天皇記『イワノの家出』
イワノの家出
それからしばらくして、宴に使う柏の葉を大量に船に乗せたイワノが難波に戻って来た。
イワノヒメ
ふふっ!イッパイ採れたなぁ〜!!きっと仁徳も喜ぶぞっ♡
女中
よかったですね、イワノさま。
イワノヒメ
うんっ、あいつの喜ぶ顔が楽しみだっ!
こうして積荷を下ろす準備をしていると、たまたま難波の港にいた男がイワノの着物係をしている女中に声を掛けてきた。
水汲みの男
ねーさん、あれは皇后様の船かい?
女中
えぇ。そうですよ。
水汲みの男
やっぱりか。いやね、俺は水汲みの仕事が終わって吉備に帰るところだったんだけどよ、船に乗り遅れちまって。
ついてねぇやと思ってたんだけど、皇后様の船が見れてよかった。こりゃ、いい土産話になるわ。
女中
あら、そうでしたか。イワノさまは陛下のために宴の準備をして紀伊国から戻られたところなんですよ。
水汲みの男
らしいな。にしても、皇后様も可哀想だよなぁ。
女中
え?なぜですか??
水汲みの男
あれ?ねーさん知らんのかい。今、天皇様はヤタノなんとかって皇族の女を召し込んでな。毎日毎日、昼も夜も構わずにイイコトされてんだって話だよ。国中でウワサになってんぜ?
女中
ヤタノ?まさか、ヤタノワキノイツラメと??
水汲みの男
そうそう、そんな名前だったな。
女中
・ ・ ・ ・ ・ ・
水汲みの男
皇后様だけはな〜んも知らないから、あんなにのんびり遠出ができるんだ。
こうして、ヤタノワキの情報を手に入れてしまった女中が慌ててイワノにそのことを報告する。
イワノヒメ
・ ・ ・ え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ヤタノワキと?
その話を聞いたイワノはポカンと口を開けてしばらく固まったが、目にいっぱいの涙を浮かべると、急にヒステリックに怒り狂い出した。
イワノヒメ
なんでっっっ!!!!よりによって、なんであの女なんだっっ!!!!!
そして、船に積んだ柏の葉を全て海にばらまいてしまう。この事件がキッカケで、この地は神聖な葉っぱ(御)を撒いた港(津)だから、御津(みつ)(西心斎橋付近)と呼ばれるようになるが、今はそんな話どうでもいい。
イワノヒメ
なんで今さらヤタノワキなんだっ!!あの女よりウチのことが好きだからウチを皇后にしたんじゃないのかっ!!
イワノヒメ
だから、ウジノワキ様の遺言を無視してまで、ウチを選んだんじゃないのか!!
女中
イワノさまっ ・ ・ ・
イワノヒメ
所詮、葛城の力が欲しかっただけなのか??それともジジィへの恩義だけで嫌々ウチを皇后にしたのかっ??
イワノヒメ
ああぁぁぁ!!仁徳のバカバカバカっっ!!!あんなヤツ、もう顔も見たくないっっ!!!
女中
イワノ様、落ち着いてください ・ ・ ・
イワノヒメ
うるさいっ!!このまま葛城に船を出せっっ!!ウチはもう皇居に帰らないっ!!!実家に帰るっ!!!
そして、イワノは難波には降りずにそのまま船を実家の葛城に向けさせた。
イワノヒメ
グスッ ・ ・ ・ あのバカ ・ ・ ・ ・ ・
仁徳の浮気にブチ切れ家出を決意したイワノだったが、それでも彼を嫌いになれたわけではなかった。
イワノヒメ
なんで、あんなヤツのこと好きになっちゃったんだろ。
イワノヒメ
ほんとはいつも不安で不安でしょうがなかったんだ。皇族でもないウチが皇后だなんて、周りから『絶対に政略結婚だ』って思われるに決まってるから。
イワノヒメ
だいたいアイツが浮気する度に、みんなから『好きでもない人と結婚したから』って思われんの、あのバカはちゃんと分かってんのか??
イワノヒメ
豊楽の宴だってウチが主催して、みんなにちゃんと皇后できてるて認めて貰いたかったのに ・ ・ ・ ・ ・
イワノヒメ
それなのに、ヤタノワキなんかと浮気されたら、ウチが敵うわけないじゃないか。
イワノヒメ
仁徳は本当はウチのことなんか好きじゃないのかな ・ ・ ・
こうして家出をしたら、仁徳はヤタノワキを手放して自分を迎えに来てくれるだろうか。
イワノは仁徳の気持ちを確かめたいと思い、ヤタノワキとの浮気が原因で家出したことが分かるように歌を送ることにした。
イワノヒメ
『あなたのいる難波と私の実家をつなぐ木津川を船で上っていくとね、山辺に赤くて可愛い実のなるサシブの木が生えているの。
イワノヒメ
そのサシブの木の下には真っ白で神聖なユツマ椿の花が 咲いていて、大きくて照のある葉っぱが、その花をを包み込んでいる様子はまるであなたみたい。』
そして、女中にその歌を送り届けてもらう。
イワノヒメ
ふふふ。サシブのちっちゃい実がたくさんの人の目で、椿がヤタノワキだ。バレバレな浮気なんぞしやがって。
イワノヒメ
完璧な歌だ。ウチが
しかし。
イワノヒメ
い、いや ・ ・ ・ でも、アイツ、こんな遠回しな歌じゃ、ウチが家出したって、わからないかな??
イワノヒメ
迎えにきてくれなかったらどうしよう ・ ・ ・ ・
と思い、もう少しわかりやすいような歌を再度考える。
イワノヒメ
『山の山を越えて、
イワノヒメ
よし ・ ・ ・ ・ ・ これならさすがに、ウチが家出したことがわかるだろう。
そしてその歌も女中に預けると、イワノは
しばらくしてこの歌を受け取ると、仁徳は
仁徳天皇
うわ、まじかぁー ・ ・ ・
と深いため息を漏らした。
ヤタノワキ
ちょっ、サザキ兄!イワノちゃん家出しちゃったじゃない!!早く歌、送って!!
仁徳天皇
うぅん ・ ・ ・ せやけど ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヤタノワキ
グダグダ言わない!!さっさと送るっ!!!私は、もう帰るから。
仁徳天皇
いや、別に今、帰る必要はあらへんやろ。
ヤタノワキ
あるでしょ。
仁徳天皇
あらへん。
ヤタノワキ
うぅぅぅぅーーーーーー ・ ・ ・ ・ ・ ・
仁徳天皇
ほな、歌書くから。
ヤタノワキ
うぅぅん ・ ・ ・ ・ ・
仁徳は机に向かって筆を持つと黙りこくってしまう。
仁徳天皇
できた。
ヤタノワキ
え、早くない?何書いたの??ちょっと見せてよ。
仁徳天皇
アホか。正妻への愛を込めたラブレターを浮気相手に見せるわけないやろ。
ヤタノワキ
えぇー。不安しか無いんだけど。
仁徳天皇
それより、そこらへんに家臣の『鳥山』がおるから、これをイワノに渡すようにゆーてきて。
ヤタノワキ
うぅん。わかったわよ。
そして、仁徳から歌を預かった鳥山が早速イワノの元へ行き、手紙を渡す。
鳥山
イワノ様、陛下からです。
イワノヒメ
おぉ!早速、仁徳からの歌が届いたかっ!!見せてみろっ!!
と、イワノは鳥山から奪うように手紙を受け取り、バサッと広げた。
イワノヒメ
ふふふ ・ ・ ・ ・ 仁徳のやつ、慌てているんじゃないか?
どれどれ??
仁徳天皇
『行け行けGOGO鳥山ー!!山代に追いつけ、鳥山GO!!オレの愛する妻に追いつけー!GOGOさっさと会ってこーいー☆』
イワノヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ っっっ!?
鳥山
??
イワノヒメ
なんじゃこのナメ腐った歌はぁぁぁっっ!!!アイツ完全にふざけてんだろっ!!!!
イワノヒメ
ムカつくっ!!!アイツまじでムカつくっっ!!!!
鳥山
イワノ様っ!落ち着いてくださいっ!!!陛下にお返事を ・ ・ ・ ・
イワノヒメ
書くかボケェェェェッッ!!!!!
それから数日後。
ヤタノワキ
ねぇ、イワノちゃんから全然お返事ないじゃない。
仁徳天皇
せやな。
ヤタノワキ
もぅ!絶対イワノちゃん待ってるわよ。早くもう一通、送りなさいっっ!!!
仁徳天皇
えええぇぇーー。
ヤタノワキ
ほら、さっさと考えるっ!!聞いてあげるからっっ!!!
仁徳天皇
んんーーー。せやなぁ ・ ・ ・ ・
ヤタノワキ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仁徳天皇
『 ・ ・ ・ ・ 神の鎮まる
仁徳天皇
その大猪子の『腹』の中の『肝』の心みたいに、俺らの『気持』ちも両思いやとばかり思っとったのになぁ〜。』
仁徳天皇
・ ・ ・ ・ こんなんでえぇ??
ヤタノワキ
うん。親父ギャグが微妙だけど、サザキ兄らしくていいか。
仁徳天皇
ほな。
こうして今度は家臣のクチコに歌を持たせた。
・ ・ ・ しかしこのせいで、夫婦喧嘩に全く関係の無い第三者のクチコがとばっちりを喰らうことになる。