天皇記『根臣の嘘』
根臣の嘘
大日下
ああ、ネノさん!安康くんの
根臣
あ ・ ・ ・ ・ はぁ。
にしても、さすが仁徳が一目惚れしたと言うカミナガヒメの息子。ものすんごい美形だ。
根臣
え ・ ・ ・ えっと、オオクサカ様。安康天皇はあなたの妹、ワカクサカ様を
シスコンだというオオクサカがどんな反応をするのか、内心ヒヤヒヤしたが、彼は予想外に喜んで4度も頭を下げてきた。
大日下
えぇっ!?ハツセくんですかっ!?彼、まだ10代ですよね??若いのに、いいんですか??
大日下
ワカクサカ、あれで結構、年いってますよ??
根臣
も ・ ・ ・ ・ もちろんです。
大日下
わー!!それは嬉しいっ!!!
根臣
はぁ。
大日下
いや~~ワカクサカも父上の子でしょう??父上ってば、亡くなってからずいぶん経つのに、いまだに『
大日下
仁徳帝の1人娘なんて言ったら、もぅ、旦那になる人は天皇内定みたいなものだから。嫁に出すに出せなくて!!
根臣
はっ ・ ・ ・ ・ はぁ。
大日下
ワカクサカは政治利用されやすい立場だからね。ついつい、出し
大日下
確かに彼は気性が荒いけれど、若さ故のところもあるし、何より日本のことをよく考えているから、将来は良い天皇になるだろうね。
根臣
はっ ・ ・ ・ ではっ、
大日下
いやー、嬉しいな!!私も最近、調子が悪くて。ワカクサカのことだけが気掛かりだったんだよ。ほんと、歳は取りたくないものだ。
根臣
はぁ。
大日下
でももしかすると、こういった良い提案もあるかも知れないと思って、外に出さずにおいてよかった!
根臣
はっ ・ ・ ・ ・ ・ あの、では ・ ・ ・
大日下
うん、安康くんには ・ ・ ・ ・
大日下
あ。安康くんじゃ失礼か。今は天皇だものね?
根臣
あ、はぁ。
大日下
ふふっ。ついこの間まで、あんなに小さかったのに、
大日下
みんな、どんどん立派になっていく。あのハツセくんがもう、嫁をもらう歳になるなんて、信じられないよ。
根臣
・ ・ ・ ・ ・ はぁ。
大日下
うちの息子も、赤子だとばかり思っていたのに、ずいぶん
大日下
いやー。歳を取ってからの子は、たまらないよ。
根臣
あ、はぁ ・ ・ ・ ・ あの、それで ・ ・ ・
大日下
ん?あっ!すまない。お客様が来るとつい嬉しくて!
大日下
ずいぶんペラペラと喋ってしまったね。ついでに、親バカまでバレてしまった。
根臣
いえっ!!
大日下
ふふっ ・ ・ ・ それでは、陛下には『これは
根臣
あっ、ありがとうございます!
こうしてやっと明白な『YES』の返事をもらったネノが下がろうとする。
大日下
あ、あとネノさん。ちょっと待って。
根臣
はい?
大日下
口頭の返事だけでは失礼だから、陛下への
そう言ってオオクサカが差し出した木箱の中には、カズラのツルように宝石が連なった
この世の物とは思えないその
根臣
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
大日下
綺麗でしょう?『
根臣
えっ?はっ、はい!ごめんなさい!!
大日下
ふふっ!冗談だよ。私には勿体なくて。まだ付けたこともないから ・ ・ ・ 。
大日下
きっと、安康くんには良く似合う。彼によろしく伝えてくれ。
根臣
は ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかりました ・ ・ ・
こうして、伝言を
根臣
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
今、自分の腕の中にある貴重な『
このまま皇居に持って行ってしまったら、2度と触れることはできないだろう。
こんな機会、滅多にない。もう1度だけ、ゆっくりと眺めてみたい。
根臣
別に ・ ・ ・ ・ ・ 今日中に返事を持ってこいとは言われてないし ・ ・ ・ それにもう遅いし。きっと皇居に着く頃には陛下も休んでる。
根臣
・ ・ ・ ・ ・ とりあえず今日は持ち帰って、報告は明日でもいいか。冠だって、ちょっと触ったくらいじゃ怒られないだろう。
考えた末、ネノは自宅へと向かった。
そして、翌日。
根臣
い ・ ・ ・ 家に置いてきてしまった ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや、でも別に、盗もうとした訳じゃないし。忘れただけだ。忘れただけ。
安康天皇
ネノ、お疲れ様。どうだった??
根臣
はっ!!オオクサカ様は ・ ・ ・ ・ ・
安康天皇
・ ・ ・ ・ ・ うん?
そう言って、止まったネノの頭の中に
角度を変えるとキラキラ美しく光って、ずっと見続けたくなる豪華な
その宝物が今は自分の家にある。
他人に渡すには、あまりにも惜しい。
それが例え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 天皇でも。
ネノは下を向いたまま、そっと口を開いた。
根臣
・ ・ ・ ・ オオクサカ様は、陛下の勅命を受けずに言いました。
安康天皇
え?
根臣
『私の妹は一族の尻の下に敷くような、安っぽい敷物ではない。ふざけるな』と。
安康天皇
は?何それ。
根臣
そして、剣の柄を取りながらひどく怒ったのです。
ネノの口からは、自分でも驚くほどスラスラと嘘が出てくる。
根臣
なので私は怖くなって、慌てて帰ってきました。
その嘘の報告に安康はクワッと目を見開く。
安康天皇
なっ ・ ・ ・ ・ なんだよそれっ!!
安康天皇
自分はナガタを
安康天皇
今更そんなこと言って、ハツセに当たるなんて、信じられない。絶対に僕の命も狙ってるでしょう!!!
根臣
ごめんなさい ・ ・ ・ ・
安康天皇
ネノが謝ることじゃないよ!オオクサカは信用できない。僕が先に手を打たなくちゃ。じゃないと、こっちがやられるっ!!
ひどく怒った安康は、
安康天皇
オオクサカを殺して。
と、兵に指示を出す。
安康天皇
でもナガタは殺さないでね。彼女は僕の皇后にするから。
こうしてオオクサカは理由も分からないまま、安康の兵に殺されてしまった。
そして夫を亡くしたナガタヒメは、オオクサカとの間に生まれた息子のマヨワと一緒に安康の元に引き取られることになり、そのまま安康の皇后となった。