天皇記『カムヤマトイワレビコの東征』

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カムヤマトイワレビコの東征

カムヤマトイワレビコの東征

タマヨリとアエズの息子、イツセ、イナヒ、ミケヌ、カムヤマトイワレビコの4人はすくすくと育った。

このうち、次男のイナヒは

イナヒ

イナヒ

あぁ ・ ・ ぐるじい ・ ・ ・

おれ、海の血が濃く出ちゃったみたいなんだよな ・ ・ ・ もぉ、地上、無理。

と言って、トヨタマのいるワダツミの宮殿に引っ越してしまった。

また、三男のミケヌはスクナビコナも向かった常世の国へバカンスに行ったまま、帰ってくる気配がない。

ミケヌ

ミケヌ

オレ、世界を股にかけるワールドワイドな男になるからさっ!

日向のことはヨロシクゥ☆

その後、常世の国の帰りがけに寄った新羅で、ミケヌが王様になったらしい。なんて噂も聞こえてきたが、本人からの連絡が一切無いので、本当かどうかもわからない。

そこで残った長男のイツセと四男のイワレビコが2人で日向ひむかの国を治めていた。

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そんなある日。

2人は天下を安らかに治めるにはどうしたらいいか話し合っていた。

イツセ

イツセ

つーかさ、そもそも、この国の民は分かってんのかな??天つ神の御子が降りてきたって。

イツセ

イツセ

わかってないんじゃない??だって、日向って端っこ過ぎじゃん。絶対みんな気付いてないって。

兄のイツセは不満げだ。というのも、ニニギが日向ひむかに降りてきてからというもの、平和すぎて国を治めている実感が全く無かったのだ。

それなのに、本島の方ではまだ悪い国つ神が民を虐げているなんて話も聞く。しかし、こんな端っこに都を構えていては、それを確認することもままならなかった。

イワレビコ

イワレビコ

確かに ・ ・ ・ もっと国の中央に都を置いた方がいいのかな。

イワレビコが呟くと、イツセは満足げに笑って大きくうなずく。

イツセ

イツセ

やっぱお前もそう思うか?俺もさ、アマテラスの御子的に?東がいいと思うわけ。

行こうぜっ!!東っ!!

イワレビコ

イワレビコ

はぁ!?兄貴、マジで言ってんの??つーか、東ってアバウト過ぎじゃない?

イツセ

イツセ

マジだって!いつまでもココでチンタラしてられっかよ。

イツセ

イツセ

本島ではか弱い民が俺らの到着を心待ちにしているはずだ!日向だけ平和になったってしょうがないだろ??

イツセ

イツセ

俺らはオオクニヌシからこの国を譲ってもらったんだから。全ての民を幸せにする義務があるっ!!

イワレビコ

イワレビコ

全ての民って ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ スケールデカすぎ。

イツセ

イツセ

俺らならできるさ。お兄ちゃんを信じなさいっ!!

イツセは仁王立ちで二カッと笑った。こうなったらもう兄は止まらない。イワレビコは呆れながらも

イワレビコ

イワレビコ

わかったよ、信じる。

とはにかんで笑い、イツセの案に乗った。

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こうして2人は覚悟を決めると、妻と子供を日向に残し、日向最強の『久米兵くめへい』と共に船に乗り込み旅立った。

まずは、九州の北部に向けて船を進める。

そして、豊国とよのくに(大分県)の宇沙うさに着くと、国主のウサツヒコとウサツヒメが2人を豪華な食事でもてなし、宮殿まで建てて歓迎してくれた。

他にも、進むたびに各地でみんなが 歓迎してくれるものだから、筑紫国つくしのくに(福岡県)の岡田宮に1年、安芸あきのくに(広島県)の多祁理宮たけりのみやに7年、吉備国きびのくに(岡山県)の高島宮にも8年と、ついつい長居をしてしまった。ちなみに、この頃の『国』とは、今で言う『県』みたいなものだ。

イツセは、のんびりと恵まれた旅路の中で、ふと我に返ると

イツセ

イツセ

んあぁ!ダメだぁ!!この優しさに甘えちゃダメだあぁぁ!!

と言って、さらに船を東へ進めた。

そんなある日、一行が明石海峡を渡ろうとしていると、亀の甲に乗って鳥みたいに袖をパタパタさせながら釣りをしてる変人を見つける。

イワレビコ

イワレビコ

兄貴!見ろよ!ちょー変なおっさんがコッチに向かって来てるんだけどっ!!

イツセ

イツセ

まじだ ・ ・ ・ あんなバタバタしてたら、魚釣れねぇよなぁ ・ ・ ・

イツセ

イツセ

きっと、なんか、すげーおっさんなんだよ。もしかしたら、この辺も詳しいんじゃないか??

イワレビコ

イワレビコ

確かに ・ ・ ・ ・ ・ ・ オレ、道詳しいか聞いてくる!

イワレビコがそのおっさんに声を掛けると、この辺の国つ神で、海の道にも詳しい上に、自分たちに仕えてくれると言う。そこで、竿を下ろして引き上げ、船の中に入れてあげた。

おっさんは、浪速なにわまで道を案内してくれたので、お礼にサオネツヒコという名前を贈った。

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一行はさらに船を進め大阪湾を超え、明け方には淀川よどがわの支流に着く。ここまで来れば国を治めるのにちょうどいい場所が見つかりそうだ。

イワレビコ

イワレビコ

長かった船旅もこれで無事に終了だな。

一行が上陸の準備を進める。しかし、船を降りようと陸を見渡したイワレビコは、近くに何かうごめくものをみつけた。

イワレビコ

イワレビコ

何だあれ。こっちに近づいてくる?人?たくさんいるけど ・ ・ ・ 逆光でよく見えないな。

イワレビコが目を細める。

イワレビコ

イワレビコ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 違っ ・ ・ ・ 軍だっ!!!

慌ててイワレビコはイツセの元に走った。

イワレビコ

イワレビコ

兄貴っ!!奇襲だっ!!!

イツセ

イツセ

え?マジかよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 俺まだパジャマなんだけどっ!!

イツセ

イツセ

くそっ!!!皆!!武器を取れっっ!!!戦の準備だっ!!!

今まで順調にもてなされてきた一行は、完全に油断しているところを突かれてしまった。こちらの準備が整っていないのに、あっという間に開戦してしまう。

待ち伏せていたのは、奈良の生駒山いこまやまに住むナガスネビコの軍だ。その名前の通り、ものすんごくスネの長い武将だった。

ナガスネビコ

ナガスネビコ

皆っ!!!怯むな!!かかれーーっ!!!

うおぉ!

イワレビコ

イワレビコ

ギャー!!めっちゃ強そうっっ!!!

久米兵が敵と激しい攻防戦が繰り広げる中、イワレビコも船から盾を取り出し奮戦する。そのため、この地は楯津たてつ(大阪府)と呼ばれるようになる。

イツセ

イツセ

あ"あぁぁぁ!!!っ痛てぇ!!!!

突然、イツセのただならない声が響いた。慌ててイワレビコが駆け寄ると、ナガスネビコの放った矢が兄の腕に刺さっているではないか。

イワレビコ

イワレビコ

兄貴っ!!大丈夫かよっ??

イツセ

イツセ

っ ・ ・ ・ 大丈夫だ。でも、このまま戦いを続けたら負けちまう ・ ・ ・

イワレビコ

イワレビコ

そんなっ ・ ・ ・ !じゃあ、撤退か?

イツセ

イツセ

あぁ ・ ・ ・ 俺らは太陽神の御子だ。日に向かって戦っちゃダメだったんだよ。だからあんなヤツの矢に当たっちまったんだ。

一度引いて、太陽を背に戦おう。

イワレビコ

イワレビコ

・ ・ ・ わかった!!

イワレビコ

イワレビコ

・ ・ ・ ・ ・ ・ オイッッ!!久米兵っ!!撤退だ!!撤退するぞっ!!今すぐ船を出せっっ!!!

久米兵は、ナガスネビコの軍を引き離すことに苦戦しながらも、なんとか陸を離れて船を出すことができた。

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こうして命からがら海へと出た一行は、南に大きく迂回うかいする。敵がいなくなったことを確認すると1度船を降り、イツセは腕の血を洗い流した。

イワレビコ

イワレビコ

兄貴 ・ ・ ・ 血ぃ、全然止まってねーじゃんか。ちゃんと休んで手当てしようよ。

イツセ

イツセ

・ ・ ・ ・ ・ ・ 大丈夫だ。このまま紀国きのくにまで船を進めよう。周辺を平定へいていしながら生駒山いこまやままで戻るぞ。

しかし、流しても流してもイツセの血は止まらなかった。辺り一面イツセの血で真っ赤に染まってしまったので、ここは血沼海ちぬのうみ茅渟ちぬ/大阪)と呼ばれた。

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こうして、紀国きのくに(紀州)まで進むと、船を降りて陸路から生駒山いこまやまを目指した。フラフラになりながらも足を進めるイツセの呼びかけで、一行は前へ前へと進んでいく。

しかし、紀ノ川の河口まで辿り着いたところで、いきなりイツセが叫びだす。

 

イツセ

イツセ

くそぉっ!あんな卑怯な奴に傷を負わされたせいで、死ななきゃなんねぇのかよっ!!

 

そして雄叫びを上げると力尽きてしまったのだ。

 

イワレビコは、呆然と立ち尽くした。

 

イワレビコ

イワレビコ

え?いや、だって、奇襲からのここまでの展開早すぎでしょ?

イワレビコ

イワレビコ

今までのんびり兄貴について旅して来たっていうに、イキナリ戦いが始まって、ここから反撃と思ったらさっさと死んじまうなんて ・ ・ ・ ・

・ ・ ふざけんなよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

イワレビコ

イワレビコ

・ ・ ・ ・ ・兄弟 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ オレだけになっちまったじゃんか ・ ・ ・ ・ ・ ・

イワレビコがふと我に返り周りを見渡すと、久米兵たちが心配そうに自分を見ていた。彼らの中にも深い傷を負った者は少なくない。兄のために、泣いてくれてる奴もたくさんいる。

・ ・ ・ ・ ・ ・ 自分がここで弱気な姿を見せるわけにはいかなかった。

イワレビコ

イワレビコ

・ ・ ・ ・ 先に進もう。ナガスネビコのいる生駒山はずっと先だ。この地域を平定しながら進み、生駒山に着き次第あの男を殺る。

涙も見せずにイワレビコは前へ進んだ。久米兵も静かにうなづくと、黙って彼の後に従った。

 

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