日本神話『八十神の復讐』
八十神の復讐
さてさて。
先に因幡に着いていた
ヤカミヒメ
私、ブサイクの言葉は聞かない主義なの。イケって噂のオオナムチ様のところにお嫁に行くわ。
とまで言われてしまった。
ズバッとフラれた八十神は帰路につくしかなかった。
『こうしてオオナムチはヤカミヒメと結婚していつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。』
と、絵本では締め括られるところだが、原作はそう簡単な展開で終わらない。求婚を断られ、逆ギレした八十神が、オオナムチを殺す計画を立てたのだ。
作戦会議を終え、しばらく待っていると、オオナムチがやっと因幡に着いた。
八十神
オオナムチ、遅かったな!!
オオナムチ
あれ??兄さん達、どうしたんですか?こんなところで。ヤカミヒメには会えたんですか??
八十神
ふん!会えたさ。だが、ヤカミヒメはお前と結婚したいそうだ。
オオナムチ
へっ??なんで僕??
ウサギの予言を全く信じていなかったオオナムチは、目を丸くして驚いた。
八十神
知るかよ。それより、伯伎国の手間山に赤いイノシシが住んでいてな。そいつが、畑を荒らすから、ヤカミヒメは酷く困っているそうだ。
八十神
そ。だから、未来の花嫁のために、お前はイノシシ退治に行かなければならない!!!
八十神
俺らが崖の上からイノシシを落としてやるから、お前が捕まえろ。やんなきゃ、殺す。
オオナムチ
えっ!? ・ ・ えっと ・ ・ ・ ・ 協力してくださるのはとても嬉しいんですけど ・ ・ ・ ・ でも、兄さん達がそんなすぐに引き下がるなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオナムチは訝しげな顔で兄たちを見た。『まずい。計画がバレたか??』八十神に緊張が走る。
オオナムチ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 本当に可愛かったんですか??
八十神
超美人だったよ!!!バカッ!!!クソッッ!!!!!
オオナムチ
えっ、あぁ、そうですか ・ ・ ・ ・ なら、頑張ろうかな。
八十神はオオナムチのこーいうところが心底嫌いだった。
早速、オオナムチを連れて手間山に向かう。
先に来ていた八十神は、イノシシによく似た形の岩を真っ赤になるまで焼き、待ち構えていた。
八十神
オオナムチ、あそこから、落とすからな!絶対に捕まえろよなっっ!!
オオナムチ
は ・ ・ ・ ・ はいっ!!
八十神
よーし!!イノシシを落とせー!!
「「おぉーーー!!!!」」
合図を聞くと、八十神は、焼けて真っ赤になった岩を上から落とした。オオナムチは、それを受け止めようと構える。
・ ・ ・ ・ まだ物語の途中なのだが、当の主人公が死んでしまった。
だがしかし。少年漫画の主人公というものは、7つのボールとか、大きな黒い玉とか、巨人化とか、いろいろと生き返り方が用意されているものだ。
オオナムチの死を聞きつけた母親は嘆き悲み、高天原のオネェ、カムムスビに息子を生き返して欲しいと頼みに行った。
カムムスビ
あらぁ ・ ・ ・ ・ 大変だったのね。彼はイケメンになると踏んでいたのに ・ ・ ・ ・ わかったわ。貝の神、キサガイヒメとウムガイヒメを遣わせましょう。
イザナミが死んだ時には完全シカトだったカムムスビだが、今回はアッサリと使者を送ってくれた。
キサガイヒメと、ウムガイヒメは、岩にこびり付いたオオナムチの死体をベリベリ剥がすと、赤貝の粉とハマグリの出汁を混ぜたミルクみたいな薬を、全身に塗った。
するとみるみるうちに、やけどは治り、オオナムチはイケメンに進化して蘇った。
オオナムチ
へっ!?何このオイシイ展開!!!
大人の身体を手にいれたオオナムチは、上機嫌で街へと遊びに行った。
しかし、街でモテまくっているオオナムチを発見した八十神が、またもや彼を殺しに来た。
今度は森の中の巨木を縦に割り、Y字になるよう、両側から枝を引っ張っる。
その割れ目に、オオナムチを無理やり立たせると、しなった枝を一斉に離し ・ ・ ・ ・
木は大きな音を立てて、オオナムチを挟み込んだ。彼はまた死んでしまったのだ。
しかし、八十神を恐れ、後を追っていた母親がオオナムチの遺体を見つけると、今度は自分で息子を生き返らせた。 そして、八十神に捕まらないようにと、木の国のオオヤビコの元へ逃がした。
オオナムチ
どうしよう ・ ・ ・ ・ 二度も生き返らせてもらったものの、突っ込みどころが満載すぎて、どこから手をつけたらいいかわからない。
オオナムチは頭を抱えながら、トボトボとオオヤビコの元へ向かった。
しかし、ふいに視線を下に向けると、山の麓から八十神が、追ってくるのが見えた。どこかで、オオナムチが生きていることを聞きつけたらしい。
オオナムチ
あーーもぅ!!せっかく大人になったのに、こんなんじゃ全然遊べないじゃないかっっ!!!
オオナムチ
ていうか、あの人達、何で毎回毎回サイコパスな殺し方すんだよ ・ ・ ・ せめてもう体がベチャってなるのは嫌だっ ・ ・ ・ ・!!
そんなことを考えながら慌てて逃げ出すと、頭の中にカムムスビの声が響いた。
カムムスビ
もしもしぃ〜。カムムだけど〜。オオナムチくん、聞こえる〜??
オオナムチ
へっ!?カムムスビ様っっ!?
カムムスビ
んもぉ〜あなた、また殺されたって聞いたから、心配してたんだけど ・ ・ ・ お母様、自分で生き返らせることができたのね。
オオナムチ
あぁ ・ ・ ・ いや、そこらへんの細かい設定は、神話だし。なんか、もう、いいかなって。
カムムスビ
まぁ、それもそうね。
オオナムチ
それより、先日は命を助けていただいて、ありがとうございました。
カムムスビ
やっだぁ~いいのよぉ!!あなた、イケになると思ってたのよねぇ~!!!生き返らせて正解だったわっ!!今度、一緒にお食事でもどぉ??
オオナムチの成長した姿にカムムスビはとってもご満悦だ。
オオナムチ
へっ??あ~〜 ・ ・ ・ そうですねぇ。とっても嬉しいんですけど、今、僕、命狙われて逃げてるところなんで ・ ・ ・ ・ ・ また次の機会にでも。
カムムスビ
あらぁ ・ ・ ・ ・ ・ 残念だわ。でもそうねぇ。確かに、このままじゃ、また八十神に殺されちゃうわね。
オオナムチ
いいかげん、僕ももう、死ぬの嫌なんですけど。特に圧死。
カムムスビ
そうねぇ ・ ・ ・ ならこのまま木の国の先にある、根堅洲国に行くといいわ。あなたの先祖のスサノオが住んでるの。きっと助けてくれるわ。
オオナムチ
スサノオ様?あの伝説の??まだ生きてたんだ ・ ・ ・ ・
カムムスビ
昔に比べてだいぶ優しくなったって聞くから、頼れるんじゃない?
オオナムチ
・ ・ ・ ・ わかりました。カムムスビ様、何から何までありがとうございました。
カムムスビ
いいぇ、気をつけて行ってきてね♥
オオナムチは木の国まで走り抜けると、オオヤビコの助けを借りて根堅洲国へと逃げた。
こうして次章では、前期の主人公と、今期の主人公の、コラボ企画が実現することになった。