天皇記『欠史八代』
欠史八代
神武が亡くなると、日向からタギシミミがやって来た。『誰それ??』という話しだが、神武が日向にいた時に結婚した奥さんとの間に生まれた長男だ。
それまでは日向の国を治めていたのだが、神武の訃報を聞くとすぐに駆け付け、神武の皇后、イスケヨリヒメ(ホトちゃん)を無理矢理自分の嫁にしてしまう。
『次の天皇は俺だ!!』と宣言したようなものだ。
イスケヨリヒメの3人の息子は、なす術なく黙ってしまった。しかし、その息子達に皇位を奪われるんじゃないかと恐れたタギシミミは、彼らを殺す計画を立てていた。
イスケヨリヒメ
・ ・ ・ !!
その計画を知ってしまったイスケヨリヒメは慌ててしまう。そりゃ、いくら彼の妻になったとは言え、自分の息子を殺されてしまったら堪っまったもんじゃない。
しかし、夫となったタギシミミの元を離れて息子にピンチを伝えに行くこともできなかった。
そこで彼女は息子たちがタギシミミの元に訪問した時に2つの歌を詠う。
イスケヨリヒメ
『狭井河から雲が立ち上がり、畝火山の木の葉がざわめいているわ。嵐が来ようとしているのね ・ ・ ・ 』
イスケヨリヒメ
『畝火山の昼は雲が流れているけれど、夕暮は風で木の葉が騒ぐのよ。』
自然の情景を描き、タギシミミの企みを伝えたのだ。オオクメの目の件と言い、この詩と言い、本当にオブラートに包むのがうまい。
イスケヨリヒメのこの才能を知らないタギシミミは、彼女が息子達にピンチを知らせたことに気付かなかった。もちろん、息子達は母のメッセージをすぐに読み取ることができた。
そこで次男と三男の2人は、殺される前に手を打たなければと、すぐにタギシミミを殺す計画を立てた。
いよいよ作戦当日。
夜は更け静まり返り、辺りに2人以外の人影はなかった。
この扉の向こうがタギシミミの寝室で、彼は今日1人で寝ているらしい。
カムヌナカワ
兄さん、この剣でタギシミミを殺して。
カムヤイミミ
・ ・ ・ ・ ・ わかった。
弟は次期天皇になる兄に剣を譲り、タギシミミ暗殺のサポートに回ることにする。
兄は剣を抜いて構え、弟は扉を開ける準備をして、息を潜めた。
カムヌナカワ
兄さん、開けるよ?
カムヤイミミ
あっ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ!!
兄は、力強く剣を握りしめる。
カムヌナカワ
よし!今だ!!
弟は寝室の扉を思いっきり開いた。タギシミミは布団の中で動かない。
カムヤイミミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヌナカワ
・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヤイミミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヌナカワ
・ ・ ・ ・ ・ ・
そして、兄も動かない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ パタン。
弟は間に耐え切れず、静かに扉を閉めた。
カムヌナカワ
ちょ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 兄さん。何やってんだよ。
カムヤイミミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ やばい。俺、無理かも。
カムヌナカワ
は?無理かもって ・ ・ ・ 今殺らなきゃ明日には僕らが殺されるんですよ??
カムヤイミミ
・ ・ ・ でもっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 人なんか殺したこと無いし ・ ・ ・
カムヌナカワ
兄さん ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヌナカワ
・ ・ ・ ・ ・ いつ殺るの?
カムヤイミミ
今でsy ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヤイミミ
いや!言わすなっ!!
絶対無理っ!!無理なもんはムリなんだってば!!!
兄が思わず大きな声でツッコむ。すると、ガサッと部屋の中で音がした。
タギシミミ
んん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 誰かいるのか?
タギシミミの声だ。兄の手足がガクガク震える。
カムヤイミミ
・ ・ ・ っ!!起きちまった!!どうしよう!逃げよう!
カムヌナカワ
逃げてどうするんだよっ!今殺らなくちゃ!兄さん!早くっ!!
カムヤイミミ
むっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 無 ・ ・ ・ ム ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヌナカワ
兄さん!!!
カムヤイミミ
・ ・ ・ 俺 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ できない ・ ・ ・
カムヌナカワ
っあぁ!もういいっ!!!僕が殺るっ!!!!
弟は、兄から剣を奪い取ると、タギシミミの部屋に押し入った。
バタバタと激しく争う音の後に、呻くような悲鳴が聞こえたかと思ったら、あっという間に元の静けさに戻る。
部屋から出て来た弟は返り血で真っ赤になっていた。
カムヌナカワ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 終わったよ、兄さん。
カムヤイミミ
ヒッ ・ ・ ・ ・ ・ ・
弟がタギシミミの血がべっとりついた剣を兄に返した。しかし、兄は腰を抜かして動けない。
カムヌナカワ
なぁ、しっかりしてくれよ。明日から兄さんが天皇なんだからさ ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヤイミミ
天皇 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 俺、無理 ・ ・ ・
カムヌナカワ
はぁっ??
カムヤイミミ
俺よりお前の方が向いてる。勇気あるもん。
カムヌナカワ
本気で言ってんの??
カムヤイミミ
本気だ ・ ・ ・ こんなんで後継いだら、親父に顔向け出来ない。皇位はお前が継いでくれ。
カムヌナカワ
・ ・ ・ 兄さん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
カムヤイミミ
・ ・ ・ 俺は神に仕える
兄は自分の行動を恥じて、どうしても皇位を継ぎたがらなかった。こうして弟が神武の後を継ぎ、二代目
そしてこの二代綏靖天皇から、九代開化天皇までが『
でも、この空気な天皇達。無視するのはさすがに可哀想なので、名前だけ載せておく。
2代 綏靖(すいぜい)天皇
3代 安寧(あんねい)天皇
4代 懿徳(いとく)天皇
5代 孝昭(こうしょう)天皇
6代 孝安(こうあん)天皇
7代 孝霊(こうれい)天皇
8代 孝元(こうげん)天皇
9代 開化(かいか)天皇
以上、さらっとお届けいたしました。