天皇記『オオクニヌシの呪い』
オオクニヌシの呪い
ヒバスヒメとの残念な初夜以来、垂仁は徐々に元気を取り戻し、やがて彼女は垂仁の皇后となった。
垂仁はサホビメの忘れ形見である、ホムチワケを大切に育てていた。もちろん、ヒバスヒメとの間にも子供が産まれたが、彼女も分け隔てなくホムチワケに接してくれた。
垂仁天皇
ホムチワケ~♥ 今日もお前は可愛いなぁ♥♥♥
ホムチワケの成長と共に、垂仁のユルイ性格も完全復活していた。
『へらっ』っとホムチワケもユルイ笑顔を返す。
垂仁天皇
今日もヒゲが伸びたんじゃないかぁ?ついに乳首まで到達したなっ!!
『にへらっ』っとホムチワケは恥ずかしそうに笑顔を向ける。
そう、垂仁は小さな子供と喋っているわけでは無かった。
ホムチワケは、ヒゲがもしゃもしゃになる大人になっても、言葉を発することが無かったのだ。
もちろん垂仁は言葉を話さない彼のことをとても心配していた。
それはまだホムチワケが小さい頃の話だ。
垂仁天皇
ホムチワケ、全然喋らないな ・ ・ ・ お母さんがいなくて寂しいのかも ・ ・ ・ ・ ・
と思い、できるかぎり一緒に遊ぶようにしていた。
尾張で珍しく二股に分かれた杉の木が見つかると、それをそのままの形で舟を作って池に浮かべて漕いだり、子供が喜びそうなことはなんでもした。
しかし、ホムチワケは全く話せるようにならない。
垂仁天皇
うぅん ・ ・ ・ 喋らないな。
いつだったか、ホムチワケが白鳥を見て何かモゴモゴと口を動かしたのを見た垂仁は、
垂仁天皇
ねぇっ!!今、見たっ!?ホムチワケが口をモゴモゴってしたっ!!!
垂仁天皇
あの白鳥、捕まえてっ!!!
家臣
えぇぇ ・ ・ ・ 無茶ぶりだろ。
こうして、その白鳥を家臣に大和から新潟まで追わせたこともあった。そしてわざわざ朝廷までその白鳥を連れて来させホムチワケに見せたが、期待に反して彼が言葉を発することは無かった。
ホムチワケはそのまま大人になってしまったので、垂仁は彼の声を諦めていた。
そんなある日。
垂仁が
彼は、偉そうに腕を組んで、不機嫌そうにこちらを睨んでくる。
オオクニヌシ
・ ・ ・ やぁ、遅かったね。君がてんてるちゃんの子孫か。僕はオオクニヌシだ。
垂仁天皇
わっ、驚いた!てんてるちゃんって??アマテラスのこと??
垂仁天皇
てか、神様っ??マジでっ??
やばい!!ツッコミどころが満載すぎて対応しきれないっっ!!!
垂仁天皇
しかもオオクニヌシってまさか出雲の ・ ・ ・
オオクニヌシ
・ ・ ・ ・ そうだよ。君がなかなか来ないからこっちから出向いちゃったじゃないか。全く。感謝してよね?
オオクニヌシが見下すように垂仁に視線を送ると、彼はキラキラっと瞳を輝かせる。
垂仁天皇
うおぉぉ~!オオクニヌシさまぁ~~!!
オレ、超、憧れてたんですけどぉ!!ファンなんです!
オオクニヌシ
えっ?うそ??
垂仁天皇
うわぁ~!ホンモノに会えるなんて!!天皇やっててマジ良かったぁ~!!
オオクニヌシは彼の予想外の反応に驚いた様子だ。
オオクニヌシ
そうなの??僕、絶対、男には嫌われるタイプだと思ってたけど ・ ・ ・
垂仁天皇
え~!そんなこと無いですよ!!だって、伝説の種馬じゃないですかっ!!!
垂仁天皇
男に生まれたからには誰しも一度は夢見ますって!!
オオクニヌシ
そぉ??そぉかな??
いやぁ、別に男に褒められたところで僕には何のメリットも無いけど、そう言われると悪い気はしないな ・ ・ ・ ・
オオクニヌシ
ありがと。
オオクニヌシ
でも、そっか ・ ・ ・ それならなんか悪いことしちゃったかな ・ ・ ・ 。
オオクニヌシが、申し訳なさそうに頭を掻く。
垂仁天皇
え?悪いことって??
オオクニヌシ
あぁ ・ ・ ・ 君の溺愛してる息子のことだよ。実はあれ、僕の呪いなんだ。
垂仁天皇
そんな ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうだったんですか?なんか、オレ、マズイことやっちゃいました??
オオクニヌシ
いや、君ってゆーか、天つ神ってゆーか、てんてるちゃん??
オオクニヌシ
あの子さぁ ・ ・ ・ 人に国、譲らせておいて感謝の気持ちとか無いわけ??
そう言われて、垂仁はドキッとする。確かにあの子、人に『ありがとう』とか言えなさそうだ。
垂仁天皇
えっ ・ ・ ・ あぁ~〜いやぁ~ ・ ・ ・ 彼女に関しては ・ ・ ・ どうなんだろう ・ ・ ・
垂仁天皇
えっとぉ ・ ・ スミマセン。。。ウチの娘が何か失礼を??
オオクニヌシ
うぅーん、失礼っていうかさ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 君の代までちゃんと、神殿の約束の話しは伝わってるの?
神殿の約束と言えば、オオクニヌシが国譲りの際にタケミカヅチに出したあの条件だ。
垂仁天皇
もちろん!高天原に届くくらい大きな神殿を建ててオオクニヌシさまを祀ったって。
垂仁天皇
小さい頃から聞かされてきた神話ですもん。
オオクニヌシ
うん ・ ・ ・ そりゃそうなんだけどさ。それ、何千年前の話だと思ってる?
オオクニヌシ
とっくの昔に朽ち果ててるんだけど。
垂仁天皇
へ ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうなんすか??
オオクニヌシ
いやいや、君が後継者なんだからさ、君が管理して無いなら誰もやってないってことでしょ??
垂仁天皇
そ ・ ・ ・ そっか。
オオクニヌシ
だってあれ、木造だからね??もう、完全に自然に返っちゃってるよ。
オオクニヌシ
一応、地元の有志でちっこいお社はあるけどさぁ。地方の力でできることなんて、限りがあるからね??
垂仁天皇
はぁ ・ ・ ・ ・
オオクニヌシ
そこは税金集めてる国が責任を持ってさぁ ・ ・ ・ ちゃんと仕事しようよ??
垂仁天皇
ゴメンナサイ ・ ・ ・ 全く気にしてませんでした ・ ・ ・ ・
垂仁が申し訳無さそうに頭を下げる。
オオクニヌシ
まぁ、君に悪気が無かった事は分かったからさ。とりあえず君の息子にうちの神殿参拝させてよ。
オオクニヌシ
そしたら喋れるようにしてあげるから。
垂仁天皇
おぉー!よかった!!ありがとうございますっ!!!
オオクニヌシ
だから喋れるようになったら、ちゃんとした神殿建ててね。
オオクニヌシ
それと、本当に感謝の気持ちがあるなら、60年に一回くらいでいいからメンテナンスしてもらえる??
オオクニヌシ
別に僕は、20年ごとにイチイチ建て替えろなんてワガママ言わないからさぁ ・ ・ ・
垂仁天皇
了解っす!どんな女の子を連れ込んでも恥ずかしくないように、ちょ~デカくてカッコイイ神殿作ります!!
オオクニヌシ
あ、そぉ?
オオクニヌシ
なら、期待して待ってるよ。バブル臭漂う高層マンションの最上階のイメージでよろしく。
垂仁天皇
うっす!任してくださいっ!!
オオクニヌシ
くすくすっ、なんだ。こんなことなら、もっと早く顔出せばよかったな。
オオクニヌシ
君とお話しできてよかった。それじゃ、要件だけで申し訳ないけど、僕はこれで失礼するよ。
オオクニヌシはにっこり笑ってヒラヒラ手を振ると、すっと消えてしまった。
部屋の外はとっくに日が昇っており、垂仁は全く寝た気がしなかったが、すぐにホムチワケを出雲に向かわせることにした。
ホムチワケのお供には、占いで当たったアケタツを指名することにした。しかし、愛息子のはじめての旅だ。垂仁は念には念を入れて、アケタツに
アケタツは早速、庭に出て、目の前にサギが飛んでいるのを確認すると、垂仁に言われたとおりのセリフを叫ぶ。
アケタツ
自分と一緒にオオクニヌシ様を拝みに行って、ホムチワケ様の口が聞けるようになるなら、そこの池のサギ!落ちろっ!!
すると、さっきまで元気に飛んでいたサギがイキナリ落ちて死んでしまったではないか。アケタツは罪悪感から慌てて
アケタツ
やっぱり、それがホントのホントなら、生き返れっ!!
と叫ぶと、サギは見事に生き返ってまた飛び出した。誓約はどうやら成功のようだ。垂仁は嬉しそうにその様子を見ている。
垂仁天皇
アケタツ、すごいっ!!そしたら、次はあそこの木でも誓約してっ!!
アケタツ
えっ!?木もですかっ?
垂仁天皇
念には念を!!
アケタツ
さっきのが念には念を入れた誓約だったんじゃないのか・・・?
アケタツは疑問に思いながらも、さっきと同じ要領で誓約をする。すると、樫の木に「枯れろ」と言えば枯れ、「蘇れ」と言えば蘇った。
垂仁天皇
おぉー!!アケタツ完璧っ!!これなら大丈夫だよね??
アケタツ
はっ、はい。では行ってまいります!
垂仁天皇
そぅ・・・
垂仁天皇
あぁ・・でも、やっぱ心配だから、アケタツの弟くんも一緒に出雲に行ってもらおうかな?
アケタツ
あ、はぁ・・・。わかりました。では、弟も一緒に行ってまいります。
垂仁天皇
うん、ホムチワケのこと、くれぐれもよろしく頼んだよ!
アケタツ
はいっ!それでは、今度こそ行ってまいります!!
垂仁天皇
そぅ、いってら・・・
垂仁天皇
んあぁっ!!やっぱり、ちょっと待って!!
アケタツ
へっ?
垂仁は更にホムチワケの旅路を心配して、今度は安全な道も占いで選びはじめる。
垂仁天皇
待ってね。今、1番イイ道を探してるからさ。
アケタツ
はぁ・・・
垂仁天皇
えっと、山城と大阪の道は微妙だな・・・紀伊から抜けるルートがいいか・・・。
アケタツ
陛下・・・時間的にもうそろそろ出かけたいんですけど。
垂仁天皇
えっ?あっ、だ・・・大丈夫!道は紀伊から抜けるルートでよろしくね!今度こそいってらっしゃい!!
アケタツ
はい。わかりました。では!
ホムチワケとアケタツ一行が、やっと旅立とうとすると、垂仁は「んあぁぁっ!!」と叫びながらホムチワケにおもいっきり抱きついた。
垂仁天皇
ホムチワケぇぇ!!!
垂仁天皇
気をつけて行くるんだぞ??辛くなったら帰ってこい??無理はするなよ??疲れたらアケタツにおぶってもらえ??盗賊に襲われたらアケタツ盾にして見捨ててもいいから、お前だけは帰ってくるんだぞ??わかったな??
ホムチワケ
・・・・(にへらっ)
アケタツ
まじか。
こうしてホムチワケの一行は出雲へと向かった。
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