天皇記『イヅモタケル』

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イヅモタケル

イヅモタケル

父の景行天皇に熊襲を平定してこいと命令され、見事にクマソタケル兄弟を討ったヤマトタケルだが、すぐには大和に帰らなかった。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

言われた仕事しかできない人間なんて使えない

・ ・ ・ という考えは建前で、本当は指示以上の事をして帰って、景行に褒めてもらいたかった。彼は帰り際にその土地の山の神、川の神、海の神を次々と説得して従わせた。そして、最後は出雲にも寄る。

この時、出雲ではイヅモタケルが権力を握っていた。彼もクマソタケル兄弟同様に、アンチ朝廷として有名な人物だ。そしてやっぱり強い人は"タケル"らしい。

ヤマトタケルは刀を持っていなかったので、偽の刀を作り腰にぶら下げて、出雲の周辺をウロウロしていた。

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そんなある日、偶然(?)イヅモタケルに道端でバッタリ出会った。彼はヤマトタケルの10歳くらい年上だろうか。ゴレンジャーでいうと、正義感の強いレッドに抜擢されそうな顔立ちだ。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

あれっ ・ ・ ・ ・ ・ もしかして、イヅモタケルさんですか?

イヅモタケル

イヅモタケル

ん、そうだが ・ ・ ・

ヤマトタケル

ヤマトタケル

わぁ!本物だ~!!すご~い!!

イヅモタケル

イヅモタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ 君は?

ヤマトタケル

ヤマトタケル

あっ、すみません!!ボクはヤマトタケルって言います。実は、熊襲からの帰り道で ・ ・ ・

イヅモタケル

イヅモタケル

大和!?朝廷の者か。

イヅモタケルはあからさまに敵を見る目付きに変わり、剣に手をかける。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

あっ、スイマセン!別にケンカしに来た訳じゃ無くてっ!!

ヤマトタケル

ヤマトタケル

たまたま帰りに通りかかっただけなんです。イヅモタケルさんのことは、噂で聞いてたから ・ ・ ・ すっごく強いんですよね??

ヤマトタケル

ヤマトタケル

本物に会えるなんてラッキーとか思って、つい声を掛けちゃって ・ ・ ・

ヤマトタケルが、困ったように上目遣いをしてイヅモタケルを見つめる。彼は、警戒した面持ちでヤマトタケルのことをじっと見据えると、敵意が無いと判断したようで、剣から手を離した。

イヅモタケル

イヅモタケル

・ ・ ・ ・ すまない。大和と聞いて、つい警戒してしまった。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

いえ、いいんです。こちらこそ急に声かけちゃってすみませんでした。

イヅモタケル

イヅモタケル

いや、こちらが悪い。

・ ・ ・ 大和のタケルくんは熊襲の帰りと言ったな。今日の宿は決まっているのか?

ヤマトタケル

ヤマトタケル

え??まだですけど。

イヅモタケル

イヅモタケル

なら、うちに泊まるといい。どうせ野宿だろう?

ヤマトタケル

ヤマトタケル

えーっ!?いいんですかっ??

イヅモタケル

イヅモタケル

ま、先ほど無礼の詫びも兼ねてだ。歓迎するよ。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

わぁ!ありがとうございますっ!!

イヅモタケル

イヅモタケル

それに ・ ・ ・ 出雲のタケルはビビリだなんて言われちまったら困るからな。

口止め料も兼ねている。

イヅモタケルはニカっとイタズラっぽく笑った。

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2人はすぐに意気投合し、仲良くなった。そして次の日、ヤマトタケルはイヅモタケルに斐伊川に沐浴をしに行こうと誘う。斐伊川と言えばスサノオとクシナダヒメが出会った川だ。2人は道中、神話の話しに花を咲かせながら目的地に向かった。

斐伊川に着くとヤマトタケルはスグに服を脱ぎ捨てて川に飛び込む。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

実はボク、一週間くらいお風呂入ってないんですよ~。臭くなかったですか??本当すみませんっ!!

イヅモタケル

イヅモタケル

はっ!そうか。そりゃあ失敗したな。お前が使った布団はよーく洗っておくよ。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

えー、スグに臭い取れるかなぁ??心配です。ふふっ!!

とかなんとか喋りながら2人は沐浴を楽しむ。

そしてヤマトタケルはそそくさと身体を洗い先に川を出ると、服を着ながら物欲しそうにイヅモタケルの剣を見つめた。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ イヅモタケルさんの剣、めちゃめちゃカッコイイですねぇ~

イヅモタケル

イヅモタケル

そうか?もうだいぶボロいぞ?まぁ、長年使ってるから愛着もあるがな。

でも、ヤマトの剣の方が新しくていいじゃないか。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

え~?そうですかぁ??やっぱ、長年使わないと"味"が出ない気がする。

イヅモタケル

イヅモタケル

はは。そうかもな。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

ねぇ、イヅモタケルさん、ボク達の剣、交換こして手合わせしません??

出雲最強の人と勝負したって言えば、大和に帰って自慢できるしっ!!

イヅモタケル

イヅモタケル

ん?あぁ、いいぞ?でも、怪我しないようにな。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

はぁい!

イヅモタケルは、川を出て袴を履くと濡れた髪を一つに束ね、ヤマトタケルの刀を腰に差した。ヤマトタケルはニコニコしながらルールを提案する。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

きっとボクの方が弱いから、ボクが『始め』って言ったら一緒に抜刀する感じでいいですか?

イヅモタケル

イヅモタケル

あぁ。いいぞ。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

ふふっ、よかった。それじゃ ・ ・ ・

2人がスッと刀を構える。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 始め。

その合図と共に、イヅモタケルはザッと踏み込み剣を抜いた。 ・ ・ ・ いや、抜こうとした。しかし、抜けない。

イヅモタケル

イヅモタケル

硬い? ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、柄と鞘が繋がってる??

そりゃそうだ。だってヤマトタケルは剣を持っていなかったのだ。彼が交換したのは偽物の剣だった。 しかし、人懐っこい笑顔の友人がそんなことするなんて、イヅモタケルは夢にも思わない。彼は混乱の中で一瞬、その友人が狂気に満ちた顔を自分に向けたような気がした。

グサリ。

イヅモタケル

イヅモタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!?

ヤマトタケル

ヤマトタケル

・ ・ ・ すみませんね、イヅモタケルさん。

イヅモタケル

イヅモタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ や ・ ・ ま ・ ・ ・ と?

イヅモタケルは腹をひと突きされ、自分の置かれた状況も理解できないまま力なく地面に伏した。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

・ ・ ・ ・ ・ ・ ふっ ・ ・ ・ ・ ・ くふふっ!!面白い面白いっ!!

ヤマトタケルはケタケタ笑ながら上機嫌に歌を詠い出す。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

出雲のタケルが持ってた剣はツルが巻かれて見た目はカッコいいのに、中身はなーんにも入ってないっ!!

ヤマトタケル

ヤマトタケル

あぁ〜哀れっ!!

くふふっ!まじでウケるっっ!!!ふっふふふっ!!!

ヤマトタケルは最初からこの作戦でイヅモタケルを殺すつもりでいた。偽の刀は事前にイチイの木を削って形を作り、ツルを巻いて見た目だけ豪華にして腰に差していたのだ。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

ふふっ!ふっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ くふふっ!!

何かツボったらしく、彼の笑い声は止まらない。端から見ると、完全に精神崩壊している痛々しい少年だが、あくまでも彼の目的は父親の景行に誉められることだった。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

兄さんを殺したときは何も言ってくれなかったけど、確かにあの人は家族だったもんな。父上が喜ばなかった理由もわかる気がする。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

でも今回は、熊襲だけじゃなくって、山川海の神、そんで出雲まで平定したんだ。

父上に逆らったやつは、みんな殺してやったんだ!これを知ったら父上も絶対喜んでくれる!!

ヤマトタケル

ヤマトタケル

ふふっ!早く大和に帰って父上に報告しよっと!!

ヤマトタケルは小走りというか、半ばスキップで大和までの道中を進んだ。

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しかし景行の反応は、彼の期待とは遠く離れたものだった。

まず、ヤマトタケルの元気な姿を見ると景行は残念そうにチッと舌打ちをされる。そして報告を一通り聞き終えると、無表情のまま言葉を発した。

景行天皇

景行天皇

そうか。では引き続き、東の12ヶ国の荒ぶる神々を平定してこい。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

え ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『そうか』だけ?

景行天皇

景行天皇

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

景行は冷たくヤマトタケルを見据える。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

・ ・ ・ あっ、えっと、ごめんなさい。そうじゃなくって、その平定って一人だけでやるのかなって。

景行天皇

景行天皇

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ヤマトタケル

ヤマトタケル

えっと、東の荒ぶる神々は軍を以てしても難しいって聞いた事が ・ ・ ・ ・ ・

景行天皇

景行天皇

ならば、矛と供を授けよう。

ヤマトタケル

ヤマトタケル

あっ、はぃ ・ ・ ・ ありがとう ・ ・ ・ ・ ・ ・ ございます ・ ・ ・ ・ ・ ・

景行はそれだけ言うとすぐに下がってしまった。

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