日本神話『オオクニヌシの国譲り』
オオクニヌシの国譲り
突然、怪力キャラをアピールしてきたタケミナカタを、タケミカヅチは思いっきり睨みつけた。その視線を流しタケミナカタは父親の元へと進む。
タケミナカタ
なんだ、親父、帰ってこないと思ったらまだここにいたのか。
俺のいないところで、何コソコソ話してるんだよ。
オオクニヌシ
あぁ、ごめんごめん。タケミカヅチさんが、この国のことでお前に話があるんだって。
オオクニヌシは、タケミナカタに笑顔を向け、『僕としては譲りたくない話だ。』と、耳打ちをした。
タケミナカタ
・ ・ ・ そうですか。では、話を伺いましょうか。
オオクニヌシ
ふぅーー。危ない。危ない。コトシロヌシのせいで一瞬で勝負がついたかと思ったけど・・タケミナカタなら、頭も冴えるし、強い。
オオクニヌシ
ヌナカワヒメとの子が、まさかこんなにたくましく育つとはねぇ。東北まで遠征頑張って良かった!!この人、話しても無駄そうだし。タケミナカタの力に賭けるしか無いな。
オオクニヌシには、タケミナカタ以外に怪力キャラの息子はいない。
オオクニヌシ
これでダメならもう打つ手がなくなっちゃうな・・・。
と思いながら、彼は2人の様子を伺った。
タケミカヅチは今度も『国を譲れ』と、威圧的に睨んできた。しかし、タケミナカタにたじろぐ様子は無い。先ほどのコトシロヌシとはひと味違うようだ。
さらに、タケミナカタは勝負を挑んできた。
タケミナカタ
どうしても国を譲れと言うのであれば、俺らの力比べで勝負をしようじゃないですか。あんたが勝ったら、国を譲り天つ神に仕えますよ。でも、俺が勝ったら出雲から手を引いてもらう。
タケミカヅチ
ガハハ!このオレに力勝負で挑むとはな!!その意気だけは評価してやる。いいだろう。勝負の方法は任せる。
タケミナカタ
・ ・ ・ 勝負は簡単だ。強く手を握り合って、ギブした方が負け。これでどうだ?
タケミカヅチ
いいだろう。
そう言うと、タケミカヅチはすぐに手を差し出した。
しかし、タケミナカタがその手を握ろうとすると、手はつららに変わり、刃物に変わり、触れることすらできなかった。
タケミナカタ
おい!天つ神のくせに卑怯だぞ!!反則だろ!?
タケミカヅチ
ガハハ!そんなルールは聞いていねぇ!!次はオレの番だ!!
天つ神のくせに悪役っぽいタケミカヅチは、今度はタケミナカタの手を握った。すると、タケミナカタの手は若草みたいにフニャフニャに曲がり、そのまま思いっきり投げられてしまった。
ガシャン!!
と音を立てて投げ出されたタケミナカタは慌てて逃げ出した。
タケミナカタ
うわぁっ!!
タケミカヅチ
逃がさねぇ!!
と、悪役のタケミカヅチも後を追う。
その場にぽつんと残されたオオクニヌシは、しばらくぼぉーっと立ち尽くした。
オオクニヌシ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あらら。2人とも行っちゃったよ。
そうつぶやくと、何か思い出したかのように、息子のコトシロヌシの元に向かった。
オオクニヌシ
あの様子じゃあ、しばらく時間が掛かるだろうな。今のうちにコトシロヌシにお説教と ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオクニヌシ
引き継ぎだ。
結局、タケミナカタは信濃の諏訪湖まで追い詰められ、最後には観念するしかなかった。
タケミナカタ
・ ・ ・ わかりました。葦原の中つ国をアマテラス様にお譲りしましょう。自分はこの場所を動かず、父と兄の言う事を聞きます。なので、命だけは助けてください。
タケミカヅチ
おぉ、わかりゃーいいんだ。
タケミナカタ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ くそっ。
こうして諏訪湖に引きこもることとなったタケミナカタは、今でも『諏訪大社』に祀られている。
また、このタケミナカタとタケミカヅチの勝負は、相撲の起源となった。
タケミカヅチはタケミナカタとの勝負が決まると、出雲に戻りオオクニヌシの元に向かった。オオクニヌシはまた笑顔で迎え入れたが、タケミカヅチは威圧的な姿勢を崩さずに、同じ要望を繰り返した。
タケミカヅチ
オオクニヌシ。タケミナカタも国を譲ることを承認した。速やかに葦原の中つ国を譲ってもらおうか。
オオクニヌシ
あぁ、いいよ。
タケミカヅチ
はっ?いいのか??
今度は思いのほかアッサリと答えられたので、ついつい素が出てしまう。
タケミカヅチ
いかん!威厳威厳!!
その様子を見て、オオクニヌシはくすくすと笑った。
オオクニヌシ
でも、代わりに条件を出させてもらってもいいかな?
タケミカヅチ
ゴホン。 ・ ・ ・ あぁ、いいだろう。
オオクニヌシ
僕はね、葦原の中つ国を天つ神に譲っても、出雲の繁栄を後世に残したいんだ。
・ ・ ・ だからここに壮大な社を作って欲しい。
オオクニヌシ
日御子が住む宮殿と同じくらいカッチョイイ社に建て替えてよ。高ーく高ーく太い柱を立ててさ。千木をそびえさせた大きい社がいいんだけど ・ ・ ・ できそう?
タケミカヅチ
わかった。約束しよう。葦原の中つ国、最大の神殿を建て、アンタを祀る。
オオクニヌシ
そぅ。ありがと。じゃあ、180人いる子供達はみんな天つ神に仕えさせるね。タケミナカタの件も目を瞑ってもらえないかな?そしたら、僕は出雲の片隅で隠居暮らしするよ。
タケミカヅチ
えっ・・・子供って180人もいたのかっ!?
オオクニヌシ
くすくすっ!把握してるのはね。気付いたら、いつの間にか増えちゃって。
タケミカヅチ
把握してない子供もいるのか・・・!?
オオクニヌシ
その中でもコトシロヌシは自由に使っていいよ。天つ神にちゃんと仕えるよう言っておいたから。みんないい子だし、他に逆らう子もいないから、安心して。
タケミカヅチ
そうか ・ ・ ・ 悪りぃな。天つ神はアンタへの感謝を忘れねぇ。
オオクニヌシ
そりゃどうも。じゃ。一件落着ってことで。
・・・今夜ヒマ??
タケミカヅチ
は??
オオクニヌシ
君がどうしても僕の家まで遊びに来てくれないからタギシの小浜に迎賓館を作らせたんだ。せっかく出雲まで来たんだから、ご飯でも食べて行きなよ。
こうしてオオクニヌシはサラリと国を譲ると、タカミカヅチを迎賓館に案内した。
迎賓館には、オオクニヌシの子供たちやコンパニオンらしき可愛い女の子たちが待ち構えており、タケミカヅチを席に座らせると次々に酒を注いできた。
そして、オオクニヌシが出雲イチの料理人を連れてくると、その料理人は軽く挨拶をし、鵜に化けて海に潜った。タケミカヅチは、魚でも取ってきてくれるのかと思ったが、彼は海の底から赤土をくわえて戻り、大量の食器を作り始めた。
タケミカヅチ
えっ・・・今から食器を作るのか?
オオクニヌシ
あ、お腹空いてる??ごめんね、彼、凝り性なんだ。
タケミカヅチ
はぁ・・・
オオクニヌシ
もうちょい時間かかるかも。
さらに料理人は、臼と杵まで作り出し、火を起こすと上機嫌で歌を詠った。
「私はこの火を高天原のカムムスビ様に届くくらい高く高く立ち上げて、綺麗な新居にススが垂れるくらい焚いて、この地面が硬く岩みたいになるくらい焚いて、たくさんのスズキを、竹の台がたわむくらい高く高く積み上げて美味しい料理を作りましょうっ!!」
そう詠い終わると、料理人はたくさんの料理でタケミカヅチをもてなした。
タケミカヅチ
・・・うまっっ!!!
オオクニヌシ
くすくすっ!それはよかった。出雲は海鮮だけじゃなくて、お蕎麦も美味しいんだ。デザートにぜんざいも作ったから、楽しみにしてて。
タケミカヅチ
作ったって、まさか自分でか??
オオクニヌシ
まぁね。たくさんあるから、いつまでもいつまでもゆっくりしていくといい。
タケミカヅチ
いや・・・明日には報告のため高天原に帰る。アマテラスの姉御が首を長くして待っているからな。
オオクニヌシ
なんだ・・・残念。そしたら、天照大御神にこの国のことよろしくって伝えておいてね。
タケミカヅチ
わかった。
オオクニヌシ
会ったこと無いけど、彼女も可愛いんでしょ??
タケミカヅチ
へ??・・・ん、そうだな・・顔は・・・・まぁ。でも、ウズメさんの方が人気があるかな。千々姫様も人気なんだが、兄のオモヒカネ様が恐ろしくて、みななかなか近づけないらしい。
オオクニヌシ
へぇ〜。会いたいなぁ。高天原のヒメたち。今度、みんなで出雲に遊びにきなよ。オモイッキリ豪勢におもてなしするからっ!!
タケミカヅチ
・・・それはありがたいが、みな仕事でお忙しいから無理だろう。
オオクニヌシ
ふぅん。・・・・・じゃあ、仕事の出張なら来れるかな?
タケミカヅチ
??
オオクニヌシ
くすくすっ。何かみんなで遊びに来れそうなイベントでも考えておくよ。
タケミカヅチ
・・・・そうか。
オオクニヌシ
だから、みんなが遊びにきても大丈夫なように大きなお社、よろしくね。
オオクニヌシはにっこりと笑った。
タケミカヅチ
なんだかんだで良いように言いくるめたれたような気がする・・・
と思いながらも、タカミカヅチはオオクニヌシが出した条件を全て了承した。
こうして作られたお社が、『出雲大社』の起源となった。
先ほどは『出雲の片隅で隠居暮らしするよ。』なんて言っていたオオクニヌシだが、今でもちゃっかり出雲大社に祀られている。