、今は彼にとって、この生活が何よりも大切になっていた。