天皇記『メドリとハヤブサワケ』
メドリとハヤブサワケ
最後は、ウジノワキとヤタノワキの妹、メドリとのお話だ。
ウジノワキの遺言で、2人の妹を頼まれていた仁徳天皇は、メドリのこともずっと気にしていた。しかし、まぁ、なかなか声をかけられる状態でもなかったので、イワノのスキをついては手紙やプレゼントを送るくらいの関係だった。
仁徳天皇
メドリに似合いそうな腕輪が手に入ったから送るなー。
メドリ
・ ・ ・ ・ どうも。
それに、姉のヤタノワキと違って元々仲が良かったという訳でも無かったので、返事はいつも素っ気ないものだった。
仁徳天皇
にしても、そろそろメドリも年頃やと思うんやけど、全然浮いた話が無いなぁ〜。
仁徳天皇
もしかして、ウジィの遺言のこと気にしとるんかな ・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん ・ ・ ・
悩んだ末、仁徳は「妻として宮中に住まへん?」といった内容の手紙を送ることにした。
もちろんイワノがいるので、長くは一緒に住めないだろうが、天皇とのバツイチはプレミア価値のつく時代だ。一度、宮中に入れば誰かいい人が見つかるだろう。
仁徳天皇
つーわけで、メドリにこの手紙、渡してきてくれへん?
ハヤブサワケ
はい ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかりました。
こうして手紙を渡されたのは仁徳の腹違いの弟、ハヤブサワケだった。メドリにとっては腹違いの兄になる。
しかし、仁徳から手紙を渡されたハヤブサワケの足取りは重かった。というのも、ハヤブサワケはずっとメドリに想いを寄せていたのだ。
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ 手紙、渡したくないな。
とは思いつつ、仁徳の命令では届けるしかない。
ハヤブサワケは彼女の家に着くと、下を向いたままメドリに手紙を渡した。
ハヤブサワケ
はい。
メドリ
何よこれ。
ハヤブサワケ
陛下から ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ そう。
メドリは仁徳からの手紙を読むと、黙ったままハヤブサワケの
彼女のこーゆう小悪魔っぽいところがまたツボなのだが、そんな態度を取られる度にハヤブサワケは、
ハヤブサワケ
メドリが自分なんか好きになる訳がない。落ち着け俺っ!!
と強く自分に言い聞かせ、必死に理性を保っていた。
メドリ
やだ ・ ・ ・ あんな奴のところ、行きたくない。
ハヤブサワケ
あんな奴って ・ ・ ・ ・ ・ それ聞かれたらマズイでしょ。
と言いつつも、ちょっとホッとする。
メドリ
だって、イワノの
ハヤブサワケ
それは俺も聞いたけどさ。
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それに、私、他に好きな人がいるの。
ハヤブサワケ
はぁっ?????誰っっっ!!!???
ハヤブサワケはすごく困った表情で驚いた。今までメドリから好きな人の話なんかされたことなかったのに!
ハヤブサワケ
誰だっ!?全然わからない!!俺以外にもココ通ってる奴いたのか!?
メドリ
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 鈍感すぎだよ、ばか。
メドリがハヤブサワケを見つめる。
ハヤブサワケ
ん?何??
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼女はまだこっちを見つめたままだ。
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ハヤブサワケ
嘘っ!?俺っ???
ハヤブサワケはめちゃめちゃ驚いた。別にメドリは、今まで小悪魔を気取っていたわけではなかったのだ。彼女もずっとハヤブサワケのことが好きだった。
メドリ
まったく。散々こっちからアピってんのに、歌のひとつもよこさないで ・ ・ ・ 。
メドリ
別に、嫌なら良いんだけどさ。
ハヤブサワケ
っっんなわけあるか!!!ずっと好きだったんだ ・ ・ ・ すげー嬉しい ・ ・ ・ ・
その返事を聞くと、メドリは満足そうに彼の顔を見つめた。
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
顔が近い。さらに上目遣いでキスをねだってくる。
ハヤブサワケ
めっちゃ可愛い。。。
そして彼女の柔らかい唇に触れた瞬間 ・ ・ ・
ハヤブサワケの理性はブッ飛んだ。
真昼間から2人は身体を重ね合い、それからというもの、ハヤブサワケは仁徳の命令などすっかり無視して、毎日のように彼女の家に足を運ぶようになった。
一方、仁徳は仁徳でメドリの事を気にしていた。
仁徳天皇
ハヤブサワケに手紙頼んでから、むっちゃ経つけど、返事遅すぎやないか??素っ気ない返事なら毎回必ず帰って来んのに。
仁徳天皇
うぅん。前々から思っとったんやけど、やっぱしオレ嫌われとんのかな ・ ・ ・ ・ ・
なんだか不安になった仁徳は、イワノのスキを窺ってこっそり皇居を抜け出し、直接メドリの家に足を運んだ。
仁徳がメドリの家の庭から部屋を覗くと、彼女は機織り機に向かって布を織っているところだった。横顔がヤタノワキにそっくりだ。仁徳の胸がチクリとする。
仁徳天皇
メドリ ・ ・ ・ 久しぶり。えぇ、生地やな。それ、誰に織っとるん?
彼女は、チラッと目を上げ声の主が仁徳だと確認すると、下を向いたまま冷たく答えた。
メドリ
・ ・ ・ ・ 空高く翔けるハヤブサのためです。
仁徳天皇
へっ??
仁徳天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ、なんや、そーゆーことかい。 ・ ・ ・ ほんなら、ゆーてくれりゃーえぇのに ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリがプイッとそっぽを向く。
気まずい。
仁徳天皇
まぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ したら ・ ・ ・ しゃーないな ・ ・ ・ ・ 帰るか。
こうしてあっさりとフラれた仁徳は、トボトボと皇居に戻った。
やっぱり嫌われているっぽかったのは悲しかったが、どこかこの展開が嬉しくもあった。
仁徳天皇
『そのつぼみをお前の妻にするが良い ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』
仁徳天皇
・ ・ ・ ・ ・ なんつって。
そして仁徳は2人の行動に罰を与えることも無く身を引いた。
一方、仁徳と入れ違いでハヤブサワケがメドリの屋敷にやってきた。
しかしいつもなら、笑顔で迎えてくれるメドリが今日はなんだか深刻そうだ。
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ メドリ??
ハヤブサワケが心配そうに顔を覗き込むと、メドリはガバッと彼に抱きつき耳元で歌を詠った。
メドリ
『自由に空を飛び回る雲雀よりも、天高く高く飛翔する私のハヤブサ ・ ・ ・ ・ ・ ・
メドリ
・ ・ ・ ・ あのサザキを狩り落として。』
要は、仁徳を殺して。ってことだ。
ハヤブサワケ
えっ??それはマズイでしょ ・ ・ ・ ・
メドリ
あんなヤツ ・ ・ ・ ・ さっさと死んじゃえばいいんだ。だってウジ兄はアイツのせいで死んだんだもの。
ハヤブサワケ
え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ウジノワキ様って ・ ・ ・ ・ やっぱり自殺だったの?
メドリ
そうよ。そうに決まってる。あんな女たらしに皇位を譲るために、ウジ兄は犠牲になったのよ。
メドリ
それなのに、ヤタ姉にまで辛い思いさせて ・ ・ ・ ・ 絶対に許せない。
ハヤブサワケ
メドリ ・ ・ ・ ・
メドリ
だからアイツを殺して、2人で誰もいない遠いところまで逃げよう??
ハヤブサワケ
ん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うぅん ・ ・ ・
ハヤブサワケは、曖昧に相槌を打った。
しかしこのメドリの歌は家臣を通じて、すぐに宮中まで届いてしまう。
仁徳天皇
え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 嘘やろ?
と呟き、仁徳は頭を抱える。謀反は死罪だ。
仁徳天皇
あぁ、あんときちゃんとフォローしとれば ・ ・ ・
なんて考えたってもう遅い。仁徳は
ハヤブサワケ
メドリっ!陛下の軍がこっちに向かってる!!逃げようっ!!!
メドリ
・ ・ ・ ・ うそ?
ハヤブサワケ
早く!!伊勢の神宮まで逃げ延びれば、殺されずに済むかもしれない!!
メドリ
うんっ!!
ハヤブサワケとメドリは、走って
ハヤブサワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ そいえば、メドリに一回も歌を送ってなかったね?
メドリ
は??今それどころじゃないんだけど。
メドリは息を切らしながら、彼を見上げる。
ハヤブサワケ
今、思いついたんだ。『倉橋山が険しくて岩に手をつくこともできなくて、君は俺の手を取ったね。』って。
・ ・ ・ ・ どう??
メドリ
はぁ?なにその歌。全然ロマンチックじゃない。
ハヤブサワケ
えー。じゃあ、こっちは??
『倉橋山は険しい山だけど、愛する君と登れば険しくなんか思わないっ!!』
メドリ
うぅん ・ ・ ・ ・ さっきのよりはマシかな。
ハヤブサワケ
へへっ。良かった。
メドリ
ハヤブサ ・ ・ ・ ・ ありがと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ごめんね。
ハヤブサワケ
大丈夫。急ご?
メドリ
うん。
こうして2人は伊勢に向かって必死に走ったが、ついに
仁徳天皇
さよか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ おおきに。しんどい仕事頼んで悪かったな。
オオタテ
いえ。
死刑を
イワノヒメ
仁徳 ・ ・ ・ ・ ・
いつもは女絡みの話でヒステリックに怒り狂うイワノも、今回ばっかりは彼の隣で心配そうにぴとっとくっつき、寄り添ってくれた。
それから数ヶ月後。
事件以来、どんよりとしてしまった朝廷の空気を変えようと、イワノが
先日の功績もあり、オオタテの周りには多くの人が集まっている。仁徳は嬉しそうにしているオオタテを見ていられずに、複雑な気持ちで視線を逸らした。
しばらくすると、オオタテは自分の妻を連れて挨拶のために仁徳とイワノの元に酒を注ぎにきた。
オオタテ
陛下、先日は、このオオタテに重大な任務をお任せいただき、ありがとうございました!
仁徳天皇
ん〜。ご苦労様。
と、仁徳も曖昧な笑顔を返す。隣でイワノもオオタテの妻に酒を注がれ挨拶を交わした。
イワノヒメ
・ ・ ・ ・ ・ どうも。
しかし、彼女の妻の腕に巻かれた腕輪を見ると表情が曇る。
イワノヒメ
あれ?あの腕輪 ・ ・ ・ ・ ・ この前、献上されて仁徳が気に入ってたやつじゃないか??
イワノヒメ
てっきりウチにくれるかと思ったのに ・ ・ ・ まさか、仁徳のヤツ、人妻まで手を出してっっ!?
イワノヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ い、いや。でもアイツはD以上、23以下、未婚じゃないとリスクは冒さない ・ ・ ・
イワノヒメ
ウチが家出してからは浮気も控えてたし ・ ・ ・ 他に送る相手と言ったらメドリくらいしか ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワノヒメ
!!
ハッとしたイワノは、オオタテの妻の腕をグッと
オオタテの妻
??
イワノヒメ
この腕輪 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ どこで手に入れた?
オオタテの妻
え?こちらは先日、主人から ・ ・ ・ ・
仁徳天皇
それ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オレがメドリに送ったやつ ・ ・ ・ ・ ?
オオタテ
!!
呆然としている仁徳の横でイワノはガタンと席を立ち、注がれた酒をオオタテに投げつけた。
イワノヒメ
なんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんて
そして目にいっぱいの涙を浮かべながら、自分の身長よりもずっと大きなオオタテに掴みかかる。
イワノヒメ
メドリとハヤブサワケは仁徳のことを殺そうとしたから処刑されたんだっ!!仁徳が望んで2人を処刑するわけがないだろっ!!
イワノヒメ
あれはどうしようもない、仕方の無いことだったのにっっ!それなのにお前はっっ ・ ・ ・ なんてことを ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワノヒメ
こんな細い腕輪、メドリの身体がまだ暖かいうちじゃなきゃ取れるわけがない。亡くなったばかりのメドリの腕から腕輪を盗むだなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワノヒメ
なんて ・ ・ ・ なんて
こうして、オオタテはその日のうちに処刑された。
仁徳天皇
イワノ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ありがとな。
イワノヒメ
ふん。なんせ、ウチは仁徳の皇后だからな。このくらい当然だ。
仁徳天皇
オレのせいで、イワノにはいつも損な役回りさせてばかりやな。
イワノヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ウチはそれでいいんだ。仁徳が悪口言われる方が嫌だもん。
仁徳天皇
・ ・ ・ おおきに。さすが、オレの皇后。
仁徳がイワノの頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうに笑った。
イワノヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
その後、仁徳は300才近くなった武内と縁起のいい歌を詠み合ったり、立派な木で船を作ったり、廃材で琴を作ったりなど、後半はどうでもいいような聖帝伝説を残して、83才で亡くなった。